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解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)の裁判例 バックナンバー③

解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)に関する裁判例③

解雇(不当解雇)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

解雇理由として、記者会見における意見表明が考慮された事例(東京地裁令和2年4月3日判決)

本件は、被告(会社)に雇用されていた原告(労働者)が、育児休業取得の妨害や、育児休業の取得を理由とした不利益取扱いを受けたとして、会社に対し損害賠償請求を行った事案です。本件では、被告が原告を解雇しており、解雇の有効性も争点となりました。

裁判所は、結論において本件解雇を有効と判断しましたが、ここでは、原告が本件につき記者会見を行い自身の主張を述べたことについて、これを解雇の判断において原告の不利益に考慮することの当否についての判示を取り上げます。

原告は,本件のような労使紛争において社内的な解決を図ることができない場合に,裁判所を通じた法的措置をとり,その際に世論の喚起及び支援を求めて記者会見をし,取材を通して自らが訴訟において主張する事実関係を述べることは一般的に行われており,このような行為は表現の自由として憲法上保障されているから原告の前記各発言を原告の不利益に考慮することは許されない旨主張する。
 原告が記者会見をして自らが訴訟において主張する事実関係を述べること自体は表現の自由によって保障されるものであることはもとよりであるが,表現の自由も他人の名誉権や信用など法律上保護すべき権利・利益との間で調整的な文脈での内在的制約に服さざるをえないというべきであって,記者会見における表現行為であるとの一事をもって,その内容がどのようなものであっても対第三者との間において許容されるべきことにはならないというべきである。かような観点からすれば,訴訟追行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ,被告の名誉や信用等を侵害する場合,これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできない。
 したがって,上記原告の主張は失当であり採用することができない。

有期の雇用契約において、試用期間中の解雇が有効とされた事例(東京地裁令和2年3月27日判決)

本件は、介護施設を運営する被告会社と、雇用期間5か月の有期雇用契約を締結した労働者が、試用期間中に解雇されたことについて、解雇の有効性が問題となった事案です。

有期雇用契約における解雇には「やむを得ない事由」が必要とされていること(労働契約法17条)、試用期間中の解雇であること等のバランスが問題となりうる事案ですが、裁判所は以下の事実を認定した上で、これを前提に、本件の解雇を有効と判断しました。

上記1に認定した事実によれば,原告は,繰り返し,注意や指導を受けたにもかかわらず,入居者の心情に対する配慮に欠け,その意欲や自立心を低下させたり,羞恥心を喚起したりする言動に及んだり,従業員に対する粗暴な言動に及び続けていたということができる。
 そうすると,被告において,原告に対し,当初は,入居者の介護を行うことが予定されていたにもかかわらず,入居者と直接接する介護の業務を依頼することが困難な状況になっていたと言わざるを得ない。さらに,従業員に対し,身勝手な言動や,他の従業員らに対する威圧的な言動に及び続けるため,原告に対し,入居者とは直接接することがない業務を依頼することも困難な状況になっていた。
 さらに,本件解雇が試用期間中のものであったことからすれば,本件雇用契約が有期であったことを考慮しても,本件解雇にはやむを得ない事由があり,有効であるというべきである。

退職原因が実質的に解雇に当たるとの労働者主張を排斥し、退職が有効と判断された事例(東京地裁令和2年3月23日判決)

本件は、原告労働者が、妊娠が判明したこと伴い時短勤務を求めたものの、被告がこれに応じず原告に退職を強いたことが実質的に解雇に当たる旨を主張し、労働契約上の地位確認等を求めた事案です(その単店は割愛)。

裁判所の整理によれば、原告は、要旨「被告は,原告が妊婦としての労働基準法上の権利(同法第65条第3項,第66条第1項及び第2項)を主張したことに対し,これを一顧だにせず,月220時間の勤務を強要し,同勤務ができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を告げた。体調不良を訴えている妊婦が月220時間もの勤務を継続することができないことは明らかであり,原告は,被告により勤務継続を断念させられ,退職を決断せざるを得なくなったのであるから,実質的にみて被告は原告を解雇したものということができる。」旨の主張をしていました。

これに対し、裁判所は、以下のとおり述べ、原告の主張を認めませんでした。

被告が原告に対して月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝えていたと認めることはできず,したがって,原告において,月220時間勤務を約束することができなかったため,退職を決断せざるを得なくなったという事情があったということはできない。
 また,上記(1)のとおり,被告は,原告の妊娠が判明した後,原告の体調を気遣い,原告の通院や体調不良による遅刻,早退及び欠勤を全て承認するとともに,Cにおいて午前10時から午後4時又は午後5時まで勤務したいという原告の希望には直ちに応じることができなかった(本件各証拠によっても,被告において当該希望に応じることが容易であったといった事情を認めることはできない。)ものの,原告に対し,従前の勤務より業務量及び勤務時間の両面において相当に負担が軽減される本件提案内容のとおりの勤務を提案していたものであり,これらの被告の対応が労働基準法第65条第3項等に反し,違法であるということはできない。
 さらに,上記のとおりの本件提案内容を提案するに至った経緯や,本件提案内容においても,原告の体調次第では人員が足りている午後3時までは連絡すれば出勤しなくてもよいとの柔軟な対応がされていたことからすると,本件提案内容自体,今後の状況の変化に関わらず一切の変更の余地のない最終的かつ確定的なものではなく,被告は,平成30年4月3日及び同月4日の時点においても,今後の原告の勤務について,原告の体調や被告の人員体制等を踏まえた調整を続けていく意向を有していたことがうかがわれる(原告は,被告において高い評価を受けており〔証人F〕,原告とE店長及びF部長との間のLINEメールによるやり取り〔甲5,15〕からも,E店長やF部長から厚い信頼を得ていたことがうかがわれ,被告において,原告が退職せざるを得ない方向で話が進んでいくことを望んでいたと認めることもできない。)。
 なお,E店長は,同月3日,原告に対し,自分の好きな場所で好きな時間帯に働きたいというのであれば,アルバイト従業員の働き方と同じであり,原告の希望次第では契約社員やアルバイトへの雇用形態の変更を検討することも可能である旨を伝えていた(上記(1)オ)ものの,上記の被告の対応を踏まえれば,一つの選択肢を示したに過ぎないことは明らかであり,このことをもって,雇用形態の変更を強いたということはできない。
 これらの事情によれば,原告の退職が実質的にみて被告による解雇に該当すると認めることはできない。

※「月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝えていた」という事実自体が否定されている点が大きいです。具体的な事実関係によっては「退職を強いられたことが実質的に解雇だ」という主張が成り立つ余地はゼロではないと思います。

暴行等を理由とした解雇が有効と判断された事例(東京地裁令和2年2月26日判決)

本件は,暴行(判決で認定された事実としては,要旨「会社代表者に対し,手拳でその顔面を複数回にわたって殴打し,同人に対し,加療1か月を要する顔面皮膚欠損創,鼻骨骨折,顔面打撲擦過創,頭部打撲,顎関節症の傷害を負わせた」というものです。)等を理由とする解雇の有無が争点になった事案です(別途,降格処分及び賃金減額も争点となっていますが,ここでは割愛します。)。

裁判所は,以下のとおり述べ,解雇を有効と判断しました。

(1)解雇事由についての検討
ア 本件暴行について
(ア)本件暴行に至る経緯や本件暴行の状況に関するBの供述(乙27(同人の本人調書部分),32)は,客観的な傷害結果等(乙6~9)と整合しており,合理的かつ自然な事実経過として信用することができる。
(イ)この点,原告は,本件訴訟及び関連訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第10317号損害賠償請求事件,同第23451号損害賠償請求反訴事件,東京高等裁判所令和元年(ネ)第2291号損害賠償請求,同反訴請求控訴事件)において,本件暴行によりBに右手関節挫傷の傷害は生じていない,Bが原告に対し先行して暴行を加え,原告も傷害を負ったのであり,原告の本件暴行は正当防衛である等と主張し,本件暴行が解雇事由に当たることを争っている。
 しかしながら,本件暴行に至る経緯や本件暴行の状況に関する原告の供述(乙27(原告本人の本人調書部分),原告本人8・9p),は,信用できるBの供述に照らし,不自然かつ不合理であり,採用することができない。すなわち,原告は,関連訴訟の本人尋問においては,Bから最初に暴行を加えられた経緯について,要旨,「Bと会議室での話を終えて出て行こうとしたところで,Bから突然右の拳で腹部を殴打され,また,胸部を肘で強く殴打され,さらにひざで左の太ももを蹴り上げられる暴行を加えられた。その後,Bは会議室から出て,廊下を歩き始めたので,原告はBに横について歩き,話の続きをしていたが,Bが突然原告のネクタイをつかみ,その顔面を近づけてきたので,その際に原告がとっさに出した右拳が顔面に当たった」等と供述したにもかかわらず(乙27(原告本人の本人調書部分)・5~13p),本件訴訟の本人尋問においては,最初に手を出したのはBであるとしつつ,その状況について「廊下を二人で歩いていて,Bがつかみかかってきたときに,拳が顔にあたった」等と供述して(原告本人8,16p),本件暴行に至る経緯に関する供述の重要な部分を変遷させている(原告は,被告代理人からの反対尋問に対し,「会議室であったことはそんなに記憶の中に残っていない」旨述べるが(原告本人17p),Bから先行して暴行を加えられたとして正当防衛を主張する原告の説明としては理解しがたいものであって,採用することができない。また,原告の関連訴訟における本件暴行に至る経緯に関する供述を前提としても,原告の腹部や胸部及び太ももに暴行を加え会議室を退出したBを追いかけ,話の続きをしたというのは,常識的に考えて信用しがたいものである。)。
 次に,Bから暴行を加えられ,原告が両肩関節打撲傷の傷害を負ったとする点については,同傷害結果を裏付ける診断書(甲7)も存在するものの,原告が医療機関を受診したのは本件暴行から1か月以上経過した後であり,速やかに受診しなかった合理的な理由は見当たらないし,同診断書は,原告の主訴を踏まえて「平成29年5月1日上記受傷。打撲に伴うと思われる両肩の拘縮を起こしている」旨記載されたにすぎないもので,Bによる暴行を直接に裏付ける記載はなく(上記1(6)イ),本件の全証拠に照らしても,同傷害がBの行為によるものであることを認定するに足りる証拠はない。仮に,原告が負った同傷害が本件暴行の機会に生じたものであるとしても,Bの供述に照らせば,Bが原告に対して積極的に暴行を加えた事実は認められず,原告から突然顔面を殴打され,その暴行を制止するための行動をとったにすぎないと評価できるから,原告の主張は採用できない。さらに,原告が主張するとおり,Bの右手関節挫傷の傷害が本件暴行と無関係であるとしても,Bに生じたその余の傷害結果は,加療1か月を要する重大なものであるから(上記1(6)ア),原告による本件暴行が,就業規則25条1項,6項1号,2号に違反し,解雇事由に該当する(被告の主張するとおり,懲戒解雇事由(就業規則33条10号,11号)にも該当しうる。)ことは明らかである。
イ その余の事情及び本件解雇に至る経緯について
 以上の検討によれば,原告は人材開発部部長として入社したものの,平成29年4月頃までの間の原告の業績は不良であり,本件降格処分1により人材開発部部長の職を解かれる状況にあったこと(上記1(5)ウ,ク),原告の配慮を欠いた言動等により,被告従業員や取引先との間でトラブルを生じさせたこと等の問題が生じていたため,被告においては,指導書を出したり,原告から始末書を徴する等して改善指導等を行っていたところ(上記1(5)エ,オ,カ),同年5月1日,Bが原告に対して行った業務指導や営業方針についての打合せを契機として,原告は,Bに対して,突如本件暴行に及んだものと認められる。上記認定のとおり,Bが原告に対し先行して暴行を加えたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の正当防衛が成立する状況にあったともいえない。このような一連の事実経過に照らすと,被告が,本件暴行を含む原告の言動は就業規則25条1項,8項及び13項並びに6項1号及び2号に該当するとして,35条1項2号及び8号に基づき行った本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当であるから,本件雇用契約は本件解雇により終了したものと認められる。したがって,原告の労働契約上の地位確認請求及び本件解雇以降の賃金支払請求はいずれも理由がない。

2年間の有期雇用契約において,コミュニケーション能力の不足等を理由とした試用期間満了による解雇が有効と判断された事例(那覇地裁令和元年11月18日決定)

本件は,民事訴訟ではなく仮処分の事案ですが,要旨,学校法人(債務者)に日本語講師として2年間の有期雇用契約(試用期間3か月)にて採用された労働者(債権者)が,試用期間を3か月延長した後の試用期間満了時に,コミュニケーション能力不足等を理由に解雇されたことにつき,解雇の有効性が争われた事案です。

裁判所は,要旨以下のとおり判示し,解雇は有効と判断しました。

1 裁判所が認定した事実

「ア Z1が債権者(※解雇された労働者のこと)に対して,債権者の日本語教師としての指導力には問題ないものの,初めての学部ミーティングで,それまで継続していた日本語ランチテーブル(生徒が教員と日本語で話しながら昼食をとる催し)について意見交換をしていたとき(以下「日本語ランチテーブルのミーティング」という。),債権者から「食べている時に話したくない。」などと話し合い自体をはねつけるような言動があり,このような失礼な言動で円滑なミーティングが妨げられたといった具体例を示しつつ,Z1だけでなく,それなりの人数の人々が,債権者について失礼であるとか,素っ気ないと感じており,債権者は態度を改める必要があるなどと指導した。同席していたZ2副学長からも,報告書を読んだ限りでは,債権者はもっと積極的に上司からフィードバックを求めたり,上司と話したり,チームに色々意見を聴いたりして他のメンバーと関わる必要があること,チームワークを意識する必要があること等が指摘された。さらに,Z1からは,従前のチームでは,何かを変える前には,みんなでよく話し合って意見を交わしていたが,昨日は誰もほとんどしゃべらず,このようなことがあってはならない等と発言した。その後,債権者による生徒指導の方針について,生徒に対して日本語の使用率を上昇させる必要があることなどが説明された。

イ これに対して,債権者は,失礼か否かは主観の問題であるのではないか,あくまでZ1が失礼と感じたに過ぎないのではないか,礼儀正しさについても,人それぞれで感じ方が違うのではないか,権力のある人から,あなたは失礼だ,あなたの態度は受け入れられないなどと言われたら一方的に受け入れなければならないのかといった具合に反論し,自分には非がなく,飽くまでZ4等が失礼な態度と感じたに過ぎないから糾弾されるのは不当だといわんばかりの対応に終始した。日本語ランチテーブルのミーティングでの出来事についても,自分の意見を述べたこと自体が失礼に当たるというのは納得できないといったように,Z1やZ2副学長が発言の内容及び伝え方を問題としているにもかかわらず,これとずれた認識を示している。さらに,Z1から,債権者が日本語ランチテーブルのミーティングで食べながらしゃべるのは嫌だと言ったときに,対案等もなくそのように言ってしまうと会話を閉ざしてしまうのではないかと指摘されると,会話のクラスを新設すればよいと提案したのでZ1の指摘は不当だと反論し,これに対して,Z1からは,会話クラスの新設は一朝一夕にできるものではなく,その場の提案としてはおよそ場違いであると婉曲的に指摘されるに至っている。

(3)上記の一覧のやり取りだけでも,Z1及びZ2副学長が様々な角度から債権者のコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにもかかわらず,債権者は自身の問題点を省みる姿勢に乏しく,話し手の意図を正しく受け止められなかったり,言葉尻を捉えた反論に終始して論破しようとしたり,議論の前提を踏まえた会話ができなかったり,自身の意見に固執する姿勢が見て取れる。このような債権者の応答にZ1とZ2副学長は対応に苦慮していたが,債権者はそのことすら認識していたか疑わしい。

(4)債務者は,本件会議の後,債権者がミーティングの場で最低限の発言すらしようとせず,素っ気ない態度に終始していたと主張しているが,前記のとおりの債権者のコミュニケーション上の問題点に加え,債権者は,日本語ランチテーブルのミーティングで反対意見を述べたこと自体がZ1及びZ2副学長によって失礼と取られたと憤慨し,本件準備書面で,意見を述べたこと自体が失当と扱われて不当であり,このため発言を控えるようにしていたと主張していることからすると(なお,前記のとおり,Z1及びZ2副学長は,発言内容やその伝え方を問題にしているのであって,反対意見を述べること自体を咎めているわけではなく,むしろ,積極的に意見を交わすべきと伝えている。),債務者の主張に近い状況にあったことが窺える。

 このような状況では,債権者がZ1に友好的な対応をとることは考えにくいから,債権者は,ミーティング以外でも,Z1や債権者と非友好的な同僚とは積極的なコミュニケーションをせず,むしろ,自身が許容されると考える中で最低限度のコミュニケーションに終始したことが推認できる。

(5)債権者は,本件仮処分手続において,債務者が問題点として指摘する,無断で試験時期をずらしたこと,勤務時間内にボランティアに参加したこと,退勤時間を他の同僚とずらしたこと等について,自身の判断の正当性を主張している。しかし,仮にこれらの事項について債権者の主張に合理性があったとしても,これらの事項は,少なくとも事前に上司や関係する他の職員に相談しなければ職員間で無用な軋轢を生む可能性をはらむものばかりであり,債権者の方から念のために積極的な相談,報告といったコミュニケーションをすべきであったといえる。しかし,前記のとおりの債権者のコミュニケーション上の問題点及び飽くまで自身の判断の正当性の主張に力点を置く本手続における債権者の対応からすると,上記の問題点に関する債権者の対応は,債務者の職場で求められる最低限のコミュニケーションの域に達していなかったことが容易に想像できる。

(6)上記のように,債権者のコミュニケーション及び上司や同僚との関係構築に向けた姿勢には数々の問題点があり,上記のとおり必要なコミュニケーションがとれず,むしろ試用期間の延長により悪化したことが認められる。一般的に本採用を目指して必要以上に努力し,同僚に気を遣いがちな試用期間ですら,債権者は上司と同僚との間で種々の軋轢を生じさせてしまったといえる。これらの問題点は,いずれも試用期間を経て初めて発覚し得るものであるものといえ,上記の経過によれば,債権者が上司からの指導等によって上記の問題点を改善できる見込みは薄い。債務者が雇用を継続していれば,債権者のコミュニケーション上の問題によってさらに職場環境が悪化していくことが容易に想像できることからすると,本件の雇用が2年間の期間限定であることを考慮しても,債務者が試用期間終了をもって解雇を選択したこともやむを得ないといえる。

 よって,本件解雇には合理性も相当性も認められるから,本件申立てには被保全権利があるとは認められず,その余の点について判断するまでもなく,本件申立てには理由がない」

パワハラ等を理由とする懲戒解雇及び普通解雇の有効性が否定された事例(東京地裁令和元年6月26日判決)

本件は,要旨,パチンコ店で店長職にあった労働者が,部下へのパワハラ等を理由に懲戒解雇(予備的に普通解雇)されたことにつき,労働者が解雇無効を主張した事案です。

裁判所は,会社側が主張する解雇事由が存在しないか,一定の事実が認められるとしても懲戒解雇(及び普通解雇)を正当化できるものではないとして,懲戒解雇及び普通解雇はいずれも無効と判断しました。なお,本件では,労働者が解雇後に遠方のパチンコ店の店長として就労していたことから,解雇を争ううえでの就労の意思が問題となりましたが,裁判所は以下のとおり判示し,就労の意思を肯定しました。

「原告は,本件懲戒解雇を受け,被告に対し,その効力を争う意向を示しつつも,自身及び家族の生計を維持するため,就職活動を行い,平成29年12月15日に,Z24と期間の定めのない雇用契約を締結し,同月18日から福島県内のパチンコ店の店長として就労することにより,毎月,基本給,管理職手当,役職手当及びグレード給の合計75万円(ただし,同月分については,日割分である39万円。いずれも額面額である。)とともに通勤交通費の支給を受けている(中略)が,被告における就労状況と比べて,1日の労働時間が長く,また,休日も少ないことが認められる。

 上記のとおり,原告は,本件懲戒解雇の効力を争いつつも,自身及び家族の生計を維持するため就職活動を行い,同業他社に再就職し,遠方の店舗の店長として就労することになったものであることや,再就職先の会社と被告の企業規模の差のほか,賞与や労働時間等を踏まえると再就職先の会社における原告の待遇が被告における従前の待遇(書証略)を上回るものということもできないことからすると,本件懲戒解雇後,原告が同業他社に再就職し,相当額の賃金を得ていることをもって,原告が被告において就労する意思がないということはできない。なお,被告は,仮に本件各解雇が無効であると判断された場合には,原告に対して,解雇以外の降格等の懲戒処分を行うことになるから,原告が被告において就労する意思があるとは考えられない旨を主張するが,仮にそのような懲戒処分が行われ得る(ただし,その有効性は別問題である。)としても,それは,本件各解雇が無効であることが確定し,原告が被告に復職した後のことであって,かかる事情から直ちに,それまでの間の原告の被告における就労意思が否定されるものではない。」

休職の措置をとらずに実施された解雇の有効性が肯定された事例(東京地裁令和元年8月1日判決)

本件は,家電量販店で販売員として就労していた労働者が,勤務状況の不良等を理由に解雇されたことを受け,労働者側が解雇無効を主張した事案です。本件では,解雇事由の有無等に加え,「当該労働者が心的疾患にり患していた可能性を会社側が把握していたにもかかわらず,会社が休職等の措置をとらずに解雇を実施したこと」の当否も問題となりました。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,解雇は有効との判断を示しました。

まず,解雇事由の有無については「原告は,家電販売店の売場やレジにおいて販売員として勤務していたところ,勤務中に無断で早退し又は売場を離れることが多数あり,また,インカムを用いて著しく不合理な内容の発言を行っていたものであり,これらの言動が被告の業務に支障を生じさせたことは明らかである。加えて,原告は,業務における事務手続上の誤りや,禁止されている行動を繰り返し行ったほか,上司に対して侮辱的な内容の発言やメールをするなどしていたものであり,これらの事情に照らせば,原告の業務遂行能力や勤務状況は著しく不良であったというべきである」として,解雇事由は肯定されると判断しました。

そのうえで,休職等の措置が取られていないことについては,以下のとおり判示し,解雇権の濫用には当たらないと判断しました。

「 原告は,被告は,原告が精神疾患にり患している可能性を把握できたにもかかわらず,早期に専門的な医療機関の受診を指示せず,また,休職命令等の措置をとることなく,原告の問題行動が多くなったことを理由に,強制的に心療内科を受診させ,懲戒処分を続けたりしたものであり,かかる対応は不適切である旨主張する。

 しかしながら,前記認定のとおり,被告は,原告の問題行動を確認するようになった後,原告に産業医との面談を行わせ,精神科医を受診させたほか,社員就業規程に基づき精神科医への受診及び通院加療を命じるなどしているのであるから,原告の問題行動が精神疾患による可能性について,相当の配慮を行っていたものと認められる。

 確かに,被告は,原告に対して休職の措置をとることなく本件解雇を行ったものであるが,原告から休職の申出がされたことは窺われない上,前記前提事実のとおり,被告の社員就業規程においては,被告が休職を命じるためには,業務外の傷病による勤務不能のための欠勤が引き続き1か月を超えたこと,又は,これに準じる特別な事情に該当することや,医師の診断書の提出が必要とされているところ,原告が1か月を超えて欠勤した事実は認められず,また,証拠(書証略)によれば,被告は,原告に対して精神科医の受診を命じた上で,診察した医師に対して病状等を照会したものの,原告の精神疾患の有無や内容,程度及び原告の問題行動に与えた影響は明らかにならなかったというべきであるから,原告に対して休職を命じるべき事情は認められない。

 そして,前記のとおり,被告は,原告の問題行動に対して懲戒処分や指導を行っていたほか,精神科医への受診及び通院加療等を命じるなどしているのに対し,原告は,継続的な通院を怠り,問題行動を繰り返しているのであるから,これらの事情を考慮すると,被告において休職の措置をとることなく本件解雇に及んだとしても,解雇権を濫用したものということはできない。」

内定取消し(解雇)は無効であるが,再就職先での試用期間が満了した時点において,復職の意思を喪失したと判断された事例(東京地裁令和元年8月7日判決)

本件は,旅行業を営む会社が経験者(即戦力)として採用内定した労働者について,会社が内定を取り消したこと(法律的には解雇になります)の当否が問題とされた事案です。この事案では,労働者は,内定取り消し後に別会社に就職していたため,元の会社への復職意思があるのかという点が問題になりました。

裁判所は,内定取り消し(解雇)は無効と判断しましたが,要旨以下のとおり述べ,結論としては,別会社での試用期間満了後の復職意思を否定し,地位確認請求や以後の賃金請求を退けました。

「原告は,現在までZ3において就労を継続していることが認められるところ,同社における業務が被告の業務と類似するものである反面,同社の給与水準は,被告の本件採用内定時の条件(月額賃金35万円)の8割にも満たない金額であることからすれば,上記のとおり,同社での就労開始後,直ちに原告が被告における就労意思を喪失したとは認められないものの(上記(1)),同社での原告の就労は,本訴訟の口頭弁論終結時点ですでに2年2か月以上に及んでおり,遅くとも,試用期間満了後の平成29年7月10日時点では,原告の雇用状況は一応安定していたと認められ,原告の被告における就労意思は失われたと評価するのが相当である。

 そうすると,本件訴えのうち,原告の被告に対する労働契約上の地位確認を求める部分(請求1)については,もはや訴えの利益がなく,却下を免れないが,本件採用内定通知(書証略)に定められた労働契約の始期(平成29年1月1日)から同年7月9日までの賃金(バックペイ)請求については,使用者たる被告の責めに帰すべき事由により,原告が労務の提供ができなかった期間に当たり,原告はその間の賃金請求権を失わないから(民法536条2項),その限度において理由があるというべきである。」

試用期間満了2週間前の本採用拒否(解雇)が有効とされた事例(東京地裁令和元年9月18日判決)

本件は,システムエンジニアとして約27年の社会人経験を経て中途採用された労働者が,試用期間後に本採用されなかったこと(※法的には解雇)について,解雇の無効等を主張した事案です。解雇通知が,試用期間の約2週間前になされた(その意味で,会社側が労働者に対し必要な指導を尽くしたとは言えないのではないか)という点が特徴です。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,本採用拒否(解雇)を有効としました。

「ア 上記検討によれば,原告には協調性に欠ける点や,配慮を欠いた言動等により,被告の社内関係者及び取引先等を困惑させ,軋轢を生じさせたことなどの問題点があり,被告の指導を要する状態であったと認められる。

 そして,試用期間中の解雇は,本採用後の解雇より広範に許容されることに加え,試用期間が3か月間と設定され,時間的制約があることにも鑑みれば,比較的短期間に複数回の指導を繰り返すことを求めるのは,使用者にとって必ずしも現実的とは言い難いところ,現に,原告の上司であるZ12室長やZ5課長が,入社から2か月目面談の実施まで,原告の上記問題点を改めるべく,機会を捉えて原告に対する相応の指導をするも,それに対する原告の反応や態度等(上記1(8),書証略)を踏まえると(中略),上記問題点に対する原告の認識が不十分であるか,原告が指導に従う姿勢に欠ける等の理由で,改善の見込みが乏しい状況であったことが認められる。

 さらに,原告のITの専門家としての経歴及び被告における採用条件や職務内容,原告と他部署との関係等(上記1(1)(2),上記(2)エ)を考慮すると,被告において,原告について配置転換等の措置をとるのは困難であり,かつ,前述した原告の問題点は,配置転換をすることにより改善が見込まれる性質のものでもないこと,被告が主張する解雇理由は,結局のところ,原告の勤務に臨む姿勢や態度といった根本的で重大な問題を含むものであって,係長としての管理職の資質に関するものであると解されること,原告は当時試用期間中であり,被告への入社までにすでに3社に勤務しており,システムエンジニアとして約27年間の社会人経験を経ているのであって(上記1(1)ア),上司からの指導を受けるなど,改善の必要性について十分認識し得たのであるから,改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったともいえないことなどの事情に加え,被告の取引先との関係悪化等の上記事実関係からすると(上記1(6)ウ),深刻又は重大な結果が生じなかったとしても,原告の雇用を継続することにより,今後,被告側の経営に与える影響等も懸念せざるを得ないことなどを総合的に考慮すると,被告が,試用期間中である同年11月30日の時点において,試用期間の満了までの残り2週間の指導によっても,原告の勤務態度等について容易に改善が見込めないものであると判断し,試用期間満了時まで原告に対する指導を継続せず,原告には管理職としての資質がなく,従業員として不適当である(就業規則39条1項)として,原告の本採用拒否を決定したことをもって,相当性を欠くとまではいえない。」

業務に対する積極性がないことを理由とする普通解雇が有効と判断された事例(東京地裁平成30年9月27日判決)

本件は,顧客のシステムの保守運用や業務のアウトソーシングを担当していた労働者(期間の定めのない雇用契約を締結)が,業務に対する積極性の欠如を理由として普通解雇された件につき,当該解雇が無効と主張した事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,結論として解雇は有効と判断しました。

1 解雇の客観的理由,社会的相当性

「被告は,特に原告における仕事を率先して行う姿勢(プロアクティブな行動)の欠如や同僚とのコミュニケーション等の問題点を指摘して,被告の就業規則に定める解雇事由(社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適さないと会社が認めた場合等)がある旨を主張する。

 前記認定事実のとおり,原告は,得意な業務分野における技術力を相当程度評価される一方で,被告に入社して間もない平成20年(2008年)10月に最初にSGユニットに配属になった当初から,不得手とする分野の作業を率先して行わず,自身の業務が完了してもその旨を上長に報告することなく,他のメンバーの作業を補助する,あるいはさらなる業務を探す・求めるといった主体性及び積極性に欠け,クライアントやメンバーとのコミュニケーションが円滑に実施されない場面があるなどとフィードバック等で指摘されたことをはじめとして,その後に配属になったさまざまなユニット(略)においても,初回のSGユニットでの指摘と同様に,業務の開始や終了に対する上長への報告がない,指摘された事項を素直に受け止める姿勢がない,自分の業務範囲を広げる努力がない,他のメンバーの仕事ぶりを見て自身の仕事に還元する姿勢がない,報告・連絡・相談のタイミングを見計らっていない,上司からの指示待ち・メンバーからの報告待ちで自ら状況を見極めて積極的に行動することがない,与えられた指示の内容を自身で整理の上で見通しを立てて推進していない,クライアントとのコミュニケーション部分についての苦手意識がぬぐえない等,総じて原告に他のメンバーと協働して必ずしも得意な分野に限定されない様々な領域の業務に取り組む積極性が欠ける旨の改善すべき点を指摘され続けた。

 ところが,原告は,そのように被告からの積極性の欠如を指摘されていることを認識しながら,仕事は与えられるものではなく自分で見つけることがすなわち被告において求められる積極性であると被告から明確に言われてもなお,そのような被告の指摘に反して,「積極性」というのは自分で仕事を見つけることをいうのではなく飽くまで会社から自分に与えられた業務の担当領域で懸命に活動することで足りるとの独自の解釈の下,(略)自身が得意とする分野の業務が割り当てられたユニットでは一定の評価を得ている,他方で自身が得意とする分野の業務が割り当てられないユニットにおいてはそもそも正式な業務が与えられていない,それゆえに積極性を発揮する業務の担当領域がないなどと論難して,会社から与えられる業務を選り好みし,意に沿う業務であれば積極的に行うが,意に沿わない業務であれば自身に業務の担当領域(積極性を発揮すべき活躍の場)が与えられていないとの偏頗な考えに立脚して漫然と手持ち時間を過ごし,むしろ自身に適した業務をあてがわない会社側に問題があるという意識の下,様々な分野の業務について真摯に取り組む姿勢を見せようとしなかった。(略)

 そのように業務に取り組む基本的かつ根本的な姿勢の問題を原告は入社当初から被告によって繰り返し指摘されていたにもかかわらず,結局のところ原告は,自身の問題点を,そもそも自身が得意とする仕事を割り当てていない会社側の問題点であるとすり替えて,自らの意識や仕事ぶりを全く省みることなく,これによって他のメンバーとの協働に支障を来していることにも思慮が至らないのであるから,原告については,少なくとも就業規則54条2号に定める解雇事由(社員の業務能率又は就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合)があり,本件解雇には客観的に合理的な理由があるといえる。」

※本件では,「延べ日数にして千日を優に超える配属待ちの状態」にあったことが認定されている。

2 解雇についての,社会通念上の相当性

「そして,原告の解雇事由がそのような業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題であり,これを長年にわたって繰り返されたフィードバック等による指摘によって容易に認識し得たにもかかわらず,PIP(※注:業務改善プラン)で改善すべき点を示されるまで全く明らかにされてこなかったなどとしてそもそもの認識すら欠如していたこと,仕事の姿勢に対する基本的かつ根本的な会社の考えを明らかにされてもなお「積極性」の意味を手前勝手に解釈してこれに反する考えを一切受け入れないこと,そのような原告に対して被告において普通解雇の可能性を示唆しつつPIPを実施したことや退職勧奨を試みたこと等を併せて鑑みれば,本件解雇は社会通念上相当なものであるといえる。」

 

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