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残業代に関する裁判例

残業代に関する裁判例

残業代(割増賃金)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

なお、残業代に関する裁判例のバックナンバーは,をご参照ください(番号をクリック)。

70時間相当の時間外手当及び30時間相当の深夜手当について定める固定残業代が有効とされた事例(レインズインターナショナル事件、東京地裁令和元年12月12日判決)

本件は、要旨、飲食店で働いていた労働者が「70時間相当の時間外勤務手当、30時間相当の深夜勤務手当分を定める固定残業代制度が無効である」と主張し、割増賃金の支払等を請求した事案です。

裁判所は、以下のとおり判示し、本件における固定残業代制度の有効性を認めました(その他の争点は割愛)。

 ア 労基法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁,最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁,最高裁平成29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。また,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下,これらの規定を「労基法37条等」という。)に具体的に定められているところ,同条は,労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではなく(前掲最高裁第二小法廷判決参照),使用者は,労働者に対し,雇用契約に基づき,時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより,同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。
 そして,雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである(前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決)。


イ そこで,固定割増手当について検討すると,給与規程における賃金の種類,本件固定割増手当規定の規定振り及び時間外勤務手当の算定方法に照らすと(前提事実(3)イ(ア)ないし(ウ)),被告の賃金体系上,固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であることが明らかにされているというべきである。そして,実際に原告に支払われた固定割増手当の額は基本給を基礎賃金として計算した70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額と概ね一致する(例えば,平成27年3月分の固定割増手当の額は月9万6850円であるところ,基本給月17万5150円を基礎賃金とした場合の70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額である9万6710円(賃金単価1041円(17万5150円÷173時間。円未満四捨五入)×(1.25×70時間+0.25×30時間))と概ね一致する。)。加えて,平成27年3月以降の各月の原告の実際の時間外労働時間数及び深夜労働時間数は別紙3「裁判所金額シート」の「法外残業」欄及び「深夜労働」欄のとおりであり,時期によっては本件固定割増手当規定に係る時間外労働及び深夜労働の時間数と比較的大きな差があるものの,被告は,割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたこと(前提事実(3)イ(ウ),甲7,弁論の全趣旨)を考慮すると,本件労働契約上,固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきである。


ウ これに対し,原告は,基本給を時間給に換算するとアルバイト従業員の時間給を下回ることになり,正社員である店長としての職責が賃金に反映されていないことになり不合理であるから,固定割増手当には店長の職責に応じて支給される手当である旨主張する。しかしながら,仮に原告が主張するように基本給を時間給に換算した額がアルバイト従業員の時間給を下回るとしても,正社員に対しては賞与が支払われるなどの他の労働条件においてアルバイト従業員よりも優遇されていること(前提事実(3)イ(カ),甲4,5,乙1,弁論の全趣旨),給与規程上,店長とそうでない正社員とで固定割増手当の内容及び算定方法が区別されていないこと(前提事実(3))からすれば,固定割増手当に店長の職責に対する対価の趣旨が含まれているということはできない。
 また,原告は,固定割増手当が時間外労働等の対価であるとすると,被告が採用時に説明した年収の額を達成するためには実現不可能な長時間の時間外労働をする必要があることなどから固定割増手当が時間外労働の対価ではないと解することが当事者の合理的意思に合致する旨主張するが,原告の採用時に被告が原告が主張するような説明をしたと認めるに足りる証拠はなく,その前提を欠く(なお,証拠(原告本人〔23頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件労働契約締結の前からアルバイト従業員として被告で勤務しており固定割増手当の存在を知っていたことが認められる。)。
 さらに,原告は,少なくとも時間外労働等に対する割増賃金額が固定残業代の額を超える場合に精算して支払うという取扱いが確立していることが固定残業代の支払の有効要件であり,本件システム記録の労働時間が改ざんされたものであって割増賃金を適切に計算できる状態になかったから上記のような取扱いが確立していなかった旨主張するが,そもそも労基法37条や他の労働関係法令が,固定割増手当の支払によって割増賃金を支払ったものといえるために,原告が主張するような取扱いの確立を必須のものとしているとは解されないから,原告の主張は前提を欠き採用することができない。

日給制における固定残業代の定めが有効と判断された事例(ザニドム事件,札幌地裁苫小牧支部令和2年3月11日判決)

本件は,ドライバーとして日給制で就労していた労働者が残業代を請求した事案です。特に,固定残業代の定め(日給額のうち,基本給●円,割増残業代部分が●円,という定め)の有効性が争点となりました。

裁判所は,以下のとおり述べ,固定残業代の定めを有効と認めました。

(1)被告は,原告と被告との間で固定残業代に関する合意があった旨を主張するから,この点について検討する。
 前記認定のとおり,原告は,平成28年3月1日,契約期間が同日から同年10月31日まで,日額9000円の日給制,日給の内訳として基本日給が6112円,割増分日給が2888円などと記載された被告作成の「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)に署名押印したのであるから,原告と被告との間には,基本日給が6112円,割増分日給が2888円とする固定残業代の合意がなされたものと推認される。そして,被告の給与規定(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,固定残業代制度を採用していることが認められ,また,証拠(証人A,被告代表者,乙19,24)及び弁論の全趣旨によれば,被告の人事係担当者及びAマネージャーが,原告に対し,採用前の面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明し,被告の人事担当者が,原告に対し,雇用契約締結時において,「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)の内容を見せて,仕事の内容や給与条件の内容等について説明をしたことが認められる(なお,被告は固定残業代制度を採用し,原告に署名押印を求めた雇用契約書兼労働条件通知書にも固定残業代に関する記載が明記されているのであるから,被告担当者が,原告に対し,あえてこれらに反する説明をする理由も必要性もない。したがって,証人Aらの上記証言内容には信用性が認められる)。これらの事情に照らすと,原告と被告との間には,平成28年3月1日の時点において,「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)記載の労働条件,すなわち,原告の基本日給を6112円とし,割増分日給を2888円とする固定残業代に関する合意があったものと認められる。そして,前記認定のとおり,原告は,平成28年5月3日,基本日給が6112円,割増分日給が3888円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙13)に,平成29年1月28日,契約期間が同年4月1日から同年10月31日まで,基本日給が6288円,割増分日給が3712円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙1)に,同月29日,基本日給が6100円,割増分日給が3900円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙14)にそれぞれ署名押印したほか,平成28年9月30日に退職した際には,原告と被告との間で,従前と同様の条件でスポット的に勤務する旨の合意がなされ,その間,基本日給6288円,割増分日給3712円相当の給与が支払われたのであるから,その都度,原告と被告は,固定残業代の基本日給額と割増分日給額を変更する旨の合意をしたものと認められる。
 これに対し,原告は,被告から固定残業代についての具体的な説明を受けたことはない旨を主張し,原告本人はこれに沿う供述をする。しかし,被告の人事係担当者やAマネージャーが,原告に対し,面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明したことや,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印したことは前述したとおりであり,原告の上記供述内容は直ちに信用することができない。また,原告は,雇用契約書や支給明細書の記載内容は,被告が一方的に操作して作成したものであり,被告は,原告の残業時間がどの程度超過しようとも,最低賃金がどのように変化しようとも,原告に支払う金額は1日1万円までという理解でいたことは明白であるが,原告は,被告からそのような説明を受けたことはないし,合意した事実もないから,固定残業代について,原告と被告との間で意思の合致がないから無効である旨を主張する。しかし,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印をしたことは前述したとおりであり,原告が指摘する事情を踏まえても,原告と被告との間で固定残業代の合意があったとの前記認定は左右されない。さらに,原告は,被告から基本給部分と固定残業代部分との区別について何らの説明も受けていないから,雇用契約時において,両者の区別は明確にされていないし,被告においては,固定残業代制度を適切に運用する意思も実態もないのであるから,実質的にみて,基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されているとはいえない旨を主張する。しかし,被告の人事係担当者やAマネージャーが,原告に対し,面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明したことや,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印したことは前述したとおりであり,形式的にも実質的にも基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されていないとはいえない。
 以上から,原告の主張はいずれも理由がなく,原告と被告との間の固定残業代に関する合意は有効である。

歩合給の算定方法に関し,割増賃金部分の区別ができないと判断された事例(国際自動車(第2次上告審)事件,最高裁第一小法廷令和2年3月30日判決)

本件は,タクシー乗務員として就労する労働者の割増賃金(残業代)の計算方法の妥当性が争点となった事案です。端的には「歩合給の計算に際し,売上高(揚高)の一部から残業代相当額を控除する」という規定の合理性が問題となりました。

最高裁は,要旨,以下のとおり述べ,こうした規定に基づく給与計算では労働基準法37条に定める割増賃金が正しく支払われたとは言えない,と判断しました。

1 賃金の計算規定

「ア 基本給として,1乗務(15時間30分)当たり1万2500円を支給する。

 イ 服務手当(タクシーに乗務せずに勤務した場合の賃金)として,タクシーに乗務しないことにつき従業員に責任のない場合は1時間当たり1200円,責任のある場合は1時間当たり1000円を支給する。

 ウ(ア) 割増金及び歩合給を求めるための対象額(以下「対象額A」という。)を,次のとおり算出する。

 対象額A=(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62

 (イ) 所定内基礎控除額は,所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9000円,土曜日は1万6300円,日曜祝日は1万3200円)に,平日,土曜日及び日曜祝日の各乗務日数を乗じた額とする。また,公出基礎控除額は,公出(所定乗務日数を超える出勤)の1乗務の控除額(平日は原則として2万4100円,土曜日は1万1300円,日曜祝日は8200円)を用いて,所定内基礎控除額と同様に算出した額とする。

 エ 深夜手当は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×深夜労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×深夜労働時間

 オ 残業手当は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間

 カ(ア) 公出手当のうち,法定外休日(労働基準法において使用者が労働者に付与することが義務付けられている休日以外の労働契約に定められた休日)労働分は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×休日労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×休日労働時間

 (イ) 公出手当のうち,法定休日労働分は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.35×休日労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.35×休日労働時間

 (以下,深夜手当,残業手当及び公出手当のうち上記エからカまでの各①の部分を「基本給対応部分」,各②の部分を「歩合給対応部分」という。)

 キ 歩合給(1)は,次のとおりとする。

 対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}

 ク 歩合給(2)は,次のとおりとする。

 (所定内税抜揚高-34万1000円)×0.05

 ケ なお,本件賃金規則は平成22年4月に改定されたものであるところ,同改定前の本件賃金規則においては,所定内基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として3万5000円,土曜日は2万2200円,日曜祝日は1万8800円とされるとともに,公出基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として2万9200円,土曜日は1万6400円,日曜祝日は1万3000円とされていた。また,上記エからカまでの各計算式において「基本給+服務手当」とされている部分がいずれも「基本給+安全手当+服務手当」とされていたほか,上記クの歩合給(2)に相当する定めはなく,「歩合給」として,上記キの歩合給(1)と同様の定めがあった。」

2 割増賃金支払についての基本的な考え方

「ア 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁,最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁,最高裁同年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。また,割増賃金の算定方法は,労働基準法37条等に具体的に定められているが,労働基準法37条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,使用者が,労働契約に基づき,労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない(第1次上告審判決,前掲最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決,前掲最高裁同30年7月19日第一小法廷判決参照)。

 イ 他方において,使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,第1次上告審判決,前掲最高裁同29年7月7日第二小法廷判決参照)。そして,使用者が,労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において,上記の判別をすることができるというためには,当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ,当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは,当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり(前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決参照),その判断に際しては,当該手当の名称や算定方法だけでなく,上記アで説示した同条の趣旨を踏まえ,当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである。」

3 本件について

「前記2(3)ウからキまでのとおり,割増金は,深夜労働,残業及び休日労働の各時間数に応じて支払われることとされる一方で,その金額は,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)の算定に当たり対象額Aから控除される数額としても用いられる。対象額Aは,揚高に応じて算出されるものであるところ,この揚高を得るに当たり,タクシー乗務員が時間外労働等を全くしなかった場合には,対象額Aから交通費相当額を控除した額の全部が歩合給(1)となるが,時間外労働等をした場合には,その時間数に応じて割増金が発生し,その一方で,この割増金の額と同じ金額が対象額Aから控除されて,歩合給(1)が減額されることとなる。そして,時間外労働等の時間数が多くなれば,割増金の額が増え,対象額Aから控除される金額が大きくなる結果として歩合給(1)は0円となることもあり,この場合には,対象額Aから交通費相当額を控除した額の全部が割増金となるというのである。

 本件賃金規則の定める各賃金項目のうち歩合給(1)及び歩合給(2)に係る部分は,出来高払制の賃金,すなわち,揚高に一定の比率を乗ずることなどにより,揚高から一定の経費や使用者の留保分に相当する額を差し引いたものを労働者に分配する賃金であると解されるところ,割増金が時間外労働等に対する対価として支払われるものであるとすれば,割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという上記の仕組みは,当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいものであって,前記(1)アで説示した労働基準法37条の趣旨に沿うものとはいい難い。また,割増金の額が大きくなり歩合給(1)が0円となる場合には,出来高払制の賃金部分について,割増金のみが支払われることとなるところ,この場合における割増金を時間外労働等に対する対価とみるとすれば,出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金に当たる部分はなく,全てが割増賃金であることとなるが,これは,法定の労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱したものといわざるを得ない。

 イ 結局,本件賃金規則の定める上記の仕組みは,その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか,同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして,割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。

 したがって,被上告人の上告人らに対する割増金の支払により,労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」

実際の時間外労働の時間と相当の差異がある時間を想定した固定残業代の定めが有効とされた事例(飯島企画事件,東京地裁平成31年4月26日判決)

本件は,要旨,「時間外手当 約81時間分」「上記手当を超過する場合,別途超過分を支給します」「固定残業手当は,一賃金支払い期間あたり一定時間の時間外労働割増賃金相当分として支払う」との定めによる固定残業代の有効性が争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,固定残業代としての有効性を認めました。

「ア 固定残業代の有効性について

 上記各事実によれば,本件雇用契約における時間外手当は,本件雇用契約締結当初から設けられたものであり,その名称からして,時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に,実際の時間外労働時間を踏まえて,改訂されていたことを認めることができる。

 これらの事実によれば,時間外手当は,時間外労働に対する対価として支払われるものということができ,また,前提事実(3)のとおり,時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから,時間外手当について,有効な固定残業代の定めがあったということができる。

イ 原告(※労働者側)の主張について

 これに対し,原告は,固定残業手当について,時間当たりの単価や,予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため,通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。しかし,有効な固定残業代の定めであるためには,必ずしも原告が指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので,原告の上記主張を採用することはできない。

 原告は,被告が主張する実際の時間外労働に係る時間数と,上記(1)エの時間数が著しく異なるため,時間外手当は,時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして,確かに,被告が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数(書証略)と,上記(1)エ(※時間外手当に相当する残業時間)の時間数は相当程度異なるが,上記アの各事実が認められることのほか,被告の給与計算においてコース組み(※被告会社における,配送ルートを検討する作業)に要した時間が含まれていないこと,被告の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上,平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたこと(書証略)を考慮すると,上記判断は左右されない。」

 

時間外労働の対価性について,賃金費目ごとに判断を示した事例(洛陽交通事件,大阪高裁平成31年4月11日判決)

本件は,タクシーの乗務員として勤務する労働者が,会社に対し割増賃金を請求した事案です。本件では,「基準外手当」「祝日手当」等の各手当が,いわゆる定額残業代に当たるか,という点が争点(のひとつ)になりました。

裁判所は,以下のとおり述べ,賃金項目ごとに判断を示しました。

(1)基本的な考え方

「使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同乗の定める割増賃金に当たる部分とに判別できるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最二小判平成6年6月13日裁判集民事172号673頁,最一小判平成24年3月8日裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである(最三小判平成29年2月28日裁判集民事255号1頁参照)。

 そして,雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである(最一小判平成30年7月19日裁判集民事259号77頁参照)。」

(2)本件について

①「基準外手当Ⅰ」「基準外手当Ⅱ」について

「①上記アのとおり,「本給」が最低賃金額に抑えられ,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,いずれも,時間外労働等の時間数とは無関係に,月間の総運送収入額を基に,定められた割合を乗ずるなどして算定されることになっていること,②前記認定のとおり,1審被告(※会社)において,実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」の合計額との比較が行われることはなく,単に,上記アの各手当等の計算がされて給与明細書に記載され,その給与が支給されていたこと,③前記認定のとおり,1審被告の求人情報において,月給が,固定給に歩合給を加えたものであるように示され,当該歩合給が時間外労働等に対する対価である旨は示されていないこと(1審被告は,本件期間においても同旨の求人情報を出していたものと推認される。),④上記のような賃金算定方法の下において,1審被告の乗務員が,法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いことからすると,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,乗務員が時間外労働等をしてそれらの支給を受けた場合に,割増賃金の性質を含む部分があるとしても,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」ため,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,「いずれも通常の労働時間の賃金として,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。」

②「祝日手当」について

「「祝日手当」は,通常の労働日ではない「祝日」に勤務して初めて支給されるものであるから,時間外労働等の対価の性質を有するというべきである。」

③「時間外調整給」について

「「時間外調整給」は,月間の総運送収入に一定の割合を乗ずるなどして算定されるものであり,時間外労働等の対価であることをうかがわせる定めも見当たらない。また,1審被告の乗務員が時間外労働等をして「時間外調整給」の支給を受けた場合に,「時間外調整給」に割増賃金の性質を含む部分があるとしても,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。したがって,「時間外調整給」は,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。」

④「公休出勤手当」について

「公休日に出勤して初めて支給されるものであって,その算定方法も,その出勤した公休日の運送収入額のみを基礎として算定するものであることに照らせば,「公休出勤手当」は全て時間外労働等の対価と見るのが相当である。」

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弁護士 高井翔吾

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