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安全配慮義務の裁判例

安全配慮義務に関する裁判例

安全配慮義務に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

学校教諭の疾病による死亡が、部活顧問等の長時間労働に起因するものと判断された事例(富山地裁令和5年7月5日)

本件は、中学校教諭がくも膜下出血発症で死亡した件について、学校での長時間労働によるものか等が争点となった事案です。裁判所は以下のとおり延べ、部活顧問を含む長時間労働との因果関係を認めました。

(2) Dの業務の過重性
ア 量的過重性
(ア) Dの本件発症前6か月間における時間外勤務時間数及びその平均は別紙3勤務時間一覧表(2)のとおりであるところ(認定事実(1)ア(ア))、Dは、本件発症前1か月に119時間35分、本件発症前2か月にわたり平均127時間35分、3か月にわたり平均116時間45分、4か月にわたり平均106時間06分、5か月にわたり平均94時間18分、6か月にわたり平均89時間00分の時間外勤務に従事しており、本件厚労省基準にいう本件発症前1か月に100時間を超える時間外労働に従事し、かつ本件発症前2か月ないし6か月にわたり1か月当たり80時間を超える時間外労働に従事していたことは明らかである。
 また、Dの本件発症前26週間における時間外勤務時間数及びその平均は別紙4勤務時間一覧表(3)のとおりであるところ(認定事実(1)ア(イ))、Dは、本件発症前1週間に30時間26分、2週間に平均27時間02分、3週間に平均27時間02分、4週間に平均24時間54分の時間外勤務に従事しており、週当たり平均25時間程度以上の時間外勤務に連続して従事していたといえる。また、それ以前においても本件発症前22週まで平均20時間以上の時間外勤務に従事し、本件発症前22週から26週にかけても平均19時間以上の時間外勤務に従事していたことからすれば、Dが、本件発症前に、本件地公災基準にいう週当たり平均20時間程度以上の時間外勤務に連続して従事していたことは明らかである。
 そうすると、Dが本件発症前に本件厚労省基準及び本件地公災基準を上回る長時間労働に従事していたことが認められる。
 加えて、本件厚労省基準は、業務と発症の関連性を強める要素として、休日のない連続勤務を挙げているところ、Dは、本件発症前日まで25日間連続で勤務し、6月27日に休みをとった他は、5月30日から6月26日にかけても27日間連続で勤務しており、それ以前についても2週間以上の連続勤務が常態化していた(認定事実(1)イ)ことからすれば、長時間労働による心身の疲労の回復を図る機会も著しく制限されていたといえる。
 これらを踏まえると、Dが、本件発症前に、心身の健康を損なうおそれのある量的に過重な業務に従事し、疲労を蓄積させていたことは明らかである。
(イ) この点、被告●市は、Dの時間外勤務時間数のうち、女子ソフトテニス部の顧問としての業務に充てたと考える時間を差し引いた時間数をもって、Dの時間外勤務時間数は本件厚労省基準及び本件地公災基準に満たないと主張する。しかしながら、本件中学校では、基本的に全ての教員がいずれかの部活動顧問を担当することとされており、その配置決定に校長及び本件中学校内に設置された校務運営委員会が関与していたこと(認定事実(2)ア(ウ))、教員が休日等に部活動指導にあたった場合は手当を支給することとされており、その算定の基礎となる特殊勤務実績簿にE校長が押印していたこと(甲4の4、証人E校長【21ないし23頁】)、部活動の朝練習及び放課後練習の一部が、所定勤務時間外に予定されており(前提事実(2)ア、ウ)、部活動の朝練習は顧問指導の下で実施することされており、また放課後練習はその終わりに必ず出向き、生徒が帰宅するのを見届け、帰宅時間を厳守させることなどが取り決められていたこと(乙6)などを踏まえると、本件中学校において、教員が部活動顧問を担当し、その関連業務に所定勤務時間外にわたって従事することは当然に想定されていたといえる。これに加え、Dが顧問を務めていた女子ソフトテニス部は、7月に実施された●県中学校総合選手権大会において団体3位、個人で2位に入る(甲52)など県下の強豪で、意欲的な生徒が集まり、保護者の期待も大きかったこと(甲4の4、乙32、証人E校長【25ないし26頁】)からすれば、週末等の練習の実施や練習試合への参加の有無をDの裁量のみで決定していたとみることは困難である。これらを踏まえると、Dが所定勤務時間外に行った同部の顧問としての業務は、いずれも、Dが本件中学校の教員の地位に基づき、その職責を全うするために行われたものであることは明らかであり、時間外勤務時間数が多くなった背景に、Dの教員としての責任感の強さや部活動指導に対する積極的な姿勢があったとしても、全体としてみれば、同部の顧問としての業務が全くの自主的活動の範疇に属するものであったとはいえない。したがって、Dが同部の顧問としての業務に従事していた時間を含め、業務の量的過重性を評価するのが相当である。
イ 質的過重性
(ア) Dが本件発症前に従事していた業務の内容は認定事実(2)イ及びウのとおりであるところ、一般に、学級担任が、生徒らの個性に応じ、学習支援のみならず、生活全般につき教育指導する重い責務を負っていることに加え、とりわけ3年生の学級担任は進路指導上重要な役割を担っていること、修学旅行等の重要な行事も多いこと(証人F【8頁】)、現にDは日常的な学級担任の業務に加え、進路に関する保護者との面談や修学旅行の関連業務を行っていたことからすれば、3年生の学級担任を務めることは、業務量においても、その責任の重さからしても、Dに強い負荷をかけるものであったといえる。また、Dが顧問を務めていた本件中学校の女子ソフトテニス部が県下の強豪であり、生徒や保護者の期待が大きかったことは前記ア(イ)のとおりであり、その活動日数や時間が長くなる傾向にあったと考えられることからすれば、同部の顧問を務めることで、Dには身体的にも心理的にも強い負荷がかかっていたといえる。
(イ) この点、被告●市は、Dの担当していたクラスが他のクラスと比較して進路指導上の困難を抱えていたわけではないことや、平成28年度の業務量や内容が平成27年度と比較して軽減された旨指摘するが、3年生の学級担任を務めること自体、他学年の学級担任を務めることと比較し、強い負荷を伴うものであることは前述のとおりであるし、Dが平成28年度に担当していた授業数は1週間に20時間で、他の4名の教員と並び、本件中学校において最も多かったこと(認定事実(2)イ、同ウ(ア)、同(イ)、乙30の2)、生徒会のボランティア活動の担当として早朝の清掃活動の引率指導が発生していたこと(認定事実(2)ウ(エ))などからすれば、平成28年度も、Dには依然として強い負荷がかかっていたといえる。加えて、E校長が、Dが平成27年度に続き平成28年度も3年生を担当することが負担であることを考慮し、教科担当を調整した旨述べていること(証人E校長【9ないし11頁】)からすれば、2年連続で3年生の学級担任を務めることの負担が重いことに鑑み、教科担当を1時間減らすなどしたのであって、平成28年度のDの業務の負担の程度が、平成27年度に比べ軽減されたとは必ずしも評価できない。
 また、被告●市は、女子ソフトテニス部の顧問としてのDの業務内容は、監視や監督、付添が主であったと指摘するが、万が一事故が発生した場合には管理責任を問われる(証人E校長【13ないし14頁】)状況において、生徒らの健康や安全を管理するには相当の緊張を強いられるものであるから、技術指導の有無によって、その負荷の程度が左右されるものでもない。
 したがって、Dは、本件発症前に、客観的にみて、質的にも過重な業務に従事していたと認められる。
ウ 以上によれば、Dは、本件発症前に、量的にも質的にも過重な業務に従事していたと認められる。

公務員について、注意義務違反に基づく損害賠償請求が認められた事例(新潟地裁令和4年11月24日判決)

本件は、地方公務員(市の公務員)が、上司との関係性等を理由に自死に至った事案について、市の損害賠償義務の有無が問題となった事案です。裁判所は以下のとおり述べ、市の損害賠償義務を認めました。

(1) 争点(1)(安全配慮義務違反、因果関係及び過失相殺)について
ア 原告らは、①被告が、Dが担当した業務の前担当者及び新担当者を現場に周知し、十分な引継ぎを行う時間を確保できるよう引継ぎの行程表を作成して現場に周知し、十分な引継ぎを行うために必要な人員を確保すべき注意義務を尽くさず、また、②被告の履行補助者としてのE係長が、Dの担当業務をE係長やI主査を含めたチームで担当する体制としたり、当該業務の主担当をE係長又はI主査としDにその補助をさせて1年間以上の研修期間を設ける体制としたり、当該業務に関しE係長又はI主査がDを指導する機会を設けたり、Dが当該業務に関してE係長又はI主査に質問できる環境を構築したりすべき注意義務を尽くさなかったと主張している(その他に、パワハラやいじめに関する主張もあるが、これらについては後に触れることとする。)。
イ この点、前記前提事実、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、
 ① 平成19年4月初めの時点で、Dには(Dのように初めて当該業務に従事する職員にとって比較的難しい業務であった)修繕単価表の改定業務を、分からない点を前担当者や当該業務の経験がある他の職員に質問することなく主担当として単独で行うことができるような能力や経験はなく、当時のDは、分からない点をその都度前担当者又は当該業務の経験がある他の職員に質問しながら当該業務に慣れていく必要がある状態であったこと、
 ② 平成19年4月当時の給配水係の職員のうちE係長及びI主査には、修繕単価表の改定業務に関してDを指導する能力があったものの、E係長には、同僚や(Dを含めた)部下に対し、仕事上、厳しい対応や頑なな対応を行う傾向や、時折、強い口調で発言する傾向があり、E係長自身も、自分がDに対し「強く当たっている」ことを自覚しており、これらの影響もあって、当時の給配水係内における会話は少なく、挨拶も余りなく、職員の誰かが他の職員に対して業務に関する質問をするような雰囲気もなかったこと、
 ③ Dは、真面目かつ温厚であり、物静かでおとなしく、自身の悩みを他者に余り相談しない性格であり、E係長から注意や叱責を受けて萎縮することが多く、E係長の自分に対する態度を「いじめ」であると感じて苦痛を感じ、E係長との接触をなるべく避けようとしていたこと、
 ④ Dは、平成19年4月中に10回程度、修繕単価表の改定業務の引継ぎを直接受けた相手であり、Dが当該業務の前担当者であると認識していたK主査に対し、当該業務に関して質問をしたが、K主査には、修繕単価表の改定業務に関してDを十分に指導できる能力はなく、Dの業務に対する理解は、新たな工種の追加を十分に行える程度にまで深まることはなかったこと、
 ⑤ 平成19年当時の修繕単価表の改定業務のスケジュールとしては、係内での作業を5月末頃までに終える必要があり、中でも、同月の連休明け頃から同月末頃までの間に行う単価の入替え作業は作業量に比して最も時間的な制約がタイトであったため、主担当者であるDが4月中に新たな工種の追加等の業務を終わらせることができない場合、その後のスケジュールに悪影響が及ぶ可能性があったこと、
 ⑥ Dは、平成19年4月末時点においても(業務に対する理解が十分でないために)修繕単価表の改定業務における新たな工種の追加等の業務を終了させることができておらず、5月の連休明けにE係長から叱責されることなどを恐れて精神的に追い詰められ、そのことが主たる要因で自殺を決意したこと
がそれぞれ認められる(なお、E係長が、Dに対し、修繕単価表のエクセルファイルの書式を鉛管単価表のエクセルファイルの書式と同じものに変更する業務まで指示していたと認めるに足りる証拠はない。)。
ウ 一方において、死亡当時のDは、水道局における勤続18年目の中堅職員であり、主査という(自治体においては一般的に係長クラスの)肩書を付与されていたのであるから、上記のような業務上の困難に直面した場合であっても、前担当者がJ副主査であったことを他部署への問合せ等によって確認した上でJ副主査に対して業務の処理方法について質問したり、E係長及びI主査に対して(E係長から叱責される可能性を覚悟の上で)4月末までに行うべき業務を終了させる見込みがないことを率直に告げて助力を求めたり、E係長の上司であるL課長に対して直接、給配水係内のコミュニケーションの問題により担当業務に関して十分な助力を得られない状況を相談したりすることも、客観的に見れば、可能であったと考えられる。
 他方において、当時の水道局内は、大部分が基本的に水道局以外の●市の部署への異動が予定されていない職員ばかりで、水道局内の人間関係が定年で退職するまで継続するような状況にあって、このような環境に応じた組織結束の文化もあった(証人M)ところ、そのような中において、物静かでおとなしく、自身の悩みを他者に余り相談しないDが、上記のような積極的な対応を採ること、特に、給配水係内のコミュニケーション上の問題についてE係長を飛び越えて直接その上司であるL課長に相談することは、その性格上難しい部分があり、そのため、Dは、一人で悩みを抱え込むことになったのではないかと考えられる。
エ これらの状況(日頃の執務等を通じ、E係長においてこれらの状況は認識していたか、少なくとも認識し得たはずである。)に照らせば、平成19年4月当時、E係長には、自分自身のDを含む他の職員に対する接し方が係内の雰囲気に及ぼす悪影響や、Dとの人間関係の悪化による悪影響によって、Dが係内で発言しにくくなり、他の係職員に対し業務に関する質問をしにくくなっている給配水係内のコミュニケーション上の問題を踏まえて、初めて担当するDにとって比較的難しい業務であった修繕単価表の改定業務に関し、①Dによる業務の進捗状況を積極的に確認し、進捗が思わしくない部分についてはE係長又はI主査が必要な指導を行う機会を設けるか、又は、②E係長において部下への接し方を改善して給配水係内のコミュニケーションを活性化させ、DがE係長又はI主査に対して積極的に質問しやすい環境を構築すべき注意義務があったというべきである。
 そして、E係長はこれらの措置を何ら実施していなかったものと認めることができるから(E係長は、Dの自殺後まもなく、L課長から部下への接し方に問題があるとして厳しく叱責された〔前記認定事実(6)イ〕にもかかわらず、本件訴訟の証人尋問において、Dが遺書で言及した人物〔同(5)参照〕について自分のことだと思わない、至らないことがあったとは思っていないなどと証言しているところであって、このようなE係長が上記のような措置を適切な形で採っていたものと認めることはできない。)、本件では、上記の注意義務に違反した過失があったものというべきであり(なお、上記ア記載の原告ら主張の注意義務違反のうち、その余の注意義務違反については、認めるに足りる証拠がない。)、これによりDがその遺書(前記認定事実(5))に記載されたような心境に陥って自殺するに至ったものと認めるのが相当である。
 もっとも、Dにおいても、先に述べたとおり、自殺するに至る過程において、水道局の中堅職員として自らの苦境を解消するために可能であると考えられる対応を十分に採らなかったものと認めることができるから、その点に関して過失相殺を免れることはできないところ、その割合は、本件における一切の事情を考慮して、5割と評価することが相当である。

社内でのハラスメント行為に対応しなかった点について、会社側の安全配慮義務違反が認められた事例(名古屋地裁令和4年12月23日判決)

本件は、就労に際してのハラスメントを理由に、被害者から加害者及び会社に対して損害賠償請求がなされた事例です。

会社の安全配慮義務違反に関し、裁判所は以下のとおり述べ、義務違反を肯定しました。

争点(2)(被告会社が被告Y1のパワハラ行為を放置し、原告に対する違法な嫌がらせ行為を行ったか)について
(1)原告が被告会社の安全配慮義務違反と主張する行為について
ア 原告は、被告会社が被告Y1による理不尽な担当工区の割振りを放置したと主張するが、前記3で説示のとおり、被告Y1による担当工区の割振りは合理的なものと認められるから、原告の主張に理由はない。
イ 認定事実(2)イ(カ)によれば、C所長は、平成28年9月1日、原告から被告Y1による暴言や暴行があることを伝えられているが、原告の方が悪いと言って、何らの対応も取らなかったことが認められる。認定事実(3)アによれば、D係長は、米原営業所内で被告Y1が原告に対し、注意や指導の会話をする中で、頭を叩くなどの暴行が複数回繰り返されており、隣の席に座っていたことからそれを認識しえたはずであるのに、何らの対応も取らなかったことが認められる。原告の上司であるC所長とD係長は、被告Y1が原告に対し暴力を振るっていることを認識しえたのであるから、原告が安全に業務に当たれるように被告Y1の暴力を止めさせる対応を講じる必要があった。それにもかかわらず、C所長とD係長は、何らの対応も取らなかったのであるから、被告会社において安全配慮義務違反があったと認められる。
ウ 原告は、原告が名古屋営業所に異動して以降、被告Y1による嫌がらせ行為に対して何らの対策も講じていないと主張するが、前記3で説示のとおり、被告Y1による嫌がらせ行為を認めることができないから、原告の主張に理由はない。また、原告は、被告会社が、平成31年1月頃、被告Y1を原告が担当する現場で検修させることを計画したと主張するが、認定事実(4)オによれば、米原営業所の担当者は、いったんは原告が担当する現場を被告Y1が検修する予定のメールを送信したものの、原告がその点について見解を求めるメールを送信する前に、原告が担当する現場を被告Y1が検修することを変更する旨のメールを送信しており、担当者は、誤って原告の担当現場で被告Y1を検修させる予定を立て、直ちに変更したものと認められるから、原告の主張を採用することはできない。

ハラスメントに関し、会社側に職場環境調整義務が認められた事例(千葉地裁令和4年3月29日判決)

本件は、職場でのハラスメント行為について、会社の安全配慮義務(職場環境調整義務)違反の有無等が問題となった事案です。裁判所は以下のとおり述べ、会社側の義務違反を認めました。

原告は,本件出来事に関連して,【A】SV,【B】SV,【C】SVにより,一連のパワハラを受け,うつ症状を発症し,増悪した上,【F】,【D】UM,【E】SV,【G】,【H】,【I】を始めとする他の出演者により,出演者間の「カースト」に基づいた職場における常習的ないじめの一環としてのいじめを受けて,著しい精神的苦痛を受けたと主張するところ,【A】SVの発言について,本件出来事の後,セキュリティ部のオフィスで行われた原告との面談において,【A】SVの側から,労災申請への協力を求める原告の心の弱さを指摘するものともとれる発言があったという限度において認めることができることは,上記2(2)のとおりであるが,【B】SVの発言,【C】SVの発言については,これを認めるに足りる的確な証拠がなく,認めることができない。【A】SVの発言についても,社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。【F】の発言,【D】UMの発言,【E】SVの発言,【G】の発言,【H】の発言,【I】の発言についても,それらの発言がされたことを認めるに足りる的確な証拠がなく,一部認めることができる発言等(上記2(5)の【D】UMの発言,【H】の平成29年11月22日の発言)についても,それが社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。
 もっとも,原告は,これらのパワハラ及び職場における常習的ないじめがあったことを前提として,被告が,原告の仕事内容を調整する義務に違反し,職場環境を調整する義務に違反したと主張するものである。そして,原告の仕事内容を調整する義務の違反については,(1) 原告は,本件出来事の後,うつ症状が発症し,過呼吸の症状が出るようになったが,来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り,できる限り人に知られないようにしていたこと,(2) 【M】医師ら及び【q】の医師は,休職の上,療養に専念することを勧めたが,原告は,出演者雇用契約の継続にこだわり,出演者としての就労を継続しながら治療を受けることを望んでいたこと,(3) 被告は,原告が出演者としての就労を継続することを前提として,なるべくゲストに接することがないように配慮したポジションである本件配役を配役したものであることからすると,被告が原告の仕事内容を調整する義務に違反したとまでいうことはできないが,職場環境を調整する義務の違反については,(4) 原告は,過呼吸の症状が出るようになったことから,配役について希望を述べることが多くなったところ,過呼吸の症状が出るようになったことを原告ができる限り人に知られないようにしていたこともあり,他の出演者の中には,原告に対する不満を有するものが増えたのであって,原告は職場において孤立していたと認めることができるところ,(5) 出演者間の人間関係は,来期の契約や員数に限りがある配役をめぐる軋轢を生じやすい性質があると考えられること,(6) 原告は,本件出来事の後,うつ症状が発症し,過呼吸の症状が出るようになった後も,来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り,できる限り人に知られないようにしていたが,原告の状況は,遅くとも平成25年11月28日及び12月18日の面談により,【K】部長,【L】MGRの知るところとなったことによれば,被告は,他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し,原告が配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていたということができる。ところが,被告は,この義務に違反し,職場環境を調整することがないまま放置し,それによって,原告は,周囲の厳しい目にさらされ,著しい精神的苦痛を被ったと認めることができるから,被告は,これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

※もっとも、「他の出演者に事情説明」ということは、原告のプライバシーとの関係から問題が生じうることも考えられ、会社側の義務違反を認めた判断の妥当性は評価が分かれるところかもしれません。

兼業に伴う長時間労働等に関して、安全配慮義務が否定された事例(大阪地裁令和3年10月28日判決)

本件は、要旨、被告Y1で就労する労働者(原告)が、これとは別にAとの間でも労働契約を締結し、両労働契約における労働時間が長期化したしたことについて、安全配慮義務違反の有無が問題となった事案です(その他の争点は割愛)。

裁判所は、以下のとおり述べ、安全配慮義務違反を認めませんでした。

(ア)原告は,被告Y1及びAとの各労働契約に基づく原告の労働日数及び労働時間数,あるいは,被告Y1との労働契約に基づく原告の労働日数及び労働時間数(前提事実(7)ア(ア),イ,前記(2))を前提として,被告Y1は,原告の心身に異常を来すことがないよう原告の業務負担軽減のため,被告Y1での労働時間を軽減し,又は,労働を制止すべき注意義務ないし労働契約上の安全配慮義務を負っており,これに違反したなどと主張する。
 確かに,前記アで指摘したとおり,原告についての労働日数及び労働時間数をみれば,法の趣旨に照らし望ましくない状態が現出していたといい得る。
 そして,前記1(2)ク,(3)キに認定したとおり,被告Y1において,その勤務シフトは,同一店舗に勤務する従業員間でシフト表の案を作成し,Eが各店舗を巡回した際にそのシフト表の案を確認し,承認をするという仕組みの下,その内容が確定されていたこと(前記1(3)キ),Eが勤務シフト調整のための面談に立ち会うなどしていたこと(前記1(2)ク)に照らせば,Eは,被告Y1との労働契約に基づく原告の労働日数及び労働時間数を認識し,あるいは認識し得る立場にあったと解される。
 また,前提事実(2)ア,ウ,前記1(3)オ,カで認定したとおり,Aは,放出店において24時間営業を行うにつき,夜間運営業務をDに委託し,それが被告Y1に再委託されているという契約関係の下,原告が同一の店舗(放出店)で給油所作業員として就労していたことに照らせば,被告Y1は,Aに問合せをするなどして,Aとの労働契約に基づく原告の労働日数及び労働時間についてある程度を把握できる状況にあったことがうかがわれる。
(イ)しかし,既に認定説示したとおり,被告Y1及びAとの労働契約に基づく原告の連続かつ長時間労働の発生は,原告の積極的な選択の結果生じたものであるというべきであり,原告は,連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。すなわち,上述したとおり,原告は,被告Y1と労働契約を締結していたにもかかわらず,Aとも労働契約を締結し,被告Y1との労働契約上の休日(日曜日)にAでの勤務日を設定して連続勤務状態を生じさせ,Eから勤務の多さについて労働基準法に抵触するほか,自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意され,5月中旬までにはAの下での就労を確実に辞める旨約束した後も,別途金曜日にAとの労働契約に基づく勤務を入れたり,平成26年4月28日に守口店における就労について話し合った際もMの意向に反して自ら就労する意向を通していたのである(かかる原告の行動・態度に照らせば,たとえ被告Y1が更に別の曜日を休日にするなどの勤務シフトを確定させたとしても,原告が独自に交渉するなどして,その休日にAの下で就労し,あるいは,更に異なる事業所で勤務しようした蓋然性が高いと認められる。)。
 他方,被告Y1としては,いかに上述した契約関係に基づいて24時間営業体制が構築されているとはいえ,原告とAの労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にあるものでもない(それゆえに,Eは,原告に注意指導してAとの労働契約を終了するよう約束を取り付けている。)。
 加えて,前記(1)に認定説示したとおり,そもそも原告の担当業務に関する労働密度は相当薄いというべきものであること,被告Y1は基本的に日曜日を休日として設定していること,Eは原告に対し,労働法上の問題のあることを指摘し,また,原告自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上,原告に同年5月中旬までにはAの下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなど,本件に表れた諸事実を踏まえると,被告Y1が原告との労働契約上の注意義務ないし安全配慮義務に違反したとまでは認められない。

通勤に伴い、新型コロナウイルスに感染することを懸念した労働者との関係で、安全配慮義務違反が否定された事例(東京地裁令和3年9月28日判決)

本件は、要旨、派遣会社に雇用され、派遣先にて就労していた労働者が、通勤に伴い新型コロナウイルスに感染することへの懸念から在宅勤務等を希望したものの、これが叶わなかったとして、派遣会社に対して損害賠償請求を行った、という事案です(その他の争点は割愛)。

裁判所は、以下のとおり述べ、労働者側の請求を棄却しました。

1 被告の健康配慮義務又は安全配慮義務違反の有無について(争点(1))
(1)原告は,被告が,通勤による新型コロナウイルスへの感染を懸念していた原告のために,労働契約に基づく健康配慮義務又は安全配慮義務として,本件派遣先会社に対し,在宅勤務の必要性を訴え,原告を在宅勤務させるように求める義務を負っていた旨を主張する。
 そこで検討するに,前記前提事実(3)のとおり,令和2年3月初め頃は,新型コロナウイルスの流行が既に始まっており,原告のように通勤を通じて新型コロナウイルスに感染してしまうのではないかとの危惧を抱いていた者も少なからずいたことはうかがわれる。しかしながら,他方で,当時は,新型コロナウイルスに関する知見がいまだ十分に集まっておらず(原告自身,新型コロナウイルスのことを「得体のしれないウイルス」と形容している。),通勤によって感染する可能性があるのかや,その危険性の程度は必ずしも明らかになっているとはいえなかった(顕著な事実)。
 そうすると,被告や本件派遣先会社において,当時,原告が通勤によって新型コロナウイルスに感染することを具体的に予見できたと認めることはできないというべきであるから,被告が,労働契約に伴う健康配慮義務又は安全配慮義務(労働契約法5条)として,本件派遣先会社に対し,在宅勤務の必要性を訴え,原告を在宅勤務させるように求めるべき義務を負っていたと認めることはできない。
 したがって,仮に,被告が本件派遣先会社に対し原告の在宅勤務の実現に向けて働きかけをしなかったという事情があったとしても,これをもって違法ということはできない。
(2)また,前記前提事実(4)アのとおり,被告は,通勤による新型コロナウイルスへの感染への懸念を示す原告に理解を示し,本件派遣先会社に対し,原告の出勤時刻の繰り下げや在宅勤務の要望を伝え,出勤時刻の繰下げについては速やかに実現しているし,原告が本件派遣先会社のCマネージャーと在宅勤務について協議する約束も取り付けている。原告は,被告がこのような対応をしたことについて,「Perfect!Thanks!」(「完璧です!ありがとう!」)と返信し,感謝の意を表しており,原告の在宅勤務も,平成2年3月10日から実現している。
 これらの事実に照らすと,仮に,原告が,被告について上記(1)以外の健康配慮義務又は安全配慮義務違反を主張しているとしても,被告は,原告に対し,上記(1)のような状況下において使用者として可能な十分な配慮をしていたというべきであり,被告に本件労働契約に伴う健康配慮義務又は安全配慮義務違反があったとは認められない。
(3)以上のとおり,被告に健康配慮義務又は安全配慮義務違反があったことを理由とする原告の請求は理由がない。

労働者の具体的疾患が認定されていない場合でも、長時間労働を理由とした安全配慮義務違反(慰謝料請求)が認容された事例(東京地裁令和2年6月10日判決)

本件は、生命保険会社の従業員が、懲戒処分の無効や長時間労働に伴う損害賠償請求を求めた事案です。ここでは、長時間労働が安全配慮義務違反に当たるか、という点を取り上げます。

裁判所は、以下のとおり、安全配慮義務違反を認定し、長時間労働による原告の疾患は認定できないとしながらも、慰謝料10万円の支払義務を認めました。

(1)被告の安全配慮義務違反について
 B支社長によるパワーハラスメントを認めるに足りる証拠はないものの(上記3),本件期間における原告の毎月の時間外労働の時間数(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は,別紙2のとおりである(上記5)。
 そして,原告が平成27年1月に育成部長に昇任して以降,B支社長は原告が所定労働時間を超えて就労していること,実際の退社時刻が午後7時ないし8時であったことを認識しており(証人B24~26p),A営業所長も,原告が短時間勤務の適用を事実上受けていたことについては当初から知っていたものの,原告の退社時刻はおおむね午後6時から8時頃であったとの認識を述べていること(証人A26~28p),平成28年11月24日の時点で,被告の□□労働組合が,各地区の「営業管理職オルグ」において,多くの営業管理職から深刻な長時間労働の実態について苦情が出されている状況を踏まえ,営業管理職の勤務状況等に関するアンケートを実施していること(上記1(4)ア),原告は,B支社長に対し,遅くとも平成29年3月頃には,長時間労働について相談し,その改善を求めたこと(上記1(3)エ),原告は,平成29年5月11日,G統括部長に対し,Cに対する原告のパワーハラスメントに関する事情聴取を受けた際,帰宅時間が20時ないし22時になってしまうこともあったこと,育児を理由とする短時間勤務制度があるから入社したが同制度の利用を認めてもらえないこと,B支社長及びA営業所長から,営業管理職は休日活動の振替休日を取らなくてよいと指導されたこと,育成部長になってから当初の一年間は全く休暇を取れなかったこと等を伝えたこと(上記1(3)コ),平成29年10月30日,むさし府中営業所が立川労働基準監督署から「営業社員に関して,週40時間を超え労働させているにもかかわらず,法定の率以上の割増賃金を支払っていないこと」「育成部長職の者に対して,法定の率以上の割増賃金を支払っていないこと」等を理由とする是正勧告を受けたこと(上記1(4)イ)(なお,同監督署からの勧告は,長時間労働の是正を直接促すものではないが,週40時間を超えて労働させていることの指摘を含んでおり,安全配慮義務違反を根拠付ける一事情として評価するのが相当である。),被告が組合との間で時間外労働及び休日労働に関する労使協定を締結したのは平成30年5月18日であること(上記1(4)ウ)等の事情が認められるのであり,これらを踏まえると,被告は,遅くとも平成29年3月から5月頃までには,三六協定を締結することもなく,原告を時間外労働に従事させていたことの認識可能性があったというべきである。しかしながら,被告が本件期間中,原告の労働状況について注意を払い,事実関係を調査し,改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない(B支社長が,平成27年12月8日に,営業所長に提出すべきリストの作成業務について,時間外には行わないようにとのメール(乙27)を原告に送信していること等の事情は上記認定を左右するものとはいえない。)。したがって,被告には,平成29年3月から5月頃以降,原告の長時間労働を放置したという安全配慮義務違反が認められる。
(2)損害額について
 原告が長時間労働により心身の不調を来したことについては,疲労感の蓄積を訴える原告本人の陳述(甲25)に加え,抑うつ状態と診断された旨の平成29年4月1日付け診断書(甲28)があるものの,これを認めるに足りる医学的証拠は乏しい。しかし,原告が,結果的に具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても,被告が,1年以上にわたって,ひと月当たり30時間ないし50時間以上(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)に及ぶ心身の不調を来す可能性があるような時間外労働に原告を従事させたことを踏まえると,原告には慰謝料相当額の損害賠償請求が認められるべきである。
 そして,本件に顕れたすべての事情を考慮すれば,被告の安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく慰謝料の額としては,10万円をもって相当と認める。

長時間労働等による自死につき,安全配慮義務違反が認められた事例(福岡地裁平成31年4月16日判決)

本件は,歯科技工士として被告歯科医院で就労していた労働者が自死に至ってしまった事案(労災認定あり)につき,遺族が歯科医院側に対し損害賠償請求を行った事案です。

裁判所は,労働者の労働時間について「死亡の4か月前(平成25年12月9日から平成26年1月7日まで)を除き,いずれも145時間を超えている。このような亡A(※被災労働者)の労働時間や,(中略)亡Aの労働実態に照らすと,亡Aの業務は恒常的な長時間労働であったといえる」としたうえで,以下のとおり述べ,安全配慮義務(労働時間を適切に管理し,労働時間,休憩時間,休日,休憩場所等について適正な労働条件を確保し,労働者の年齢,健康状態等に応じて従事する業務時間及び作業内容の軽減等適切な措置を取るべき義務)の違反を認めました。

「被告は,従業員の労働時間を客観的資料に基づいて把握しておらず,労働時間に関する聞き取りなど,労働時間を把握するための措置も特段講じていなかったのであるから,被告による労務管理は不十分であるというほかない。

 被告は,平成25年頃,亡Aに対し,残業をした場合には,帰宅する際にDに連絡するよう指示したものの,同年8月までの間に,亡Aから,Dに対し連絡があったのは数回程度であり,同年9月以降,亡Aから連絡がなかったにもかかわらず,特段亡Aの労働時間を把握する措置を講じていなかったのであるから,これをもって,被告が,労働時間を把握するための措置を講じていたとはいえない。

 以上によれば,被告は,亡Aの労働時間を適正に関しるする義務を怠っていたというべきである。

(3)そして,長時間労働や過重な労働により,疲労やストレス等が過度に蓄積し,労働者が心身の健康を損ない,ときには自殺を招来する危険があることは,周知の事実である。

 そうすると,被告は,亡Aの労働時間を適正に管理しない結果,同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。

(4)これに対し,被告は,被告が亡Aにおいて被告歯科医院に残って業務に従事したことを認識し得なかった事情の一つとして,被告及びBが,亡Aの制作する義歯や補綴物の進捗状況を確認していたため,亡Aが診療時間後に業務に従事していたとは考えられないことを主張する。

 しかし,被告は,亡Aよりも先に帰宅しており,少なくとも亡Aの診療時間終了後における業務の進捗状況は確認できていないし,Bは,被告歯科医院に勤務していないのであるから,亡Aが診療時間内に業務を終了できたかどうかまでは確認できないのであって,被告やBにおいて,亡Aの制作する義歯や補綴物の進捗状況を確認していたことをもって,亡Aが診療時間後に業務に従事していなかったとはいえないし,被告において,亡Aが,被告歯科医院に残って業務に従事していたことを認識し得ない事情になるともいえない。よって,被告の主張は採用できない。

 また,被告は,被告歯科医院の警備会社から,亡Aが連日のように毎日夜遅くまで被告歯科医院に残っているとの連絡を受けたことがなかったこと,被告が,外出先から帰宅した際に被告歯科医院に亡Aが残っていることを発見したときには,翌日に亡Aに被告歯科医院に残っていた理由を問い質しても答えてもらえなかったので,業務には従事していなかったと考えたことからすれば,被告が,亡Aが診療時間後も被告歯科医院に残って業務に従事していたことを認識し得なかったと主張する。

 しかし,被告は,亡Aに被告歯科医院の鍵を預けており,診療日において,被告歯科医院から最後に帰宅するのは亡Aであることを認識していたことに加えて,亡Aが,平成16年頃から,勤務時間中に居眠りをするようになり,平成21年頃から,集中力がないなど業務中の様子に異変があったため,亡Aに対し,心療内科を受診するように勧めていたことからすれば,亡Aが,診療時間終了後も被告歯科医院に残って業務に従事し,継続的に長時間労働していることや,これによって心身に異常を来している可能性があることを認識し得たといえるから,被告の主張は採用できない。

(5)以上によれば,被告は,亡Aの労働時間を適切に管理せず,長時間労働に従事させたものであるから,安全配慮義務違反が認められ,被告の安全配慮義務違反と亡Aの死亡との間には,因果関係が認められる。なお,原告は,被告の故意による不法行為が認められる旨主張するが,これを認めるに足りる事情はなく,原告の主張は採用できない。」

具体的な疾病は発症していなかったが,長時間の労働による精神的苦痛を理由に慰謝料を認容した事例(長崎地裁大村支部令和元年9月26日判決)

本件は,工場においてミキサーに小麦粉を入れる等の作業に従事していた労働者が,長時間労働に伴う残業代請求及び慰謝料請求を行った事案です。

本件において,裁判所は,要旨以下のとおり述べ,長時間労働において原告に具体的な疾病が発症したとは認定しなかったにもかかわらず,安全配慮義務違反に基づく慰謝料請求を認めました。

「本件において,原告が長時間労働により心身の不調を来したことについては,これを認めるに足りる医学的な証拠はない(略)。

 しかしながら,結果的に原告が具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても,被告は,安全配慮義務を怠り,2年余にわたり,原告を心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたのであるから,原告の人格的利益を侵害したものといえる。

 被告の安全配慮義務違反による人格的利益の侵害により原告が精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推察されるところ,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,上記精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円をもって相当と認める。」

※前提として,「被告は,原告に対し,従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して原告の心身の健康を損なうことがないように注意すべき義務」という安全配慮義務及びその違反が認定されています。

労働者の疾病につき,安全配慮義務違反は否定したが,当該労働者について「病気休職」と公表したことについて,損害賠償を認めた事例(佐賀地裁平成31年4月26日判決)

本件は,県立高校の教員であった原告労働者が,過酷な通勤,勤務により精神疾患を発症したことが県の安全配慮義務違反であるとして,損害賠償を請求した事案です。原告は,併せて,県が原告につき病気休職であることを公表した点について,プライバシー侵害に当たるとして慰謝料100万円を請求していました。

裁判所は,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は棄却しましたが,プライバシー侵害の点は,以下のとおり述べ,10万円の慰謝料を認容しました。

「本件掲載等(※注:高校で作成し生徒に配布している学校だより(X1だより)において,原告につき「病気休暇」と記載したこと,これを生徒に配布したこと,これを学校ウェブサイトに掲載したことを指す。)は,原告が病気休暇を取得していることを不特定多数人に明らかにする行為であるところ,個人の健康状態,心身の状況,病歴等に関する情報は,通常は他人に知られたくない情報である。したがって,本人の同意を得ることなく,これをみだりに公表することは許されない。

 被告は,情報の秘匿性が高くない,掲載の必要性・正当性がある,具体的不利益が生じていないとして,本件掲載等は受忍限度内であると主張する。

 しかし,病気であることは,本人に不利益を生じさせ得る情報であるから,通常は他人に知られたくない情報であって,その秘匿性が高くないなどとは到底いえない。(略)原告が病気休暇であることが記載されたのは,本件X1だよりの転出者欄であるところ,原告は,このとき転出者ではなかったから,掲載の必要性も認められない。本件X1だよりが発行された平成23年4月から1年数か月が経過した平成24年8月30日になって,広範囲の人が閲覧可能なウェブサイトにこれを掲載する必要性も認められない。

 個人の私生活上の自由のひとつとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有しており,他人に知られたくない個人に関する情報をみだりに開示又は公表されないことに係る利益は,法的保護に値すると解される。本件掲載等により,原告は,他人に知られたくない病気休暇を取得した事実を公表されたのであるから,これによって,上記の利益を侵害され,精神的苦痛を受けたと認められる。

 したがって,本件掲載等は,国家賠償法上の違法性を有する。」

「本件掲載等により,原告の病気休暇が公表されたものの,病気の詳細は明らかにされていない。本件X1だよりの配布先は当時の生徒であり,本件X1だよりがウェブサイトに掲載されたのは,5か月弱(平成24年8月30日~平成25年1月22日頃)である。学校のウェブサイトを閲覧する者の多くは,生徒,保護者,教職員などの学校関係者であるのが通常である。これらの事情を踏まえると,本件掲載等により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,10万円と認める。」

従業員同士の暴行(喧嘩)につき,会社の安全配慮義務及び使用者責任を否定した事例(Y社事件,横浜地裁川崎支部平成30年11月22日判決)

本件は,従業員Dが原告に対し勤務中に暴行を加えた件について,原告がD及び会社に対して損害愛称を請求した事案です。

本件では,暴行の有無及び正当防衛の成否についても争われましたが,裁判所は,Dの加害行為についてはこれを違法なものと認定しました。そのうえで,ここでは,会社の使用者責任及び安全配慮義務違反の点を取り上げます。

1 使用者責任(民法715条)について

「被用者の暴行が,使用者の事業の執行についてされたかどうかは,当該暴行が使用者の事業の執行を契機とし,これと密接な関連を有すると認められるかどうかによって判断するのが相当である(最高裁昭和44年11月18日第三小法廷判決・民集23巻11号2079頁参照)。

(中略)

まず,被告Dの業務上のミスを指摘したり,同被告の業務上のミス等に関する報告書を作成することが,原告の業務であったかどうかについて検討するに,前記前提事実及び証拠(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば,かえって,①平成26年4月当時の原告の担当業務は,利用者からの緊急コール時の応対を中心とするオペレーター業務であって,ケアスタッフ等(※注:被告Dを含む)に対する指導・注意等は業務内容となっておらず,浦安事業所の責任者に無断で利用者に謝罪することや,同責任者の指示や依頼なくしてケアスタッフの業務上のミスや利用者からのクレーム等に関する報告書を作成することも,原告の担当業務には含まれていなかったこと,②浦安事業所の責任者であったGが最初に本件トラブル等について知らされたのは,同月20日午前7時40分頃,原告から本件暴行被害の話を聞いたHが,Gに連絡をした時であって,それより前にGが原告から電話で本件トラブル等の報告を受けたり,報告書の作成を原告に依頼したりはしたことはないこと,③本件暴行当日以降,原告が本件トラブル等に関してGや被告会社に報告書を提出したことはないことが認められる。

(中略)

上記認定事実によれば,むしろ,ケアスタッフに業務上のミスがあった場合の指導や注意,ケアスタッフの業務上のミスや利用者からの苦情に関する報告書の作成は,原告の担当業務には含まれておらず,本件トラブルは被告Dのミスであるから報告するとの原告の発言や,原告が報告書の作成と称して行っていたパソコンの入力作業は,原告の業務として行われたものでなかったことが認められる。

 また,被告Dに本件トラブルの原因となる業務上のミス等があったかについて検討するに,証拠(略)によれば,そもそも,被告会社は,本件通報装置の電源の接続状態の確認作業を,ケアスタッフの訪問介護時の業務内容としていないことが認められる。(中略)本件トラブルの原因は,平成26年4月20日当時,原告が,利用者宅から本件通報装置による緊急コールがあった場合にこれに応答するための本件受信装置の操作を理解しておらず,本件受信装置を適切に操作することができなかったことにあったことが認められる。

(中略)

以上検討したところによれば,むしろ,被告Dには原告主張の業務上のミスはなく,本件暴行の原因となった原告の言動は,原告の担当業務の遂行には当たらないことが認められる。

(中略)

かえって,(略)原告と被告Dは,初対面の時から互いに相手に対して不快な感情を抱き,その後も,互いに相手の態度や発言に反感を抱き,原告とは親しい関係にあるHが従前から同被告と対立関係にあったとの事情もあって,相手に対する敵対的な感情を相互に強めていたところ,平成26年4月20日,原告が,同被告に対し,同被告は仕事ができず,他の従業員に迷惑をかけているとの同被告を貶める発言や,本件トラブルの原因は同被告のミスなので報告するなどとの事実に反し同被告を貶める発言をしたこと等から,これに憤激した同被告が,原告からパソコンを取り上げようとし,原告が同被告の右手首をつかんでひねったことがきっかけとなって,同被告が本件暴行を開始したことが認められる。

 上記認定事実によれば,本件暴行は,被告会社の事業所内において同被告の従業員同士の間で勤務時間中に行われたものではあるが,その原因は,本件暴行前から生じていた原告と被告Dとの個人的な感情の対立,嫌悪感の衝突,原告の同被告に対する侮辱的な言動にあり,本件暴行は,私的な喧嘩として行われたものと認めるのが相当である。」

裁判所は以上のように述べ,暴行が「事業の執行について」なされたこと(=会社の使用者責任)を否定しました。

2 労働契約上の安全配慮義務違反について

「本件暴行は,原告が被告会社に入社してからわずか3回目の勤務日に行われたこと,原告の担当業務は浦安事業所内の夜間オペレーター業務である上,原告の勤務時間帯は,平成26年4月当時は週末の夜間又は祝日から翌日にかけての夜間のみであり,一方,被告Dの担当業務は巡回訪問介護業務であって,両者が顔を合わせる機会は,同被告が夜勤の場合であっても,1日当たり1,2時間程度,原告の被告会社入社日から本件暴行日までのこれらの時間を合計しても4時間程度に止まることが認められる。

 また,被告Dが,平成25年12月19日の被告会社入社後,本件暴行前に,他の従業員に対し暴行を加えたことがあったなどの事情や,原告と同被告との間が険悪な状態となっているとの報告や情報が本件暴行前に被告会社に寄せられたなどの事情も,本件全証拠によっても窺われない。

 上記認定事実等に照らせば,平成26年4月19日及び同月20日当時,被告会社において,被告Dが原告に対し暴行に及ぶ可能性があることを予見することが可能であったとはいえないから,本件暴行について被告会社に結果回避義務があったということはできない。」

裁判所は以上のように述べ,会社の安全配慮義務も否定しました。

社内の健康診断で実施された視力検査について、安全配慮義務の違反が認められなかった事例(東京地裁平成28年8月2日判決)

本件は、目に障害があり、会社との間で障害者雇用枠での雇用契約を締結して就労していた労働者が、社内で実施された視力検査で受傷したことが会社の安全配慮義務違反に当たるとして、損害賠償を求めた事案です(その他、労働者側は、パワハラ、雇用関係確認に関する請求もしていましたが、いずれも認められませんでした。詳細は本項では割愛いたします)。

この点、裁判所は「検討するに、原告が主張する安全配慮義務は、企業が実施する健康診断で却って従業員の健康を損なう結果を招来することのないように配慮すべき義務であり、抽象的に配慮を求めるというのではなく、具体的な措置を求め、この措置がとられなかった、あるいは不十分であったために従業員に生じた健康被害について、企業が義務に違反したものとして法的責任を問うものであるから、このように義務違反を認定して法的責任を問う前提として、義務自体が特定されている必要があり、当該健康診断のどの検査にどのような危険因子が存在し、どのような健康被害が想定され、これを防止するためにどのような措置が必要なのか、当時の医学的知見に照らし、具体的に特定し得ることが必要であるとともに、かかる措置を企業に義務付けることが社会通念上相当であることを要する」という一般論を示したうえで、

「これを本件について見るに、たしかに、原告に一定の眼痛が発症し、それが本件健康診断の際に視力検査を受けたすぐ後であったことは、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨からうかがわれるので、本件健康診断の際の視力検査と原告の眼痛との間に上卦関係が存在することは否定できないが、原告の有するてんかん及び左同名半盲との関係は明らかではなく、原告のようにてんかん又は同名半盲の障害を有する者に視力検査を受診させると、どのような理由で危険なのか、医学的に十分に解明され、そういった医学的知見が共有されていると認めるに足りる証拠はない」等の理由を挙げて、被告の安全配慮義務違反を否定しました。

※一言コメント

安全配慮義務については、義務内容及びその違反を具体的に特定すべきという判旨の一般論は特段真新しいものではなく、首肯できるものと考えます。

受動喫煙、関節痛等に関する安全配慮義務の違反が認められなかった事例(大阪地裁平成27年2月23日判決)

本件は、労働者が会社に対し、①勤務先で恒常的に受動喫煙を強いられていたにも関わらず、会社が受動喫煙対策を講じなかったために受動喫煙症等に罹患したこと②労働者が関節チウマチに罹患していたにも関わらず、手足に負担のかかる業務に従事させられ、関節痛や手首等の機能障害を被ったこと、がそれぞれ会社の安全配慮義務違反に当たるとして、損害賠償請求をしたという事案です。

本件では、①②についての会社の安全配慮義務違反の有無が争点となりました。

この点、裁判所は、①受動喫煙については、会社の配慮義務を特定しない形で喫煙に関する事実関係を認定した上、「これらの諸事情によれば、被告は、法改正等を踏まえ、原告を含む従業員が本件工場内で受動喫煙状態になることがないよう、原告の申出を受ければ、その都度、相応の受動喫煙防止のための対策を講じてきたものであり、原告が、被告での勤務において、受動喫煙状態を強いられていたとまでは評することはできないのであって、被告が受動喫煙に関する安全配慮義務に違反したとまで認めることはできない」として労働者の主張を認めませんでした。

また、②については、会社の安全配慮義務の内容として「被告は、原告が関節リウマチに罹患しており、重量物の運搬は不適当であることを認識の上、障害者枠の嘱託社員として原告を雇用したものと認められ、被告は、原告に対し、原告の身体障害が自然経過によるもの以上に悪化することのないようその業務内容に配慮する義務を負っていた」としました。そのうえで、原告の業務内容に関する事実を認定の上、結論として「被告は、原告からの申し出を受ける度に、原告との面談を行うなどして、その希望や健康状態等を聴取し、ときに産業医と相談するなどして、関節リウマチに罹患していた原告の身体に配慮し、原告にとって無理がなく、なるべく負担の少ない作業をその都度検討し、原告の了承を得た上で、代替作業の提案等、原告の要望に合致するような作業を提案するなどしてきたものといえる」として、会社の安全配慮義務違反を否定し、労働者の請求を認めませんでした。

※一言コメント

①②ともに、会社の安全配慮義務違反が問題となったものですが、具体的な義務内容が認定されたのは②のみという点が特徴的です。本判決は、①について「原告が、被告での勤務において、受動喫煙状態を強いられていたとまでは評することができない」として、そもそも労働者に受動喫煙による被害が生じていないため、安全配慮義務違反は問題にならないというロジックで労働者の請求を否定しています。①は、②に比べ、会社としてどこまでの対応をするべきかという線引(=企業の安全配慮義務としてどのような内容を定めるか)をすることが難しかったものと思われ、受動喫煙に関し企業が講じるべき安全配慮義務がどのようなものか、という点については、今後の裁判例の集積に委ねることになります。

心筋梗塞を原因として死亡した労働者(労災認定あり)について、発注元・元請業者等の安全配慮義務違反を否定した事例(静岡地裁平成26年12月25日判決)

本件は、原子力発電所での事故復旧作業に従事していた労働者が、作業中に心筋梗塞で死亡したことについて、当該労働者の妻が、当該労働者の雇用先(四次下請け)ではなく、発注者、元請け、一次下請け、二次下請けの各社に対して、安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求をしたという事案です。

この点、裁判所は「元請会社ないし発注者と下請会社(孫請会社を含む。以下同じ。)の労働者との間には直接の労働契約はないものの、下請業者の労働者が労務を提供するに当たって、いわゆる社外工として、元請会社ないし発注者の管理する設備、工具等を用い、事実上元請会社ないし発注者の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も元請会社ないし発注者の労働者とほとんど同じであるなど、元請会社ないし発注者と下請会社の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には、労働契約に準ずる法律関係上の債務として、元請会社ないし発注者は下請会社の労働者に対しても、安全配慮義務を負うというべき」として、一般論としては労働者が雇用先以外に安全配慮義務違反の責任を問う可能性を認めました。

しかし、本件においては、事実関係を検討のうえ、当該労働者と各社との間には、いずれも、上記のような特別の社会的接触関係に入ったものとは認められないとして、結論としては各社の安全配慮義務違反の責任を否定しました。

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