【相談無料、全国対応可】解雇、残業代、ハラスメント等労働問題のご相談なら 弁護士高井翔吾

【初回相談無料、全国対応】
労働問題(解雇、残業代、セクハラパワハラ等労働事件全般)なら
弁護士 高井翔吾

東京都港区赤坂2-20-5デニス赤坂ビル402(池田・高井法律事務所)

受付時間:平日9:30~17:30
 

無料相談実施中

お気軽にお問合せください

「労働者」性に関する裁判例

「労働者」性に関する裁判例

「労働者」性(労働基準法や労働組合法上の「労働者」に当たるかどうか。なお、労働基準法と労働組合法の「労働者」とは異なる概念とされています。)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

専務執行役としての地位にあった者について、従業員としての地位も併有したものとして退職金の支払いが認められた事例(東京地裁令和5年6月29日判決)

本件は、学習塾の運営等を営む被告会社にて、専務執行役の地位にあった者が退職するに際し、従業員としての退職金支払義務の有無が争点となった事案です。※前提として、この会社では、退職金は「従業員」に支給されることになっていました。

裁判所は、要旨以下のとおり述べ、従業員としての地位を認めました。

「(2)B及びAにおける従業員性について

 前記認定事実(1)及び(2)によれば、原告は、昭和59年3月1日にBに入社したこと、その後、一貫して本件学習塾において塾講師として勤務していたこと、平成8年頃、B本社の総務部長に就任し総務業務全般に従事したこと、平成16年11月13日に取締役に就任した旨登記されたものの取締役会に出席したことはなく特段取締役としての業務を行っていなかったこと、取締役就任に当たり従業員としての地位を清算しなかったことが認められる。また、原告は、Aに移籍した後も、基本的な業務内容に変更はなくB在籍時と同様の塾講師業務及び総務業務に従事していたこと、Aの取締役として登記されていたものの取締役会が開催されておらず特段取締役としての業務を行っていなかったこと、取締役就任に当たり従業員としての地位を清算しなかったことが認められる。

 これらの事実によれば、原告は、B及びAにおいて、塾講師業務及び総務業務といった実務的で使用者から指揮監督を受けて行うことが想定される業務に従事するとともに、取締役に就任した旨登記された後も、業務内容及び地位について変更されていないということができるから、B及びAの従業員であったということができる。

(3)被告における従業員性について

ア 前記認定事実(2)エによれば、原告は、平成21年7月、Aから被告に移籍し、被告の総務本部長に就任したこと、被告が経営権を取得した本件学習塾について、B及びA時代と同様の総務業務に従事していたこと、平成22年1月1日に被告の執行役に就任したことが認められる。

 これらの事実によれば、原告は、平成21年7月から平成22年1月1日までの間について、Aにおいて有していた従業員の地位が清算されておらず連続性があること、被告において総務本部長といった従業員としての役職にのみ就任していることから、被告の従業員として勤務していたということができる。

イ 原告は、その後、被告の執行役に就任し執行役としての業務に従事したものの、管理本部長等の従業員としての職制上の地位を併有しており、執行役に就任した際、被告に対し退職届を提出したり、雇用保険の資格喪失手続をしたり、被告から退職金の支払を受けたりするなどして従業員としての地位を清算することはなかったことから、従前有していた被告の従業員としての地位に変化はなかったということができる(なお、被告退職金規程3条1号のとおり、被告においては退職金規定上も使用人兼務役員の存在が認められているところである。)。また、原告の業務内容についてみても、塾講師としての業務を続けるなど、実務的で使用者からの指揮監督を受けて行うことが想定される業務にも従事している。さらに、被告は、原告についてA退職金に則って計算した金額を退職給付引当金として計上したり、Aの規定に従って退職金の手続をとることを通知したりするなど、原告のことを従業員であると認識していたと推認できる事情もある。なお、被告は、原告以外の執行役についても、原告と同様に退職給付引当金を計上したり、従業員のみが対象となる企業型確定拠出年金の拠出をしたりするなどしており、執行役についても退職金について従業員と同様の取扱いをしているし、被告においては、執行役に就任した後、従業員の地位に戻る者もいたことなどから、執行役は、従業員と明確に区別されていなかったということができる。

ウ したがって、原告は、被告において、執行役就任に伴い従業員としての地位を喪失したということはできないから、被告の従業員であったということができる。」

業務委託契約について、労働契約法上の「労働者」性が否定された事例(東京地裁令和5年3月2日判決)

本件は、被告会社が取り扱う機器の設置、保守等に従事していた個人事業主について、「労働者」該当性等が争点となった事案です。

裁判所は、この点、以下のとおり述べて、労働者性を否定しました。

「平成14年8月以降の原告と被告との関係及び原告の業務遂行状況に関しては、①原告が被告に対し本件業務に関する役務を提供し、その対償として被告から金員を受領する旨の合意はされていたものの、雇用契約書の作成や被告からの勤務条件や業務内容に関する特段の説明はされておらず、原告は、被告から具体的な作業場所や機関等をメールで告げられ、その都度、それに応じる形で本件業務を遂行していたこと、②原告の被告の業務への関与は恒常的ではなく、被告から依頼された業務の実施期間中にも休暇名目で業務からの離脱を申し出たり、被告の業務依頼自体を拒絶することも許容されていたこと、③被告からの業務依頼のメールは、本件業務の発注者であるA社から指定された業務の内容や希望日時、現場となる会社名あるいは所在地や集合時間等を伝える程度であり、その際に作業の具体的なやり方などについて被告から具体的な指示がされたことはなく、原告も、上記の指示を前提に本件業務に係る作業を行い、作業後も、数日分の作業経過をまとめた簡潔な作業報告書を被告に提出するにとどまっていたこと、④本件業務のうちC広州における作業など多くの関係者が関与する現場においては、A社の現場担当者が原告を含む作業員の具体的な作業日時、場所を指定した予定表を作成し、原告もこれに従って作業を行っていたが、原告が私用を理由に休暇の申出をした際には、これを反映する形で予定表の組み直しがされていたこと、⑤被告の従業員には、本件就業規則上、所定労働時間の定めがあったが、原告の就労時間は案件に応じて様々であり、被告において、作業報告書による方法以外で原告の労働時間を管理していた形跡はないこと、⑥原告の報酬は、翻訳業務及び洗浄業務に関する部分は出来高払であったが、本件作業の作業料については、時間給(国内案件)あるいは日給(海外案件)を基礎として計算され、残業代名目等で報酬が加算されていたが、この報酬には消費税相当額が加算されていたほか、社会保険料の控除もされておらず、公租公課については、原告自身が個人事業主として確定申告をしていたこと、⑦被告は、原告から誓約書や身元引受書等の雇用契約の締結に必要な書類の提出を求めておらず、労働条件を記載した雇用契約書も取り交わしていなかったほか、被告の従業員には実施していた人事評価や定期昇給も原告には実施していなかったこと、⑧原告は、兼業が禁止されておらず、本件業務に従事するに際して代替者を依頼することも禁じられていなかったことが認められる。

イ 以上の諸事実を総合すると、原告は、被告から特定の現場における本件業務の実施を依頼されてこれに応じ、一定の対償を得ていたものであるから、かかる対償は原告の役務提供に対する対価であったものと認められる。一方で、被告は、原告に対し、本件業務の実施という業務の性質上当然に確定されることになる業務内容、現場、実施時間等の作業内容の大綱を指示する以外に本件業務の遂行に関し特段の指揮命令を行っていたとは言い難く、むしろ、本件業務の具体的な遂行は原告の技量と合理的な裁量に委ねられており、原告に対する時間的・場所的な拘束の程度も相当に緩やかなものであったといえる。また、平成14年8月以降の原告の業務は、令和元年9月24日以降の本件内勤業務以外は基本的に本件業務が中心となっていたところ、本件業務には一定の専門性はあるものの代替性がなかったとまでは認め難く、被告も原告に対し業務依頼の諾否や具体的な業務遂行について原告に相当程度の自由ないし裁量を許容していたものと認められる。加えて、被告は、原告につき、被告の従業員とは異なる処遇をしており、労働時間の管理も緩やかであったほか、本件業務に係る対償については、雇用契約上の労働者であれば実施されることになる公租公課の源泉徴収等はされておらず、かえって、消費税相当額が加算して支払われており、原告も個人事業主として確定申告をしていたものであって、原告への対償は、所定労働時間中の労務一般に対する償金というよりも、本件業務の実施という個別・特定の事務の遂行に対する対価としての性質を帯びるものと認められる。以上の事実を総合すれば、原告が本件合意に基づき被告の使用従属関係のもとで労務の提供をしていたとまでは認め難いものといわざるを得ないから、本件合意に関し、原告が労契法2条1項所定の「労働者」に該当するものとは認められず、本件合意に係る契約は労契法所定の労働契約には該当しないものというべきである。」

有期の「業務委託契約」について、労働契約性が認められた事例(東京地裁令和5年2月3日判決)

本件は、予備校講師として有期の業務委託契約を締結していた事案において、契約終了の有無等が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、労働契約該当性を肯定しました(本判決では、労働契約該当性を前提に解雇の有効性が争われていますが、本稿では割愛します。)。

「被告が、当時、「雇用契約書」と題する書面を用いていたところ、雇用及び業務委託はいずれも特に難解な法律概念ではないこと、被告が、原告に対し、自らの行為を「深く反省致し」、被告の「方針に従い、忠実に業務を行うことを誓約」し、「違反した場合には、違反に相応する処分に従う」という内容の本件確認書を提出させ、本件自宅待機等命令により、「自宅待機」を命ずるなど、業務委託契約における委託者の指示として想定される、個別の業務遂行に係る指示の範囲を超える命令を下すことにより指揮命令権を現に行使していること、被告が、原告に対し、業務ごとに単価が決められ、それらを積算して額が決定される報酬のみならず、個別の業務との結び付きが乏しい賞与(被告は、名目が「特別報酬」であったと主張するが、名目の如何にかかわらず、個別の業務との結び付きが乏しいことには変わりがない。)を半年ごとに継続的に支払っていたことからすれば、原告と被告との間の契約は、入社した当初から、原告が、被告に対し、その指揮命令の下で労務を提供し、被告が、その対価として賃金を支払うことをその内容とする、雇用契約であったと認めるのが相当である。

(2)被告の主張について

ア 被告は、原告と被告が、当初から雇用契約ではなく業務委託契約を締結していたと主張する。そして、原告は、被告において就労している間に、小規模ではあるものの本件予備校とは別の予備校を経営していたほか、証拠(略)によれば、原告は、本件予備校における講義内容ないし生徒に対する指導内容については、相当に広い裁量を有していたと認めることができ、少なくとも被告から原告に対する個別の業務遂行上の指揮監督の要素が希薄であったことを否定することはできず、このことからすれば、出講依頼に諾否の自由がなかったという旨の原告の主張も、直ちに採用することはできないというべきである。

イ しかし、被告が、原告との契約において、当初から雇用契約の名目を用いており、その後、業務委託契約の名目を用いることになった後の時期を含め、主として原告の利益を図る目的であったことが推認されるものの、一貫して、原告に対し、報酬の一部を賃金(給与)名目で支払うなど、「雇用」という法形式を用い続けていたことにも照らせば、前記(略)で説示した認定を覆して、原告と被告との間の契約が当初から業務委託契約であったと解することはできず、前記アの被告の主張は採用することができない。」

業務委託契約という名目で締結された当事者間の契約が労働契約であると認定された事例(東京地裁令和4年3月23日判決)

本件は、被告会社と「業務委託契約」と称する契約を締結して就労していた原告について、「原告・被告間の契約の性質が労働契約か否か」等が争点となった事案です。

当該争点について、裁判所は以下のとおり述べ、労働契約該当性を認めました。

2 争点(1)(原告Aと被告Bとの間で締結された契約は、労働契約か否か。)について
(1)判断枠組
 労働契約法2条1項は、「『労働者』とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」と規定し、労働基準法9条は、「『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定していることからすると、労働契約(雇用契約)とは、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し、使用者がその対価として賃金を支払う契約であるというべきである。
(2)検討
ア 前記認定事実(2)アないしウのとおり、原告Aの業務内容は、不動産取引に関連する種々の業務のほか、被告Bの従業員の管理及び採用面接、会議の議事録の作成及び訴訟対応など、被告Bが原告Aの委託業務として主張する土地の仕入れにとどまらず、多岐にわたっており、被告Bの組織体制上、原告Aが執行役員あるいは部長という肩書でJ及びKと各従業員との間の指揮命令系統に組み込まれていたことを踏まえると、原告Aは、契約時にあらかじめ具体的に特定された業務だけではなく、J又はKからの指示を受けながら、多様な業務を遂行していたと認められる。
 また、原告Aに対するJからの業務指示は、特定の案件における細かい業務分担や部下従業員への指導方法に及んでいることからすると(前記認定事実(2)イ)、原告Aが受ける業務指示の内容は、個別具体的であったと評価できるし、業務の指示に対する諾否の自由や労務提供の代替性を有していたことをうかがわせる事情もない。
 さらに、原告Aの勤務時間については、タイムカード等により厳格に管理されておらず、始業終業時刻について明確な定めがあったとは認められないものの、スケジュールを常時共有することを求められていたことに加え、原告Aは、休日以外はほぼ毎日、概ね9時頃から被告Bの事務所又は取引先において業務を行っており、加えて休日も業務を行うことがあったのであるから(前記認定事実(2)エ)、実体として勤務時間や勤務場所についての裁量が大きいとはいい難い。
 以上によれば、原告Aは、被告Bの指揮命令に従って労務を提供していたというべきである。
イ また、前記認定事実(3)のとおり、原告Aの報酬は、売上に応じたインセンティブとして支払われているものがあるものの、平成30年1月ないし4月までは休日出勤の日数に応じた報酬が支払われ、同年5月から12月までは基本となる報酬が月額30万ないし50万円であることを前提に失業等給付との差額が支払われており、前記アのとおり、原告Aの業務が多岐にわたっていたことも踏まえると、原告の報酬は、特定の業務の結果に対してではなく、労務の提供全体に対して支払われていると評価すべきである。
ウ 以上の検討結果に加え、原告Aには、経費の負担はなく、被告Bから従業員証明書、机、パソコン及びメールアドレスのほか、無償で社宅が用意されており(前記認定事実(1)イ及び(4)ア)、個人事業者としての性格が強いとはいえないことも考慮すると、原告Aの被告Bとの間の契約は、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し、使用者がその対価として賃金を支払う契約である評価できるから、労働契約であるというべきである。
エ(ア)被告Bは、原告Aに対する指揮命令について、原告Aが訴訟対応を行ったのは自ら希望したことである、原告Aには出退勤の自由があった、原告Aは出社しても居眠りをして業務を一切行っていなかったにもかかわらず注意しなかった旨主張するが、これらを認めるに足りる証拠はない。
(イ)被告Bは、原告Aとの間の報酬の合意内容について、原告Aが紹介した土地の仕入れをすることができた際に粗利益の30%を成功報酬とし、そのほかは交通費など経費のみを支払うというものであった旨主張するが、前記認定事実(3)のとおり、被告Bから原告Aに対する報酬の支払は、平成30年9月以降に一部インセンティブとして支払われているものがあるものの、基本的には休日出勤の日数に応じた給与及び月額30万ないし50万を基準とする固定額が支払われていたのであるから、被告Bの主張は採用できない。なお、被告Bは、本件受領書に基づく支払についてKが承認していない旨主張しているが、本件受領書に基づく支払は従業員であるHが対応しているのであるから(原告A本人26頁)、被告Bとしての処理であると評価すべきであり、Kによる個別の承認がなかったとしても、報酬が労務の提供に対して支払われていることを否定する事情とはなり得ない。また、被告Bは、原告Aに対する報酬の支払について脅迫まがいの行為が多数あった旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。
 被告Bは、原告Aへの報酬の支払は業務委託費として経費処理していること、所得税の源泉徴収や社会保険料の徴収を行ったことはないことを指摘するが、この点については、実体としては労働契約であると評価できても会社の負担を軽減するために実体とは異なる取扱いを行うことも考えられるから、前記ウの認定を左右するような重要な要素であるとまではいえない。
(ウ)被告Bは、本件契約書案の存在を指摘するが、本件契約書案は、結局、原告A及び被告B共に署名押印するに至っていないし、そもそも、労働契約か業務委託契約かは、契約書の文言にかかわらず、前記アないしウで指摘した事情等に基づき実体に即した判断をすべきである。また、原告Aが、本件契約書案の一部を訂正して交付した点については(前記認定事実(4)イ)、今後、被告Bとの間の契約を業務委託契約とすることを否定しなかったことをうかがわせる事情ではあるものの、原告Aは、本件契約書案に「労働債権の認定」という条項を挿入することを提案しているのであるから、本件契約書案が提示されるまでは、原告Aと被告Bとの間の契約は労働契約であったと認識していたというべきであるし、本件契約書案の内容をみても、業務の内容は被告Bの営業活動の支援及びこれらに付随する業務とされ、個別の業務を委託するにあたって案件ごとに個別契約書を作成することを前提とするなど(前記前提事実(5))、本件業務委託書作成以前の原告Aに対する業務指示の方法(前記認定事実(2))とは異なる内容となっているのであるから、本件契約書案の存在及びこれに付随するやりとりが平成30年1月に締結された原告Aと被告Bとの間の契約の性質を決定付けるものとはいいがたい
(エ)被告Bは、原告Aと同時期に業務を開始したLとの間の契約が業務委託契約であった点を指摘するが、労働契約該当性については、個別の事情に基づき実体に即して判断すべきであるから、Lとの契約が業務委託契約であるからといって、原告Aとの契約も業務委託契約であるとはいえない。
 被告Bは、原告Aが被告Bの業務を開始した平成30年1月頃、F社に勤務していた点を指摘するが、前記認定事実(1)アのとおり、原告AはF社において業務を行う必要はなくなっていたのであるから、被告Bが原告Aを雇用したとしても何ら不自然ではない。
 被告Bは、Jは被告Bの従業員ではなく、人事権等はないのであるから、Jが原告Aと労働契約を締結することはあり得ない旨主張するが、Jは被告Bの実質的経営者であり(甲A28)、原告Aに業務を指示したり(前記認定事実(2)イ及びウ)、従業員の採用面接にも立ち会ったりするなど(前記認定事実(3)エ)、被告Bの業務遂行において種々の権限を有していたのは明らかであるから、Jが形式的には被告Bの従業員でないことが労働契約該当性を否定する事情とはなり得ない。
 被告Bは、原告Aが失業等給付を受給していた点を指摘するが、この点は原告Aと被告Bとの間の契約が労働契約か業務委託契約かを問わず、報酬が発生している以上不正受給になり得ることからすると、失業等給付を受給していたからといって業務委託契約該当性を根拠付ける要素になるとはいい難い。
 被告Bは、従業員を雇用する際は、各種書類を送付し、提出を受けて雇用契約書を作成していたが、原告Aとの間ではこれがなされていない旨主張するが、被告Bが提出する証拠(乙A5ないし8)は、いずれも原告Aが業務を開始した平成30年1月より後のものであり、この点は労働契約該当性を否定する根拠とはなり得ない。
 被告Bは、原告Aに対して、残業代を支払ったことがないし、原告Aも残業代を請求したことはない旨主張するが、労働契約の当事者が時間外労働をした場合に会社は必ず残業代を支払っているという経験則及び労働者が時間外労働をした場合に必ず残業代請求をするという経験則はいずれも認められないのであるから、被告Bの主張は労働契約該当性を否定する根拠とはなり得ない。
 被告Bは、原告Aは、Jに対し、自ら従業員でないことを認識しているメールを送付している旨主張しており、確かに、原告Aは、平成31年1月28日、Jに対し、LINEを利用して、「私は無職です」、「私とD様とはなんの関係もない」とのメッセージを送信しているが(乙A10)、これは、Jに不満を抱いていた原告Aが、Jには前科があり、Jが被告Bのオーナーであると犯罪収益移転防止法に違反するという指摘しつつ、自らは同法違反とは無関係であるということを伝える文脈の中で送信されたメッセージあると認められることに加え(乙A10、原告本人45頁)、原告Aは、同月末日頃、Kから被告Bの施設の立入りを控えるよう求められたのに対し、承諾できない、辞めるつもりはない旨返答していること(乙B11)を踏まえると、原告Aのメッセージの内容もって、原告Aが、被告Bとの間の契約は業務委託契約であり、契約は終了しているということの認識を有していたとは認められない。
 被告Bは、原告Aが、本件居室から退去している点を指摘しているが、原告Aが、被告Bとの間の契約は終了していないという認識を有しつつも、紛争を回避するため、あるいは敗訴した場合に備えて本件居室から退去するという選択をしても不自然ではないから、被告Bが指摘する点をもって、労働契約該当性は否定されない。
(オ)以上のほかにも、労働契約該当性を否定する事情として、被告Bは、原告Aには被告Bの業務に専属性はないこと、社員寮、パソコン、名刺及び従業員証明書を提供した経緯、組織図(甲A7)の作成の経緯等について縷々主張するが、被告Bの主張を認めるに足りる証拠はなく、いずれも採用できない。
(カ)以上によれば、被告Bの主張は前記1の認定事実及び前記アないしウの認定判断を左右するものとはいえず、原告Aと被告Bとの間の契約は労働契約であるというべきである。

大学非常勤講師について、労働基準法上の「労働者」性が否定された事例(東京地裁令和4年3月28日判決)

本件は、大学の非常勤講師として1年間の契約を締結していた原告が、自身が労働契約法上の「労働者」に当たることを前提に、労働契約表19条に基づく契約更新を主張した事案です。原告主張を検討する前提として、原告の「労働者」性が問題となりました。

裁判所は以下のとおり述べ、原告の「労働者」性を否定し、労働契約法の適用も否定しました。

(1)労契法上の「労働者」の意義及びその判断枠組みについて
 労契法は,「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する」(同法6条)ものと規定し,上記の「労働者」を「使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者をいう。」(同法2条1項)と定めていることを踏まえると,本件契約に関し,原告が労契法2条1項の「労働者」に該当するか否かは,本件契約の内容,本件契約等に基づく労務提供の実態等に照らし,原告が被告の指揮監督下において労務を提供し,当該労務の提供への対価として償金を得ていたといえるか否か(原告と被告との間に使用従属関係が存在するといえるか否か)という観点から判断するのが相当である。
(2)原告の労働者性の有無について
ア 前記第2の2の前提事実及び上記1の認定事実(以下,これらを併せて「前提事実等」という。)によれば,原告は,平成13年4月から令和2年3月までの間,任用行為又は有期契約の更新を繰り返しながら非常勤講師として被告大学の音楽教育に継続的に携わっていたこと,本件契約に基づき,平成31年度(令和元年度)に被告の演奏芸術センターにおいて開講されていた本件各講義の担当教官に任ぜられていたこと,本件各講義の共通テーマは被告によって決定されて授業計画書(シラバス。乙1,15)にも記載され,原告は予定された講義日程に従い,指定された「指揮,オペラ制作」に関する座学等を内容とする授業を前期・後期ごとに各2回(合計4回。なお,前期日程の第1回目のガイダンスを内容とする授業を除く。)行うことを指示されていたこと,原告は,本件各講義の担当教官として,同講義の運営を主導していたD1講師の業務の補佐を指示されており,その一環として,他の外部講師が担当していた授業にもオブザーバーとして出席していたこと,原告は被告大学から提供された共用のデスク及びパソコンを実質的には一人で使用しており,被告大学のドメインが付されたメールアドレスの使用権限も与えられていたこと,本件契約に係る委嘱料は給与名目で原告に支払われていたことが認められる。
イ 他方で,前提事実等によれば,①本件各講義で予定されていた各授業の具体的な方針や授業内容については外部講師とD1講師の協議により決定されており,原告が担当する授業(指揮・オペラ制作)の具体的な方針や内容も原告の裁量に委ねられていたこと,②原告は本件各講義の担当教官の一人ではあったが,外部講師の選定やスケジュール調整等のほか,学生に対する試験の実施・評価といった単位認定に関する事務など本件各講義の運営の根幹に関する事務はD1講師が主導的に担当しており(なお,証拠(甲9,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,自身が実施した授業に関して学生にレポート作成を課して提出させていたことが認められるが,これらが本件各講義を受講した学生の成績評価の資料として提出されたものであるかは不明といわざるを得ない。),D1講師の補佐業務の遂行に当たっても被告から具体的な指揮命令等を受けていた形跡はなく,また,他の外部講師が担当する授業へのオブザーバー参加に関しても出席の頻度は全体の7割程度にとどまっていたこと,③被告大学の教授,准教授,専任講師等は,被告との間で労働契約を締結し,専門型裁量労働制を適用されて所定労働時間労働したものとみなされていたのに対し,原告は,担当ないし出席する授業の時間帯及び場所が指示されていただけで,特に始業時間及び終業時間等の勤務時間の管理を受けておらず,他の外部講師が実施する授業に遅刻,早退又は欠席をする場合であっても被告による事前の許可あるいは承認が必要とはされていなかったこと,④本件契約により原告が得た収入は1年間で約57万円と生計を維持する上ではいささか僅少であるといえ,また,給与所得者であれば給与所得から控除されることになる社会保険料の徴収はされておらず,他の外部講師が担当する授業に欠席等をしたことを理由に本件契約に係る委嘱料が減額されるといったこともなかったこと,⑤被告の専任講師等らが本件就業規則及び本件兼業規則により職務専念義務や兼業に関する制約を課されていたのに対し,原告は,被告から許可を得ることなく兼業をすることが可能とされており,現に演奏芸術センター以外の被告大学の部局や被告以外の団体からも業務を受託して報酬を得ていたことが認められる。加えて,原告が被告の教授,准教授,専任講師等の専任講師らと同様に本件各講義に係る業務以外の被告の組織的な業務に従事していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 以上の諸事情を総合すると,被告は,原告に対し,被告大学における講義の実施という業務の性質上当然に確定されることになる授業日程及び場所,講義内容の大綱を指示する以外に本件契約に係る委嘱業務の遂行に関し特段の指揮命令を行っていたとはいい難く,むしろ,本件各講義(原告が担当する授業)の具体的な授業内容等の策定は原告の合理的な裁量に委ねられており,原告に対する時間的・場所的な拘束の程度も被告大学の他の専任講師等に比べ相当に緩やかなものであったといえる。また,原告は,本件各講義の担当教官の一人ではあったものの,主たる業務は自身が担当する本件各講義の授業の実施にあり,業務時間も週4時間に限定され,委嘱料も時間給として設定されていたことに鑑みれば,本件各講義において予定されていた授業への出席以外の業務を被告が原告に指示することはもとより予定されていなかったものと解されるから,原告が,芸術の知識及び技能の教育研究という被告大学の本来的な業務ないし事業の遂行に不可欠な労働力として組織上組み込まれていたとは解し難く,原告が本件契約を根拠として上記の業務以外の業務の遂行を被告から強制されることも想定されていなかったといえる。加えて,原告に対する委嘱料の支払と原告の実際の労務提供の時間や態様等との間には特段の牽連性は見出し難く,そうすると,原告に対して支給された委嘱料も,原告が提供した労務一般に対する償金というよりも,本件各講義に係る授業等の実施という個別・特定の事務の遂行に対する対価としての性質を帯びるものと解するのが相当である。以上によれば,上記アの事情を原告に有利に考慮しても,原告が本件契約に基づき被告の指揮監督の下で労務を提供していたとまでは認め難いといわざるを得ないから,本件契約に関し,原告が労契法2条1項所定の「労働者」に該当するとは認められず,本件契約は労契法19条が適用される労働契約には該当しないものというべきである。したがって,本件契約につき労契法19条の適用がある旨の原告の主張は,採用することができない。

美容室に勤務する美容師について、労働基準法上の「労働者」性が否定された事例(名古屋地裁岡崎支部令和3年9月1日判決)

本件は、美容室で勤務していた美容師が、解雇(契約解除)をされたことについて、雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。この中で、原告が労働基準法上の「労働者」と言えるか否かが争点となり、裁判所は以下のとおり述べ、「労働者」性を否定しました。

「(1)認定事実を踏まえて、原告が労働基準法上の労働者にあたるかを検討するに、原告は、本件美容室での業務については、その遂行課程において被告から指示を受けることはなく、そもそも顧客からの予約を受けるか否かという点も含めて自らの判断で行っていたことが認められる。その勤務状況を見ても、特段被告に指示を仰ぐことなくカット等の業務をこなしており、また、勤務時間については、予約が入っていない際に本件美容室から外出することもあるなど、かなり自由に行動していたことがうかがわれ、時間的にも場所的にも被告によって拘束されていたとはおよそ認めがたい。これらの事情だけをもっても、原告と被告との間に、本件美容室の業務に関する指揮命令関係を見出すことは困難である。

 原告は、原告が被告からタイムツリーというアプリを用いて指揮命令を受けていたと主張するが、単に予約状況を共有していたというものにすぎず、それ以上に指揮命令を基礎づける事情とは言えない。

(2)さらに、原告の給与は、毎月一定額を支給されるというもので、残業や欠勤の際に報酬が増減したといった事実は認められないのであり、労働の結果によって報酬が左右される性質を有していない。他方で、被告は、原告が受け取っていた給与については、給与所得として源泉徴収及び雇用保険料を徴収していたことが認められるが、報酬が固定であったことも併せ考えれば、被告において原告に安定した収入を得させる目的で便宜的にそのような扱いをしたものと見ることができるのであり、労働者性の認定にあたって上記の推認を覆すほどの強い事情とまでいうことはできない。

(3)また、原告と被告は、もともと交際関係にあったものであり、いわゆる面接、採用という通常の雇用契約に想定される手続を経ているものではないし、就業規則や服務規律、退職金制度、福利厚生の有無についての定めも一切ない。しかも、これらについて原告が被告に不満を訴えたりした事情は認められない。これらの事情は、原告及び被告が、原告の本件美容室での業務において労働基準法等の規律に服することを想定していなかったことの証左である。

(4)以上に加え、原告が、本件美容室の開業について、一定の物品の負担をしたこと、被告から店舗からの退去を求められる前後を通じて、独自の称号を用いて営業を行っていたことなどを踏まえると、原告は、被告に対して使用従属関係にあったということができず、原告の労働者性を肯定することはできない。」

航空機の客室乗務員としての訓練を受けていた者について、労働契約法及び労働基準法上の「労働者」性が認められた事例(東京地裁令和4年1月17日判決)

本件は、航空会社との間で有期労働契約を締結して客室乗務員として就労していた労働者が、当該契約前の訓練契約においても労働契約法及び労働基準法上の「労働者」に当たり、有期契約が通算5年超となり無期雇用への転換がなされたとして、地位確認等を行った事案です。

 争点の一つとして、訓練契約における「労働者」性の有無があり、裁判所は以下のとおり述べ、これを肯定しました。

2 争点(本件訓練契約が労働契約に該当するか)について
(1) 労働契約該当性の判断基準
 本件訓練契約が労働契約に該当するといえるためには,本件訓練期間中の原告らが労働契約法及び労働基準法上の労働者であるといえることが必要である。
 労働契約法2条1項は,同法の適用対象となる「労働者」について,「使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者」と定義し,労働基準法9条は,同法の適用対象となる「労働者」について,「職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で,賃金を支払われる者」と定義していることから,労働契約法及び労働基準法上の労働者に該当するためには,①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること,②労務に対する対償を支払われる者であることが必要であると解される。
(2) 検討
 ア 本件訓練は,教育的性格を有するものであるが,このことと労務の提供とは両立し得るものであるから,本件訓練期間中に原告らが被告に対して労務を提供しているといえるか否かを個別具体的に検討すべきである。
 これを本件についてみると,たしかに,客室乗務員認証を取得し,かつ,機種別訓練を修了しているという要件を満たさない訓練生は,EU委員会規則により,正規の客室乗務員として乗務することはできない(前記前提事実(4)ア)。
 しかしながら,①本件訓練の内容は,前記認定事実(3)及び(4)のとおり,EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつも,被告が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い,被告の航空機や設備等の仕様及びこれを踏まえて策定された保安業務や,就航する路線や客層に合わせたサービス業務等の内容に則ったものであり,他の航空会社と異なる被告に特有の内容を多分に含んだものである。そして,他の航空会社において訓練を終了して客室乗務員認証を取得し,機種別訓練を修了していたとしても,本件訓練を受講して,被告独自の保安業務や客室サービス業務に習熟しなければ,実際に被告において客室乗務員として就労することは困難であることが認められる(各原告本人)。以上に加えて,②被告は,本件訓練契約の締結に先立ち,被告の客室乗務員採用選考に応募した各原告に対し,健康診断と身元確認の条件付きとはいえ,被告のアジア人客室乗務員として採用する旨を通知した上,本件各労働契約において継続して使用する社員番号,レターボックスや制服を付与していること(前記認定事実(1)ア,イ),③本件訓練に引き続いて本件労働契約①が締結され,原告らの被告における客室乗務員としての勤務が開始されていること(前記前提事実(2)),④被告は,客室乗務員認証の取得の有無や機種別訓練の修了又は搭乗経験の有無にかかわらず,訓練生に対して一律に同内容の訓練を実施していること(前記認定事実(3)ウ),⑤本件訓練契約において,訓練生は,本件訓練を修了した後に被告との間で労働契約を締結することを拒否した場合には,被告が被る訓練費用相当額の損失について支払義務を負うものとされていたこと(前記認定事実(2)オ)からすれば,本件訓練は,訓練生が本件訓練に引き続いて被告において客室乗務員として就労することを前提として,そのために必要な知識や能力を習得するために実施されたものであって,被告の運航する航空機に乗務する客室乗務員を養成するための研修であったと認められる。
 また,⑥被告が各原告に対して本件訓練の訓練手当を支払うに当たって所得税の源泉徴収を行っていること(前記認定事実(5)),⑦被告が原告らに対して交付した推薦状や証明書において,原告らが客室乗務員としての稼働を開始した時期を本件訓練契約の始期と記載していること(前記認定事実(7)),⑧被告が現在,日本人客室乗務員との間で,労働契約とは別個の訓練契約を締結することはせず,労働契約の締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していること(前記認定事実(6))は,いずれも,被告において本件訓練を受講中の訓練生を労働者であると認識していたことを推認させるものである。
 そうすると,本件訓練期間中,訓練生が正規の客室乗務員として乗務することがなかったとしても,本件訓練に従事すること自体が,被告の運航する航空機に客室乗務員として乗務するに当たって必要不可欠な行為であって,客室乗務員としての業務の一環であると評価すべきであり,原告らは,被告に対し,労務を提供していたと認めるのが相当である。
イ さらに,前記認定事実(2)ウ及び(3)アによれば,被告の客室乗務員として乗務するためには本件スケジュールに従って本件訓練を受講し,これを修了するほかないのであるから,本件訓練期間中,原告らには訓練内容について諾否の自由はなく,原告らは,時間的場所的に拘束され,被告の指揮監督下において本件訓練に従事していたこと,原告らに代わって他の者が本件訓練に従事することは想定されておらず,代替性もなかったことが認められる。したがって,本件訓練期間中の原告らは,使用者である被告の指揮監督下において労務の提供をする者であったと認められる。
ウ 他方,被告が,各原告に対し,本件訓練期間中,2週間ごとに1055ユーロもの日当を支払い,本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払い,これを所得税の源泉徴収の対象としていたこと(前記認定事実(5)),これらの合計には全ての法定の手当が含まれるとされていること(前記認定事実(2)イ),本件訓練が途中で終了した場合には,訓練生に支払われる訓練手当は,実際の訓練契約の長さに従って計算されるとされていること(前記認定事実(2)エ)からすれば,上記の訓練手当及び日当の支払は,本件訓練に従事するという労務の提供に対する対償としてされたものであり,原告らは,労務に対する対償を支払われる者であったことが認められる。
エ 以上によれば,本件訓練期間中の原告らは,労働契約法及び労働基準法上の労働者であることが認められるから,本件訓練契約は労働契約に該当するというべきである。

アイドル活動に関するマネジメント契約を締結したタレントについて、労基法上の「労働者」性が否定された事例(東京地裁令和3年9月7日判決)

本件は、被告会社に所属するアイドルグループに所属し、被告と専属マネジメント契約を締結した原告について、その「労働者性」(労働基準法上のもの。以下同じ)が争点となった事案です。

裁判所は、要旨、以下のとおり、イベント参加への諾否の事由があったことを主たる理由として、原告(引用部分ではC)の労働者性を否定しました。

2 Cの労働基準法上の労働者性について
(1)前記前提事実及び前記1の認定事実によれば,Cは,本件賃金請求期間中,平成28年契約又は本件契約に基づき,被告が提供するタレント活動のためのトレーニングを受けながら,被告が企画したり,取引先等から出演依頼を受けたイベント等に参加してライブ等を行ったり,イベント会場に出店した小売店等の販売応援を行うなどのタレント活動を行っていたことが認められる。
 前記前提事実及び前記1の認定事実のとおり,Cは,本件グループのイベントの9割程度に参加していたが,イベントへの参加は,本件システムに予定として入力されたイベントについてCが「参加」を選択して初めて義務付けられるものであり,「不参加」を選択したイベントへの参加を強制されることはなかった。また,平成28年契約にも本件契約にも就業時間に関する定めはなかった。
 以上によれば,Cは,本件グループのメンバーとしてイベント等に参加するなどのタレント活動を行うか否かについて諾否の自由を有していたというべきであり,被告に従属して労務を提供していたとはいえず,労働基準法上の労働者であったと認めることはできないというべきである。

 また、原告は、Cに支払われていた金銭が労務に対する対価であり、労働者性を基礎づける旨の主張もしていましたが、この点も、以下のとおり、裁判所は認めませんでした。

(5)原告らは,Cに対して支払われていた報酬は労務に対する対価であり,特に,販売応援に対して支払われていた報酬は,日当,すなわち,拘束時間に対応する報酬として支払われていたものであり,労務対償性が認められる旨を主張する。
 しかしながら,前記認定事実(3)で認定した本件グループのメンバーに報酬が支払われるようになった経緯に照らすと,本件グループのメンバーに支払われていた報酬は,本件グループのメンバーの励みとなるように,その活動によって上がった収益の一部を分配するものとしての性質が強く,メンバーの労務に対する対償としての性質は弱いというべきである。また,販売応援に対する報酬は,1回当たり2000円又は3000円を支払うというものであり,原告が指摘するとおり,日当のような外形を有しているものの,前記前提事実(3)のとおり,これは平日の販売応援に対してのみ支払われるものであり,ライブが行われる土日祝日に販売応援を行ったとしても支払われることはなかった。本件グループのメンバーは,アイドル活動をすることを目的に本件グループに所属していたものであり,その本来の目的であるライブができたときには販売応援をしても上記のような報酬が支払われることはなかったことに照らすと,上記報酬は,メンバーの多くが参加したがるライブに出演できなかったにもかかわらず,アイドル活動としての性格が相対的に弱い販売応援にのみ従事したメンバーに対し,公平の見地から支払われていたものと見るのが相当であり,このような上記報酬の性質に鑑みると,販売応援という労務に対する対価としての性質は小さかったというべきである。
 以上によると,Cに被告におけるタレント活動に関して報酬が支払われていたことを考慮しても,Cを労働基準法上の労働者と認めることはできないというべきである。

劇団員の講演への出演等に関しても、労基法上の「労働者」性が肯定された事案(東京高裁令和2年9月3日判決)

本件は、いわゆる劇団員の「労働者」性が争点となった事案です。

原審は、劇団での業務のうち、会場整理等のいわゆる裏方業務についての労働者性は肯定したものの、公演への出演や稽古については、出演が任意であったこと等から労働者性を否定しました。

これに対し、高裁は以下のとおり述べ、出演及び稽古のいずれにも、諾否の自由があったとは言えないとして、裏方業務及び講演への出演、稽古のいずれについても労働者性を肯定しました。

3 控訴人の労働基準法上の労働者性
(1)被控訴人は,本件カフェにおける業務を除き,本件劇団における業務について,控訴人が労働基準法上の労働者であることを争っているところ,同法の労働者と認められるか否かは,契約の名称や形式にかかわらず,一方当事者が他方当事者の指揮命令の下に労務を遂行し,労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか否かにより判断するのが相当と解される。
 そして,本件劇団において控訴人が従事した業務は多様なものであるところ,控訴人と被控訴人が労働者と使用者の関係にあったか否かは,上記観点を踏まえ,控訴人が,劇団における各業務について,諾否の自由を有していたか,その業務を行うに際し時間的,場所的な拘束があったか,労務を提供したことに対する対価が支払われていたかなどの諸点から個別具体的に検討すべきである。
(2)大道具,小道具及び音響照明(裏方業務)について
ア 前記認定事実のとおり,本件劇団は,年末には,翌年の公演の年間スケジュールを組み,2つの劇場を利用して年間約90本の公演を行っていたこと,本件入団契約においては,控訴人は,本件劇団の会場整理,セットの仕込み・バラシ,衣裳,小道具,ケータリング,イベント等の業務(以下,出演以外の劇団運営に必要な業務を「裏方作業」又は「裏方業務」ともいうことがある。)に積極的に参加することとされ,実際に,本件劇団の劇団員らは,各裏方作業について「課」又は「部」なるものに所属して,多数の公演に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っていたこと,控訴人を含む男性劇団員らは,公演のセット入替え(バラシ及び仕込み)の際,22時頃から翌日15時頃までの間,可能な限りセットの入替えに参加することとされ,各劇団員らが参加可能な時間帯をスマートフォンのアプリケーションを利用して共有し,控訴人も相当な回数のセットの入替えに参加していたこと,音響照明は,劇団において各劇団員らが年間4回程度担当するよう割り振りが決定され,割り当てられた劇団員らは,割当日に都合がつかない場合には交代できる者を確保し,割り当てられた公演の稽古と本番それぞれに音響照明の担当者として参加していたことなどが認められ,これらの点を考慮すると,控訴人が,大道具に関する業務や音響照明の業務について,担当しないことを選択する諾否の自由はなく,業務を行うに際しては,時間的,場所的な拘束があったものというべきである。
 また,控訴人は,劇団員のEとともに小道具課に所属し,同人との間で,年間を通してほぼ毎週行われる公演のうちどの公演の小道具を担当するか割り振りを決め,別の公演への出演等で差支えのない限り,日々各公演の小道具を担当していた事実が認められるところ,公演本数が年間約90回と多数であって,控訴人が,年間を通じて小道具を全く担当しないとか,一月に一公演のみ担当するというようなことが許される状況にあったとは認められないことなどからすると,控訴人が,本件劇団が行う公演の小道具を担当するか否かについて諾否の自由を有していたとはいえない。また,小道具は,公演の稽古や本番の日程に合わせて準備をし,演出担当者の指示に従って小道具を準備,変更することも求められていたことなどからすると,控訴人は,本件劇団の指揮命令に従って小道具の業務を遂行していたものというべきである。
 そして,控訴人を含む劇団員らは,公演に出演しない月には4日間,劇団の業務を行わない休日を作ることを推奨され,休日希望日を劇団側に伝えることとされていたこと,劇団の業務とアルバイトとの両立が難しい劇団員らが多かったことも理由の一つとなって,月額6万円の支給が始まったこと,しかも現在はBの判断で月額20万円程度まで支払われる場合があり(原審における証人Iの証言によれば,同人は劇団員であるところ,プロデュース業務を担っていること等を理由に被控訴人から月額20万円の給付を受けている。),単なる生活保障のための給付とは考え難いこと,本件劇団は,現在では,音響照明やセットの入替えには外部からアルバイトを雇い,給料を支払っていることなどの事実に照らすと,本件劇団は,裏方業務に相当な時間を割くことが予定されている劇団員らに対し,裏方業務に対する対価として,月額6万円を支給していたものと評価するのが相当である。
イ これに対し,被控訴人は,① 控訴人に裏方業務へ回るよう強制したことはない,② 小道具業務については,控訴人が小道具役を担当しなくても,他の劇団員らが担当することは十分にできる状況にあったし,控訴人は,あくまで自らの意思によって小道具役を希望し,自由にスケジュールを組んで小道具の作業を行っていたのであるから,業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由があったと主張する。
 しかしながら,前記認定事実によれば,本件劇団においては,小道具や大道具等の裏方業務については,本件劇団が決定した年間公演スケジュールに支障が生じないよう,自身の担当課(部)の業務を遂行することとされており,担当する裏方業務を行って,支障がない場合に初めて公演への出演を希望することができたのであるから,事実上自由に裏方業務を行っていたとはいえないし,仮に控訴人以外の劇団員らも小道具役を担当することができたとしても,小道具業務はほぼ控訴人又はEが担っていたのであるから,控訴人の上記主張は採用できない。
 また,被控訴人は,月額6万円の支給について,劇団員としての活動に携わる時間にかかわらず支給するものであるから,労務の対償ではないとも主張するが,前記のとおり,月額6万円の支給は,アルバイトを行う時間を削って劇団の業務に励む劇団員らを支援する趣旨で設けられたものであること,劇団員らの業務遂行状況は,副座長が随時チェックするものとされていたこと及び劇団業務の遂行状況によっては在籍への影響もあるものとされていたことからは,裏方業務を遂行しない劇団員らに対しても支払われていたものとはにわかに信じがたく,劇団員らが担当している音響照明や大道具業務の人員が不足する場合には,外部から雇って給料を支払っていることなども併せ考えると,月額6万円の支給は,出演以外の劇団業務に相当な時間を割いている劇団員らに対し,その労務に対する対価として支給されていたものというべきである。
(3)公演への出演,演出及び稽古について
ア 確かに,控訴人は,本件劇団の公演への出演を断ることはできるし,断ったことによる不利益が生じるといった事情は窺われない(原審における控訴人本人)。
 しかしながら,劇団員は事前に出演希望を提出することができるものの,まず出演者は外部の役者から決まっていき,残った配役について出演を検討することになり(原審におけるI及びEの証言によると1公演当たりの出演者数20から30人に対して劇団員の出演者数4人程度),かつ劇団員らは公演への出演を希望して劇団員となっているのであり,これを断ることは通常考え難く,仮に断ることがあったとしても,それは被控訴人の他の業務へ従事するためであって,前記のとおり,劇団員らは,本件劇団及び被控訴人から受けた仕事は最優先で遂行することとされ,被控訴人の指示には事実上従わざるを得なかったのであるから,諾否の自由があったとはいえない。また,劇団員らは,劇団以外の他の劇団の公演に出演することなども可能とはされていたものの,少なくとも控訴人については,裏方業務に追われ(小道具のほか,大道具,衣装,制作等のうち何らかの課に所属することとされていた。)他の劇団の公演に出演することはもちろん,入団当初を除きアルバイトすらできない状況にあり,しかも外部の仕事を受ける場合は必ず副座長に相談することとされていたものである。その上,勤務時間及び場所や公演についてはすべて被控訴人が決定しており,被控訴人の指示にしたがって業務に従事することとされていたことなどの事情も踏まえると,公演への出演,演出及び稽古についても,被控訴人の指揮命令に服する業務であったものと認めるのが相当である(控訴人が本件劇団を退団した後に制定された被控訴人の就業規則によれば,出演者が出演を取りやめる場合は代役を確保することが求められており,控訴人が本件劇団在籍中も同様であったものと窺われる)。
イ これに対し,被控訴人は,① 公演への出演に当たっての稽古には場所的拘束は存在しない,② 本件劇団の劇団員は,作成された年間スケジュールの中から自らが参加したい演目に自由に参加希望を出すことができ,公演への出演は任意であった,③ 本件劇団の劇団員は,業務マニュアルに拘束されるものでなければ,同マニュアル通りに活動しているか否かを管理されるものでもないから,時間的拘束も存在しない旨主張する。
 しかしながら,仮に稽古の場所が本件各劇場以外の場合もあったとしても,稽古自体は当然本件劇団の指示に従って行うものであるし,公演の演目に出演すること自体が任意であったとしても,出演して演技を行うに当たって本件劇団の指揮命令が及ぶことは前記説示のとおりである。被控訴人の上記主張は採用できない。

(4)その他の業務について
ア 受付及び会場整理について
 前記認定事実によれば,公演における受付及び会場整理は,小道具等の裏方業務と同様,諾否の自由があったとは認められず,本件劇団の指揮命令に服する業務であったものというべきである。
イ 会議及びミーティングについて
 前記認定事実及び原審における控訴人の陳述によれば,会議及びミーティングは,本件劇団における公演を円滑に進め,より利益を上げるために開かれていたもので,控訴人には,小道具等の裏方業務と同様,参加の諾否の自由はなく,参加が義務とされていたことからすれば,本件劇団の指揮命令に服する業務であったものというべきである。
ウ 倉庫への移動及び掃除について
 前記認定事実及び証拠(甲8の4,甲39)によれば,掃除や倉庫引越しの対象は,本件各劇場及び本件各倉庫であるところ,被控訴人はシフト表を作成して人員を割り当てたり,掃除について具体的に指示していることからすれば,被控訴人の指揮命令に服する業務であるというべきである。
エ 公演打ち上げ等懇親会への参加について
 前記認定事実によれば,公演打ち上げは,外部のキャストをもてなす目的で,本件劇団内又は本件カフェで行われていたものの,欠席も可能で参加を強制されていたとまでは認められないこと,会費は被控訴人の経費から支出され,劇団員も無料で飲食可能であったことからすれば,被控訴人に賃金支払義務を発生させる業務であったとまでは認められない。
(5)以上によれば,控訴人は,本件カフェにおける業務のほか,本件劇団の業務のうち,大道具,小道具,音響照明(裏方業務),公演への出演,演出及び稽古等の業務(ただし,上記(4)エの公演打ち上げ等懇親会への参加は除く。)についても,本件劇団の指揮命令に従って,時間的,場所的拘束を受けながら労務の提供をし,これに対して被控訴人から一定の賃金の支払を受けていたものと認められるから,控訴人は,被控訴人に使用され,賃金を支払われる労働者(労働基準法9条)に該当するというべきである。

先物取引の外務員(歩合制)として就労する旨の契約が,労働基準法16条の労働契約に該当しないとされた事例(東京地裁令和2年1月15日判決)

本件は,商品先物取引等を取り扱う被告会社との間で「登録外務員雇用契約」と題する契約を締結した事案において,当該契約が「労働契約」(労働基準法が適用されるもの)に該当するか否かが争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,労働契約該当性を否定しました。契約書の書式上は「登録外務員雇用契約」と「労働契約」であることを前提とした形になっていました(原告側はこの点も論拠として主張していました。)が,裁判所は,こうした形式ではなく認定した実態に即して判断を行ったものです。

(1)業務遂行上の指揮監督
 前記認定のとおり,日本橋支店の投資相談部内には30名程度の歩合外務員が所属していたが,これら歩合外務員の間においては職制上の上下関係はなく,他には事務手続を行う一般社員が数名所属していたのみであって,同部内において歩合外務員に対し強い指揮監督を及ぼすべき組織体制は取られていなかった。このような組織体制の下,前記認定のとおり,原告はインターネット上に個人で開設したサイト等を用いて,自身の裁量に基づき大部分の営業活動を展開しており,営業方法について原告が被告から具体的な指示を受ける場合は限定されていた。業務内容の報告についても,前記認定のとおり,毎営業日に外務員業務日誌を提出していたものの,同日誌に記載された報告内容は,顧客から受注した売買取引の内容及び売買成立の結果に止まるものであり,原告が営業内容や交渉状況等について具体的に記載することや,被告の責任者が具体的な指導事項を記載することはほとんどなかった。
 このように,原告が業務遂行上被告から受ける指揮監督は,極めて弱いものであったというべきである。

(2)勤務場所・勤務時間の拘束性
 前記認定のとおり,歩合外務員の多くは,毎営業日,被告に出社しており,原告も,営業日には概ね午前8時に出社していたが,歩合外務員の出社時刻,退社時刻及び休憩時刻について定めはなく,歩合外務員の中には,午前9時頃に出社したり,昼過ぎに退社したりする者もおり,遅刻,早退又は欠勤を理由として,歩合外務員の固定報酬部分から報酬が控除されることはなかった。前記認定のとおり,先物取引の売買執行の際には日本橋支店内での作業が必要となることや,個々の歩合外務員専用フリーダイヤル用の電話機が日本橋支店内に設置されていたこと等を踏まえると,原告を含む多くの歩合外務員が日本橋支店へ出社していたことは業務の性質を理由とする側面が強く,被告が指揮監督を及ぼすために勤務場所・勤務時間を強く拘束していたと評価することはできない。
 原告は,勤務時間が定められており,土曜日の出勤も含め出社が強要されていたと主張する。しかし,原告は,本人尋問において,午前8時に出社しなければならない雰囲気であったが,出社するか否かは自由であり,強制ではなかった旨供述しており,他に勤務時間内の出社が義務付けられていたことを示す的確な証拠もないことから,本件契約において勤務時間内の出社が義務付けられていたと認めることは困難である。原告の主張は採用できない。
(3)報酬の労務対償性
 前記認定のとおり,平成17年4月の本件契約締結当初の報酬こそ月額40万円であったが,同報酬については一定の売上高に満たない場合には減額されるものとされており,当初から半年後には固定報酬15万円と歩合報酬の併用となることが予定され,現に同年10月からは同報酬体系に移行した。また,前記認定のとおり,本件契約においては所定の労務提供時間の定めはなく,遅刻,早退又は欠勤を理由とする固定報酬の減額もなかった。
以上を踏まえると,本件契約における報酬の労務対償性が強いとは評価できない。

(4)社員外務員と歩合外務員の異同
 前記認定のとおり,被告は,社員外務員と歩合外務員の採用手続を区分しており,就業規則等の適用の有無,報酬体系,配属部及び職制上の上下関係の有無等についても差異を設けていた。このように,被告は,指揮監督が強く及ぶ社員外務員と,強くは及ばない歩合外務員とを明確に区分して管理していた。
(5)本件契約書
 原告は,本件契約書は,その題名を「登録外務員雇用契約書」とし,頭書に原告を「雇用する」と記載した上で,兼業禁止や営業時間内の出社義務,「就業規則」第7章(安全衛生)の適用,定年制,懲戒処分等,労働契約に整合的な条項を含んでおり,このような本件契約書の規定を踏まえると本件契約は労働契約である旨主張する。
 しかし,前記認定のとおり,原告の出社時間や退社時間は決められておらず,歩合外務員には定年制はなく,懲戒処分も少なくとも平成5年以降は実例がなかった。このように,本件契約書のうち労働契約に整合的な規定の多くは,本件契約の実態に反するものであったといえる。また,前記認定のとおり,就業規則そのものは歩合外務員に適用されないことを前提とした規定となっていた。
 また,前記説示のとおり,被告は,指揮監督が強く及ぶ社員外務員と強くは及ばない歩合外務員とを明確に区分して管理しており,本件契約書によって歩合外務員である原告との間で強い指揮監督を前提とした契約関係を形成する意思を有していなかったというべきであり,原告も,本件契約書と同様の文言からなる契約書により開始された本件前契約において,本件契約と同様の指揮監督が強くは及ばない業務に従事した経験を有していたのであるから,被告と同様に,本件契約書によって強い指揮監督を前提とした契約関係を形成する意思を有していなかったというべきである。
 このような本件契約書における条項と実態との整合性や,本件契約締結時の契約当事者双方の意思を踏まえると,本件契約書に労働契約を前提とする文言や条項が記載されていたことを,労働契約該当性の判断において重視することは相当ではない。原告の主張は採用できない。
(6)小括
 以上に加え,前記認定のとおり,原告が業務上用いるパソコンや携帯電話は原告所有又は契約に係る物であったことや,業務上の経費が原告負担であったこと等の事業者性をうかがわせる事情も踏まえると,原告は被告の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできず,本件契約は労働基準法16条所定の労働契約とは認められない。

劇団における裏方業務の担当者について,労働基準法上の「労働者」性が認められた事例(東京地裁令和元年9月4日判決)

本件では,劇団においてセットの切り替え等の裏方業務を担当する方が,割増賃金(残業代)の請求等を行った事案であり,前提として,労働基準法上の「労働者」に当たるか否かが争点となりました。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,上記の意味での「労働者」にあたるとの判断を示しました。

「(1)労働基準法上の労働者と認められるか否かは,契約の名称や形式にかかわらず,一方当事者が他方当事者の指揮命令の下に労務を遂行し,労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか否かにより決せられる。そして,両当事者が労働者と使用者の関係にあったといえるためには,原告が,劇団の業務について諾否の自由を有していたか,業務を行うに際し時間的,場所的な拘束があったか,労務を提供したことに対する対価が支払われていたかなどを検討すべきである。

(2)前記認定事実のとおり,本件劇団は,年末には,翌年の公演スケジュールを組み,2つの劇場を利用して年間90本もの公演を行っていたこと,本件入団契約においては,原告は,本件劇団の会場整理,セットの仕込み・バラシ,衣装,小道具,ケータリング,イベント等の業務(以下,出演以外の劇団運営に必要な業務を「裏方作業」又は「裏方業務」ということがある。)に積極的に参加することとされ,実際に,本件劇団の劇団員は,各裏方作業について「課」又は「部」なるものに所属して,多数の公演に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っていたこと,原告を含む男性劇団員は,公演のセット入替えの際,22時頃から翌日15時頃までの間,可能な限りセットの入れ替えに参加することとされ,各劇団員が参加可能な時間帯をスマートフォンのアプリケーションを利用して共有し,原告も相当な回数のセットの入れ替えに参加していたこと,音響照明は,劇団において各劇団員が年間4回程度担当するよう割り振りが決定され,割り当てられた劇団員は,割当日に都合がつかない場合には交代できる者を探し,割り当てられた公演の稽古と本番それぞれに音響照明の担当者として参加していたことが認められ,これらの点を考慮すると,原告が,セットの入替えや音響照明の業務について,担当しないことを選択する許諾の自由はなく,業務を行うに際しては,時間的,場所的な拘束があったものと認められる。

 また,原告は,劇団員のz3とともに小道具課に所属し,同人との間で,年間を通してほぼ毎週行われる公演のうちどの公演の小道具を担当するか割り振りを決め,別の公演への出演等で差支えのない限り,日々各公演の小道具を担当していた事実が認められるところ,公演本数が年間約90回と多数であって,原告が,年間を通じて小道具を全く担当しないとか,一月に一公演のみ担当するというようなことが許される状況にあったとは認められないことからすると,原告が,本件劇団が行う公演の小道具を担当するか否かについて諾否の自由を有していたとはいえない。また,小道具は,公演の稽古や本番の日程に合わせて準備をし,演出担当者の指示に従って小道具を準備,変更することも求められていたことから,原告は,本件劇団の指揮命令に従って小道具の業務を遂行していたものと認められる。

 そして,原告を含む劇団員は,公演に出演しない月には4日間,劇団の業務を行わない休日を作ることを推奨され,休日希望日を劇団に伝えることとされていたこと,劇団の業務とアルバイトとの両立が難しい劇団員が多くいたことも理由の一つとなって,月額6万円の支給が始まったこと,本件劇団は,現在では,音響照明やセットの入替えには外部からアルバイトを雇い,給料を支払っていることなどの事実に照らすと,本件劇団は,裏方業務に相当な時間を割くことが予定されている劇団員に対し,裏方業務に対する対価として,月額6万円を支給していたと評価するのが相当である。

(3)以上によれば,原告は,本件劇団の指揮命令に従って,時間的,場所的拘束を受けながら労務の提供をし,これに対して被告から一定の賃金の支払いを受けていたものと認められるから,原告は,被告に使用され,賃金を支払われる労働者(労働基準法9条)に該当すると認められる。

 他方,公演への出演は任意であり,諾否の事由があったことは原告も認めるとおりであるから,原告は,被告の指揮命令により公演への出演という労務を提供していたとはいえず,チケットバックとして支払われていた金銭は,役者としての集客能力に対する報酬であって,出演という労務の提供に対する対価とはいえない。」

コンビニオーナーが労働基準法,労働契約法上の「労働者」に当たらないと判断された事例(東京地裁平成30年11月21日判決)

本件は,フランチャイジーとしてコンビニエンスストアを経営するオーナーの,労働基準法及び労働契約法上の「労働者」性が争点となった事案です。

裁判所は,以下のように述べ,「労働者」性を否定しました。

「労働基準法第9条及び労働契約法第2条第1項の各規定によれば,労働者とは,使用従属性の要件を満たす者,すなわち,使用者の指揮監督の下に労務を提供し,使用者からの労務の提供の対価として報酬を支払われる者をいうと解される。しかし(略)原告は,個人もしくはXの代表取締役として,被告との間で,本件各基本契約を締結し,同契約に基づき,独立の事業者(第2条)として,本件各店舗を経営していたものであって(原告自身も,自身が本件各店舗の経営者として,同店舗を経営していたことを自認している(人証略。),このことは,原告が労働者であることと本質的に相容れないものである。

 これに対し,原告は,①業務遂行上の指揮監督,②時間的・場所的拘束性,③代替性,④報酬の算定・支払方法等及び⑤その他の事情といった各観点から原告の就労実態をみれば,使用従属性が認められ,原告が労働者に該当すると主張する。しかし,以下のとおり,原告が指摘する各事情は,いずれも上記(1)の原告の事業者性を減殺して,原告の労働者性を積極的に肯定できるまでの事情とはいえず,原告は労働者に該当しないというべきである。

ア ①業務遂行上の指揮監督について

原告は,本件各店舗の運営に際して,情報システムにより仕入商品及び販売商品の種類・数量まで把握され,商品についても被告の推奨仕入先から被告を通じて仕入れることが事実上強制され,被告の方針と異なることを行えば,すぐにOFC(※オペレーション・フィールド・カウンセラー(店舗経営相談員)の略)が店舗事務所に立ち入り監督するなどし,被告から業務遂行上の指揮監督を受けていたと主張する。

 しかし,(略)本件各基本契約は,被告が,原告及びC氏らに対して,セブンーイレブン・システムによるコンビニエンス・ストア加盟店(以下「セブンーイレブン店」という。)を経営することを許諾するとともに,本部として継続的に同システムによる経営の指導,技術援助及びサービス(市場調査や商品情報に基づく商品仕入援助,販売促進の援助・協力,仕入資金等の調達についての信用の供与,広告・宣伝,簿記・会計処理,店舗計画,店舗・在庫品の管理の手助け等)を行うことを約し,原告及びC氏らが,被告に対して,セブンーイレブン店の経営を行い,これについて被告に一定の対価であるセブンーイレブン・チャージを支払うことを約することなどを内容とするものであり(略),原告及びC氏らの労働それ自体の提供が契約の目的とされているものではない。本件各基本契約の上記内容からすれば,被告が本件各店舗の仕入商品及び販売商品の種類・数量を正確に把握したり,原告及びC氏らに対し,信用のある仕入先及び仕入れ品の推薦をしたり,被告と優良取引先との業務協力により原告及びC氏らがバラエティに富んだ商品の仕入れができる特別な取引関係を確保することができるようにしたり,OFCを通じてセブンーイレブン・システムによる経営の助言,指導を行ったりするなどして,本件各店舗の仕入を援助し,その販売促進に協力すること(第28条)は,同契約に基づく被告の義務の履行を行うものであり,使用者がその権限において行う労働者に対する指揮監督とはその性質がおよそ異なるものである。

 このうち商品の仕入については,原告及びC氏らが,本件各基本契約において,被告の推薦した仕入先や被告の関連会社から商品を仕入れ,又は被告の推薦した商品のみを仕入れることを義務付けられていなかった(略)ものの,実際には,コンビニエンス・ストアにおいて販売される多種多様な商品について,仕入ルートを独自に開拓して安定的かつ継続的な仕入れを行ったり,いかなる商品をどの程度仕入れるかを適時適切に判断したりすることは困難であると考えられる。もっとも,そのような実情があるからこそ,原告及びC氏らにとっては,被告との間で本件各基本契約を締結し,被告に一定の対価を支払ってまでセブンーイレブン店の経営を行うメリットがあるのであり,原告が主張するとおり,被告の推薦した仕入先から被告を通じて仕入れるほかないという実情があるとしても,そのことをもって直ちに原告の事業者性が否定されるものではない。

 さらに,原告が被告の方針と異なることを行った場合にOFCによる店舗事務所への立ち入り監督が行われたとする点についても,本件各基本契約においては,セブンーイレブン・システムによる事業の有意性がセブンーイレブンの統一的な同一のイメージ(略)の下で確保されるものであることから,原告及びC氏らにおいて,セブンーイレブン・システムに違反する仕入,販売,その他の営業をしたり,セブンーイレブン・イメージを変更したりすることが禁止される(略)とともに,商品の種類,型,品質,量あるいは商品構成がセブンーイレブン・イメージに適合しないと被告によって判断された場合には,これらの商品の陳列,販売をしないことや,セブンーイレブン店の店舗建物内外・設備・什器・備品・在庫品等の経営に供される全ての物件を清潔で明るく,整備された状態で保つことが必要とされ,清掃,手入れを怠ってはならないことなど,一定の遵守事項が定められていたものである(略)。そして,原告及びC氏らが上記の本件各基本契約における禁止行為を行った場合や遵守事項を遵守しなかった場合に,被告がOFCを通じて必要な指導を行うことは,同契約上,当然のことといえ,使用者の労働者に対する業務遂行上の指揮監督と同列のものと捉えることはできない。

イ ②時間的・場所的拘束性及び③代替性について

 原告は,被告から年中無休24時間での本件各店舗の運営という労務の提供を強制され,時間的・場所的に強い拘束を受けていたなどと主張する。

 しかし(略)原告及びC氏らが本件各店舗以外の店舗におけるセブンーイレブン店の営業を許されておらず,また,本件各店舗において年中無休24時間の営業が義務付けられていたのは,本件各基本契約(略)及び加盟店付属契約(略)に基づくものであって,(略)本件各店舗という営業場所やその営業時間が指定されていたのは,被告が原告の業務の遂行を指揮監督する必要によるものではなく,原告及びC氏らと被告とのフランチャイズ契約の内容によるものにすぎない。

 また,(略)本件各基本契約は,原告及びC氏らの労働それ自体の提供が契約の目的とされているものではなく,原告及びC氏が本件各店舗の店舗業務を自ら行うか,行うとしてどの程度の時間行うかは,経営者である原告及びC氏の判断に委ねられていたものである(略)。これに対し,原告は,本件各店舗の店舗業務について,平均して午前5時頃から午前9時頃まで自身が行い,その他の時間はその親族や雇用したアルバイト従業員が行い,自身は散歩するなどして過ごしていたが,本件各店舗において問題が生じれば自身が対応しなければならず,本件各店舗の経営が立ちゆかなくなった際には自身が全ての負債を負わなければならないため,本件各店舗に常に注意を払っていた旨を供述する。しかし,原告も供述するとおり,原告が本件各店舗に常に注意を払い,問題が生じた際に対応しなければならないことは,原告(及び同人が代表取締役を務めるX)が本件各店舗の経営者である以上,当然のことであり,原告の労働者性を根拠付ける事情ということはできない。むしろ,原告の親族や原告が雇用したアルバイト従業員が本件各店舗の店舗業務を行っていたこと(原告が主張する労務提供の代替性があること)は,原告の労働者性を否定する方向に働く事情である。

ウ ④報酬の算定・支払方法等について

(略)

 本件各基本契約において,いかなる方法により貸借処理を行い,また,最低保証制度を設けるか否かは,原告として,いずれも事業主である原告及びC氏らと被告において当該フランチャイズ契約の内容をどのように設定するかという問題にとどまり,原告及びC氏らと被告との間でオープンアカウントによる貸借処理がされ,原告が,毎日,本件各店舗の売上金の全額を,仕入資金等の調達についての信用の供与や簿記・会計処理等を行う義務を負うこととされていた被告に一旦送金し,被告から,原告(及びその親族)の業務量や稼働時間ではなく,本件各店舗の売上高や売上総利益等を基に算定された引出金等の形で送金を受けるとされていたこと(略)や,最低保証制度が設けられていたことから直ちに,原告の事業者性が否定され,原告が労働者に該当するということはできない。

 また,原告が雇用していた本件各店舗のアルバイト従業員の給与は,本件各基本契約に基づき,被告が支払代行をしていた(略)ものの,原告がその額を決定し,その原資を負担するとともに,同給与をXの経費として計上していたこと(略)からすると,これらの同給与に関する事情を全体としてみれば,むしろ,原告の労働者性を否定する方向に働く事情であるということができる。」

「個人事業主」として採用された医師が「労働者」にあたると判断された事例(東京地裁平成30年9月20日判決)

本件は,被告の経営する美容外科クリニックにて医師として稼働する契約を締結した原告が,自らが労基法上の「労働者」に当たることを前提に,残業代等を請求した事案です。なお,この契約においては,「原告は,個人事業主として参画する」旨の定めがありました。

裁判所は,要旨,以下のように述べ,原告が労基法上の「労働者」に当たると判断しました。

「本件契約上,原告は,毎月末日を締日とする1か月の期間ごとに,所定の22日間の勤務を行うことが求められ,被告は,これに対して,月額150万円の報酬を支払うことが定められており,この報酬については,原告の勤務日数が所定の日数を下回る場合には,日割計算した分を減額されるなど,期間と勤務日数に対応した報酬という性格を有していた。原告に対する報酬としては,本件各院の売上げに応じたインセンティブ報酬の支払があったが,給与明細上に基本給と表記される上記月額150万円の部分は,所定の日数を勤務した場合には定額で支払われることとされ,例えば,本件各院の売上げの増減に応じて基本給が増減するといった危険を原告が負担することはなかった。

 原告の行う業務は,医師の行うべき美容整形術の施術等の医療行為であり,その内容の専門性から,被告が個々の具体的な医療行為の内容について指示をするということはなかったが,本件各院における施術項目や診療体制等を決定していたのは,本件各院を実質的に運営していた被告であると認められ,原告は定められた診療項目や診療体制等に従って,患者の診療・施術等に当たっていたと認められるから,この限りにおいて,被告の指揮命令に服していたと認められる。

 原告は,あらかじめ定められたシフトに基づき,勤務日に本件各院に出勤し,基本的には本件契約に基づく所定の勤務時間に従って,本件各院において医療行為(診療行為)等の業務に従事していたと認められる。なお,X2(※医院の名称)については,行政上の届出では原告が院長となっていたが,診療日や診療時間について原告自身が決定していたなどの事情は認められず,原告は,シフトで予定された出勤日に診療行為を行うか否かについて,諾否の自由を有していたとは認められない。そして,(略)原告の出勤状況については,出勤簿によって管理されていたほか,原告を含む医師の遅刻又は早退の状況について,本件各院の受付担当者が確認の上,被告代表者に報告する方法により,被告が原告の勤怠管理を行っていたことが認められる。

 なお,本件契約上,原告の行うべき業務(美容整形術の施術等)につき,原告が自己の責任で第三者に代替させるといったことは予定されておらず,また,原告は,基本的には本件各院に備え付けられた器具等を用いて上記業務を行うものとされていた。

 これらの点からすると,原告は,自らの危険と計算において業務を行うものというよりは,被告の危険と計算において,被告から時間的・場所的拘束を受けつつ,被告の指揮命令下において,自らの労働力を提供していたものであり,原告の受ける報酬は,かかる労務の提供に対する対価の性格を有するということができる。したがって,本件契約は原告が被告に使用されて労働し,被告がこれに対して賃金を支払うことを内容とする雇用契約(労働契約)に当たり,原告は,労働基準法9条の「労働者」に該当すると認めるのが相当である。」

ホストは自営業者であって「労働者」にあたらないと判断された事例(東京地裁平成28年3月25日判決)

本件は、被告会社経営のホストクラブで働いていた原告(ホスト)が、被告との契約は雇用契約であったとして、未払賃金等の支払を求めた事案です。

原告が、労働契約における「労働者」といえるのか、それとも自営業者なのかという点が主な争点になりました。

この点、裁判所は「ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが、いずれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄い。また、出勤時間はあるが客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえない。」「ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している。また、ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている。ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるものである。」

とした上で、「以上によれば、ホストは被告から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは、被告とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり、被告との一定のルールに従って、本件店舗を利用して接客し、その対価を本件店舗から受け取るに過ぎない。そうすると、ホストは自営業者と認めるのが相当である。」

として、原告の請求を認めませんでした。

※一言コメント

この判決は、あくまで、訴訟で問題となったホストクラブの実態に即した判断であり、全てのホストが自営業者に当たるとまでは言えないと思われます(ケースバイケースであり、実態によっては異なる判断がなされる可能性があると考えます。)。

放送受信料の集金業務等を行うスタッフが「労働者」に当たらないと判断された事例(大阪高裁平成27年9月11日判決)

本件は、会社との間で放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期契約を締結してきた原告が、同契約を途中で解約されたことについて、「この契約は労働委契約であり、解約は解雇に当たるところ、当該解雇は労働契約法に反し無効である」と主張して、労働者としての地位確認や未払賃金の請求等を求めた事案です。

本件では、原告の「労働者」性が問題になりました。この点、第一審(神戸地裁平成26年6月5日判決)は、原告の労働者性を肯定していました(但し、解雇は無効でも契約期間は満了により終了しているとして、地位確認自体は否定)。

しかし、本裁判例は、「本件契約により、被控訴人は、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託している(中略)。したがって、その定められた業務内容に関するものである限り、被控訴人が個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。本件では、業務の内容からして、控訴人が被控訴人に対し特定の世帯や事業所を選び訪問すべき日や時間を指定して個別の仕事を依頼するなどということは、およそ予定されていないと考えられるから、被控訴人に上記の選択権のないことを本来的な意味の諾否の自由の有無の問題ととらえるのは相当でない」として、原告に選択権がなかったことは、労働者性の判断において通常考慮される「仕事に対する諾否の自由の有無」(これがない場合、労働者性を肯定する方向に働く)の問題ではないという立場を示しました。

また、原告が会社から指導を受けていた点(これがある場合、使用者の指揮命令下にあることを肯定しやすく、労働者性を肯定する方向に働く)については、「控訴人が被控訴人らスタッフに対して行う稼動日や稼働時間についての具体的な助言指導は、スタッフの業績が不振となった場合に行われるものであり、業績不振となっていないスタッフに対して、控訴人が当該スタッフの稼動日や稼働時間、業務の遂行方法に関する具体的な助言指導を行ったことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、上記のような稼動日や稼働時間、業務遂行方法に関する具体的な助言指導にスタッフが従わなかったこと自体につき、控訴人が当該スタッフに対して何らかのペナルティを課したことを認めるに足りる証拠もない」として、指揮命令は限定的なものだったと評価しました。

その他、「本件契約上、1ヶ月の稼働日数や1日の稼働時間は、スタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働を見ても、スタッフにより時期により様々である。目標値は控訴人が設定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。場所的拘束性も、訪問対象の世帯等がその地域にあるというだけで、訪問以外の場合ではその地域内での待機を強いられるわけではない」として時間的場所的拘束性が低いこと(これが高い場合、これがある場合、使用者の指揮命令下にあることを肯定しやすく、労働者性を肯定する方向に働く)「本件契約の事務費は、基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払の性格を失っていない」こと、「本件契約においては、第三者への再委託が認められれており、実際にも再委託制度を利用しているものがいた」こと、「兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない」こと等を挙げ、

結論としては、「とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量に任されており、時間的な拘束性が相当低く、(中略)第三者への再委託が認められていることに着目すれば、(中略。業務に必要な機材は会社から貸与されていたという事情を総合しても)本件契約が、労働契約的性質を有すると認めることはできない」として、原告の「労働者」性を否定しました。

お問合せはこちら
(Zoom等を活用し全国からのご依頼に対応しております)

お気軽にお問合せください

まずはお気軽にご相談下さい。具体的なご相談は下記フォームからお願いいたします。

無料相談はこちら

【全国対応】
お問合せはお気軽に

ご相談は下記フォームからお願いいたします。お気軽にご連絡ください。