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配転(配置転換)の裁判例

配転(配置転換)命令に関する裁判例

配転(配置転換)命令に関する最新の裁判例につき、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

退職勧奨後に実施された配転命令について,退職勧奨と配転命令の関連性が否定され,有効と判断された事例(学校法人N学園事件,東京地裁令和2年2月26日判決)

本件は,学校法人にて事務職員として就労していた労働者が,営繕室での業務担当への配置転換命令を受けたことについて,配転命令の無効を主張した事案です。なお,本件配転命令は平成30年12月に告知されていますが,これに先立つ同年9月に,原告労働者は被告より退職勧奨を受けており,訴訟では,退職勧奨と配転命令の関連性の有無も争点になりました。

裁判所は,要旨,以下のとおり述べ,本件配転命令は有効と判断しました。

「(2)業務上の必要性について

ア (中略)平成30年12月当時,被告の営繕室には,専任の事務職員がおらず,定年退職後に嘱託職員として採用された現業の職員(G氏)又は事務室に勤務する事務職員(主としてH氏)が状況に応じて営繕室の事務を担当していたものであり,被告は,営繕室の現業職員との連絡,営繕室が担当すべき作業計画,進行管理,消耗品の発注,在庫管理等の業務が円滑にできていないという問題点を把握していたものである。

 本件学校を運営する被告にとって,その構内の美化,生徒の安全確保のための営繕の仕事は欠くことのできない業務である(略)ところ,被告が,上記の様に定年退職後の嘱託職員等が事実上兼任して事務を担当するような状況について問題視し,平成31年4月1日から専任の事務職員を配置し,責任をもってその業務を担当させる方針を決めたことは,被告の業務の適正な運営のために必要性が高かったといえる。

 また,原告に当該業務を任せることとしたのは,原告自身の経験等に照らして原告に情報収集,発信能力があると考えた一方で,H氏には新たに財務の預かり金,会計,給与等を担当させるためであり(略),複数の業務を経験させることによって人材の育成を図ることの有用性は広く一般に知られていると考えられるから,対象者の選択としても合理的なものであったといえる。

(中略)

(3)動機・目的について

ア 本件配転命令に業務上の必要性があることは,前記(2)のとおりであるところ,営繕室を担当する事務職員として原告を選任したことについても,(略)他の職員の状況,原告の経歴等に照らして,限られた人員の中から原告を選任したものであり,不当な動機又は目的を認めることはできない。

 また,被告において,原告以前にも事務職員が営繕室において勤務していたこともあり(略),本件配転命令が事務職員に対する配転命令として特異なものともいえない。

(中略)

なお,前記(略)のとおり,E事務長は平成30年9月11日,原告に退職を勧めているが,これは原告が教務室において本件学校に対する不満を口にしていたことが,他の職員との間で問題となっていたことをきっかけとするものであり,B前校長との関係を前提とした退職勧奨とはいえない。そして,同日において,原告が当該言動を否定し,退職する意思がないことを明らかにした後には,被告から原告に対し,退職を勧めた事実も認められないから,原告がその他主張するE事務長の言動を考慮しても,当該退職勧奨と本件配転命令との間に何らかの関係を認めることもできない。

(中略)

(4)不利益について

本件配転命令は,本件学校の構内における勤務場所の変更に過ぎず,給与に変更もなく(略),営繕室の執務環境も,相応の広さがあり,冷暖房,給湯設備,執務机及びパソコンが備え付けられているなど(略),他の事務職員の勤務する場所に比して劣悪であるということはできない。また,その業務の内容も,事案決定書の作成等の事務作業(略)であり,精神的又は肉体的な負担が大きいものではない。

(中略)

(5)小括

以上の次第で,本件配転命令には,業務上の必要性が認められ,不当な動機・目的をもってされたものということはできず,原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえないから,本件配転命令は権利の濫用に当たらない。」

アルバイトに対する配転命令につき,勤務地限定の合意を理由に挙げてこれを無効とした事例(ジャパンレンタカー事件,津地裁平成31年4月12日判決)

本件は,アルバイトとしての雇用契約を複数回にわたり更新してきた労働者が,勤務地変更の配転命令を無効と主張して争った事案です。

配置転換命令の有効性について,裁判所は,以下のとおり,勤務地限定の合意を認定し,当該命令は無効と判示しました。

「被告会社においては,アルバイトに配転を命じる旨の規定は存在するが,アルバイトは,原告が採用された当時ではなく,現時点に近いものではあるものの,基本的には,通いやすい場所を選んで,具体的な店舗に勤務するというのであり,他の店舗での勤務については,近隣店舗に応援するのみであるとされていること,正社員についてさえも,通勤圏内での異動という場合もあるとされていること,原告は,平成6年3月からは,4か月ほどを津店で勤務したほかは,長年専ら鈴鹿店で勤務してきていること,被告会社と原告との雇用契約書では,当初,「鈴鹿店」とだけ限定した記載がされていたが,その後,「ジャパンレンタカー鈴鹿店及び近隣店舗」ないし「鈴鹿店及び当社が指定する場所」と記載が変更されているが,このことについて,被告会社から原告への説明はなされていないことからすると,原告が津店から鈴鹿店に異動し,鈴鹿店から津店に一時異動したことがあることを考慮しても,被告会社と原告との間では,原告の勤務地が必ずしも鈴鹿店のみに限定されていないとしても,少なくとも鈴鹿店又は津店などの近接店舗に限定する旨の合意があったものと解するのが相当である。」

※なお,本判決は,上記判示に続けて,「仮に,原告の勤務先を鈴鹿店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても,以上の事情からすれば,被告会社には,原告の勤務先が鈴鹿店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり,本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして,権利濫用になるかどうか判断するに当たっても,この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。」として,本件配転命令が権利濫用ゆえに無効という旨も述べています。

自宅から勤務地の工場まで片道3時間近くかけて通勤していた労働者について,当該工場の付近に単身で転居するよう命じた転居命令の有効性が否定された事例(ハンターダグラスジャパン事件,東京地裁平成30年6月8日判決)

本件は,東京の自宅から茨城工場まで片道約3時間をかけて勤務を続けていた労働者に対し,会社側が「単身で,当該茨城工場の近くに転居するように」という命令を発令したことについて,労働者側が,当該命令の有効性を争った事案です。

裁判所は「転居命令は,①業務上の必要性がない場合②業務上の必要性があっても,当該命令が他の不当な動機・目的をもって為されたものである場合,には無効になる」という判断枠組みを前提に,以下のとおり述べ,当該命令は無効と判断しました。

「本件について業務上の必要性をみるに,被告は,往復6時間の長時間通勤は,原告の健康不安,疲労や睡眠不足による工場内事故の危険,通勤途中の事故や交通遅延の可能性の増大,残業を頼みにくい不都合等から,被告は原告の長時間通勤を長期間放置することはできず,本件転居命令には業務上の必要性がある旨主張する。しかし,(中略),本件転居命令は,本件配置転換(※東京から茨城工場への配置転換のこと)の約1年後に出されたもので,原告は,その期間,転居せず自宅から茨城工場に通勤していたこと,原告の茨城工場での業務内容は梱包作業であり,早朝・夜間の勤務は必要なく,緊急時の対応も考え難いこと,原告不在時には他の従業員が原告の業務に対応することができたこと,原告に残業が命じられることはなかったこと,原告は,片道3時間かけて通勤しているが,交通事故のために休職した期間と一度の電車遅延による遅刻の他は遅刻や欠勤はなく,長距離通勤や身体的な疲労を理由に仕事の軽減や業務の交代を申し出たこともほとんどなかったことが認められる。そうすると,原告が転居しなければ労働契約上の労務の提供ができなかった,あるいは提供した労務が不十分であったとはいえず,業務遂行の観点からみても,本件転居命令に企業の合理的運営に寄与する点があるとはいえず,業務の必要性があるとは認められない。

 また,被告は,AP事業部の再開が見込まれないため,原告が東京勤務になる見込みがなく,今後も継続して長時間通勤を原告に課すことは,労働契約法や労働安全衛生法上不相当であると主張する。しかし,単身赴任による負担と長時間通勤の負担とを比較すると,一概に後者の負担の方が重いとも断じ難いし,企業の安全配慮義務の観点からも,原告に被告が赴任手当等の金銭的負担(就業規則や旅費規程に則った合理的なもの)の上で転居する機会を与えているのだから,安全衛生義務を一定程度果たしているといえ,それを超えて転居を命令する義務があるとまではいえない。」

※なお,原告労働者は,本件転居命令には不当な動機・目的がある,転居により著しい不利益を被る等の主張もしていましたが,これらの事実は認定されていません。

1人で担当するには過重な業務への配置転換が不法行為に当たると判断された事例(関西ケーズデンキ事件,大津地裁平成30年5月24日判決)

本件は,競合店舗の価格調査業務への配置転換の強要等がパワハラに当たるとして,労働者の遺族が会社に対し損害賠償を請求した事案です。当該業務への配置転換について,裁判所は,以下のとおり判断して,不法行為としての違法性を肯定しました(その他の点は割愛)。

「亡E(※労働者)に社内ルールを逸脱する不適切な行動が続いたため,被告C(※亡Eの勤務していた店の店長)が,被告会社本部のL部長から,亡Eについて,一旦,販売やレジ業務から外すように指示を受けたこと,これに伴い,F店長代理と亡Eの担当業務について協議し,亡Eの配置換え先として,荷受け担当や掃除担当も検討したものの,当該業務の性質や必要人員,他の従業員の業務との兼ね合いから,亡Eにこれらを担当させるのは効率的ではなく,被告会社において,価格調査業務が重要であり強化する必要があるとの認識・取組みがあったことから,亡Eに価格調査業務を担当させるとの結論に至ったのであり,このような経緯自治には,何ら不合理な点は見いだせない。

 しかし,上記のとおり,被告Cが亡Eに意向打診した際に説明した価格調査業務の内容は,被告会社の親会社である訴外株式会社ケーズホールディングスが編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず,これをLP(※フルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者のこと)1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において,極めて特異な内容のものであった。そうすると,たとえ,被告Cに,亡Eに対して積極的に嫌がらせをし,あるいは,本件店舗を辞めさせる意図まではなかった(上記の経緯に加え,前記認定事実(18)の被告Cの対応を併せ考慮すると,亡Eに指示された価格調査業務の内容が不合理なものであることを踏まえても,なお,被告Cがそのような不当な意図を有していたとまでは認めるに足りない。)としても,本件配置換えの結果,亡Eに対して過重な内容の業務を強いることになり,この業務に強い忌避感を示す亡Eに強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところはなかったというべきである。したがって,被告Cによる本件配置換え指示は,亡Eに対し,業務の適正な範囲を超えた過重なものであって,強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で,不法行為に該当すると評価するのが相当であるというべきである。」

不正行為の防止及び労働者のスキルアップを目的とする配転命令が有効と認められた事例(静岡地裁浜松支部平成26年12月12日判決)

本件は、ゆうちょ銀行の浜松支店から静岡支店への配置転換(配転)を命じられた労働者が、この配転命令が無効かつ違法であるとして、静岡支店に勤務する労働契約上の義務がないこと及び慰謝料100万円の支払いを求めた事案です。

労働法上、配転命令の有効性については①労働契約上、使用者側に配転命令権が認められていれば、その限りで配転命令は有効②しかし、仮に配転命令権が認められているとしても、配転の必要性がない、必要性があってもその他の不当な動機・目的(例:単なる嫌がらせ目的など)に基づいてなされている、配転命令によって労働者の被る不利益が著しい、等の事情がある場合は、配転命令権の濫用として配転命令は無効になる、と考えられています。

本件で、労働者は、上記②に関し「本件配転命令は業務上の必要性を欠くうえ、配転によって通勤時間が長くなり、家庭生活や育児に十分な時間が確保できなくなるので、本件配転命令は無効」という主張をしていました。

一方、会社側は、本件配転命令は、『不正行為の防止』『労働者のスキルアップ』のために必要であり、また、これにより労働者が被る不利益も著しいとはいえない、として反論していました。

この点、裁判所は、配転命令の必要性について「長期間にわたり特定の社員が金銭の管理を取り扱う業務に従事していた場合、そうでない場合と比較して横領等の不正行為が発生する危険が高くなることは経験則に照らし明らか」としたうえ、本件の特殊性として「金融期間においては、金融検査マニュアル(書証略)において、適切な人事ローテーションの確保が要請されている用に、不正行為防止のために、長期間にわたり特定の社員を同一業務に従事させないようにする必要性が高い」「店舗の異動により上司、同僚、顧客が変化することに加え、原告蟻洞した静岡店は(中略)浜松店と比較して法人の顧客が多く(中略)業務内容の違いもあり(中略)浜松店とは異なる業務を経験し得る」として、本件配転命令の必要性を認めました。

また、労働者が被る不利益については「長時間通勤を回避したいというのは、年齢、性別、配偶者や子の有無等に関わらず、多くの労働者に共通する希望である。配転命令の有効性を判断するにあたって考慮すべき労働者の不利益の程度は、当該労働者の置かれた客観的状況に基づいて判断すべきものであり、(中略)原告の主観的事情に基づいて判断すべきものではない」との判断基準を示し、本件配転命令により労働者が被る不利益の程度は著しいとはいえない、と判断し、結論として労働者の請求を認めませんでした。

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