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解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)の裁判例

解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)に関する裁判例

解雇(不当解雇)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

なお、解雇に関する裁判例のバックナンバーは,またはをご参照ください(番号をクリック)。

経費の不正受給を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例(東京地裁令和3年4月13日判決)

本件は、要旨、部長職の地位にあった原告が、私的なゴルフ等の費用を業務上の経費として会社から受給した等の行為について懲戒解雇処分を受けたという事案であり、懲戒解雇の有効性等が争点となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、懲戒解雇は有効と判断しました。

ア 前記前提事実及び前記1の認定事実のとおり,原告は,平成24年11月から平成31年1月までの間,私的なゴルフや家族旅行に関する費用,私的な飲食代を,業務上必要な経費と偽って申請するなどし,合計46万2456円を故意に不正受給したものである。不正受給の期間は6年以上と長期にわたり,その回数は合計34回(出張に伴うものは合計22回。出張を伴わないものは合計12回。)にも及び,到底,出来心で行ったものとは考えられず,常習的で悪質である。不正受給額も合計46万2456円と多額である。また,原告は,上記不正受給をしていた期間,A1社の国内宿泊部の部長,国内宿泊事業部の事業部長又はデジタルMDプロジェクトの統括部長の地位にあり,いずれの地位にあったときも,それぞれの事業部又はプロジェクトを統括し,事業部やプロジェクトに属する部下を管理・監督する責任と権限を与えられるなど,重大な職責を担う立場にありながら,自ら上記のような不正受給行為に手を染めていたものである。原告による上記経費の不正受給行為がA1社及び被告の企業組織秩序に与えた悪影響の程度が大きいことは明らかである。
 以上によると,本件懲戒解雇が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとはいえず,解雇権の濫用に当たるとは認められない。
イ 原告は,飲食費の不正受給は,実際に打ち合わせを兼ねた飲食を予定していたものの,相手方の事情でキャンセルされるなどされたために結果的に一人で食事をすることになったものについて,経費として受給してしまったものであり,このような経緯に照らすと悪質性は小さいと主張する。
 しかしながら,仮に原告主張のような経緯があったとしても,それは私的に飲食したものを経費として申請することを正当化できる理由にはならない。証拠(乙10の2,乙11の2,乙13の2,乙14の2,乙16の2,乙19の2)によれば,原告は,経費申請等の際に,実際には一緒に食事をしていない人物の所属と名前を記載するなどの工作を行っており,私的な飲食費が経費として承認されないことを承知の上で,あえて不正な経費申請を繰り返していたと言わざるを得ず,不正受給に至る経緯はむしろ悪質であるというべきである。
 また,原告は,本件懲戒解雇処分の時点で既に5年が経過した非違行為を考慮することは不当であるとも主張するが,被告又はA1社が当該非違行為を認識していながら長期間放置をしていたような場合はともかく,そのような特段の事情がない本件において,考慮できる非違行為の発生時期を5年程度に限定すべき理由はない。原告は,原告が不正受給したのは経費であり,現金ではないから,背信性の程度は高くないとも主張するが,原告独自の見解であり,採用しない。
ウ 平等取扱い原則違反について
(ア)原告は,被告において過去に懲戒に処された事例では,事実と異なる立案を自ら又は部下に指示して作成させ,事実と異なる相手先・メンバーとの会食を繰り返して交際費を不正受給した事案において,当該従業員を3日間の停職処分に処しているが,部下にも事実と異なる立案をさせていた点で企業秩序に対する悪影響が大きい上記事案の処分が3日間の停職処分であるのに比較すると,本件で原告を懲戒解雇処分に処するのは重過ぎ,相当性を欠くと主張する。
 しかしながら,証拠(甲10,乙78の2,84)によれば,原告が比較対象として挙げる事案において事故金額とされているのは1万0800円にとどまっており,問題とされている非違行為は「事実と異なる相手先・メンバーとの会食を繰り返していた」こととされている。当該事案においては,申告先とは異なるものの,取引先と飲食したこと自体は事実であったことが認められ(事故金額1万0800円についてのみ,私的な飲食を行ったものである。),取引先・関係者との飲食を偽った本件とは事案を異にする。また,処分対象者は課長職にあった者であり,非違行為の期間は平成29年3月から平成30年1月までの約13か月間であった。
 上記事案は,部長,事業部長又は統括部長という従業員の中で最高の職位にあり,大きな権限と責任を負う立場の者が,6年以上の長期間にわたって,私的な飲食費を取引先や関係者と飲食した際の経費であると偽ったり,私的なゴルフや家族旅行に関する費用を経費と偽ったりして,合計46万2456円を不正受給した本件とは,行為者の地位も,不正受給の態様,金額,期間も大きく異なっており,上記事案における処分内容が停職3日間に留まっていたからといって,本件懲戒解雇処分が平等取扱い原則に違反し,不当に重すぎるとか,相当性を欠くと認めることはできない。
(イ)原告は,A1社の前々任の社長が私的な旅行の旅費や私的な交際費を経費として受給していたが,そのことについて何らの懲戒処分を受けていないとも主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
エ 適正手続違反等について
(ア)原告は,平成31年3月29日の本件諭旨退職処分の際,退職届を出すか否かを判断するために与えられた猶予期間は,最終的に同年4月1日12時までという短期間であった上,退職に応じた場合の退職金の具体的な支給予定額を尋ねても回答してくれなかったことや,その際の被告の担当者の口調が命令口調で威圧的であったことからすると,本件懲戒解雇は適正手続の観点から問題があるとも主張する。
 しかしながら,上記のとおりの本件における経費の不正受給行為の悪質さの程度や,原告がこれによってA1社や被告の企業秩序に与えた悪影響の程度に照らすと,諭旨退職に応じるか否かを決断するために与えられた猶予期間が数日しかなく,退職金の額も告げられなかったからといって,適正手続に反するということはできないというべきである。また,被告の担当者が原告に対し威圧的な言動をしたことを認めるに足りる証拠もない。前記1(4)及び(5)の認定事実のとおり,A1社及び被告は,原告による経費の不正受給の発覚後,数回にわたり原告のヒアリング調査を行い,その過程で,原告の言い分を考慮し,原告に対する経費の返還請求額を減額していることや,原告が,上記調査の間,ヒアリング担当者やA1社のE1社長に対し,口頭やメールで,不正受給と認められるべき範囲について自由に意見を述べていることからすると,原告の主張するような意思の抑圧があったとは考え難く,本件諭旨解雇処分及び本件懲戒解雇に至る手続に相当性が欠けるところがあったと認めることはできない。
(イ)原告は,本件懲戒解雇は,数年間に及ぶ不正行為について,戒告や減給等のより軽い処分を経ることなく行われた点でも相当性を欠くと主張する。
 しかしながら,前記1の認定事実のとおり,A1社及び被告が原告による長期間にわたる経費不正受給行為に気付いたのは,これらの不正行為がすべて行われた後のことであって,それ以前に戒告や減給等のより軽い処分を行うことは不可能であった。また,発覚するまでの間に原告がした経費の不正受給行為は,上述したとおり,原告の地位,不正行為の期間,態様,不正受給額等に照らすと,悪質で,企業組織秩序に与えた悪影響の程度が大きく,その責任は重大であって,ただちに懲戒解雇処分に処されてもやむを得ないものである。
 この点に関する原告の主張も採用しない。
(ウ)原告は,本件出勤停止命令及びこれに伴う平成31年2月分から同年4月分までの給与の一部不支給は,実質的な減給処分であり,これに加えてされた本件懲戒解雇処分は実質的に二重処罰禁止原則に違反しているとも主張する。
 しかしながら,前記前提事実のとおり,本件出勤停止命令は,本件就業規則118条に基づき,本件における経費の不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行のために業務命令として出されたものであって,懲戒処分ではないし,これに引き続いてされた賃金の一部不払いも,後述するとおり,正当な理由が認められない賃金の不払いであって問題はあるものの,懲戒処分としてされたものではない。したがって,本件懲戒解雇は,実質的にも二重処罰に当たるものではなく,この点に関する原告の主張も採用しない。
(エ)原告は,本件懲戒解雇は原告の給与をカットするために原告を狙い撃ちにした可能性が高いなどとも主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
オ 以上のとおり,本件における経費の不正受給行為は,私的なゴルフや家族旅行に関する費用,私的な飲食代を,長期間・多数回にわたって業務上必要な経費と偽って不正受給したというものであって,不正受給額も合計46万2456円と相当額に上り,悪質である。原告は,このような経費の不正受給行為を,国内宿泊部の部長,国内宿泊事業部の事業部長又はデジタルMDプロジェクトの統括部長という,いずれも事業部あるいはこれに準じる部署を統括し,大きな権限と責任が課された立場にありながら行ったものであり,A1社及び被告の企業秩序を大きく乱したと言わざるを得ない。そうすると,原告が,被告に入社以来,約36年間にわたり勤務を続け,その間,懲戒処分を受けたことはなかったことや,本件で不正受給した経費のうち44万9898円は返還していることのほか,原告が主張するその他の事情を考慮したとしても,被告が原告を懲戒解雇したことが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合に当たるということはできない。

事業場内でのトラブルを契機とした配置転換命令を拒否し欠勤を続けたことを理由とする懲戒解雇が有効とされた事例(東京地裁令和3年2月17日判決)

本件は、複数の事由を理由とする懲戒解雇処分について、労働者がその無効を主張して争った事案です。

裁判所は、3つ主張された懲戒解雇理由のうち、懲戒理由③(以下)のみを認定しました。

(ウ)前記(イ)の事情に鑑みて,被告は,原告に対し,平成31年1月1日付けでC営業所への異動を命じたが,原告はこれに従わない姿勢を示し,平成30年11月28日に上記異動を内示したD Y1’南関東支店長(以下「D支店長」という。)及び同年12月25日に面談したE所長(以下「E所長」という。)に対し「あんたをつぶす。」などと発言した上,平成31年1月9日以降,正当な理由なく会社を欠勤し始め,同日の被告からの電話に出て「納得できないので業務命令に従わない。」と述べた以降は会社からの電話にも出なくなり,何の連絡もなく欠勤している状況が1か月にわたって継続した(以下「懲戒理由③」という。)」※前記(イ)の事情とは、要旨「協力会社の社員とトラブルを起こし、同社からクレームを受けたこと」を指します。

そのうえで、裁判所は以下のとおり述べ、懲戒解雇は有効と判断しました。

エ 本件解雇の有効性
 以上によれば,懲戒理由①,②は認められないものの,懲戒理由③は本件就業規則の懲戒解雇事由に該当すると認められるところ,原告は,本件配転命令の内示を受けた直後から,E所長やD支店長に対して本件配転命令を拒否する姿勢を示した上(1(5)ア),C営業所での初出勤日である平成31年1月9日,Qマネージャーに対して電話で業務命令に納得できないから従わない旨告げて以降,2か月近くにわたって被告からの連絡を無視し続けており(1(5)イ),業務命令違反の程度は著しく,懲戒解雇処分となることもやむを得ないと考えられることに加えて,原告が,平成29年4月に本件譴責処分を受けていること(1(2)イ)や,K氏とのトラブルにおいても鉄の棒を持ったことにつき厳重注意されたことがあること(1(3)ア)のほか,配車担当者に対して配車に関する不満を継続的に述べ,上長から複数回にわたり公平に配車をしていること等の説明を受け(1(3)イ),業務に支障を生じさせていたこと等原告のこれまでの勤務状況等にも鑑みれば,本件解雇は客観的合理的理由があり,社会通念上相当であるといえ,権利の濫用には当たらず,有効である。

通勤手当の不適切受給などを理由とする懲戒解雇が有効とされた事例(東京地裁令和3年3月18日判決)

本件は、大学の准教授として就労していた労働者が、通勤手当の不正受給により懲戒解雇された事案について、懲戒解雇の有効性が問題となったものです。

原告労働者は、懲戒事由該当性及び懲戒解雇の相当性のいずれも争いましたが、結論として、裁判所は懲戒事由該当性を認めたうえ、以下のとおり述べて懲戒解雇が相当であると判断しました。

(2)本件懲戒処分の相当性
ア 使用者が労働者に対して懲戒処分をするに当たっては,使用者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の動機,態様,結果,影響等のほか,当該行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の労働者に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有していると解すべきであり,使用者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に限り,無効と判断すべきものである。
イ これを本件についてみるに,本件通勤手当受給及び本件無届通勤は,採用当初より,支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間の差額を利得する目的で,かつ,届け出た公共交通機関ではなくバイク通勤をする意図でありながら,その目的,意図及び実際にバイク通勤を継続した事実を被告に秘匿するため,あえて被告大学の構内の職員用無料駐車場ではなく,本件店舗に駐輪し,しかも,公共交通機関による通勤手当とバイク通勤による実費との差額を利得するにとどまらず,あえて遠回りの通勤経路を届け出ることにより,公共交通機関による通勤手当を受給していた場合に本来得られる金額より更に高額の通勤手当を6年以上の長期にわたり受給し続けたものであり,被告に採用後一度も通勤定期券を購入したことがないことも踏まえると,受給額全額について詐欺と評価し得る悪質な行為であって,その経緯や動機には酌むべき事情は見当たらない。本件通勤手当受給によって被告が被った損害は,合計約200万円と多額であり,仮に原告がバイク通勤ではなく被告指摘経路によって通勤していた場合であっても,原告届出経路との差額が100万円以上生じることとなり,生じた結果は重大である。原告は,本人尋問において反省している旨供述するものの,本件懲戒処分の前に行われた被告調査委員会及び被告懲罰委員会においては,具体的な反省の弁を述べることがないばかりか,大学の玄関においてバイク,タクシー,自家用車で通勤している者をそれぞれ確認して通勤届出と照合して指導するのが被告の事務職員の職責であるのに,自分は注意されたことはなく,被告の方で注意すべきであったなどと被告に責任を転嫁する言動に及んだ上,不正受給の金額を明示されたにもかかわらず,本件懲戒処分以前に自主的に受給した通勤手当を返還もすることなく,本件懲戒処分後に被告からの訴訟提起を受けてこれを返還したにすぎないことも踏まえると,本件懲戒処分時において本件通勤手当受給及び本件無届通勤につき真摯に反省していたものとは到底認められない。以上に判示した本件通勤手当受給の悪質性,これに係る経緯及び動機に酌むべき事情が見当たらないこと,結果の重大性,真摯な反省が見られないことに加え,被告において他の教職員が同様の不正受給を行うことを抑止する現実的な必要性が高いことも踏まえると,上記懲戒事由該当行為のみでも,戒告やけん責にとどまらず,免職を含む重い懲戒処分が相当である。
 本件研究費請求は,請求に当たってルールを遵守するように注意され,原告も教員便覧記載の当該ルールを守るべきであった旨述べたわずか11日後に,全て3か月を経過した領収書等を添付したものであり,規範無視の態度が顕著である。研究費出金願書の提出に関するルールが定められ,自らの責任において領収書等を整理して提出することが求められる研究費請求の手続において,被告職員の事務負担を徒に増加させた結果を軽視することはできない。加えて,原告が,本件研究費請求において,上記のとおり3か月を超えた領収書等を提出しただけでなく,教育や研究に直接関わる研究目的以外の私的利用を兼ねる書籍や物品等の購入費用は研究費として請求できないことが具体例と共に教員便覧に定められ各教員にも周知されており,平成26年度及び平成28年度の研究費請求において,教員便覧で請求不可とされる具体例に該当する物品等の研究費について請求を却下され,このことについても被告調査委員会において注意され,当該研究費請求に関するルールを認識していたにもかかわらず,当該ルールに反し,教員便覧で請求不可とされている書籍,物品等の購入費用を多数請求したことも,原告が大学教員として有すべき基本的な規範意識を欠いていることを裏付けるものである。
 そして,本件誤記載は,原告が故意に事実とは異なる経歴等の情報を教員紹介に記載したとまで認めることはできないものの,被告大学としてはもとより,教員である原告自身にとっても重要な経歴等の情報を正確に記載しなければならないことを認識していたにもかかわらず,情報が誤った状態のまま漫然と確認,更新せずに放置し,さらに,被告懲罰委員会において指摘を受けたにもかかわらず,自らこれを修正しなかったものであるから,原告は,被告大学における教員紹介の重要性を軽視していたものと見ざるを得ず,教員としてのみならず一般社会人として要求される基本的な注意力を欠いていたものであるというべきである。
 以上に判示した本件各行為の内容やその程度等に関する事情を総合すると,原告は,悪質な詐欺と評価すべき行為により重大な結果を生じさせた上,全体的に規範意識の欠如が顕著であるだけでなく,自己の行為を隠蔽する行動に出るとともに,自己の責任を自覚せず,他者に責任を転嫁するような言動を繰り返すなどしたものであり,被告大学の教員として,学生を指導育成するとともに,その研究を指導する職責を担うにふさわしいとは到底いえないと評価せざるを得ない。
 そうすると,過去に懲戒処分歴がないことに加え,本件懲戒処分による現実的な不利益を含む原告に有利な事情を最大限考慮しても,懲戒処分のうち最も重い懲戒解雇ではなく,退職届を提出した場合には退職と扱って一定の退職金が支給される免職を選択した被告の判断は,社会通念上相当なものであり,裁量権の逸脱又は濫用があったということはできない。
ウ この点,原告は,原告には今後の規則遵守の期待可能性が認められるのであるから,反省を促し,通勤手当を返還させ,二度と遵守事項に違反しないよう注意又は戒告を与えるなど,より軽い懲戒処分を行うべきであった旨主張する。
 しかしながら,本件通勤手当受給が注意や戒告にとどまるような悪質性の低い非違行為ではないことは,既に判示したとおりである。また,届け出た通勤経路のとおりに通勤することは当然のことであり,発覚後に通勤経路のとおり通勤したからといって,原告について宥恕すべき事情があるとはいえない。そして,原告が,被告調査委員会や被告懲罰委員会において,遵守すべき各ルールを知らなかった,職員が通勤届に従って通勤しているかを実際に確認すべきである,原告の研究費請求が適切でない場合には,被告において当該請求が不相当であるとして認めなければよいだけであるなどと自己の責任を被告に転嫁する発言を繰り返し,本件懲戒処分時に,本件通勤手当請求のみならず本件各行為についても真摯に反省していた様子がうかがえないことに加え,上記のとおり本件通勤手当受給及び本件研究費請求の経緯や規範意識の欠如が顕著であることも踏まえると,原告に対し注意を促しても,今後,その注意に応じて規範を遵守するように改善されるとの期待は乏しいと判断して免職とした被告の判断が不当であるとはいえない。
 また,原告は,学生が落としたスマートフォンを原告が拾ったことから調査が開始されたという経緯,被告調査委員会での質問の仕方,調査が行われた時系列等に照らすと,本件通勤手当受給に係る調査は,本件降格処分における訴訟の第1審において形勢が不利になった被告が,原告を懲戒解雇とするために行ったものであり,これに基づく本件懲戒処分は,動機において不当である旨主張する。
 しかし,原告の自宅,被告大学の八王子校舎及び高尾警察署の位置関係,原告が学生のスマートフォンを高尾警察署に届けた時間帯やその経緯からすると,原告がどのように高尾警察署に当該スマートフォンを届けたのか疑問に思うのは自然なことであるから,Kが原告の通勤経路を確認しようとした経緯が不自然であるとはいえず,原告と被告との間で本件降格処分に関する訴訟が第1審において係属中であったことを考慮しても,同調査の開始経緯について原告主張に係る不可解な事情をうかがわせるに足りる事情は見当たらない。また,被告調査委員会で,調査委員は,まず,原告が被告に実際に提出したものであり,当事者間に争いがないと考えられる客観的な書面である通勤届の内容について確認し,その確認中に原告がバイク通勤をしている旨発言したことから,そのことについては後から確認すると原告に伝えた上で,通勤届に関する確認を終えた後に,原告の上記発言も踏まえて,原告のバイク通勤の状況について質問をしているのであるから,被告調査委員会での質問方法や内容が,殊更不自然なものとも認められない。以上のとおり,本件懲戒処分が,被告による不当な動機に基づいて行われたことをうかがわせるに足りる事情を裏付ける証拠はなく,この点の原告の主張は採用することができない。
(3)小括
 したがって,本件懲戒処分は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるから,有効である。

防塵マスク及びディスポーザブルグローブを着用した状態で着任の挨拶を行った行為を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例(さいたま地裁令和3年1月28日判決)

本件は、医師である原告が、被告の運営する病院での着任挨拶に際して防塵マスク及びディスポーザブルグローブを着用した状態(本件装備)であいさつ回り等をしたことが懲戒解雇理由として有効か否か等が争点となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、懲戒解雇は無効と判断しました。

「原告が令和2年4月1日に本件装備を着用してQ1及びQ2内であいさつ回りなどをしたことが、被告和栄会Q1の就業規則84条所定の懲戒解雇事由に該当すると認めることはできない。以下、順に述べる。

 まず、同条ト(故意又は過失によりクリニックに重大な損害を与えたとき)及びチ(患者の個人的秘密を他に漏らしまた、患者に対し不自由・不都合な行為をしたと認められたとき)についてみるに、被告和栄会の主張する損害や不都合は、原告の姿が奇異であったことから、数名の来訪者から職員に対して新型コロナウイルス感染者が出たのかといった問い合わせがあったというようなものであるが、このような問い合わせがあったことを客観的に裏付ける証拠はないばかりか、仮にかかる問い合わせがあったとしても、クリニックに重大な損害が生じたというには足りないし、本件装備の着用自体が患者に対する不都合な行為に当たるということもできない。その他、本件全証拠をもっても、原告の上記行為によって、Q1に具体的な損害が生じたこと、同クリニックの患者に対して何らかの不自由、不都合が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

 次に、同条ヌ「破廉恥行為によりクリニックの名誉を汚したとき」についてみると、この懲戒事由が、「また刑事訴追を受け有罪と判決確定したとき」と並列に挙げられていることからすれば、ここにいう「破廉恥行為」は、倫理上、道義上負うべき義務に違反する行為で、かつその違反の程度が重大なものをいうと解するのが相当である。そして、原告の着用していたマスクは医療現場向けでない大仰な形状のもので、奇異に感じる者がいるかもしれないが、被告和英会において職員の服装に関する特段の規則はないこと、原告は白衣を着用しており、マスクの点を除いて特段奇異な服装をしていたとはいえないことに加え、当時、未知のウイルス感染が拡大傾向にあり、マスクが入手困難な状況であったことは公知といえること、被告和栄会において代替のマスクを提供する等の対応をしなかったこと等を併せ考えれば、本件装備が上記の「破廉恥行為」に当たるということはできない。

 そして、既に判示したところによれば、原告の行為が、同条カ(その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき)に当たるということもできない。

 したがって、被告和栄会が原告を懲戒解雇したことは、就業規則上の根拠を欠くものであり、無効である。」

派遣先での言動を理由とした派遣元による解雇を適法と判断した事例(東京地裁令和2年7月8日判決)

本件は、派遣先であるA社で就労していた原告労働者について、A社から派遣元(被告)に対し、原告の派遣を止めるよう申し入れがなされたこと等を受け、被告は原告に示談金として給与約3か月分を支払う内容で雇用契約の解消を提案しましたが、原告がこれに応じなかったため、被告が原告を解雇した事案であり、解雇の有効性が争点となりました。

裁判所は、要旨、以下のとおり述べ、解雇は有効と判断しました。

※なお、以下において、Bは被告(派遣元)の担当者を指します。

上記(1)のとおり,原告には就業規則30条1号ないし3号に該当する事実があったことが認められるところ,本件解雇の違法性について検討する。
 前記1(3)ウないしオによれば,Bは,平成30年6月25日,AのF氏から呼び出され,原告の派遣を即刻中止してほしい旨伝えられた際に,1か月のチャンスをもらえるように依頼し,原告の職場環境を調整するため,同月26日,原告,B,G氏及びF氏の4者での面談を設定したが,原告は面談の意味が分からないなどとしてこれに従わなかった結果,当該面談はキャンセルとなり,同月27日にはAから被告に対して原告の派遣を辞めるように申入れがなされるに至ったほか,原告のためにAとの関係を調整しようとするBに対し,苦情を述べたり(前記1(3)ウ),「日本語の対応が困難であれば,貴社の日本人の方にご対応をお願いします。」といった侮辱的な言動(前記1(3)エ)をするなど,原告の担当者であるBに対して極めて反抗的な態度をとっていた。また,Eが同月28日に面談した際にも,自宅待機命令にすぐには従おうとはせず,長時間にわたり理由を尋ねるなど食い下がっており(前記1(3)キ),Eへの態度も反抗的なものであった。
 上記のとおり,被告としては,原告のAでの就業を継続するため,原告の業務環境を改善する機会を作ろうとしていたといえるが,原告が自らこれを断り,また,担当者であるBやEに対しても反抗的な態度を取っていたことからすると,被告としてAはもちろん,他の顧客に対しても原告を派遣することは難しいと判断することも不合理であるとはいえない。そして,前記1(3)キないしケによれば,被告は,原告に対して本件解雇前に残期間の給与を補償する内容で退職を勧奨しているところ,原告が同意できない旨伝え,さらに被告からの再提案に対しても原告が期限までに回答をしなかったことからすれば,被告として一定の解雇回避措置はとっていたと評価できる。
 以上によれば,被告による本件解雇にはやむを得ない事由(労働契約法17条)があったことは否定できず,また,本件解雇が原告の苦情申出を理由とするもの(派遣元指針第2の3)ともいえないから,無効かつ違法であるとは評価できず,本件解雇が不法行為に当たるとは認められない。

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