【相談無料、全国対応可】解雇、残業代、ハラスメント等労働問題のご相談なら 弁護士高井翔吾

【初回相談無料、全国対応】
労働問題(解雇、残業代、セクハラパワハラ等労働事件全般)なら
弁護士 高井翔吾

東京都港区赤坂2-20-5デニス赤坂ビル402(池田・高井法律事務所)

受付時間:平日9:30~17:30
 

無料相談実施中

お気軽にお問合せください

年次有給休暇(年休)の裁判例

年次有給休暇(年休)に関する裁判例

年次有給休暇(年休)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

人手不足な状況下における時季変更権の行使について、債務不履行責任が認められた事例(東京地裁令和5年3月27日)

本件は、要旨、年次有給休暇(年休)会社による時季変更権の行使が、労働契約上の債務不履行に該当するか等が争点となった事案です。争点は多岐にわたりますが、ここでは、会社側の債務不履行が肯定された部分についての判示の一部を取り上げます。

4 争点(2)イ(被告による時季変更権の行使が不当に遅延してなされたものとして債務不履行を構成するか(債務不履行②))について
(1)原告らは、被告は乗務員による年休の時季指定に対して合理的期間内に時季変更権を行使する労働契約上の義務(債務)を負っていたから、原告らが年休の時季指定をした当該日の5日前の日別勤務指定表の発表によって初めて時季変更権を行使するという被告の運用は、労働契約上の債務不履行を構成する旨を主張するので、以下検討する。
ア 時季変更権の行使時期に関する使用者の債務について
 労基法は、健康で文化的な生活の実現に資するための労働者の心身疲労を回復させ、休息をとる権利を確保し、労働力の維持培養を図るため、労働者について、労働時間の制限(32条)、休憩(34条)、休日(35条)のほか、毎年一定日数の休暇を有給のまま保障する年次有給休暇(年休)の制度を設けており、いわゆる正規雇用の労働者については、使用者に対し、その雇入れの日から起算して6か月間の継続勤務をし、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し又は分割した10日(勤続が上記の期間を超えるときは、その年数が1年増えるごとに1日又は2日ずつ加算され、最大で勤続年数が雇入れの日から記載して6年6か月で付与日数は年間20日となる。)の年次有給休暇の権利(年休権)を付与すること(39条1項、2項)、上記の規定による年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えること(39条5項本文)を義務付けている。そして、上記の労働者の年休権は、労基法39条1項、2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であり、同条5項が「労働者の請求」を要件としているとしても、年休権は労働者の請求を待って初めて生じるものではなく、また、同項の「請求」とは休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は休暇の時季の指定にほかならないから、年休権の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、それに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものと解すべきである(前掲林野庁白石営林署事件最高裁判決)。さらに、労基法は、年休の取得時期について、労働者の過半数で組織する労働組合(それがない場合には労働者の過半数代表)との書面協定で年休を与える時季について定めたときは、労基法39条1項ないし3項による有給休暇日数のうち5日を超える部分について労働者の時季指定によらずに書面協定にしたがって年休を付与することができるものとされ(いわゆる計画年休制度)、また、本件期間の後ではあるものの、10日を超える年休日数のうち5日については、使用者に年休付与義務が課され、使用者が時季指定をすることによって年休時季が特定されるという制度が導入されているところである(平成30年法律第71号による改正後の労基法39条7項)。
 加えて、経験則上、年休の時季指定をした労働者は、その後に使用者により時季変更権が行使される可能性を残しつつも、時季指定どおりの日に年休を取得することを見越して、当該日の利用の仕方について予定ないし計画をするのが通常であり、このような年休の取得に対する労働者の合理的な期待等については一定の法的保護を要するものと解される。
 以上のような労基法が措定する年次有給休暇制度の趣旨及びその重要性並びに年休の時季指定をした労働者の休暇取得に対する合理的な期待の内容等を踏まえると、労働者が年休の時季指定をした場合、使用者において「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」に時季変更権を行使して他の時季に年休を付与できるものとされ(労基法39条5項ただし書)、その際、時季変更権の行使時期について労基法その他の関係法令に特段の規定が置かれていないことを考慮しても、使用者が事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超え、指定された時季の直近まで時季変更権の行使を行わないなどといった事情がある場合には、使用者による時季変更権の行使が労働者の円滑な年休取得を合理的な理由なく妨げるものとして権利濫用により無効になる余地があるものと解されるから、翻って、使用者は、労働者に対し、時季変更権を行使するに当たり、労働契約に付随する義務(債務)として、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間内に、かつ、遅くとも労働者が時季指定した日の相当期間前までにこれを行使するなど労働者の円滑な年休取得を著しく妨げることのないように配慮すべき義務(債務)を負っているものと認められる。そして、前示の事理に照らせば、使用者が上記の債務を履行したか否かの判断は、当該時期に時季変更権を行使するに至ったことにやむを得ない客観的・合理的な理由が存せず、社会通念上相当でないものとして権利の濫用となるか否かという判断と軌を一にするものと解され、具体的には、労働者の担当業務、能力、経験及び職位等並びに使用者の規模、業種、業態、代替要員の確保可能性、使用者における時季変更権行使の実情及びその要否といった時季変更権の行使に至るまでの諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
イ 被告の債務不履行②の成否について
(ア)前提事実等によれば、①被告は、東海道新幹線の運行本数については、膨大な旅客需要に臨機に対応するため、定期列車のほか、短期的な需要予測に基づき臨時列車等を機動的に運行していたことから、通年で一定しておらず、臨時列車の運行の有無等は各日のおおむね10日前までに確定することが多かったこと、②被告は、東海道新幹線の運行に必要な乗務員を割り振る上で、乗務員間の公平と効率的な勤務割の実現を図る趣旨から、乗務員の乗車する行路を定期行路と臨行路等に区別し、乗務員の勤務割においても定期行路を担当する交番担当乗務員と臨行路等を担当する予備担当乗務員に分けてそれぞれ異なる内容の勤務割を指定していたため、列車の運行に携わる乗務員の具体的な行路の割振りや勤務態様は乗務員ごとに個別に指定されていたこと、③被告は、適正な乗務員数を確保するため、前年の臨行路等の数と比較しながら適切な人員として想定し得る要員数を各運輸所に配置していたが、乗務員、殊に運転士については特別の資格が必要とされており、その養成は容易でなく、柔軟・迅速な人員の補充は類型的に困難であったこと、④被告において乗務員の行路をいったん指定した後にこれを変更しようとすると、他の乗務員の勤務割について広範な変更を要することになり、勤務割の策定に困難を来し、また、乗務員の勤務体制や休暇の取得についても少なくない影響を与えることになったことが認められる。
 また、前提事実等に前記3の認定判断を併せると、乗務員が年休の時季指定をするに当たっては、前月20日までに年休申込簿に年休使用日を記載して届け出ることになっており、被告は、前月10日に当月分の休日予定表を、前月25日に当月分の乗務員の勤務割を指定した勤務指定表をそれぞれ発表していたが、勤務指定表の発表時点では事後に臨時列車等の運行が追加される可能性があり、臨時列車等の運行予定いかんによって予備担当乗務員の具体的な行路等も事後に確定することになり、これに併せて、各日における乗務員の年休取得可能総数も上記の予備担当乗務員の行路等が具体的に決まるまでは確定しないことになっていたため、交番担当乗務員、予備担当乗務員の別を問わず、前月25日の勤務指定表の発表段階では被告による時季変更権の行使の可能性が残存しており(交番担当乗務員については、勤務指定表により就労義務がある日と指定された日について年休の申請をしていた場合も、日別勤務指定表において5日後の日が年休とされることもあり得るところ、この場合は被告において時季変更権を行使しなかったことを意味し、逆に、日別勤務指定表において行路等が指定された場合には被告において時季変更権を行使したことを意味することになり、予備担当乗務員についても、勤務指定表の発表段階では就労義務がある日は確定するものの具体的な行路等は指定されておらず、日別勤務指定表の発表によって具体的な行路等が指定されるか、年休が取得し得るかが確定することになるので、交番担当乗務員及び予備担当乗務員のいずれについても日別勤務指定表の発表までの間は被告による時季変更権の行使の可能性が残存していることになる。)、日別勤務指定表の発表までの間は被告による時季変更権が行使される可能性があったにもかかわらず、被告が時季変更権を行使したか否か、あるいは行使する予定があるか否かといった事柄は乗務員において確認し得ず、また、基本協約及び就業規則に基づき乗務員らに対し付与することになっていた所定日数の公休及び特休も専ら被告の判断において指定されていたことが認められる。
 加えて、前記3において認定し説示したとおり、被告においては、時季変更権行使の意思表示は日別勤務指定表を乗務員らに発表することにより行われ、当該時点で被告による時季変更権の行使の有無が確定することになっていたものと認められるが、一方で、原告らにおいては、前月20日までに年休申込簿に記入して届け出ることで当月分の年休使用日の時季指定をしていたものであるから、原告らによる年休の時季指定の効果の消滅という時季変更権行使の効果の発生は原告らによる年休使用日の時季指定の時点を基点とすれば相当期間経過後にされるものも存したことが認められる。
(イ)以上によれば、本件期間において、原告らが年休申込簿により年休使用日を届け出て年休の時季指定をしてから被告による時季変更権の行使が原告らに判明するまでに相当期間を要することがあり、その間、乗務員らについては、年休を取得し得るか否かが未確定のままとされ、また、当該年休使用日とは別の日に年休を取得させるという取扱いもされておらず、このような対応は、年休の申込みの後の臨時列車等の運行の可能性という専ら被告の経営上の必要性に基づくものであったものといえるから、東海道新幹線を種々の旅客需要に即して臨機応変に運行することに一定の社会経済上の要請があり、実際に臨時列車等の運行が柔軟にされることで利便性の向上や社会経済上の利益の実現が図られるという一面があることや被告において前記(ア)③及び④のような事情が存したことを十分参酌しても、被告による時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超え、労働者の円滑な年休取得を著しく妨げないようにするという労働者の利益への配慮に悖るものといわざるを得ず、原告らとの関係でみれば、過失により労働契約上の義務(債務)を怠ったものと認めるのが相当である。

7 争点(2)オ(被告による時季変更権の行使が恒常的な要員不足に陥った状態のままされたものとして債務不履行を構成するか(債務不履行⑤))について
(1)原告らは、被告は年休の時季指定をした原告らに対して時季変更権を行使するに当たり、恒常的な要員不足の状態のまま時季変更権を行使することのないようにする労働契約上の義務を負っていたにもかかわらず、恒常的な要員不足の状態のまま時季変更権を行使したとして、被告の上記の所為は労働契約上の債務不履行を構成する旨を主張するので、以下検討する。
ア 恒常的な要員不足下における時季変更権の行使に関する使用者の債務について
 労基法39条5項が年休の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめていること、同規定の文理に照らせば、使用者による時季変更権の行使は、他の時季に年休を与える可能性が存在していることが前提となっているものと解されることに照らせば、使用者が恒常的な要員不足状態に陥っており、常時、代替要員の確保が困難な状況にある場合には、たとえ労働者が年休を取得することにより事業の運営に支障が生じるとしても、それは労基法39条5項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たらず、そのような使用者による時季変更権の行使は許されないものと解するのが相当である。そうすると、使用者である被告は、労働者である原告らとの関係でも、労働契約に付随する義務(債務)として、年休の時季指定をした乗務員に対して時季変更権を行使するに当たり、恒常的な要員不足の状態にあり、常時、代替要員の確保が困難である場合には、そのまま時季変更権を行使することを控える義務(債務)を負っているものと解するのが相当である。
イ 恒常的な要員不足による代替要員確保の困難性の判断枠組みについて
 原告らは、本件期間において、多くの乗務員が高確率で年休を取得できなかったから、被告が恒常的に要員不足の状態にあったといえる旨を主張する。しかしながら、年休の取得割合の高低は、申請数の多寡と連動するものであるから、被告の要員の充足状態を直ちに推認させる事情となるとは解し難く、前提事実等によれば、少なくとも、原告らについては、本件期間において、各年度における年休取得可能総日数を相当に超える数の年休の申請をしていたことが認められるから、年休取得率の数値上の低さをもって被告の本件期間における要員が恒常的に不足する状態にあったものと断じ得るものではない。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
 もっとも、前提事実等によれば、原告らは、いずれも年20日の年休権を付与され、その有効期間は2年間とされていたところ(基本協約53条、55条、就業規則71条、73条)、被告は、年度内に乗務員らが1年間で平均20日の年休を取得できるように適正な要員を確保するという観点から基準人員を算出し、これに基づいて各運輸所に所要の乗務員を配置していたほか、年度中の配置要員数や臨行路等の数の増減の予想を踏まえて休日勤務指定制度を活用しながら乗務員が年休を取得し易くするという対応をしていたことが認められる。以上の事情によれば、被告の乗務員が本件期間において恒常的に要員不足の状態にあったか否かは、原告らを含む乗務員の年休の取得のために講じられていた被告の施策等も考慮しながら、各年度において原告らが平均20日の年休を取得できる程度の要員が東京第一運輸所及び東京第二運輸所に確保ないし配置されていたといえるか否かといった観点から検討するのが相当である(なお、原告らの争点(2)オに関する主張は、上記の趣旨を含むものと解される。)。
ウ 平成27年度において被告の乗務員が恒常的な要員不足の状態にあったか否かについて
(ア)前提事実等によれば、①被告は、各運輸所における要員数ないし配置人員について年度ごとに計画を立てて増減させており、その際、必要な人員数については基準人員を算出した上で適正人員数を想定し、基準人員の算出に当たっては、臨行路等に必要となる乗務員の人数を前年の実績値を用いて予測していたこと、②各運輸所に実際に配置された乗務員数(見習等を除く。)と年休取得日数の関係についてみると、被告が東京第一運輸所に配置した乗務員数は平成27年4月1日時点を除いて明らかでなく、同日も基準人員を1名下回っていたが(別紙10)、結果として東京第一運輸所の乗務員の平成27年度の年休の取得実績は平均20.5日であって、平均20日を上回っていたこと、③被告は、同年4月1日、東京第二運輸所に基準人員を6名下回る乗務員375名を配置したが、同年5月22日に386名を配置して基準人員を上回り、これ以降は乗務員配置数が基準人員を下回ったことはなく(別紙10)、結果として東京第二運輸所の乗務員の平成27年度の年休の取得実績は平均20.3日であって、平均210日を上回っていたことが認められる。
(イ)一方で、前提事実等によれば、①被告は、平成27年度は、我が国の経済情勢等に鑑みて、前年度実績比約3%の列車本数を増加させる可能性があるものと予測し、これに伴い、必要となる乗務員の数が基準人員算出の際に使用した前年1月から12月の臨行路等に必要となった乗務員の数と比較して約13%増加するものと予測していたこと、②被告は、平成27年度において、年度当初の想定に近い列車本数(平成27年度想定:13万1725本、平成27年度実績13万0995本)を運行させ、想定に近い乗務員数(平成27年度想定:6万1694名、平成27年度実績6万0906名)を要したこと、③被告は、平成27年度の当初に基準人員に従った人員の配置をしたとしても、各運輸所の乗務員が年休を平均20日取得できる状況とはならないと見込まれることを認識し、不足する労働力を補うべく36協定に基づき計画的な休日勤務指定するなどの乗務員の年休取得の可能性を高めるような施策を講じ、実際に、平成27年度において、東京第一運輸所の乗務員に対しては平均約2.8泊の、東京第二運輸所の乗務員に対しては平均約2.7泊の計画的な休日勤務指定を行ったが、これらの休日勤務指定がされた日について振替や代休の付与は行わなかったことが認められる。
(ウ)前記(ア)及び(イ)の事情に照らすと、平成27年度においては、東京第一運輸所及び東京第二運輸所には、通年でほぼ基準人員に沿った要員数が確保され、各運輸所に所属していた乗務員は平均20日以上の年休を取得することができたといえるが、一方で、被告は、平成27年度の当初に基準人員に従った人員の配置をしただけでは各運輸所の乗務員が年休を平均20日取得できる状況とはならないと見込まれることを認識し、かかる認識の下、不足する労働力を補って年休取得が可能な人員を増加させることを目的として計画的に休日勤務指定を行い、各運輸所の乗務員に対して休日の振替えや代休の付与もしないままに平均5.4日(約2.7泊)から5.6日(約2.8泊)分の休日勤務を指定していたこと、乗務員らの年休取得日数も平均20.5日(東京第一運輸所につき)あるいは平均20.3日(東京第二運輸所につき)と平均20日という目標をわずかに超える程度にとどまったことに照らせば、上記の各運輸所の従業員の年休取得日数が年間で平均20日以上という目標値を達成したのも、休日勤務指定制度を他の乗務員の年休取得日数の確保という本来的な目的とは異なる目的で利用したことによるものと推察されるところである。以上によれば、前記イの判断枠組みに照らす限り、平成27年度の東京第一運輸所及び東京第二運輸所は恒常的な要員不足の状態に陥っていたものと認めざるを得ない。
エ 平成28年度において被告の乗務員が恒常的な要員不足の状態にあったか否かについて
(ア)前提事実等によれば、被告は、平成28年度において、我が国の経済情勢等に鑑みて、前年度実績比約3%(平成27年度実績:13万0995本、平成28年度想定:13万5199本)の列車本数を増加させる可能性があるものと予測し、これに伴い、必要となる乗務員の数も、基準人員算出の際に使用した前年1月から12月の臨行路等に必要となった乗務員の数と比較して、平成28年度においては約8%(平成27年実績:6万0906名、平成28年度想定:6万5555名)増加すると予測していたことが認められる。
(イ)一方で、平成28年度に実際に各運輸所に配置された乗務員数(見習い等を除く。)と年休取得日数の関係についてみると、前提事実等によれば、①被告は、平成28年4月1日、東京第一運輸所に基準人員を2名下回る371名を配置したが、同月17日には378名を配置して基準人員を上回り、そのような配置状態が少なくとも同年10月14日まで継続したものの、平成29年2月19日には基準人員を20名下回る353名しか配置しておらず、その後も基準人員を大きく下回る状態が継続し(別紙10)、その結果、東京第一運輸所の乗務員の平成28年度の年休の取得実績は平均15.7日しかなく、年間で平均20日以上という目標を大きく下回ったこと、②被告は、平成28年4月1日、東京第二運輸所に基準人員を2名上回る乗務員391名を配置したが、同年6月9日の配置数は基準人員を4名下回る385名となり、同年8月6日には基準人員と同数の389名を配置したものの、同年11月には基準人員を下回る383名から386名の配置にとどめ、さらに、平成29年1月31日には基準人員を20名以上下回る367名しか配置しないようになるなど、基準人員を大きく下回る状態が継続し(別紙10)、その結果、東京第二運輸所の乗務員の平成28年度の年休の取得実績は平均15.1日しかなく、年間で平均20日以上という目標を大きく下回ったことが認められる。また、前提事実等によれば、被告は、平成28年度の当初に基準人員に従った人員の配置をしたとしても各運輸所の乗務員が年休を平均20日取得できる状況とはならないと見込まれることを認識し、不足する労働力を補うべく36協定に基づき計画的な休日勤務指定をするなどの乗務員の年休取得の可能性を高めるような施策を講じ、実際に、平成28年度において、東京第一運輸所及び東京第二運輸所の乗務員に対していずれも平均約2.9泊の休日勤務指定を行ったが、これらの休日勤務指定がされた日について振替えや代休の付与は行わなかったことが認められる。
(ウ)前記(ア)及び(イ)の事情によれば、平成28年度においては、東京第一運輸所及び東京第二運輸所には通年で基準人員に沿った要員数が確保されていたとはいえず、基準人員を下回る乗務員しか配置できない期間があったにもかかわらず、配置された乗務員数に見合うような列車本数の調整が行われた形跡もうかがわれないこと、東京第一運輸所及び東京第二運輸所に所属する乗務員は、年間で平均20日以上という目標値を大きく下回る平均16日未満の年休しか取得できなかったこと、被告は、平成28年度の当初に基準人員に従った人員の配置をしただけでは各運輸所の乗務員が年休を平均20日取得できる状況とはならないと見込まれることを認識し、かかる認識の下、不足する労働力を補って年休取得が可能な人員を増加させることを目的として計画的に休日勤務指定を行い、各運輸所の乗務員に対して休日の振替えや代休の付与もしないままに平均5.8日分(約2.9泊)の休日勤務を指定していたことが認められ、これに前記ウ(ウ)において説示した事情も併せれば、前記イの判断枠組みに照らす限り、平成28年度の東京第一運輸所及び東京第二運輸所は恒常的な要員不足の状態に陥っていたものと認めざるを得ない。
オ 小括
 以上によれば、被告は、本件期間において、年休の時季指定をした原告らに対し、恒常的な要員不足の状態のまま時季変更権を行使していたものといえるから、原告らとの関係でみれば、過失により前記アの労働契約上の義務(債務)を怠ったものと認めるのが相当である。

使用者による有給の取得妨害について慰謝料が認められた事例(東京地裁平成27年2月18日判決)

本件は、会社が「有休は冠婚葬祭等の場合のみ取得でき、それ以外は欠勤扱いにする」旨の通達を出して労働者の有休取得を不当に妨害したとして、労働者が会社に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をしたという事案です。

この点、労働者側は、有休取得を妨げる上記通達が2回出されたと主張していました(それぞれ、通達①、通達②といいます。)。

裁判所は、通達①についてはその存在を示す客観的な証拠が存在しないこと等を挙げ、その存在自体を否定しましたが、「もっとも、通達①が存在自体認められないとしても、平成15年7月を境に原告Aの給与明細書の有休残日数が14日から0日に変更され、平成16年7月まで継続していることからすれば、平成15年7月から平成16年7月まで被告が原告ら従業員に対し、給与明細書に年次有給休暇の残日数を0日とした限度において、年次有給休暇の取得を妨害していたと評価することはできる」としました。

一方、通達②についてはその存在を認め、「被告の総務課において通達という形式で文書を作成し、従業員に回覧させている以上、それが年次有給休暇の取得を妨害する意図がなかった等という被告の主張は不自然であり合理性を欠く」として、「通達②によって、原告らが自由に年次有給休暇の申請をすることを躊躇させられていたことは明らか」としました。

そして、年次有給休暇の法的性質について、「年次有給休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、本来年次有給休暇をどのように利用するかは、使用社の干渉を許さない労働者の自由であって、本件のように使用者が労働者に対し、冠婚葬祭や病気などの一定の理由に基づかなければ年次有給休暇の取得を認めない扱いをすることは許されるものではない」「年次有給休暇の権利は、労働者が6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するという客観的要件(労基法39条1項)を充足することによって法律上当然に発生する権利であり、労働者が年次有給休暇の請求をして初めて生じるものではない」という原則論を確認した上、「労基法の規定に基づいて労働者に年次有給休暇を取得する権利が発生した場合には、使用者は、労働者が同権利を行使することを妨害してはならない義務を労働契約上も負っている」として、会社の行為は「原告らに対して、労基法上認められている年次有給休暇を取得することを萎縮させるものであり、労働契約上の債務不履行に当たる」と結論づけました。

もっとも、損害については、労働者は「取得できなかった年次有給休暇の日数分に相当する賃金額」が損害に当たると主張していましたが、裁判所は「原告らは、被告に対して、実際に取得した日数以上に、年次有給休暇の取得申請行為を行っていないのであるから、原告らが取得することを妨害されたと主張している年次有給休暇(予定日)についても、原告らの就労義務は消滅しておらず、同日就労したことをもって、就労義務がないのに就労したとして原告らに賃金相当額の損害が発生していると評価することはできない」としました。

具体的な損害としては、「もっとも、被告が原告らの年次有給休暇の取得申請を妨害した行為自体は認めることができるため、かかる妨害行為により、原告らが被ったであろう精神的苦痛等を慰謝するのに必要な限度で損害を認めることができる」として、労働者1人あたり50万円の賠償を認めました。

お問合せはこちら
(Zoom等を活用し全国からのご依頼に対応しております)

お気軽にお問合せください

まずはお気軽にご相談下さい。具体的なご相談は下記フォームからお願いいたします。

無料相談はこちら

【全国対応】
お問合せはお気軽に

ご相談は下記フォームからお願いいたします。お気軽にご連絡ください。