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解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)の裁判例 バックナンバー②

解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)に関する裁判例②

解雇(不当解雇)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

職場での録音禁止命令に違反したこと等を理由とする解雇が有効とされた事例(東京地裁立川支部平成30年3月28日判決)

本件は、労働者に対する普通解雇の有効性が争点となった事案です。裁判所は、各解雇事由について以下のように述べ、普通解雇は有効と判示しました。

(1)私傷病休職からの復職について

「原告は、平成26年11月4日付けの「休職届」と題する内容証明郵便(書証略)の送付により、休職する旨を一方的に通知した後、平成27年1月26日付けの「休職届」と題する内容証明郵便(書証略)を送付するなどして、同年1月と4月の2度にわたり、休職期間を延長して取得する旨を一方的に通知していたところ、被告に対し、同年7月30日、同月29日付けの「復職届」と題する内容証明郵便(書証略)を送付して、復職する旨を一方的に通知し、被告から就業規則に基づく手続を履践してから復職になるなどと複数回説明を受けたにもかかわらず、同年8月5日、被告からの許可を得ることなく、被告に出社している。その後も、原告は、被告から復職手続がなされておらず、いまだ復職中(ママ)なので出社しないようになどと繰り返し指示や指導をされ、自ら加入した労働組合であるJMIUからも同旨の指導をされたにもかかわらず、復職日が同日であるという自らの見解に固執し、同年11月1日付けで復職するまで、復職許可を得ない出社を続けている(中略)。

 原告は、上記アの経緯により復職したと称して出社を続けているのであって、就業規則が定める復職手続を無視し、自己の見解に固執し、被告や自ら加入した労働組合からの正当な指導・指示も受け入れず、一方的な出社を続けているといわざるを得ず、会社の規則を軽視し、会社等の正当な指示も受け入れない姿勢が顕著といわざるを得ない。」

(2)目標管理シート及び能力評価表の内容及び作成経緯について

「原告の作成・提出した目標管理シートや能力評価表は、具体的な記載がなかったり、そもそも記載すべき事項が記載されていなかったり、全く関係のない要求事項が書き連ねてあったりなど、到底その趣旨に合致しないものであった。しかも、原告は、被告の製造部長や人事課長ら上司に当たるべき者達から繰り返し説明や指示を受けたにもかかわらず、当初その提出を拒否していたり、到底その趣旨に合致しない目標管理シート等を提出したりしているのであり、単に目標管理シート等の趣旨を理解しないなどというにとどまらず、会社の決まりを軽視し、会社の正当な指示も受け入れない姿勢が顕著といわざるを得ない。」

(3)納期直前での未了作業放置、報告なしでの帰宅について

「企業にとって納期の遵守が信用の確保などの点で重要であることは、社会通念上明らかであり、被用者は、納期に終了していない業務があるのであれば、定時に帰宅する場合であっても、少なくとも、定時前ないし帰宅前に上司等にその旨を報告し、必要な引継ぎを行うべき雇用契約上の義務を負うものと解される。

 しかし、原告は、納期が翌日の業務があるにもかかわらず、それを自分で完成させることも、必要な報告・引継ぎを行おうとすることもなかったばかりか、指導係からの注意にも何ら応答せずに帰宅しているのであって、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、これについての注意や指導を受け入れない姿勢が顕著で、改善の見込みもないといわざるを得ない。このことは、原告が本人尋問において、納期が明朝朝一番に迫っていても残業命令がない限りは定時に帰り、命令がない限りはその旨を報告する必要もないと明言していること(人証略)からも顕著であり、被告がこのような原告に任せられる仕事はないなどと判断したのも、やむを得ないものである。」

(4)録音禁止命令への違反について

「原告は、被告において、就業規則その他の規定上、従業員に録音を禁止する根拠がないなどと主張する。しかし、雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者である被告は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者である原告に対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文規定があるか否かによって左右されるものではない。

 また、原告は、録音による職場環境の悪化について、具体的な立証がないなどと主張する。しかし、被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、原告に対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。」

裁判所は、各解雇事由につき、要旨、以上のように述べ、普通解雇も有効であると結論付けました。

配置転換命令を拒否したこと等を理由とする解雇が有効とされた事例(神戸地裁平成30年7月20日判決)

本件は,徳島に本社を置く会社(従業員は,本社に43名,東京本社に14名,関西支社に4名)で,勤務場所を関西支社として採用された労働者について,徳島本社での就労を命じる配置転換命令がなされたところ,これを拒否した労働者が解雇された,という事案です(※その他の争点は割愛)。

裁判所は,配置転換命令の有効性について,

「就業規則11条1項,2項によれば,被告は社員に対し被告内部における配置転換として就業場所と職務の変更を命じることができる。本件配転命令はこれに基づくものである。

原告は平成28年2月25日から被告において勤務を始め,徳島本社で研修を受けた後,4月14日から関西支社勤務となり,資産形成事業部関西営業課に配置されたが,5月13日に本件自宅勤務命令を受け,以後その状態が続いていた。そして調査の結果,関西営業課において業務に従事していた際の原告の営業活動に業務フロー違反行為があったことが発覚しており,また,Cと結託してE取締役の意向に沿わない営業活動を行っていたことも疑われる状況にあった。被告は,延長された試用期間の満了にあわせて本件自宅勤務命令を解除することとしたが,このような状況で,8月25日以降,原告をもとの関西営業課で勤務させることはできないと判断し,用地仕入業務に従事させることとするとともに,徳島本社にて改めて研修を受けさせることにしたというのである。認定事実によれば,この被告の判断を基礎付ける事実が実際にあったから,本件配転命令は必要性があったといえるし,不当な動機・目的によって行われたものともいえない。これによって原告が特に不利益を被るという事情も認められない。したがって本件配転命令が業務命令権の濫用とされることはなく,有効である」

として,配転命令を有効としました。

そして,この配転命令を拒んだこと等を理由とする解雇の有効性についても,

「本件配転命令は有効であるから原告は平成28年8月25日以降徳島本社で勤務する義務を負ったが,本件解雇のあった9月5日まで1日も出勤しなかった。8月25日は木曜日であり,土曜日と日曜日は休日であるから(書証略),9月2日(金)まで,出勤すべき日について7日間連続して欠勤したことになる。しかも原告は8月28日,「(本件配転命令によって)労働契約は終了ということになる,解雇になったと認識していいか」などのメッセージをD取締役に送信している。このことからすると,原告は遅くとも9月2日までに,本件配転命令を拒否する意向を明確に被告に表明したと認められる。

 指定された勤務場所で勤務する意思がないことを従業員が表明するということは,就労の意思を放棄するにも等しいことであり,労働契約上の義務の重大な違反である。被告の就業規則においても配転命令は「重要な職務命令」と位置付けられている(就業規則71条1項16号)。一方,本件配転命令に従わないことについても正当な理由は認められないし,特に酌むべき事情も認められない。

 このように重大な義務違反である本件配転命令の拒否があったことに加え,秘密漏洩行為,業務フロー違反行為もあったのであるから,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないということできない。本件解雇に権利の濫用はなく,有効である」

として,解雇の有効性を肯定しました。

労働基準法20条に違反する解雇通知が,通知後30日の経過をもって有効とされた事例(旭川地裁平成30年3月6日判決)

本件は,自治体に医師として採用された原告が,勤務成績不良等の理由により免職処分を受けたことについて,原告が,当該処分が違法であると主張した事案です。争点は,①免職事由が認められるか②免職通知について,労基法20条(解雇をする場合は,少なくとも30日前に予告をするか,予告をしない場合は解雇予告手当を支払わなければならない)違反があるか,という点でした。

この点,裁判所は,免職事由の有無について「原告については,①HPT(※H理学療法士のこと)に対し,話し方に問題がある旨告げたところ,原告がパワーハラスメント行為をしたなどとD事務長に被害申告をされたこと,②F看護師に対し,処方すべき薬剤名を誤って伝えた上,当該薬剤の処方を求めた同看護師を怒鳴りつけ,詰め寄るなどしたこと,③D事務長に対し,体当たりし,詰め寄るなどしたこと,④人工透析が必要な患者らがいるにもかかわらず,十分な対応をしなかったこと,⑤レントゲン撮影をすべき部位を3回ほど誤って指示したこと,以上の事実が認められる。」としたうえで,これらの事実の評価として,①については原告のハラスメント行為は認められないとしたものの,「原告は,わずか6か月の条件付採用期間中に医療過誤に繋がりかねない誤りを複数回にわたって犯した(前記②,⑤)上,医師が行うべき業務を,合理的な理由もないのに行わなかった(前記④)。また,原告は,医師,あるいは医長として,他の職員に対して指揮命令をすべき立場にありながら,合理的な理由もなく,看護師を怒鳴りつけ,詰め寄るなどした(前記②)。更に,原告は,本件病院の他の職員に対して協調性をもって接するべきであるにもかかわらず,職員に体当たりをし,詰め寄るなどの行為に及んだ(前記③)のであって,これらの事実からすれば,条件付採用期間における原告の勤務成績は不良であったと言わざるを得ない」として,免職事由自体は認められるとしました。

また,労基法20条違反については「労基法20条は,使用者が労働者を解雇しようとする場合には,少なくとも30日前にその予告をしなければならず,また,30日前に予告をしない使用者は,解雇予告手当を支払わなければならない旨規定しており,この規定に反する解雇の通知をした場合は,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過するか,又は予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるものと解される(最高裁昭和35年3月11日第二小法廷判決・民集14巻3号403頁)ところ,同条は地方公務員についても適用されるものと解するのが相当である。そして,前記認定によれば,本件免職処分により原告が免職されるものとされた平成28年3月31日の30日前に解雇予告がされたことはなく,また,本件免職処分が通知された際に解雇予告手当が現に支払われたこともないが,被告において本件免職処分により同月31日付けで原告を免職することに固執する趣旨であったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告は22日分の解雇予告手当を含む退職手当を支払ったのであるから,本件免職処分につき,被告が同月31日付けの原告の免職に固執する趣旨であったとはいえない。そうすると,本件免職処分は,遅くとも,本件免職処分が通知された日の30日後である同年4月22日を経過した時点でその効力が生じたものというべきである」として,解雇の効力を認めました。

外国企業の日本法人を統括することを想定されていた労働者の解雇が有効とされた事例(東京地裁平成29年8月30日判決)

本件は、韓国にある会社のCEOを務める被告代表者が、自身に代わり、日本法人を実質的に統括することを期待して採用された労働者が解雇された事案です。

裁判所は「原告は、被告代表者の次の地位に当たる総合管理職兼営業部長として採用されたも者であり、その業務内容として、従業員の管理のほか、営業部長として新規取引先の開拓も含まれていたにもかかわらず、在籍した3か月間、新規取引先を1件も開拓しておらず、新規取引先の開拓に関して、退職時に引き継ぐ取引先の名刺が1件もなかったことが認められる。また、平成28年5月頃、被告と本件取引先との関係が悪化し、売上げが大幅に減少したため、被告代表者が来日して対応する事態になったにもかかわらず、原告は、本件取引先との関係悪化を認識できず、何ら有効な対策を取らなかったことが認められる。さらに、原告は、被告代表者の了解を得ることなく、従業員Cに対し、その在留資格等を確認することなく、違法就労であるとの誤った認識に基づき、労働時間を短縮するように指示したため、Cが退職する意向を表明する事態となり、社内の人事管理を巡って混乱が生じたことが認められる。加えて、原告は、被告代表者の了解を得ることなく、独自の判断で本件経費精算手続を変更しているところ、当該変更は、被告代表者の決裁を得ることなく、原告の決済のみで経費の精算がなされるという大きな制度変更であったため、これに気が付いた被告代表者が、直ちに従前の経費精算手続に戻す事態となり、社内に混乱が生じたことが認められる」として、解雇には客観的に合理的な理由があるとしました。

また、解雇の相当性については「被告代表者は、韓国にある関連会社のCEOも務めているため、頻繁に来日することが難しいことから、原告に対し、実質的に日本法人の被告を統括することを期待し、7人の従業員の中で最も上の立場の総合管理職兼営業部長という上級管理職として、月額55万円の基本給及び賞与という待遇で中途採用したものである。このような採用経緯や上級管理職の地位に照らすと、総合管理職兼営業部長としての能力に不十分な点が認められた場合、被告において他の職務に配置転換することは事実上困難であり、被告において、採用後、総合管理職兼営業部長の職務を遂行できる能力に伸長させるよう注意指導していくことは基本的には想定されていないというべきである。」としたうえで、原告の総合管理職としての資質に問題がある以上、本件解雇は社会通念上も相当と判断し、結論として本件解雇は有効と判断しました。

※一言コメント

特定の能力が備わっていることを期待した中途採用の場合、期待された能力が認められない場合の解雇は比較的認められやすい傾向にあります(この点で、新卒採用と異なります。)。本件では、相応の好待遇を与えられた指導的立場での中途採用であったこと、会社が7名と小規模であり配置転換等の雇用継続措置も困難であることから、解雇が有効と判断されたものです。

メールのCCに上司を入れるようにという指示を拒んだことを理由とする解雇が有効とされた事例(東京地裁平成29年7月18日判決)

本件は、「メールを送信する際、上司DをCCに入れるように」という指示に繰り返しそむいたことを理由とする解雇の有効性が争点となった事案です。

この点、裁判所は、「解雇された労働者が「DをCCに入れるように」という会社側の指示に背く行為を繰り返した」という事実を認定の上、「電子メールのCCに必ずDのメールアドレスを入れるようにとの指示は、上司であるDが部下である原告の担当する業務の内容やその進捗状況等を、原告の主観的な判断による取捨選択や報告を待たずに、早期かつ全般的に把握できるようにするという目的において合理的なものと解され、また、原告に大した労務負担を生じさせるものでないことに照らせば、被告の代表取締役社長の従業員に対する業務上の指示として不合理なものとは認められず、被告にとって、その従業員たる原告に遵守させる必要性のある合理的な指示と認められる。したがって、被告の従業員である原告としては、特段の正当な事由がない限り、この業務上の指示に従ってしかるべきであったと解される」「原告は、業務上の指示、命令違反を繰り返した結果、Cから本社への電子メールの送信等を禁じられた後ですら、Cらからの指示には従うと言いつつも、「様子を見る」との旨述べ、ここに及んでもなお、Cの上記指示及び命令に無条件には従わない姿勢を明らかにしていたことが認められる。そして、原告が本件解雇当時33歳という分別のあるべき年齢であったことを併せて考慮すれば、既に述べた本件解雇に至った経緯をもって、原告に対する指導や教育等が原告を解雇するに不十分であったとは認められない。また、以上に述べたところのほか、被告が代表取締役社長を含めて従業員20名弱という小規模な会社であることに照らせば、被告が原告に対し本件解雇以外の手段をとることは困難であったと認められる」として、本件の解雇を有効と結論付けました。

※一言コメント

本件は「特定の者をCCに入れない」ということ自体は些細なことのように思えますが、①会社側の指示が再三にわたったにもかかわらず改善がなされなかったこと、②労働者のこうした行動により被告会社に業務上の不利益が生じた旨が認定されていること、③被告会社が小規模だったこと(解雇以外の措置=配置転換等を取りにくいこと)が、解雇有効という結論につながっているものと思われます。

育児休業後の解雇が無効と判断された事例(東京地裁平成29年7月3日判決)

本件は、被告会社を解雇された原告が、当該解雇が産休および育休の取得後になされており、男女雇用機会均等法(均等法)及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に反する法律(育休法)に反して無効と主張した事案です。これらの法律では、労働者が妊娠出産、又は育児休業をしたことを理由として、解雇等の不利益取り扱いを行うことを禁じているため、こうした規定と解雇の有効性との関係が問題となりました。

この点、裁判所は「妊娠・出産や育児休業の取得(以下「妊娠等」という。)を直接の理由とする解雇は法律上明示的に禁じられているから、労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも、事業主は、少なくとも外形的には、妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられる。そして、解雇が有効であるか否かは、当該労働契約に関係する様々な事情を勘案したうえで行われる規範的な判断であって、一義的な判定が容易でない場合も少なくないから、結論において、事業主の主張する解雇理由が不十分であって、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり、そのように推認したりして、均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない。

他方、事業主が解雇をするに際し、形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは、当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。もちろん、均等法及び育休法違反とされずとも、労働契約法16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され、結果として労働者の救済は図られ得るにせよ、均等法及び育休法の各規定をもってしても、妊娠等を実質的な、あるいは、隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば、労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからである。

このようにみてくると、事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの規範に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である」との一般論を示しました。

そのうえで、本件については、会社側が主張する解雇理由に客観的・具体的な裏付けがないことを指摘し、通常の判断枠組みにおいても無効と判断しました。また、会社側は、解雇が不当であることを少なくとも当然に認識すべきであったから、本件解雇は均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、この意味からも無効であると判断しました。

(一言コメント)

均等法・育休法による解雇等の不利益取り扱いの禁止と解雇の有効性について一般論を述べている点は参考になります。もっとも、原告側の争い方との関係もあるのかもしれませんが、労働契約法16条の枠内で処理すれば足りる問題であり、上記のような一般論を示す必要があったのか(及び一般論の内容)については異なる考え方もありうるかもしれません。

パワハラ・セクハラ行為を理由とする懲戒解雇処分が無効と判断された事例(前橋地裁平成29年10月4日判決)

本件は、大学の教授であった原告労働者が、在職中のセクハラ・パワハラを理由に懲戒解雇処分を受けたことについて、その有効性を争った事案です。

また、本件では、当初、被告大学側は原告労働者を諭旨解雇処分とし、これに応じなかったことを理由に懲戒解雇としましたが、原告は「諭旨解雇処分に応じるか否かを検討する時間が短かった(1時間程度しか与えられなかった)」という手続き上の不備も問題としていました(被告の就業規則では「勧告に応じない」場合に懲戒解雇とされていましたが、この要件を満たすかが問題となりました。)。

この点、裁判所は、先ずは上記の手続きについては、「被告が同日中に原告から諭旨解雇に応ずるか否かの確答を得なければならない合理的な理由をうかがうことはできないし、被告が原告に対し、諭旨解雇に応ずるか否かを検討するのに要する時間を聴取し又は回答期限を設定するなどの対応を取ることは十分に可能であったというべきである。以上によれば(中略)解雇手続が就業規則45条1項2号の規程に違反した違法な処分であると言わざるを得ない。もっとも、解雇手続きに違法があっても、原告を諭旨解雇を経ずに直ちに懲戒解雇とすることが相当であるといえるだけの悪質な、あるいは多数の懲戒事由が認められるとか、既に諭旨解雇に応じるか否かを検討する十分な時間を与えられていたなどの特段の事情があり、軽微な違法にとどまる場合には懲戒解雇は有効と解するのが相当である」との判断を示し、本件については、手続きの違法は軽微として、手続き上の不備いかんに関わらず、端的に、原告に懲戒解雇相当の事由があるか等を検討すれば足りると判断しました。

そして、原告の懲戒解雇事由については、要旨、以下の言動をハラスメント行為と認定しました。

・部下(D講師)に対し、「①科研費を当ててくれないと困る、実験のペースを上げて科研費を当ててくれと述べたこと②免疫染色と一緒に他の仕事ができるだろうと述べてD講師が原告に提示した実験データの数が少ないことを指摘したこと③D講師はポストを埋めている、D講師のポストが空いて、独立准教授がきたら1500万円入る、D講師は科研費がとれていないのだからその分働いてもらう、D講師は最近の業績が少ないし、科研もとれていないとの趣旨の発言をしたこと④(D講師の)前日の帰宅時間を確認した上、前日の朝の打ち合わせは10時半まであったので、その時間を差し引くと実質8時間も働いていない」と述べたこと

※この点、業務上の指導とも思える内容も含まれていますが、本件では、原告の発言は「D講師の仕事が遅いこと及び業績がない事実を繰り返し指摘して叱責するだけのものであり、原告が、D講師をして業績を上げられるように、相談に乗ったり、アドバイスをしたような事情はうかがわれない。(中略)原告の上記発言等は机を叩くなどの行動を伴っていたことが認められ、その発言内容及び態様に鑑みれば、原告の上記発言等は、D講師に対する指導、注意の適正な範囲を超えた侮辱、暴言等というべきであり、パワーハラスメントに当たる」と判断されています。

・女性(K助教)に対し、「4月から来る大学院生とKさんとは年齢が近いため恋愛問題を起こしそうだ。」などと発言したこと、結婚又は出産で休職する予定がないかを複数回尋ねたこと、「女性研究者はこういう出産とかで何年も空くと、やっぱりなかなか戻りづらい」などと述べたこと

・K助教に対し、①複数回にわたって結婚の予定などの私的な事項に関する質問をした上で、サイエンスにプライベートは必要ないなどと発言したこと、②学会からの帰宅途中の電車の中などで、自らが甲大学を転出する場合は一緒についてきて欲しいこと、また、その際にK助教えるが結婚していると単身赴任になってしまうため転出が困難となるなどという趣旨の発言をしたこと

・F研究員に対し、風邪で病院受診後にしゅっ記することになったK助教について「K助教は妊娠したんじゃないか。様子を見てこい。」と発言したこと

そして、これらのハラスメント行為は懲戒事由に該当することは認めましたが、「原告のパワーハラスメントはいずれも業務の適正な範囲を超えるものではあるものの業務上の必要性を全く欠くものとはいい難いし、また、原告のセクシャルハラスメントが殊更に嫌がらせをする目的に基づいてなされたものとはいえないことからすれば、原告のハラスメント等の悪質性が高いとはいい難い。」として、その他、原告のハラスメント行為により被害者に就労制限が生じた状態になったとまではいえないこと、過去に懲戒処分を受けていないこと、原告もハラスメントの一部については認め反省の意思を示していること、等を挙げて、懲戒解雇処分は重過ぎるとして無効と判断しました。

※一言コメント

本件では、諭旨解雇を上記のとおり拙速に懲戒解雇に切り替えたこと自体についても、原告の利益(諭旨解雇の勧告に応じるか否かの検討機械)を侵害したものとして、不法行為にあたり慰謝料15万円の支払が認められています。

起訴休職の期間満了に伴う解雇が有効とされた事例(大阪地裁平成29年9月25日判決)

本件は、国立大学において教員として就労していた労働者が、刑事事件の被告人として起訴されたことに伴い、勤務先の起訴休職規定(裁判の期間が2年を超えたときは解雇扱いとする)基づき解雇されたことについて、当該解雇の有効性を争ったという事案です。ちなみに、この事件における起訴休職規定の概要は以下のとおりでした(抜粋)。

ア 「教職員が次の各号のいずれかに該当する場合は、休職とする。」(就業規則14条1項柱書)

「刑事事件に関し起訴され、職務の正常な遂行に支障をきたすとき」(同項2号)

イ 上記アによる「休職の期間は、その事件が裁判所に継続する間とする。ただし、その係属期間が2年を超えるときは、2年とする。」(本件就業規則15条3項。以下「本件上限規定」という。)

ウ 「教職員が次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学との間で雇用関係を維持しがたい場合には、これを解雇する。ただし、その程度に至らない場合には、これを降任、降格又は降給にとどめることがある。」(本件就業規則21条1項柱書)

「第14条第1項第1号から第3号まで及び第5号に掲げる事由により休職とした者について、第15条に定める休職の期間が満了したにもかかわらず、なお休職事由が消滅していないとき」(同項3号)

裁判所は、こうした起訴休職規定の有効性について、以下のとおり判断しました。

「一般に、労働者が起訴された場合、勾留等の事情により、当該労働者が物理的に労務の継続的給付ができなくなる場合があるほか、勾留されなかった場合でも、犯罪の嫌疑が客観化した当該労働者を業務に従事させることにより、使用者の対外的信用が失墜し、職場秩序の維持に障害が生じるおそれがある場合には、事実上、労務提供をさせることができなくなる。起訴休職制度は、このように、自己都合によって、物理的又は事実上労務の提供ができない状態に至った労働者につき、短期間でその状態が解消される可能性もあることから、直ちに労働契約を終了させるのではなく、一定期間、休職とすることで使用者の上記不利益を回避しつつ、解雇を猶予して労働者を保護することを目的とするものであると解される。

 以上のような起訴休職制度の趣旨に鑑みれば、使用者は、労務の提供ができない状態が短期間で解消されない場合についてまで、当該労働者との労働契約の継続を余儀なくされるべき理由はないから、不当に短い期間でない限り、就業規則において、起訴休職期間に上限を設けることができると解するのが相当である。」

「以上を踏まえて、本件起訴休職規定についてみると、同規定は、労働者が「刑事事件に関し起訴され、職務の正常な遂行に支障をきたすとき」に限り、当該労働者を休職とする旨を定めたものであるから、上記(1)の一般的な起訴休職制度の趣旨及び目的に沿うものであると認められ、かかる趣旨及び目的に照らせば、上限を2年間とする本件上限規定が、不当に短い期間であるとは言い難い上、被告は、人件費の多くを国から支給される運営費交付金で賄っており、その財源に応じて、雇用すべき教授、准教授、助教などの教員数を部局毎に設定、管理していると認められること(証拠略)、多くの国立大学法人において、起訴休職期間の上限は2年間と定められていること(証拠略)、以上の点に鑑みれば、起訴休職期間の上限を2年間とする本件上限規定は、合理的な内容(労契法7条所定の「合理的な労働条件」に該当するもの)であると認められる。」

以上のとおり、裁判所は、本件の休職規定の合理性を肯定しました。

そのうえで、規定に対する具体的事案のあてはめとして、

「原告は、平成24年4月5日に傷害致死という重大な犯罪の嫌疑により、起訴され、勾留された状態が継続し、平成26年2月7日に保釈許可決定が出されて、一時、釈放されたものの、同月20日の一審判決の結果、再び勾留され、休職期間満了時も勾留されていたのであって、被告に対する労務の提供ができない状態が継続していたこと、懲役8年の一審判決が出されたことにより、休職期間満了時以降も、少なくとも相当期間勾留が継続し、労務の提供ができない状態が継続することが見込まれていたこと、以上の点が認められ、これらの点に鑑みれば、以上のような被告に対する労務の提供ができない原告について、降任、降格又は降給にとどめる余地がなかったことは明らかであって、原告については、本件解雇時点において、被告との「雇用関係を維持しがたい場合」にあったと認めるのが相当である」(※本件就業規則21条1項柱書に該当する、という趣旨です。)

そして、起訴休職期間満了に伴う解雇の有効性については「原告は、本件解雇時において、実母に対する傷害致死の容疑で勾留され、被告に対して労務の提供ができない状態が継続しており、一審において懲役8年の有罪判決を受けたことにより、その後も相当程度の期間、交流が継続し、被告に対する労務の提供ができないということが見込まれる状態にあったと認められる。また、本件解雇は、平成26年2月20日に宣告された懲役8年の一審判決から約2か月半後にされたものであるところ、その間に、控訴審の審理が行われるなどして、一審判決が破棄されたことをうかがわせる新たな事情が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、被告が同破棄を予見することができたとは認められない。」として、解雇は客観的合理的理由がありh社会通念上も相当であると結論付けました。

※一言コメント

労務提供ができない時期が長期化していること(=使用者側が被る不利益)に鑑みると、解雇もやむを得ないという本判決の判断は理解できます。もっとも、起訴されたこと自体は捜査側(検察官)の判断であること、刑事手続においては有罪確定まで推定無罪の原則が働くべきであること、に鑑みると(現に、本件でも、一審判決は傷害致死罪により懲役8年でしたが、控訴審判決は暴行罪で罰金20万円と、大きく減刑がされています)、控訴審係属中段階での解雇は労働者に酷であるという考え方もあり得ると思います。

社内での暴力を理由とした契約期間中の解雇は無効とされたが、期間満了による雇止めは有効とされた事例(東京地裁平成29年5月19日判決)

本件は、平成16年以降、1年ないし半年の有期雇用契約を更新し続け、約12年間、被告会社の契約社員として勤務してきた原告労働者が、契約期間中に同僚に暴行を行ったことを理由に解雇処分を受けたことについて、当該解雇は無効であると主張した事案です。会社側は、①解雇は有効である②仮に解雇が無効であっても、契約期間の満了により雇用契約は終了している、と主張しました。

この点、①解雇の有効性については、裁判所は、懲戒解雇・諭旨解雇のいずれについても、労働者への不利益の大きさに鑑みて、その有効性を判断するうえで厳しい規制が及ぶという立場を前提に、被告会社において懲戒解雇(情状によっては諭旨解雇)を根拠づける就業規則「他人に対して暴行・脅迫・監禁その他社内の秩序を乱す行為を行った場合」について「懲戒解雇又は諭旨解雇の事由となる「暴行」は「やむを得ない事由」に当たる程度に悪質なものに限られるというべきである」として、暴行の程度を限定的に考える立場を示しました。そのうえで、本件の解雇理由となった暴行が、「原告と同僚との肩が偶然ぶつかった際、原告が同僚を突き放したところ、詰め寄ってきた当該同僚の胸倉を両手でつかむようにして1~2メートル後退させた」という態様だったと認定したうえ、「原告の行動は、暴行には当たるが、その契機は偶発的なもので、態様も悪質なものとまではいえず、C(※同僚のこと)に与えた苦痛、負傷及び職場の平穏に対する侵害の程度も重大なものとは言えない」として、結論としては「原告には暴行に当たる行動があり、懲戒に相当する事由は認められるが、その契機は偶発的で、態様や結果が特に悪質なものともいえず、その背景には、原告の自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度があり、反省も不十分だったことを考慮しても、期間満了を待つことなく雇用契約を直ちに終了させる解雇を選択せざるを得ないような特別の重大な事由があるとは認めるに足りないから、その余の点を判断するまでもなく、原告に対する本件解雇は懲戒権を濫用するものとして無効であって、原告と被告との間の有期雇用契約は、本件解雇では終了しなかったというべきである」と、解雇は無効であると判断しました。

もっとも、②仮に解雇が無効だとしても、契約期間満了後の更新の有無については、原告の勤務態度が従前から良好ではなかったこと、今回の暴行も懲戒事由には当たる上に反省も十分ではないことから「原告に契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があっても、被告には有期雇用契約の更新を拒む特段の事情があった」として、解雇ではなく契約期間の満了による契約終了と結論付けました。

※一言コメント

解雇(特に懲戒解雇)は、労働者に与えるダメージの大きさから、その有効性は厳しく判断されることになります。本件もそうしたケースの一例と言えます。なお、本文では取り上げていませんが、本件は、無効とされた解雇が不法行為にあたるとして、賃金2か月分の慰謝料請求が認められている点も特徴的と言えます。

労災支給決定は誤った事実認定を前提としており、労働者の腰痛が労災ではなく私傷病であるとして、労働基準法19条の適用を否定した事例(東京高裁平成28年11月30日判決)

本件は、労働者が腰痛を発症して休職し、所定の休職期間を経過して退職扱いとなったことについて、「当該腰痛は業務上発生した労災であるから、療養中及びその後30日間の解雇を禁じた労働基準法19条に違反する」として、雇用契約上の地位確認等を求めていた事案です。

本件は、労災申請が先行しており、平成25年10月に労災認定がなされていました。訴訟でも、第1審は、労働者の主張を認め、腰痛が労災であると判断し、地位確認に関する労働者の主張を認めていました。

ところが、本件(第2審)は、詳細な事実関係の記載は省略しますが、労働者の腰痛は、労災ではなく私傷病(労働者が業務との関連性なく負った傷病、程度の意味です)であると認定し、「業務上」負傷したものではないとして、この点に関する第1審判決を取り消し、労働基準法19条の適用はないと判断しました。

※一言コメント

労災の事案では、一般に、訴訟に先立ち労災申請を先行させることが多いです。そして、労災申請において「労災」との認定がされると、訴訟でもこれを前提とした判断がなされるケースが多いといえます。しかし、そもそもの問題として、労災申請において労基署が「労災」と認定するかと、民事の損害賠償請求において裁判所が傷害が「業務上」のものと認定するかとは別問題で、両者が必ず一致するものではありません(事実上、一致することが多い、ということ)。本件は、事例判断ではありますが、上記の一般論を確認するうえでは有意といえます。

社内での私的なチャットを理由とした懲戒解雇は有効とされたが、これに要した時間は労働時間に当たるとされた事例(東京地裁平成28年12月28日判決)

本件の概要は、①業務中の私的なチャット等を理由に懲戒解雇処分を受けた原告が当該懲戒解雇の無効等を主張しており、②一方の被告会社は、懲戒解雇が有効と反論するとともに「当該私的チャットは労働時間に当たらず、これを労働時間から控除すると給与が過払いである」として、過払い額の返金等を求めた事案です。

争点①(懲戒解雇の有効性)については、まず、裁判所は「平成25年11月18日から平成26年6月20日までの約7か月間、業務中、合計5万0158回のチャットを行っており、概算で1日当たり300回以上、時間にして2時間に上ること」「被告の顧客情報データを社外に持ち出すよう他従業員に示唆したこと」「被告に対する信用毀損にあたるチャットを行ったこと」「被告従業員に対する誹謗中傷にあたるチャットを行ったこと」「被告の女性従業員に対する性的な名誉毀損及び誹謗中傷にあたるチャットを行ったこと」という事由を認定しました。

そのうえで、懲戒処分の相当性の判断基準として「労働者は、基本的な義務として、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行する義務を負い、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を負っている。したがって、業務時間中に私的なチャットを行った場合、この職務専念義務に反することとなる。もっとも、職場における私語や喫煙所での喫煙など他の私的行為についても社会通念上相当な範囲においては許容されていることからすれば、チャットの時間、頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導及び処分歴の有無等に照らして、社会通念上相当な範囲内といえるものについては職務専念義務に反しない」としました。

そして、認定した各チャットの性質が悪質であるという評価を前提に、「本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、被告から、本件チャットについて、弁明の機会を与えられた際、原告は、本件チャットのやり取り自体を全面否定していたことからすれば、被告において、原告は本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、原告に対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したものもやむを得ない」として、原告がこれまでに懲戒処分を受けたことがないこと、本件解雇を通知された時点では大まかに懲戒事由があることを認め謝罪していたこと、等の原告に有利な事情を踏まえても、懲戒解雇は有効であるとしました。

一方、争点②(私的チャットの労働時間性)については「労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まる」という従前からの最高裁の立場を確認したうえで、「使用者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、本件チャットを行っていた時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられているなど労働からの解放が保証されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」という判断基準を示しました。

そして、本件チャットについて、おおむね「労働契約上、労働者が労働義務を負う時間内に、自席のパソコンで行われたものであること」「被告は、本件チャット問題が発覚するまでの間、原告が自席で労務の提供をしているものと認識しており、原告の直属の上司であるEとの間でも私的チャットがなされているが、原告の業務態度に問題がある等として、被告が原告を指導注意したことは一切なかったこと」「本件チャットは、基本的に社外の人間との間ではなく、会社内の同僚や上司との間で行われたものであること」「業務に無関係なチャット、業務に無関係とまではいえないチャット、私語として社会通念上許容される範囲のチャット及び業務遂行と並行してなされているチャットが渾然一体となっている面があり、明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することがが困難であること」を考慮し、「所定労働時間内の労働については、いずれも使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、労基法上の労働時間に当たる」としました(なお、所定労働時間外のチャットに要した時間についても、黙示の指揮命令に基づく時間外労働であるという理解を前提にやはり労働時間に当たるとしました。)

※一言コメント

紙幅の関係で本件チャットの具体的内容については割愛していますが、認定された事実を前提とする限り、内容的には悪質という評価も致し方ないところであり、懲戒解雇という判断はやむを得ないところと思われます。

一方、こうした悪質な本件チャットに要した時間が「労働時間」と認定されこれに対して給与支払義務が認められている点についても、結論の実質的妥当性という点はともかく、「労働時間」性の判断という点からは首肯できるものと考えます。会社側としては、個々の従業員の業務態度の管理を適切に行わないとこのようなリスクが顕在化する、という意味で先例となるように思います。

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