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配転(配置転換)の裁判例

配転(配置転換)命令に関する裁判例

配転(配置転換)命令に関する最新の裁判例につき、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

人事管理を目的とした配転命令の有効性が肯定された事例(東京高裁令和5年8月31日判決)

本件は、理学療法士の方について、訪問看護リハビリステーションから新設した産業理学療法部門への配置転換命令の有効性が争点となった事案です。

第1審は、新部門設立の目的と原告の現実の業務は当初から乖離していること等を理由に、配転命令を無効と判断していましたが、控訴審は以下のとおり述べ、配転命令は有効と判断しました。

「労働力の適正配置や業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、配転命令に関する業務上の必要性が肯定され(前掲昭和61年最判参照)、人事管理目的での人員配置をすることも、これが濫用にわたらない限り、企業の合理的運営として許容されると解される。そうであるとすると、前記のとおり、本件取組を実施することにつき企業運営上の必要性が十分に肯定されるところ、併せて、被控訴人を適正に配置するとの観点から、人財部の業務の一部を切り離してこれを担わせる部門を新設し、同部門に、理学療法士の資格を有する被控訴人を配置して、本件取組を実施させるということについても、控訴人における企業運営上及び人事管理上の必要性が肯定されるというべきである。」

転勤前提の正社員が転勤を拒否したことに関し、地域限定正社員との賃金差額(半年分)の請求が認められた事例(東京地裁令和4年3月9日判決)

本件は、「グロール総合職、は総合職の正社員が会社が命じ転勤を拒だ場合は、着任日が到来してかどうかに関わら、半年遡っ差額を返還し、翌月1日よ新たな職群に変するものとする。なお、返還の対象はグローバル総合職の場合は総合職との差額総合職の場合は地域限定総職との差額とする(以下「本件規定」という。)」という就業規則の有効性が問題となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、本件規定の有効性を肯定しました。

「(1)賃金全額払いの原則(労基法24条1項)について

ア 賃金全額払いの原則(労基法241)使用者が方的に賃金を控除することを禁止しもって労働者に賃金の全額を確実に受領させ労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る趣旨に出たものと解される(最高裁判所昭和44()
1073号同48119日第二小法廷判決参照)
  イ 前記前提事実及び認定事実(以下「前提事実等」という。)によれば本件規定は総合職として賃金の全額が支払われた後転勤ができないことが発覚した場合に就業規則の規定に従って本来支払われるべきでなかった総合職と地域限定総合職の基本給の差額を半年分遡って返還させるというものであるこその金額も月額2万円(半年分で12万円)にとどまること従業員としては自身の転勤の可否について適時に正確に申告していれば上記のような返還をしなければならない事態を避けることができることが認められる。
  これらの事情に照らせば本件規定は労働者に過度の負担を強いその経済生活を脅かす内容とまではいえず前記賃金全額払いの原則の趣旨に反するとまではいえないから実質的に同原則に反し無効であるということはできない。
  ウ 以上により本件規定が実質的に賃金全額払いの原則(労基法241)に反し無効である旨の被告の主張は採用することができない。


  (2)就業規則としての内容の合理性について


  ア 前提事実等によれば、本件規定は、遅くとも被告が原告に入社する平成2771日までには就業規則として整備されたことが認められるから、これが「合理的な労働条件が定められている就業規則」といえれば本件規定は原被告間の労働契約の内容を規律
するものと解される(労契法7条本文)
  イ そこで検討するに、前記(1)イで判示しなところに加えて前提事実等によれば、原告では、原告グルプ内における人員の適正配置の観点のほか、金融業という業種を踏まえて、不正を防止するとともに、ゼネラリストを育成するという観点から、原告グループ
内でジョブロションを行うこととしており、現に広く転勤を行っていること、従業員が自身のライフステジに合わせて職群を選択することで、転勤の範囲を自由に選択変更できる人事制度を整備する一転勤可能者を確保する趣旨から、総合職と地域限定

総合職との間に月額2万円のの賃金差を設けているこ上記のような制度を前提として従業員らに自らの転勤の可否について適時に正確な申告を促し賃金差と転勤可能範囲に関する従業員間の公平を図る趣旨本件規定を設けていることが認められる。そし本件規定の内容については原告の側で当該従業員の転勤に支障が生じた時期や事情を客観的に確定するのが通常困難であることから原則として転勤に支障が生じた時期や事情にかかわらず一律に半年分の賃金差額を返還させることとしており仮に転勤に支障が生じた時期が半年以上前であっても、半年分を超える返還は求めていない。
  本件規定を含む上記のような人事制度は、従業員が自身のライフステージに合わせて職群を選択することができるなど、従業員にとってもメリットのある内容といえ、返還を求める金額や適時に正確な申告をしていれば返還を免れることができる点等に鑑みると、労
働者に過度の負担を強いるものともいえず、一律に半年分の返還を求める趣旨についても前記のとおり合理的であるから、原告の業種、経営方針等に照らして、合理的な内容というべきである。

 ウ これに対し、被告は、本件規定は、実質的には、従業員に転勤できない事情があった場合には、その事情の如何を問わず一律に労働者に対して金銭賠償をさせるという処分を課すものであって、就業規則として内容の合理性を欠く旨主張する。しかし、本件規定に基づく返還請求は、あくまで就業規則に基づき本来支払われるべきでなかった賃金差額の返還を請求するものであって、労働者に対して金銭賠償をさせるという処分を課すものとはいえない。また、原則として一律に半年分の返還を求める点についても、前記のとおり、原告の側で当該従業員の転勤に支障が生じた時期や事情を客観的に確定するのが通常困難であることを理由とする合理的な措置といえるし、転勤に支障が生じた時期が半年以上前であっても半年分を超える返還は求めておらず、必ずしも従業員に不利な内容とはいえないから、上記の点を不合理ということはできない。よって、被告の前記主張は採用することができない。

  また、被告は、転勤の可否は、具体的な転勤先として提示された場所によって異なり得るものであり、転勤先を提示されたときにこれに応じることができないことが初めて明らかになるような場合にまで、半年遡って賃金を返還しなければならないというのは不合理
である旨主張する。しかし、従業員ごとに異なり得る様々な事情を想定して過度に職群を細分化すること人事制度として必ずしも相当とはいえず勤務地を特定しない総合職か勤務地を特定の地域に限定する地域限定総合職かを各従業員に選択させる制度とした
ことは原告の人事制度の設計に関する裁量の範囲内といえ不合理とはいえない。また被告は勤務地を特定しない総合職を選択していたのであるから居を伴う遠方への転勤の可能性を当然想定すべきであったといえ転居を伴う転勤を拒んだことをもって半
年分の賃金差額の返還を請求されることもやむを得ないというべきである。よって被告の前記主張は採用することができない。
  工 以上により、本件規定は、「合理的な労働条件が定められている就業規則であるといえ、労契法7条本文により、原被告間の労働契約の内容を規律するものと認められる。
 

(3)小括

  以上によれば、本件規定は、賃金全額払い原則に反するものではなく、就業規則の内容としても合理的であるから、有効であり、原被告間の労働契約の内容を規律する。

転居を伴う配置転換命令を拒否したことを理由とした懲戒解雇が有効と判断された事例(大阪地裁令和3年11月29日判決)

本件は、要旨、関西から関東への配置転換命令について、労働者がこれに応じなかったことを理由とした懲戒解雇処分の有効性が争われた事案です。

なお、本件では、訴訟になった後に、労働者側から配置転換無効の理由として家族の事情に係る資料(診断書等)が提出されており、会社側では、配置転換命令前にはこうした資料を把握していませんでした。この関係で、こうした事情を配置転換命令の有効性判断において考慮してよいかも争点となりました。以下では、この点に関する裁判所の考え方を引用します。結論として、裁判所は、会社側が本件配転命令時に認識していた事実を基に、配転命令の有効性を判断すべきとしました(その結果、配転命令及びこれを拒否したことを理由とする懲戒解雇はいずれも有効と判断されました。)。

(4)通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無について
ア 判断に際して考慮すべき事情について
(ア)原告は,本件訴訟において,原告の長男及び母親に係る診断書や通院状況に関する資料を提出しているところ,これらは,本件配転命令発出前には,被告あるいはH1に提出されていなかったものである。被告は,上記各資料については,原告が申告しなかったため被告としては知悉することができなかったものであるから判断事情として考慮すべきではない旨主張し,他方,原告は,上記各資料に基づく主張もしているので,以下,検討する。
(イ)H1は,平成30年7月,統合オペレーションサービス事業部について,関西・西日本オフィスを含む三つの事業場を閉鎖し,玉川事業場に集約することを明らかにし,同月18日に方針説明会を開催し,同年8月3日以降に個別面談を実施している(前提事実(5),(6),認定事実(2))。そして,原告は,同日から同年10月26日までの間にK1事業部長と3回の面談を行ったものの(認定事実(3)),今後の原告のキャリアについて話合いはまとまらず,その後,I1マネージャーやL1シニアマネージャーが,原告に対し,繰り返しメールを送信したり,実際に原告が勤務していたG1ビルまで説明のために出張するなどして玉川事業場への配転が困難である事情を聴取するための面談の機会を設けようとしていたにもかかわらず,原告が,暴言ないし社会人としての礼節を欠いた不適切な表現を含むメールを送信するなどして,断固として面談に応じない姿勢を示したため(認定事実(5)),被告又はH1の担当者と原告との面談が実現せず,ひいては,被告又はH1の担当者が,原告から,玉川事業場に転勤することができない具体的な事情を聴取することができなかったものである。
 原告は,本人尋問の時点においても,面談において,本件配転命令に応じることができないとする家庭の事情等を具体的に説明すべきであったとは考えない旨供述するが,原告の個人的な事情について,被告又はH1が原告の協力を得ることなく調査することができる範囲には自ずから限界がある。他方で,自身に関する個別事情を最もよく把握している原告において,配転命令に応じることが困難な具体的な事情を説明することは基本的に容易であり,かつ相当というべきである。
 以上によれば,被告が,本件配転命令以前に,原告が本件訴訟において提出しているような医師の意見書や診断書等の内容を認識していないのは,原告が被告から述べる機会を与えられなかった,あるいは上記書類を提出する機会がなかったことによるのではなく,被告又はH1が,原告に対し,玉川事業場への配転に応じることができない理由を聴取する機会を設けようとしたにもかかわらず,原告が自ら説明の機会を放棄したことによるものというほかない。
 そうすると,被告又はH1が,原告に対して,医師の意見書や診断書の提出を求めるなどの必要な調査を怠ったということはできないのであって,本件配転命令に際し,被告又はH1が医師の意見書・診断書等の原告の長男及び母親の具体的な状態を認識することができなかったのは原告が招いた事態であるから,被告又はH1が,本件配転命令を発出した時点において認識していた事情を基に,本件配転命令の有効性を判断することが相当というべきである。

※なお、裁判所は、仮に原告労働者が訴訟において提出した資料を考慮しても、配転命令が原告に与える不利益が著しいとは言えない旨を判断しています。

転居を伴う配置転換命令について、保全の必要性がないと判断された事例(福岡地裁小倉支部令和3年12月15日決定)

本件は、現在の勤務先(B)から、転居を伴う別の勤務先(A)に配置転換を命じられた労働者が、当該別の勤務先で就労する義務がないことについての仮処分を申し立てた、という事案です。

民事上の仮処分が認められるには、要旨①被保全権利の存在②保全の必要性が要件となりますが、裁判所は以下のとおり述べ、保全の必要性を否定して、被保全権利の存在について判断せず、申立てを認めませんでした。

「事案に鑑み、まず保全の必要性を判断する。

 債権者は、Q1市内に自宅を保有しており、Q2市に転居することにより転居費用やQ2市での住居の賃料等、相応の費用が発生することが想定される。上記費用のうち、転居費用は債務者から支給されるものの、債務者の住宅手当の規程に照らすと、住居の賃料の全額が支給されるとは限らないことから、本件配転命令に従って転居することによりある程度の経済的負担が債権者に発生する可能性が高いと認められる。しかしながら、債権者は、前件控訴審判決確定後、毎月43万7409円の賃金を受領しており、本件配転命令に基づく異動の前後で賃金の受領額に変更はないのであるから、債権者の世帯構成を勘案すると、上記経済的負担を賄えない特段の事情があるとは認められない。

 債権者は、独身であることに加え、平成28年度以降、Bにおける授業を担当しておらず、令和4年度においても担当予定授業がなく、その他本件において、Q1市から転居できない特段の事情の疎明はない。

 以上からすると、転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるものではあることを考慮しても、本件配転命令に従ってQ2市において就労することにより、債権者に著しい損害又は急迫の危険が生じるとはいえず、保全の必要性が認められない。」

大学教員について、ハラスメント行為を理由とする構内への立ち入り禁止の業務命令が適法とされた事例(東京地裁令和3年5月17日判決)

本件は、大学の非常勤講師として勤務していた原告が、学生に対するハラスメント行為を理由に、構内への立ち入りや講義の実施を禁じる業務命令について、その違法無効を主張した事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、当該業務命令は有効と判断しました。

被告は、大学を運営する学校法人として、学生との間で在学契約を締結しており、これに基づいて学生に対して良好かつ適切な就学環境を提供する義務があり、当該義務に付随して安全配慮義務を負っていると解されることから、被告の教職員による学生に対するハラスメント行為が認められた場合には、当該行為の内容等に応じて、学生の安全な環境における就学を実現するために適切かつ具体的な措置を講ずべき立場にある。

  前記認定事実によれば、原告は、本件各行為を行ったことが認められるところ、本件各行為のうち本件各ハラスメント行為は、他の学生も受講中の授業中に、P1及びP2の男女交際経験にとどまらず、P1の性体験についても質問し、また、P2に対して交際相手の写真を見せるよう要求するだけでなく、それを周囲にも見せるよう要求するなど、大学の教員という優越的な立場を利用し、学生のブライバシーに立ち入り、上記両名及び周囲の学生に対して不快な感情を与えたものであって、教育者として明らかに配慮を欠いた行為であり、これに本件不適切行為を加えた本件各行為は、いずれもP1及びP2の意に反する不適切な言動であり、両名の安全な環境における就学を害するものといえる。

  したがって、被告としては、P1及びP2の安全な環境の下での就学を実現するために必要な措置を講ずべきところ、本件業務命令は、被告がそのための措置として発令したものであるから、その必要性等を判断するに当たっては、同命令発令時におけるP1及びP2安全な就学を実現するという観点からみる必要があり、まず、原告、被告並びにP1及びP2らの当時の具体的状況を検討する。

  本件各行為は、男性教員である原告が女子学生を含む学生に対し性的な事実関係を尋ねたり一方的に身体接触したりしたものであり、P1及びP2は、原告に恐怖感や嫌悪感を抱き、原告の授業に出席できなくなっただけでなく、原告と会う可能性がある被告大学への登校自体を避けたいと感じていたこと、被告大学の在籍学生は約3000人程度で比較的小規模の大学であることや教員及び学生はおおむね最寄り駅からスクールバスによって通勤及び通学している立地状況であり、通学中や在校中にPl及びP2が原告と会う可能性が低いとはいえないこと、本件業務命令の直後に原告が書記長を務める本件組合がP2をモンスター・スチューデントなどと評するブログを公開するなどP2に対し攻撃的な態度に出ていたことなどの事情を総合すると、原告にそのまま授業を担当させ、被告大学への自由な出入りを許容した場合には、P1及びP2は、原告に対する恐怖感や嫌悪感から、原告が担当する授業に出席できないだけでなく、被告大学への登校自体ができなくなる現実的な可能性があり、その場合には、両名の被告大学の卒業が困難となる可能性もあったものであるから、前判示のとおり良好かつ適切な就学環境を提供する義務及び安全配慮義務を負っていた被告としては、被害者と加害者が再度接触しないための措置を講じ、両名が被告大学に通学できない事態を防止し、両名に就学上の不利益が生じないよう配慮する必要性があったものといえる。

  そうすると、本件各行為がハラスメント等に該当する以上、被告において、被害者であるP1及びP2の心情及び在学期間を考慮し、本件業務命令時点において3年生であったP2の卒業予定時期である令和2331日までを終期として、原告の講義及び被告大学への敷地内への立入りを禁止し、これを維持した本件業務命令は、良好な就学環境を実現するために具体的な必要性が存在したというべきである。

  そして、被告は、原告に対し、本件業務命令で指定された期間中、原告が本件労働契約の内容どおりの講義を実施していないにもかかわらず、同契約に定められた講義の対価として本俸を支給していたことに加え、組合活動を行うため本件組合の事務所へ通う場合には被告大学敷地内への立ち入りを例外的に許しており、原告が被る経済的不利益や原告の組合活動への制約に配慮して本件業務命令を発令したことが認められ、このことに前判示に係る発令の必要性を基礎付ける諸事実を併せ考慮すると、本件業務命令に殊更に原告に対して不利益を課する目的があったということはできない。

  さらに、前記認定事実のとおり、被告は、複数の学生からハラスメントの申立てがあったことを契機として、被告ハラスメント規程に基づき、本件審査会による調査を経て、本件各行為をハラスメント行為又は不適切行為と認めた上で、上記のとおり安全配慮義務の一環として本件業務命令を発令したものであって、本件業務命令に係る経緯やその動機、目的、手続において不当な点も見当たらない。

  以上のとおり、本件業務命令には業務上の必要性が認められ、被告が不当な動機、目的に基づいてこれを発令したと認めることはできない。

退職勧奨後に実施された配転命令について,退職勧奨と配転命令の関連性が否定され,有効と判断された事例(東京地裁令和2年2月26日判決)

本件は,学校法人にて事務職員として就労していた労働者が,営繕室での業務担当への配置転換命令を受けたことについて,配転命令の無効を主張した事案です。なお,本件配転命令は平成30年12月に告知されていますが,これに先立つ同年9月に,原告労働者は被告より退職勧奨を受けており,訴訟では,退職勧奨と配転命令の関連性の有無も争点になりました。

裁判所は,要旨,以下のとおり述べ,本件配転命令は有効と判断しました。

「(2)業務上の必要性について

ア (中略)平成30年12月当時,被告の営繕室には,専任の事務職員がおらず,定年退職後に嘱託職員として採用された現業の職員(G氏)又は事務室に勤務する事務職員(主としてH氏)が状況に応じて営繕室の事務を担当していたものであり,被告は,営繕室の現業職員との連絡,営繕室が担当すべき作業計画,進行管理,消耗品の発注,在庫管理等の業務が円滑にできていないという問題点を把握していたものである。

 本件学校を運営する被告にとって,その構内の美化,生徒の安全確保のための営繕の仕事は欠くことのできない業務である(略)ところ,被告が,上記の様に定年退職後の嘱託職員等が事実上兼任して事務を担当するような状況について問題視し,平成31年4月1日から専任の事務職員を配置し,責任をもってその業務を担当させる方針を決めたことは,被告の業務の適正な運営のために必要性が高かったといえる。

 また,原告に当該業務を任せることとしたのは,原告自身の経験等に照らして原告に情報収集,発信能力があると考えた一方で,H氏には新たに財務の預かり金,会計,給与等を担当させるためであり(略),複数の業務を経験させることによって人材の育成を図ることの有用性は広く一般に知られていると考えられるから,対象者の選択としても合理的なものであったといえる。

(中略)

(3)動機・目的について

ア 本件配転命令に業務上の必要性があることは,前記(2)のとおりであるところ,営繕室を担当する事務職員として原告を選任したことについても,(略)他の職員の状況,原告の経歴等に照らして,限られた人員の中から原告を選任したものであり,不当な動機又は目的を認めることはできない。

 また,被告において,原告以前にも事務職員が営繕室において勤務していたこともあり(略),本件配転命令が事務職員に対する配転命令として特異なものともいえない。

(中略)

なお,前記(略)のとおり,E事務長は平成30年9月11日,原告に退職を勧めているが,これは原告が教務室において本件学校に対する不満を口にしていたことが,他の職員との間で問題となっていたことをきっかけとするものであり,B前校長との関係を前提とした退職勧奨とはいえない。そして,同日において,原告が当該言動を否定し,退職する意思がないことを明らかにした後には,被告から原告に対し,退職を勧めた事実も認められないから,原告がその他主張するE事務長の言動を考慮しても,当該退職勧奨と本件配転命令との間に何らかの関係を認めることもできない。

(中略)

(4)不利益について

本件配転命令は,本件学校の構内における勤務場所の変更に過ぎず,給与に変更もなく(略),営繕室の執務環境も,相応の広さがあり,冷暖房,給湯設備,執務机及びパソコンが備え付けられているなど(略),他の事務職員の勤務する場所に比して劣悪であるということはできない。また,その業務の内容も,事案決定書の作成等の事務作業(略)であり,精神的又は肉体的な負担が大きいものではない。

(中略)

(5)小括

以上の次第で,本件配転命令には,業務上の必要性が認められ,不当な動機・目的をもってされたものということはできず,原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえないから,本件配転命令は権利の濫用に当たらない。」

アルバイトに対する配転命令につき,勤務地限定の合意を理由に挙げてこれを無効とした事例(津地裁平成31年4月12日判決)

本件は,アルバイトとしての雇用契約を複数回にわたり更新してきた労働者が,勤務地変更の配転命令を無効と主張して争った事案です。

配置転換命令の有効性について,裁判所は,以下のとおり,勤務地限定の合意を認定し,当該命令は無効と判示しました。

「被告会社においては,アルバイトに配転を命じる旨の規定は存在するが,アルバイトは,原告が採用された当時ではなく,現時点に近いものではあるものの,基本的には,通いやすい場所を選んで,具体的な店舗に勤務するというのであり,他の店舗での勤務については,近隣店舗に応援するのみであるとされていること,正社員についてさえも,通勤圏内での異動という場合もあるとされていること,原告は,平成6年3月からは,4か月ほどを津店で勤務したほかは,長年専ら鈴鹿店で勤務してきていること,被告会社と原告との雇用契約書では,当初,「鈴鹿店」とだけ限定した記載がされていたが,その後,「ジャパンレンタカー鈴鹿店及び近隣店舗」ないし「鈴鹿店及び当社が指定する場所」と記載が変更されているが,このことについて,被告会社から原告への説明はなされていないことからすると,原告が津店から鈴鹿店に異動し,鈴鹿店から津店に一時異動したことがあることを考慮しても,被告会社と原告との間では,原告の勤務地が必ずしも鈴鹿店のみに限定されていないとしても,少なくとも鈴鹿店又は津店などの近接店舗に限定する旨の合意があったものと解するのが相当である。」

※なお,本判決は,上記判示に続けて,「仮に,原告の勤務先を鈴鹿店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても,以上の事情からすれば,被告会社には,原告の勤務先が鈴鹿店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり,本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして,権利濫用になるかどうか判断するに当たっても,この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。」として,本件配転命令が権利濫用ゆえに無効という旨も述べています。

自宅から勤務地の工場まで片道3時間近くかけて通勤していた労働者について,当該工場の付近に単身で転居するよう命じた転居命令の有効性が否定された事例(東京地裁平成30年6月8日判決)

本件は,東京の自宅から茨城工場まで片道約3時間をかけて勤務を続けていた労働者に対し,会社側が「単身で,当該茨城工場の近くに転居するように」という命令を発令したことについて,労働者側が,当該命令の有効性を争った事案です。

裁判所は「転居命令は,①業務上の必要性がない場合②業務上の必要性があっても,当該命令が他の不当な動機・目的をもって為されたものである場合,には無効になる」という判断枠組みを前提に,以下のとおり述べ,当該命令は無効と判断しました。

「本件について業務上の必要性をみるに,被告は,往復6時間の長時間通勤は,原告の健康不安,疲労や睡眠不足による工場内事故の危険,通勤途中の事故や交通遅延の可能性の増大,残業を頼みにくい不都合等から,被告は原告の長時間通勤を長期間放置することはできず,本件転居命令には業務上の必要性がある旨主張する。しかし,(中略),本件転居命令は,本件配置転換(※東京から茨城工場への配置転換のこと)の約1年後に出されたもので,原告は,その期間,転居せず自宅から茨城工場に通勤していたこと,原告の茨城工場での業務内容は梱包作業であり,早朝・夜間の勤務は必要なく,緊急時の対応も考え難いこと,原告不在時には他の従業員が原告の業務に対応することができたこと,原告に残業が命じられることはなかったこと,原告は,片道3時間かけて通勤しているが,交通事故のために休職した期間と一度の電車遅延による遅刻の他は遅刻や欠勤はなく,長距離通勤や身体的な疲労を理由に仕事の軽減や業務の交代を申し出たこともほとんどなかったことが認められる。そうすると,原告が転居しなければ労働契約上の労務の提供ができなかった,あるいは提供した労務が不十分であったとはいえず,業務遂行の観点からみても,本件転居命令に企業の合理的運営に寄与する点があるとはいえず,業務の必要性があるとは認められない。

 また,被告は,AP事業部の再開が見込まれないため,原告が東京勤務になる見込みがなく,今後も継続して長時間通勤を原告に課すことは,労働契約法や労働安全衛生法上不相当であると主張する。しかし,単身赴任による負担と長時間通勤の負担とを比較すると,一概に後者の負担の方が重いとも断じ難いし,企業の安全配慮義務の観点からも,原告に被告が赴任手当等の金銭的負担(就業規則や旅費規程に則った合理的なもの)の上で転居する機会を与えているのだから,安全衛生義務を一定程度果たしているといえ,それを超えて転居を命令する義務があるとまではいえない。」

※なお,原告労働者は,本件転居命令には不当な動機・目的がある,転居により著しい不利益を被る等の主張もしていましたが,これらの事実は認定されていません。

1人で担当するには過重な業務への配置転換が不法行為に当たると判断された事例(大津地裁平成30年5月24日判決)

本件は,競合店舗の価格調査業務への配置転換の強要等がパワハラに当たるとして,労働者の遺族が会社に対し損害賠償を請求した事案です。当該業務への配置転換について,裁判所は,以下のとおり判断して,不法行為としての違法性を肯定しました(その他の点は割愛)。

「亡E(※労働者)に社内ルールを逸脱する不適切な行動が続いたため,被告C(※亡Eの勤務していた店の店長)が,被告会社本部のL部長から,亡Eについて,一旦,販売やレジ業務から外すように指示を受けたこと,これに伴い,F店長代理と亡Eの担当業務について協議し,亡Eの配置換え先として,荷受け担当や掃除担当も検討したものの,当該業務の性質や必要人員,他の従業員の業務との兼ね合いから,亡Eにこれらを担当させるのは効率的ではなく,被告会社において,価格調査業務が重要であり強化する必要があるとの認識・取組みがあったことから,亡Eに価格調査業務を担当させるとの結論に至ったのであり,このような経緯自治には,何ら不合理な点は見いだせない。

 しかし,上記のとおり,被告Cが亡Eに意向打診した際に説明した価格調査業務の内容は,被告会社の親会社である訴外株式会社ケーズホールディングスが編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず,これをLP(※フルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者のこと)1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において,極めて特異な内容のものであった。そうすると,たとえ,被告Cに,亡Eに対して積極的に嫌がらせをし,あるいは,本件店舗を辞めさせる意図まではなかった(上記の経緯に加え,前記認定事実(18)の被告Cの対応を併せ考慮すると,亡Eに指示された価格調査業務の内容が不合理なものであることを踏まえても,なお,被告Cがそのような不当な意図を有していたとまでは認めるに足りない。)としても,本件配置換えの結果,亡Eに対して過重な内容の業務を強いることになり,この業務に強い忌避感を示す亡Eに強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところはなかったというべきである。したがって,被告Cによる本件配置換え指示は,亡Eに対し,業務の適正な範囲を超えた過重なものであって,強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で,不法行為に該当すると評価するのが相当であるというべきである。」

不正行為の防止及び労働者のスキルアップを目的とする配転命令が有効と認められた事例(静岡地裁浜松支部平成26年12月12日判決)

本件は、ゆうちょ銀行の浜松支店から静岡支店への配置転換(配転)を命じられた労働者が、この配転命令が無効かつ違法であるとして、静岡支店に勤務する労働契約上の義務がないこと及び慰謝料100万円の支払いを求めた事案です。

労働法上、配転命令の有効性については①労働契約上、使用者側に配転命令権が認められていれば、その限りで配転命令は有効②しかし、仮に配転命令権が認められているとしても、配転の必要性がない、必要性があってもその他の不当な動機・目的(例:単なる嫌がらせ目的など)に基づいてなされている、配転命令によって労働者の被る不利益が著しい、等の事情がある場合は、配転命令権の濫用として配転命令は無効になる、と考えられています。

本件で、労働者は、上記②に関し「本件配転命令は業務上の必要性を欠くうえ、配転によって通勤時間が長くなり、家庭生活や育児に十分な時間が確保できなくなるので、本件配転命令は無効」という主張をしていました。

一方、会社側は、本件配転命令は、『不正行為の防止』『労働者のスキルアップ』のために必要であり、また、これにより労働者が被る不利益も著しいとはいえない、として反論していました。

この点、裁判所は、配転命令の必要性について「長期間にわたり特定の社員が金銭の管理を取り扱う業務に従事していた場合、そうでない場合と比較して横領等の不正行為が発生する危険が高くなることは経験則に照らし明らか」としたうえ、本件の特殊性として「金融期間においては、金融検査マニュアル(書証略)において、適切な人事ローテーションの確保が要請されている用に、不正行為防止のために、長期間にわたり特定の社員を同一業務に従事させないようにする必要性が高い」「店舗の異動により上司、同僚、顧客が変化することに加え、原告蟻洞した静岡店は(中略)浜松店と比較して法人の顧客が多く(中略)業務内容の違いもあり(中略)浜松店とは異なる業務を経験し得る」として、本件配転命令の必要性を認めました。

また、労働者が被る不利益については「長時間通勤を回避したいというのは、年齢、性別、配偶者や子の有無等に関わらず、多くの労働者に共通する希望である。配転命令の有効性を判断するにあたって考慮すべき労働者の不利益の程度は、当該労働者の置かれた客観的状況に基づいて判断すべきものであり、(中略)原告の主観的事情に基づいて判断すべきものではない」との判断基準を示し、本件配転命令により労働者が被る不利益の程度は著しいとはいえない、と判断し、結論として労働者の請求を認めませんでした。

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