【相談無料、全国対応可】解雇、残業代、ハラスメント等労働問題のご相談なら 弁護士高井翔吾

【初回相談無料、全国対応】
労働問題(解雇、残業代、セクハラパワハラ等労働事件全般)なら
弁護士 高井翔吾

東京都港区赤坂2-20-5デニス赤坂ビル402(池田・高井法律事務所)

受付時間:平日9:30~17:30
 

無料相談実施中

お気軽にお問合せください

残業代に関する裁判例

残業代に関する裁判例

残業代(割増賃金)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

なお、残業代に関する裁判例のバックナンバーは,をご参照ください(番号をクリック)。

専門業務型裁量労働制の要件である労使協定が無効とされ、残業代の支払いが認められた事例(松山地裁令和5年12月20日判決)

本件は、学校法人について、専門業務型裁量労働制の要件としての労使協定の有効性等が争点となった事案です。裁判所は以下のとおり述べ、労使協定は無効であるため専門業務型裁量労働制の適用はないとして、残業代の支払いを命じました。

2 本件就業規則改正等の有効性(本件改正就業規則19条の2について)(争点①)
(1)労働基準法38条の3による専門業務型裁量労働制の要件を満たすか
ア 総論
 専門業務型裁量労働制を採用するに当たっては、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結する必要があり(労働基準法38条の3第1項)、過半数代表者の選出手続は、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続」である必要がある(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。そして、過半数代表者は、使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があると解される。
イ 平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定について
 被告大学において、平成29年度の過半数代表者の選出は、選挙により、B教授の信任投票が行われているところ、選挙権者数は493名、信任票が124票であったことから(前記第6の1(2)ア)、B教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない。
 したがって、B教授は、「労働者の過半数を代表する者」とは認められないことから、B教授と被告大学との間で締結された平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
 なお、被告大学は、平成29年度の過半数代表者の選出が有効にされたことの根拠として、本件過半数代表者選出規程15条2項が、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなす旨規定していること、選挙に先立ち、選挙権者に対して上記規定が周知されていたことなどを指摘する。しかしながら、本件において、労働者は、上記規程の下においても、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものとして投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がB教授の選出を支持していることが明確になるような民主的なもの手続がとられているとは認められず、この点についての被告大学の主張は採用することができない。
ウ 平成31年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定について
 本件過半数代表者選出規程は、過半数代表者の選出選挙を行うため、過半数代表者が指名する者1名を含む5名の委員で構成される選挙管理委員会を置くことを定めているところ、本件解散後選挙管理委員会は、委員のうち過半数代表者が指名する者1名が欠員となっていた(前記第6の1(3)イ(ア)a)。本件解散後選挙管理委員会で欠員となった1名の委員は、他の4名の委員(本件教職員会が推薦する教育職員2名及び事務職員2名)とは異なり、全労働者の選挙により選出された過半数代表者が指名する者であって、選挙の中立性において重要な役割を果たす者であったといえる。そして、選挙管理委員会の業務には、選挙権者及び被選挙権者名簿の作成、投開票の管理及び報告書の作成といった公正な選挙の根幹をなすものが含まれている上、選挙の効力の異議申立てに対する審議という選挙の効力に関する自律的な判断権をも付与されていることを考慮すれば、選挙管理委員会の委員のうち過半数代表者が指名する者1名の欠員は、軽微な瑕疵とは認められない。この点、被告大学は、過半数代表者が指名する者1名が欠員となっているのは、前任のB教授の任期が満了し、過半数代表者が欠員となっていたことによるやむを得ないものであったから、欠員が生じたまま選挙管理委員会を構成したことは違法でないと主張するが、以上判示したところに照らし、採用することはできない。
 また、平成30年度の過半数代表者選出選挙に至る経緯をみると、①被告大学は、被告Y1による原告X1の過半数代表者への立候補に対する不当な介入(後記5)につき、本件解散前選挙管理委員会から再三にわたり問題の解決を求められながら、問題の解決に向けた取組みをしなかったこと、②そのため、本件解散前選挙管理委員会が、このまま選挙が行われればその効力に重大な疑義が生じるとの見解を示し、全会一致の判断の下、委員全員が辞職したことで委員会を解散したこと、③本件解散後選挙管理委員会は、そのような経緯の中、本件過半数代表者選出規程に定められた選挙管理委員会の委員の構成に従わず、被告大学の依頼を受けた本件教職員会の内部における協議によって設置されたものであること、④本件解散後選挙管理委員会は、本件労働組合から選挙管理委員会の委員の構成が本件過半数代表者選出規程に定められた要件を満たしていない旨の指摘がされたにもかかわらず、同指摘に対応をしないまま平成30年度の過半数代表者選出選挙を実施したこと、⑤原告らが、本件解散後選挙管理委員会に対し、票の見分や選挙結果の詳細な説明を求めるとともに、選挙の効力に異議があるとして異議申立てをしたが、本件解散後選挙管理委員会は、原告らの異議を認めなかったことなどの事実が認められる(前記第6の1(3))。
 以上の事実を総合すると、平成30年度の過半数代表者選出選挙は、その公正さに疑義があるといわざるを得ず、同選挙において、選挙権者の過半数がG教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられたとは認められない。
 したがって、G教授は、労働者の「過半数を代表する者」とは認められないことから、G教授と被告大学との間で締結された平成31年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
(2)小括
 以上のとおり、平成30年度及び平成31年度において、被告大学が適格性を有する過半数代表者との間で専門業務型裁量労働制についての労使協定を締結したとは認められないから、本件就業規則改正の有効性を判断するまでもなく、被告大学が、原告らに対し、専門業務型裁量労働制及びそれを前提とした休日及び深夜勤務の許可制を適用することは違法となる。

トラックの運転業務に従事する労働者について、「残業手当」名目の賃金が、固定残業代として無効とされた事例(東京地裁令和5年3月29日判決)

本件は、トラック運転手(正社員)の方について、会社から支給される給与のうち、「残業手当」部分が固定残業代として有効か等が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、固定残業代としての有効性を否定しました。

「認定事実によれば、原告が入社した平成28年3月時点での月例賃金は基本給12万円及び「残業手当」12万円の合計24万円であり、当時の●県の最低賃金は845円であった。仮に「残業手当」名目で支払われていた賃金が固定残業代であり、原告の基本給のみが基礎賃金であるとすると、時間単位は744円であり、当時の●県の最低賃金を100円以上下回ることになる。被告会社は、従業員が70名も在籍する運送会社であり、そのような会社が最低賃金を100円以上も下回る違法な労働条件で契約を締結するとは考え難いし、労働者も最低賃金を100円以上を下回る労働条件を受け入れるとは考え難い。また、原告と被告会社との間で労働契約を締結するに当たって、雇用契約書や労働条件通知書は作成されておらず、被告会社が原告に対して上記「残業手当」名目の賃金についてどのような説明をしたのかも明らかではない。このような点に照らすと、上記「残業手当」名目の賃金には通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると解さざるを得ず、その部分については時間外労働等に対する対価性を欠くというべきである。その結果、上記「残業手当」名目の賃金の通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできないから、上記「残業手当」12万円は固定残頂戴の定めとして有効とは認められない。

 したがって、原告が入社した平成28年3月時点での月例賃金は基本給12万円及び「残業手当」12万円の合計24万円であるが、その全額が通常の労働時間の賃金に当たる部分として基礎賃金になるというべきである。」

なお、本件では、その後、原告の基本給は16万、及び「残業手当」名目の賃金は17万、22万、24万、26万と増額されており、この点をどう考えるかに関しても「原告の月例賃金が変更される都度、「残業手当」名目の賃金を固定残業代とする合意があったのかどうかも不明である上、その点を措くとしても、労働条件の不利益変更(※)に対する同意が労働者の自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するともいえないし、また、「残業手当」名目の賃金は、時間外労働等に対する対価性を欠き、通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできないから、いずれにせよ、「残業手当」名目の賃金が固定残業代の定めとして有効とは認められない。」

(※)本判決の認定では、当初の基礎賃金が24万円となるので、「残業手当」を固定残業代として有効と考えた場合、基礎賃金が24万⇒16万円と不利益に変更されていることになる、という意味です。

時間外労働に対する割増賃金部分が明確に判別できないとされた事例(最高裁第二小法廷令和5年3月10日判決)

本件は、要旨、トラック運転手として就労する労働者の賃金について、運行に応じた賃金総額を決定後、定額の基本給及び歩合給を控除した額を割増賃金とする制度について、その適法性等が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、これを否定しました。

(1) 労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる。そして、使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。
 雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである(以上につき、最高裁平成29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁、最高裁同年(受)第908号令和2年3月30日第一小法廷判決・民集74巻3号549頁等参照)。
 (2)ア 前記事実関係等によれば、新給与体系の下においては、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される本件割増賃金の総額のうち、基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条等に定められた方法により算定された額が本件時間外手当の額となり、その余の額が調整手当の額となるから、本件時間外手当と調整手当とは、前者の額が定まることにより当然に後者の額が定まるという関係にあり、両者が区別されていることについては、本件割増賃金の内訳として計算上区別された数額に、それぞれ名称が付されているという以上の意味を見いだすことができない。
 そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かを問題とすべきこととなる。
 イ(ア) 前記事実関係等によれば、被上告人は、労働基準監督署から適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことを契機として新給与体系を導入するに当たり、賃金総額の算定については従前の取扱いを継続する一方で、旧給与体系の下において自身が通常の労働時間の賃金と位置付けていた基本歩合給の相当部分を新たに調整手当として支給するものとしたということができる。そうすると、旧給与体系の下においては、基本給及び基本歩合給のみが通常の労働時間の賃金であったとしても、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、新給与体系の下における基本給等及び調整手当の合計に相当する額と大きく変わらない水準、具体的には1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる(第1審判決別紙8参照)。一方、上記のような調整手当の導入の結果、新給与体系の下においては、基本給等のみが通常の労働時間の賃金であり本件割増賃金は時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、前記2(3)の19か月間を通じ、1時間当たり平均約840円となり、旧給与体系の下における水準から大きく減少することとなる。
 また、上告人については、上記19か月間を通じ、1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることからすれば、本件割増賃金が時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたこととなる。
 しかるところ、新給与体系の導入に当たり、被上告人から上告人を含む労働者に対しては、基本給の増額や調整手当の導入等に関する一応の説明がされたにとどまり、基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い上記のような変化が生ずることについて、十分な説明がされたともうかがわれない。
 (イ) 以上によれば、新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。
 ウ そして、前記事実関係等を総合しても、本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなるから、被上告人の上告人に対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。

タイムカード等に関する文書提出命令が有効と判断された事例(東京高裁令和4年12月23日決定)

本件は、時間外手当等の請求事件(訴訟)において、タイムカードについて原審裁判所が会社側に文書提出命令を出したところ、会社側がその当否を争った事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、会社側(抗告人)の主張を退け、文書提出命令は有効と判断しました。

抗告人は、(1)従業員の勤怠管理は業務日報メールで行っており、相手方主張の従業員にAのタイムカード機能への入力を命じたこともなく、それにより賃金計算をしたこともない、同機能は出退勤しなくとも記録を行うことが可能であり、自動入力された時間を変更することができるなど内容の信用性にも限界がある、また、抗告人がA社に問い合わせをしたが抗告人のタイムカードの情報は残されていないと回答を受け、相手方からの情報も得られずタイムカードの情報を取得できなかった、(2)基本事件においては業務日報が提出されており、仮に相手方主張のタイムカードがあったとしても、上記のような信用性の高いとはいえないものを取り調べる必要はない、と主張する。
 しかしながら、(1)については抗告人において、上記のタイムカード機能を使用していたことが認められ、そうであれば、導入した抗告人においてタイムカードのデータを保持しているというべきであって、利用契約の契約者である抗告人においてA社から入手して提出すること可能であると考えられる。なお、タイムカードの信用性などは文書の所持、保有の事実を左右する事情ではない。
(2)についても、タイムカードの信用性は審理の中で判断されるものであり、受訴裁判所においても必要性があるとしているのであるから、抗告人の主張では本件のタイムカードの取調べの必要性がないとはいえないのであり、抗告人の主張は採用できない。

手当について、割増賃金としての区分性及び対価性が肯定された事例(大阪地裁令和5年1月18日判決)

本件は、被告における各種手当について、割増賃金の支払としての有効性等が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、これを肯定しました。

1 争点1(時間外手当Aの支払により労基法37条の定める割増賃金が支払われたといえるか)について
(1)特定の手当の支払により労基法37条の定める割増賃金が支払われたといえるか否かに係る判断基準
ア 労基法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁、最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁、最高裁同年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。また、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令(以下、これらの規定を併せて「労基法37条等」という。)に具体的に定められているが、同条は、労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、使用者が、労働契約に基づき、労基法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない(国際自動車事件第1次上告審判決、前掲最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決、前掲最高裁同30年7月19日第一小法廷判決参照)。
イ 他方において、使用者が労働者に対して労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、その前提として、労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁、最高裁同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁、国際自動車事件第1次上告審判決、前掲最高裁同29年7月7日第二小法廷判決参照)。そして、使用者が、労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労基法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において、上記の判別をすることができるというためには、当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ、当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは、当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり(前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決参照)、その判断に際しては、当該手当の名称や算定方法だけでなく、上記アで説示した同条の趣旨を踏まえ、当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである(国際自動車事件第2次上告審判決参照)。
(2)検討
 原告らは、前記第2の3(1)の原告らの主張のとおりに主張する。そこで、以下では、時間外手当Aの名称及び算定方法のほか、労基法37条の趣旨を踏まえ、本件各時間外手当及びそのうちの時間外手当Bの算定の基礎となる能率手当やそれらの計算方法(本件計算方法)を含む被告の賃金体系全体における時間外手当Aの位置付けにも留意し、時間外手当Aが時間外労働に対する対価の趣旨で支払われたものであるといえるか、ひいては、時間外手当Aについて、通常の労働時間に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるかについて検討する。
ア 被告の賃金体系全体における本件各時間外手当及び能率手当について
(ア)前提事実(2)によると、本件賃金制度においては、原告らを含む集配職の賃金は、職務給、能率手当等からなる基準内賃金及び時間外手当、通勤手当等からなる基準外賃金によって構成されている。このうちの時間外手当は、①能率手当以外の基準内賃金を割増賃金の基礎となる賃金とし、労基法37条等に沿った割増賃金の計算式に従って算出される時間外手当A及び時間外手当Cと、②出来高払制の賃金である能率手当を割増賃金の基礎となる賃金とし、労基法37条等に沿った出来高払制の割増賃金の計算式に従って算出される時間外手当Bから構成されている。上記②の能率手当は、労働者が従事した集配業務の量を表す諸要素を考慮して所定の計算式により算出された賃金対象額が時間外手当Aの額を上回る場合に、その超過差額が手当として支給されるものである(本件計算方法)。
 そして、前提事実(2)及び証拠(甲12~14)によれば、本件計算方法において、賃金対象額は、取り扱った荷物の重量、伝票枚数、客の軒数、走行距離等の集配業務の業務量に基づいて算出される数額であること及び原告らを含む集配職には、集配先を回る経路や順序、荷物の積み込み方法等の具体的な業務遂行方法に一定の裁量があり、各人の工夫によって効率的に業務を遂行することができるようになり、効率的に業務に従事することにより、当該業務に要する時間を削減するとともに、追加業務の指示を受けるなどして、賃金対象額を増額させることができることが認められる。そうすると、能率手当は、業務遂行に当たり一定の裁量が認められる集配職に対し、効率的に業務を遂行することに対するインセンティブを与え、これによって業務の効率化を図る目的で設けられた出来高払制の手当であって、その算定方法も一定の合理性を有するものであるということができる。
 また、証拠(甲12)によれば、上記のような能率手当の制度は、被告の従業員の過半数が加入する労働組合との協議及び調整を経て導入され、上記労働組合からの要望を踏まえて改定されてきたものであることが認められ、能率手当の制度は、導入及び改定に係る手続面からしても、一定の合理性を有するものであるといえる。
(イ)証拠(甲1、2、4~12(枝番含む。))によれば、本件各時間外手当及び能率手当の算出方法は、本件賃金規則等に明記されていたこと、各賃金項目とその金額は、被告から原告らに対して交付される給与支払明細書に明確に区分して記載されていたこと並びに被告の賃金規則及び賃金規則細則は各支店に備え置かれ、いつでも閲覧することが可能な状態に置かれていたことが認められる。
 これらの事実によれば、本件賃金規則等において、本件各時間外手当は、時間外労働等に対する割増賃金として、他の賃金とは明確に区別された形式により定められており、本件賃金規則等は、原告らと被告との間の労働契約の内容となっていたものと認めることができる。
イ 時間外手当Aについて
(ア)時間外手当Aは、その名称及び計算方法からすると、原告らを含む集配職が時間外労働等をした場合にその対価として支払われるものということができる。この時間外手当Aは、後に検討する賃金対象額の多寡にかかわらず、原告らを含む集配職の時間外労働時間数に応じて必ず支払われるものである。
(イ)もっとも、本件計算方法によると、時間外手当Aは、出来高払制の賃金である能率手当を算定する際、賃金対象額から控除されることになる。すなわち、集配職が全く時間外労働等をしなかった場合、時間外手当Aは発生せず、業務量等に対応して算出された賃金対象額全額が能率手当となるのに対し、集配職が時間外労働等をした場合には、賃金対象額から時間外手当Aが控除されることになり、時間外手当Aが賃金対象額を上回ると、能率手当が0円となることもある。このため、出来高払制の賃金である能率手当を得るに当たり、時間外手当Aを経費とみて、その全額を労働者に負担させることになり、これが労基法37条の趣旨に反しないかが問題になる。
 この点について、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしておらず、売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない(国際自動車事件第1次上告審判決参照)。しかし、時間外手当Aが時間外労働等に対する対価として支払われるものか、あるいは、本来は出来高払制の賃金として支払うことが予定されている賃金の一部を名目上割増賃金に置き換えて支払われているにすぎないものかという点については、被告において上記アのとおりの制度が採用されていることを前提として、能率手当を算定する本件計算方法を踏まえて検討する必要がある。
ウ 能率手当及び時間外手当Bについて
(ア)能率手当の位置付け
 上記アのとおり、能率手当は、集配職に対し、効率的に業務を遂行することに対するインセンティブを与え、これによって業務の効率化を図る目的で設けられた出来高払制の手当である。他方、本件賃金制度において、賃金対象額が時間外手当Aの額を上回り、被告に能率手当の支払義務が発生する場合には、当該従業員が時間外労働等に従事していれば、被告には時間外手当Bの支払義務も発生するから、被告は、能率手当を支払うことによっても、集配職に対する割増賃金の支払義務を免れることはできない。そうすると、能率手当の制度が、売上高等を得るに当たり生ずる割増賃金を経費と見た上で、その全額を労働者に負担させることを目的とするものとはいい難い。
(イ)賃金対象額の性質
 原告らと被告との間の労働契約において、賃金対象額自体について、出来高払制の通常の労働時間の賃金として支払われる旨の合意がされているものではなく、本件賃金制度における賃金対象額は、能率手当を算出するための前提として、業務量等に基づいて算出される計算上の数額にすぎない。すなわち、労働契約上、賃金対象額を出来高払制の賃金として支払われることが、原告らに保障されているものではない。そのため、能率手当の算出に当たり、賃金対象額から時間外手当Aの金額を控除することとしても、本来原告に対して支払うことが予定されている賃金の一部を名目上割増賃金に置き換えたことにはならない。
(ウ)能率手当と時間外手当Bとの関係
 本件賃金制度上の出来高払制の賃金である能率手当の算出過程において、賃金対象額が時間外手当Aの金額を上回らないときには、結果的に、能率手当の額が0円になる場合もあり得る。出来高払制の割増賃金である時間外手当Bは、能率手当の金額を割増賃金の基礎となる賃金として、労基法37条等の定める計算方法に従って算出されるものであるから(前提事実(2))、能率手当の額が0円になる場合には、必ず時間外手当Bの額も0円になる。この意味において、出来高払制の割増賃金として支払われるものの中に出来高払制の通常の労働時間の賃金として支払われる部分が含まれ、労基法37条の割増賃金に当たる部分とそうでない部分が判別不能になることはないといえる。
エ 本件計算方法と労基法37条の趣旨との関係
(ア)本件計算方法について
 国際自動車事件第1次上告審判決によれば、出来高払制の賃金を算出するに当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から労基法37条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする定めが当然に同条の趣旨に反するものと解することはできない。
 したがって、出来高払制の賃金の算出過程において、結果的に当月の出来高払制の賃金が0円になったとしても、労基法27条による賃金の保障の規定等に反しない限り、そのことのみをもってその賃金体系が労基法37条の趣旨に反するものになるということはできない。
(イ)本件賃金制度と労基法27条との関係について
 労基法27条は、出来高払制の労働者に対し、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないと定めているところ、本件賃金制度は、固定給と出来高払制の賃金を併用するものであって、本件請求期間中の原告らに対する賃金の支払状況(前提事実(3)イ)及び弁論の全趣旨によれば、原告らの実収賃金のおおむね半分から6割以上は固定給及び時間外手当Aであり、これらの賃金によって同条の定める労働時間に応じた賃金の保障がされているものと認められる。
 したがって、本件賃金制度が労基法27条に反するともいえない。
オ 本件各時間外手当の関係について
 前提事実(2)によれば、本件賃金制度においては、時間外手当Aは、賃金対象額の多寡にかかわらず、必ず支払われることになり、時間外手当Aが賃金対象額を超過する場合には、能率手当、ひいては時間外手当Bは支給されず、時間外手当Aのみが支給される。そして、能率手当が支給される場合において、時間外労働等があれば、時間外手当Aのみならず、時間外手当Bが支給され、時間外労働が60時間を超える場合には、時間外手当Cも支給される。加えて、上記ウ及びエのとおり、原告らを含む集配職には、固定給及び時間外手当Aによって労働時間に応じた賃金の保障がされている一方で、労働契約上、必ず一定額の出来高払制の賃金の支払が保障されているものではない。
 これらのことからすれば、被告は、労基法37条等の定める時間外労働時間等に対する割増賃金を全て負担しており、能率手当は、集配業務の効率化を目的とした出来高払制の賃金として、賃金対象額を上限として時間外手当Aを含む固定給部分に追加して支給されるという性質を有するものである。原告らと被告との間の労働契約において、賃金対象額が出来高払制の賃金として支払われることが保障されているものではないから、本件計算方法は、本来支払われるべき出来高払制の賃金から割増賃金相当分を控除する旨を定めたものともいえない。結局のところ、本件賃金制度における能率手当は、実質的に見ても、売上高等を得るに当たり生ずる経費としての割増賃金の全額を労働者に負担させるものであるということはできない。
 そうすると、本件計算方法が労基法37条の趣旨に反し、その実質において、出来高払制の通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合に、その一部につき名目のみを割増賃金に置き換えて支払うものであると評価することはできない。時間外手当Aは、その名称及び計算方法からして、時間外労働等の対価として支払われるものであり、時間外手当Aに通常の労働時間に対する賃金が含まれているとみるべき事情はない。
 したがって、時間外手当Aは、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているといえる。
(3)小括
 以上のとおりであって、本件賃金制度において、時間外手当Aは、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされており、かつ、他の賃金とは明確に区別された形式により定められているから、本件労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるといえる。したがって、時間外手当Aの支払により、労基法37条の定める割増賃金が支払われたということができる。

最終的な人事権を有しない社員について、管理監督者性が認められた事例(東京地裁令和4年3月23日判決)

本件は、設立当時からの社員である原告労働者の解雇に関し、地位確認請求及び未払残業代の請求が行われた事案です。残業代請求に関し、原告の管理監督者性が争点となり、裁判所は以下のとおり述べ、管理監督者性を肯定しました。

3 争点(2)(管理監督者に該当するか)について
(1)労基法41条2号の規定に該当する者が管理監督者として時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置を講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。
 そうすると、同項所定の管理監督者に該当するかは、実質的に上記のような法の趣旨が充足されるような立場にあると認められるか否かを、職務権限、勤務態様及び待遇を総合的に考慮して判断すべきものと解される。
(2)これを本件についてみると、前提事実等によれば、以下の事情が指摘できる。
 ア 職務権限については、原告は、被告代表者と並んで、被告設立時からの社員であり、社内で被告代表者に次ぐ地位であった。被告における人事上の最終権限は被告代表者が有していたものの、これは、被告代表者が経営と営業、原告が登記申請等の現場実務の取り仕切りという社員間の役割分担を行っていたことに起因するものである。現場実務の遂行方法の取り決めや現場での従業員の指導は原告に任されており、被告代表者がこれに口を挟むことは基本的になかった。休日に現場を回る際にも、被告代表者の個別の許可を得ることなく社外のKを同行することがあった。名古屋事務所の開設等の重要な経営事項についても、原告に相談の上で決定されていたことがうかがわれる。
 イ 勤務態様については、原告は、勤務時間中に仕事を抜けて歯科医院に通院するなどしていたが、仕事を抜けた分について減給等がされることはなく、これに対する被告代表者からの注意指導もなかった。また、平成31年1月以降は、自らの裁量で休日出勤や代休の日を決めていた。
 ウ 待遇については、原告は、当初は月額50万円、平成30年1月以降は月額60万円の報酬を得ており、これは、同じ土地家屋調査士の資格者で社員でもあるA及びBよりも月額10万円以上高く、他の被告従業員(土地家屋調査士以外の関連資格を有する者を含む。)の基本給(約20万円ないし30万円程度)や原告の前職での報酬水準(年収450万円程度)よりも大幅に高い。
 なお、令和元年4月から令和2年3月までの間のAの時間外労働の状況が前記認定事実(5)のとおりであることを踏まえれば、月に45時間を超えて時間外労働に従事した場合の残業代を含めたA及びBの給与額が、原告の報酬額と同水準であったと認めるに足りる証拠はなく、他の従業員らの残業代を含めた給与額が、原告の報酬額と同水準であったと認めるに足りる証拠もない。
(3)以上によれば、被告の主張を踏まえても、原告は、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに、待遇及び勤務態様においても、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられていたということができ、実質的に上記のような法の趣旨が充足されるような立場にあったと認められるから、労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認めるのが相当である。

70時間相当の時間外手当及び30時間相当の深夜手当について定める固定残業代が有効とされた事例(東京地裁令和元年12月12日判決)

本件は、要旨、飲食店で働いていた労働者が「70時間相当の時間外勤務手当、30時間相当の深夜勤務手当分を定める固定残業代制度が無効である」と主張し、割増賃金の支払等を請求した事案です。

裁判所は、以下のとおり判示し、本件における固定残業代制度の有効性を認めました(その他の争点は割愛)。

 ア 労基法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁,最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁,最高裁平成29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。また,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下,これらの規定を「労基法37条等」という。)に具体的に定められているところ,同条は,労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではなく(前掲最高裁第二小法廷判決参照),使用者は,労働者に対し,雇用契約に基づき,時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより,同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。
 そして,雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである(前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決)。


イ そこで,固定割増手当について検討すると,給与規程における賃金の種類,本件固定割増手当規定の規定振り及び時間外勤務手当の算定方法に照らすと(前提事実(3)イ(ア)ないし(ウ)),被告の賃金体系上,固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であることが明らかにされているというべきである。そして,実際に原告に支払われた固定割増手当の額は基本給を基礎賃金として計算した70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額と概ね一致する(例えば,平成27年3月分の固定割増手当の額は月9万6850円であるところ,基本給月17万5150円を基礎賃金とした場合の70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額である9万6710円(賃金単価1041円(17万5150円÷173時間。円未満四捨五入)×(1.25×70時間+0.25×30時間))と概ね一致する。)。加えて,平成27年3月以降の各月の原告の実際の時間外労働時間数及び深夜労働時間数は別紙3「裁判所金額シート」の「法外残業」欄及び「深夜労働」欄のとおりであり,時期によっては本件固定割増手当規定に係る時間外労働及び深夜労働の時間数と比較的大きな差があるものの,被告は,割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたこと(前提事実(3)イ(ウ),甲7,弁論の全趣旨)を考慮すると,本件労働契約上,固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきである。


ウ これに対し,原告は,基本給を時間給に換算するとアルバイト従業員の時間給を下回ることになり,正社員である店長としての職責が賃金に反映されていないことになり不合理であるから,固定割増手当には店長の職責に応じて支給される手当である旨主張する。しかしながら,仮に原告が主張するように基本給を時間給に換算した額がアルバイト従業員の時間給を下回るとしても,正社員に対しては賞与が支払われるなどの他の労働条件においてアルバイト従業員よりも優遇されていること(前提事実(3)イ(カ),甲4,5,乙1,弁論の全趣旨),給与規程上,店長とそうでない正社員とで固定割増手当の内容及び算定方法が区別されていないこと(前提事実(3))からすれば,固定割増手当に店長の職責に対する対価の趣旨が含まれているということはできない。
 また,原告は,固定割増手当が時間外労働等の対価であるとすると,被告が採用時に説明した年収の額を達成するためには実現不可能な長時間の時間外労働をする必要があることなどから固定割増手当が時間外労働の対価ではないと解することが当事者の合理的意思に合致する旨主張するが,原告の採用時に被告が原告が主張するような説明をしたと認めるに足りる証拠はなく,その前提を欠く(なお,証拠(原告本人〔23頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件労働契約締結の前からアルバイト従業員として被告で勤務しており固定割増手当の存在を知っていたことが認められる。)。
 さらに,原告は,少なくとも時間外労働等に対する割増賃金額が固定残業代の額を超える場合に精算して支払うという取扱いが確立していることが固定残業代の支払の有効要件であり,本件システム記録の労働時間が改ざんされたものであって割増賃金を適切に計算できる状態になかったから上記のような取扱いが確立していなかった旨主張するが,そもそも労基法37条や他の労働関係法令が,固定割増手当の支払によって割増賃金を支払ったものといえるために,原告が主張するような取扱いの確立を必須のものとしているとは解されないから,原告の主張は前提を欠き採用することができない。

日給制における固定残業代の定めが有効と判断された事例(札幌地裁苫小牧支部令和2年3月11日判決)

本件は,ドライバーとして日給制で就労していた労働者が残業代を請求した事案です。特に,固定残業代の定め(日給額のうち,基本給●円,割増残業代部分が●円,という定め)の有効性が争点となりました。

裁判所は,以下のとおり述べ,固定残業代の定めを有効と認めました。

(1)被告は,原告と被告との間で固定残業代に関する合意があった旨を主張するから,この点について検討する。
 前記認定のとおり,原告は,平成28年3月1日,契約期間が同日から同年10月31日まで,日額9000円の日給制,日給の内訳として基本日給が6112円,割増分日給が2888円などと記載された被告作成の「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)に署名押印したのであるから,原告と被告との間には,基本日給が6112円,割増分日給が2888円とする固定残業代の合意がなされたものと推認される。そして,被告の給与規定(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,固定残業代制度を採用していることが認められ,また,証拠(証人A,被告代表者,乙19,24)及び弁論の全趣旨によれば,被告の人事係担当者及びAマネージャーが,原告に対し,採用前の面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明し,被告の人事担当者が,原告に対し,雇用契約締結時において,「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)の内容を見せて,仕事の内容や給与条件の内容等について説明をしたことが認められる(なお,被告は固定残業代制度を採用し,原告に署名押印を求めた雇用契約書兼労働条件通知書にも固定残業代に関する記載が明記されているのであるから,被告担当者が,原告に対し,あえてこれらに反する説明をする理由も必要性もない。したがって,証人Aらの上記証言内容には信用性が認められる)。これらの事情に照らすと,原告と被告との間には,平成28年3月1日の時点において,「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙12)記載の労働条件,すなわち,原告の基本日給を6112円とし,割増分日給を2888円とする固定残業代に関する合意があったものと認められる。そして,前記認定のとおり,原告は,平成28年5月3日,基本日給が6112円,割増分日給が3888円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙13)に,平成29年1月28日,契約期間が同年4月1日から同年10月31日まで,基本日給が6288円,割増分日給が3712円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙1)に,同月29日,基本日給が6100円,割増分日給が3900円などと記載された「雇用契約書兼労働条件通知書」(乙14)にそれぞれ署名押印したほか,平成28年9月30日に退職した際には,原告と被告との間で,従前と同様の条件でスポット的に勤務する旨の合意がなされ,その間,基本日給6288円,割増分日給3712円相当の給与が支払われたのであるから,その都度,原告と被告は,固定残業代の基本日給額と割増分日給額を変更する旨の合意をしたものと認められる。
 これに対し,原告は,被告から固定残業代についての具体的な説明を受けたことはない旨を主張し,原告本人はこれに沿う供述をする。しかし,被告の人事係担当者やAマネージャーが,原告に対し,面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明したことや,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印したことは前述したとおりであり,原告の上記供述内容は直ちに信用することができない。また,原告は,雇用契約書や支給明細書の記載内容は,被告が一方的に操作して作成したものであり,被告は,原告の残業時間がどの程度超過しようとも,最低賃金がどのように変化しようとも,原告に支払う金額は1日1万円までという理解でいたことは明白であるが,原告は,被告からそのような説明を受けたことはないし,合意した事実もないから,固定残業代について,原告と被告との間で意思の合致がないから無効である旨を主張する。しかし,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印をしたことは前述したとおりであり,原告が指摘する事情を踏まえても,原告と被告との間で固定残業代の合意があったとの前記認定は左右されない。さらに,原告は,被告から基本給部分と固定残業代部分との区別について何らの説明も受けていないから,雇用契約時において,両者の区別は明確にされていないし,被告においては,固定残業代制度を適切に運用する意思も実態もないのであるから,実質的にみて,基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されているとはいえない旨を主張する。しかし,被告の人事係担当者やAマネージャーが,原告に対し,面接時において,原告の給与体系が日給制であり,日給の中には基本給と固定残業代部分が含まれることなどを説明したことや,原告が基本日給,割増分日給等が明記された「雇用契約書兼労働条件通知書」に複数回署名押印したことは前述したとおりであり,形式的にも実質的にも基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されていないとはいえない。
 以上から,原告の主張はいずれも理由がなく,原告と被告との間の固定残業代に関する合意は有効である。

歩合給の算定方法に関し,割増賃金部分の区別ができないと判断された事例(最高裁第一小法廷令和2年3月30日判決)

本件は,タクシー乗務員として就労する労働者の割増賃金(残業代)の計算方法の妥当性が争点となった事案です。端的には「歩合給の計算に際し,売上高(揚高)の一部から残業代相当額を控除する」という規定の合理性が問題となりました。

最高裁は,要旨,以下のとおり述べ,こうした規定に基づく給与計算では労働基準法37条に定める割増賃金が正しく支払われたとは言えない,と判断しました。

1 賃金の計算規定

「ア 基本給として,1乗務(15時間30分)当たり1万2500円を支給する。

 イ 服務手当(タクシーに乗務せずに勤務した場合の賃金)として,タクシーに乗務しないことにつき従業員に責任のない場合は1時間当たり1200円,責任のある場合は1時間当たり1000円を支給する。

 ウ(ア) 割増金及び歩合給を求めるための対象額(以下「対象額A」という。)を,次のとおり算出する。

 対象額A=(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62

 (イ) 所定内基礎控除額は,所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9000円,土曜日は1万6300円,日曜祝日は1万3200円)に,平日,土曜日及び日曜祝日の各乗務日数を乗じた額とする。また,公出基礎控除額は,公出(所定乗務日数を超える出勤)の1乗務の控除額(平日は原則として2万4100円,土曜日は1万1300円,日曜祝日は8200円)を用いて,所定内基礎控除額と同様に算出した額とする。

 エ 深夜手当は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×深夜労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×深夜労働時間

 オ 残業手当は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間

 カ(ア) 公出手当のうち,法定外休日(労働基準法において使用者が労働者に付与することが義務付けられている休日以外の労働契約に定められた休日)労働分は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×休日労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.25×休日労働時間

 (イ) 公出手当のうち,法定休日労働分は,次の①と②の合計額とする。

 ①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.35×休日労働時間

 ②(対象額A÷総労働時間)×0.35×休日労働時間

 (以下,深夜手当,残業手当及び公出手当のうち上記エからカまでの各①の部分を「基本給対応部分」,各②の部分を「歩合給対応部分」という。)

 キ 歩合給(1)は,次のとおりとする。

 対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}

 ク 歩合給(2)は,次のとおりとする。

 (所定内税抜揚高-34万1000円)×0.05

 ケ なお,本件賃金規則は平成22年4月に改定されたものであるところ,同改定前の本件賃金規則においては,所定内基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として3万5000円,土曜日は2万2200円,日曜祝日は1万8800円とされるとともに,公出基礎控除額の基準となる1乗務の控除額が,平日は原則として2万9200円,土曜日は1万6400円,日曜祝日は1万3000円とされていた。また,上記エからカまでの各計算式において「基本給+服務手当」とされている部分がいずれも「基本給+安全手当+服務手当」とされていたほか,上記クの歩合給(2)に相当する定めはなく,「歩合給」として,上記キの歩合給(1)と同様の定めがあった。」

2 割増賃金支払についての基本的な考え方

「ア 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁,最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁,最高裁同年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。また,割増賃金の算定方法は,労働基準法37条等に具体的に定められているが,労働基準法37条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,使用者が,労働契約に基づき,労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない(第1次上告審判決,前掲最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決,前掲最高裁同30年7月19日第一小法廷判決参照)。

 イ 他方において,使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,第1次上告審判決,前掲最高裁同29年7月7日第二小法廷判決参照)。そして,使用者が,労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において,上記の判別をすることができるというためには,当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ,当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは,当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり(前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決参照),その判断に際しては,当該手当の名称や算定方法だけでなく,上記アで説示した同条の趣旨を踏まえ,当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである。」

3 本件について

「前記2(3)ウからキまでのとおり,割増金は,深夜労働,残業及び休日労働の各時間数に応じて支払われることとされる一方で,その金額は,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)の算定に当たり対象額Aから控除される数額としても用いられる。対象額Aは,揚高に応じて算出されるものであるところ,この揚高を得るに当たり,タクシー乗務員が時間外労働等を全くしなかった場合には,対象額Aから交通費相当額を控除した額の全部が歩合給(1)となるが,時間外労働等をした場合には,その時間数に応じて割増金が発生し,その一方で,この割増金の額と同じ金額が対象額Aから控除されて,歩合給(1)が減額されることとなる。そして,時間外労働等の時間数が多くなれば,割増金の額が増え,対象額Aから控除される金額が大きくなる結果として歩合給(1)は0円となることもあり,この場合には,対象額Aから交通費相当額を控除した額の全部が割増金となるというのである。

 本件賃金規則の定める各賃金項目のうち歩合給(1)及び歩合給(2)に係る部分は,出来高払制の賃金,すなわち,揚高に一定の比率を乗ずることなどにより,揚高から一定の経費や使用者の留保分に相当する額を差し引いたものを労働者に分配する賃金であると解されるところ,割増金が時間外労働等に対する対価として支払われるものであるとすれば,割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという上記の仕組みは,当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいものであって,前記(1)アで説示した労働基準法37条の趣旨に沿うものとはいい難い。また,割増金の額が大きくなり歩合給(1)が0円となる場合には,出来高払制の賃金部分について,割増金のみが支払われることとなるところ,この場合における割増金を時間外労働等に対する対価とみるとすれば,出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金に当たる部分はなく,全てが割増賃金であることとなるが,これは,法定の労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱したものといわざるを得ない。

 イ 結局,本件賃金規則の定める上記の仕組みは,その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか,同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして,割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。

 したがって,被上告人の上告人らに対する割増金の支払により,労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」

実際の時間外労働の時間と相当の差異がある時間を想定した固定残業代の定めが有効とされた事例(東京地裁平成31年4月26日判決)

本件は,要旨,「時間外手当 約81時間分」「上記手当を超過する場合,別途超過分を支給します」「固定残業手当は,一賃金支払い期間あたり一定時間の時間外労働割増賃金相当分として支払う」との定めによる固定残業代の有効性が争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,固定残業代としての有効性を認めました。

「ア 固定残業代の有効性について

 上記各事実によれば,本件雇用契約における時間外手当は,本件雇用契約締結当初から設けられたものであり,その名称からして,時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に,実際の時間外労働時間を踏まえて,改訂されていたことを認めることができる。

 これらの事実によれば,時間外手当は,時間外労働に対する対価として支払われるものということができ,また,前提事実(3)のとおり,時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから,時間外手当について,有効な固定残業代の定めがあったということができる。

イ 原告(※労働者側)の主張について

 これに対し,原告は,固定残業手当について,時間当たりの単価や,予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため,通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。しかし,有効な固定残業代の定めであるためには,必ずしも原告が指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので,原告の上記主張を採用することはできない。

 原告は,被告が主張する実際の時間外労働に係る時間数と,上記(1)エの時間数が著しく異なるため,時間外手当は,時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして,確かに,被告が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数(書証略)と,上記(1)エ(※時間外手当に相当する残業時間)の時間数は相当程度異なるが,上記アの各事実が認められることのほか,被告の給与計算においてコース組み(※被告会社における,配送ルートを検討する作業)に要した時間が含まれていないこと,被告の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上,平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたこと(書証略)を考慮すると,上記判断は左右されない。」

 

時間外労働の対価性について,賃金費目ごとに判断を示した事例(大阪高裁平成31年4月11日判決)

本件は,タクシーの乗務員として勤務する労働者が,会社に対し割増賃金を請求した事案です。本件では,「基準外手当」「祝日手当」等の各手当が,いわゆる定額残業代に当たるか,という点が争点(のひとつ)になりました。

裁判所は,以下のとおり述べ,賃金項目ごとに判断を示しました。

(1)基本的な考え方

「使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同乗の定める割増賃金に当たる部分とに判別できるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最二小判平成6年6月13日裁判集民事172号673頁,最一小判平成24年3月8日裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである(最三小判平成29年2月28日裁判集民事255号1頁参照)。

 そして,雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである(最一小判平成30年7月19日裁判集民事259号77頁参照)。」

(2)本件について

①「基準外手当Ⅰ」「基準外手当Ⅱ」について

「①上記アのとおり,「本給」が最低賃金額に抑えられ,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,いずれも,時間外労働等の時間数とは無関係に,月間の総運送収入額を基に,定められた割合を乗ずるなどして算定されることになっていること,②前記認定のとおり,1審被告(※会社)において,実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」の合計額との比較が行われることはなく,単に,上記アの各手当等の計算がされて給与明細書に記載され,その給与が支給されていたこと,③前記認定のとおり,1審被告の求人情報において,月給が,固定給に歩合給を加えたものであるように示され,当該歩合給が時間外労働等に対する対価である旨は示されていないこと(1審被告は,本件期間においても同旨の求人情報を出していたものと推認される。),④上記のような賃金算定方法の下において,1審被告の乗務員が,法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いことからすると,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,乗務員が時間外労働等をしてそれらの支給を受けた場合に,割増賃金の性質を含む部分があるとしても,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」ため,「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」は,「いずれも通常の労働時間の賃金として,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。」

②「祝日手当」について

「「祝日手当」は,通常の労働日ではない「祝日」に勤務して初めて支給されるものであるから,時間外労働等の対価の性質を有するというべきである。」

③「時間外調整給」について

「「時間外調整給」は,月間の総運送収入に一定の割合を乗ずるなどして算定されるものであり,時間外労働等の対価であることをうかがわせる定めも見当たらない。また,1審被告の乗務員が時間外労働等をして「時間外調整給」の支給を受けた場合に,「時間外調整給」に割増賃金の性質を含む部分があるとしても,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。したがって,「時間外調整給」は,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。」

④「公休出勤手当」について

「公休日に出勤して初めて支給されるものであって,その算定方法も,その出勤した公休日の運送収入額のみを基礎として算定するものであることに照らせば,「公休出勤手当」は全て時間外労働等の対価と見るのが相当である。」

お問合せはこちら
(Zoom等を活用し全国からのご依頼に対応しております)

お気軽にお問合せください

まずはお気軽にご相談下さい。具体的なご相談は下記フォームからお願いいたします。

無料相談はこちら

【全国対応】
お問合せはお気軽に

ご相談は下記フォームからお願いいたします。お気軽にご連絡ください。