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セクシャル・ハラスメント(セクハラ)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。
近時の裁判例におけるセクハラ慰謝料の金額については,下記もご参照ください。
本件は、勤務先での上司のセクハラ及びパワハラにより休職を強いられたとして、被害者側が会社及び当該上司に対して損害賠償を請求した事案です。
裁判では、セクハラパワハラの有無、会社の責任範囲等が問題となり、裁判所は会社側の責任自体は肯定しましたが、以下のとおり述べ、損害賠償額を限定しました。
「ウ 休業損害額
前記4(争点2の検討)のとおり、原告は、遅くとも平成30年10月22日に適応障害を発病し、その後、遅くとも令和元年11月16日までにうつ病を発病しており、それらの発病は被告丙川の不法行為によるものであったと認められる。
もっとも、前記1(13)ア、イに認定したところによれば、原告の主治医は、上記のうつ病の要因として、被告丙川によるセクハラ行為のほか、その後の被告会社の対応を掲げているところ、被告会社の対応に不適切なところが見当たらないのは、原告主張に係る債務不履行責任の有無について検討した前記6(争点4の検討)のとおりである。このことを踏まえると、原告がうつ病を発病するに至り、その後においても休業せざるを得ない心身の不調が継続しているのは、被告丙川の不法行為のみならず、被告会社がした対応等に関する原告の主観的な不満など、被告らに帰責し得ない事情が相応に寄与しているといわざるを得ない。すなわち、前記1(13)ア、イに認定した原告の主治医の意見は、要するに、原告において被告会社の対応に強い不満を有していることが病状の遷延に寄与しているという趣旨のものであるところ、そのような不満自体は原告側の事情と評価されるべきものである。殊に、被告丙川に対する懲戒処分が軽い等との感情を抱くこと自体は心情として理解できるものではあるが、その後に調査報告書の開示を求め、これを拒んだ被告会社の対応、その後の被告会社の交渉によって多大なストレスや絶望感を抱き、これが長期の休職を余儀なくされるというまでに精神状態の悪化を招いた要因となるというのは、同種の業務に従事する労働者において通常想定される範囲を外れるものといわざるを得ない。
また、前提事実(4)ア、イに認定したとおり、原告が適応障害の診断を受けたのは平成30年10月22日で、その後にうつ病との診断を受けたのは令和元年11月16日である。そして、これを前記イのとおりに認定判断した休業損害の算出基礎となる休業期間(平成30年11月1日から令和5年10月20日までの1815日間)との関係で考慮するならば、休業期間のおおむね8割程度の部分がうつ病の発病以降の期間となる。前記1(13)ア、イに認定した原告の主治医の意見は、原告が「うつ病」を発病した主な要因には、被告丙川がした不法行為ないしその後の言動のほかに、被告会社の事後対応があり(前記1(13)ア③)、さらには、被告会社の事後対応により、原告が「健全な社会的関係性の感覚」を損なうなどして、うつ病が遷延しているというものである(前記1(13)イ①ないし④)。このような主治医の意見に、前記1(9)ウ、(10)に認定した、被告丙川のF支店への出張、F支店長への降格によって原告と被告丙川の接触がないものとなったことを併せ考慮すれば、原告がうつ病を発病した後、上記に認定した休業期間の終期までにうつ病が遷延しているのは、被告会社の事後対応についての原告自身の受止めが強く作用しているとみるのが合理的である。これを換言すれば、上記の休業損害期間について、それが終期に近づけば近づくほど、その時点での休業の原因が原告側の事情にあるとの側面が強まっているとの評価が可能である。
このように、そもそも原告が被告丙川の不法行為によって適応障害ないしうつ病を発病したものであるとはいえ、うつ病が遷延して長期に及び休業期間が発生したことについて、上述したとおりの原告側の事情というべきものがあって、その休業期間のおおむね8割に相当する部分については、休業期間の終期に向かって順次、その原告側の事情が原因となっている側面が強まっていること、前記(2)の治療費とは異なって休業損害は高額にわたるものであること等を踏まえると、損害の公平な分担の観点に照らし、被告丙川の不法行為による休業損害額は、もはや一旦算出した金額の半額をやや下回るものになると認めるのが相当である。このような考慮に基づく休業損害について具体的な金額をもって示すと、基礎収入(日額8548円)に休業期間(1815日間)を乗じて一旦算出した休業損害額1551万4620円の4割に相当する620万5848円の限度にとどまるものとするのが相当である。」
本件は、要旨、タクシーの車中で身体に触れられる等のハラスメント被害に遭った被害者が、その後にメンタル面で体調を崩したこと等も含め、損害賠償請求を行った事案です。
裁判所は、セクハラ行為の一部は認定したものの、以下のとおり述べ、当該セクハラ行為と体調不良との相当因果関係を否定しました。
「5 争点4(原告の精神障害の発病と被告らの行為等との因果関係)について」
(1)原告は、被告乙山の不法行為及び被告会社の不適切な対応により原告がPTSDないし複雑性PTSDを発病した旨主張する。そして、K医師は、同人作成の「診断書及び意見書」(書証略)において、原告が「PTSD(DSM5)、複雑性PTSD(ICD-11)」であるとし、その原因となった出来事として、「1)勤務先の部長(当時)から、拒否しているにも関わらず、頻繁に食事の誘いをされ、拒否してもやめてくれない上に、社内で追いかけられたり、盗撮されたりしていたことを知ったこと」、「2)2017年1月29日取引先との新年会の帰りのタクシー内で、上記部長から強制わいせつ(無理やり送ると言われ、にじり寄られ、身体に触れるため、叫んで逃げようとしたが、キスをしようとしてきた)を受けたこと」、「3)この出来事に会社が対処してくれなかったこと。」を指摘している。
しかしながら、上記診断結果は、上記意見書の記載内容に照らせば、もっぱら原告の主訴に基づくものと解されるところ、原告が主張する被告乙山による不法行為はその一部しか認定できず、被告会社の職場環境配慮義務違反を認めることができないことは既に認定説示したとおりである。そうすると、K医師の上記診断結果は、客観的に認定できない事実関係等に依拠したものといえ、これを直ちに採用することはできない。
このことに加え、PTSD(DSM-5)の診断基準としては、「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への曝露」を要するとされ(書証略)、複雑性PTSD(ICD-11)の診断基準としては、極めて脅威的又は恐ろしい性質の出来事又は一連の出来事に遭遇し、そこから逃れることが困難又は不可能な、長期にわたる又は繰り返される出来事が最も一般的であるとされ、「このような出来事には、拷問、強制収容所、奴隷制度、集団虐殺その他の組織的暴力、長期にわたる家庭内暴力、幼少期の性的又は身体的虐待の繰り返しが含まれるが、これらに限定されない」とされるところ(書証略)、本件訴訟において認められる被告乙山の不法行為(写真撮影行為及び本件タクシー内行為)は、原告の性的自由を侵害するものであり、原告に屈辱や恐怖等の精神的苦痛を与えるものであったということができるものの、肉体的接触を含む行為に及んだと認められるのは、本件タクシー内行為の一件のみであり、その態様も、タクシーに乗車していた約20分間の間、原告の手や太ももに触り、覆いかぶさって抱きつくようにしたというもので、重大な性犯罪に該当するとはいえないし、タクシーには、当然、運転手も乗車しているのであって、被告乙山と二人きりで閉じ込められていたというものではなく、原告は、被告乙山から逃れるためにタクシーを停車させてタクシーから降りたとの事情も併せ考慮すると、当該行為が、上記診断基準を満たすような極めて脅威を感じされるような性的暴力であったとまでは評価できない。
以上によれば、原告が、被告乙山の不法行為及び被告会社の不適切な対応により、PTSDないし複雑性PTSDを発病したとは認められない。
(2)もっとも、原告は、本件タクシー内行為の後、間もなく出社ができなくなり、平成29年2月20日、Fクリニックを受診して、身体不調と不安・恐怖・抑うつ気分(職場の上司の行動による)を訴え、同クリニックの医師Gが、原告につき、「ICDに相当する病名なし、あえていえば心因反応か」と診断し(前提事実(5)ア、書証略)、HホスピタルのI医師は、同年3月4日に受診した原告につき、抑うつ気分、不安、恐怖感、冷や汗、注意散漫といった症状があるとして「適応障害(抑うつ・不安状態)」との診断をしている(前提事実(5)イ)。
そこで、これらの事実を踏まえ、かかる原告の精神症状が何らかの精神疾患に起因するものとして、被告乙山の行為との間の相当因果関係が認められるか否かを検討する。
原告は、本件タクシー内行為の翌日である同年1月29日(日曜日)には出勤せず、同月30日には体調不良で欠勤し、同月31日には出勤したものであるが(認定事実(6)ア)、同日には被告乙山に対して「熱が下がりきれておりませんが、月末処理があるので出勤しました」との記載のある電子メール(書証略)を、同年2月2日にはDに対して吐き気が続いているとの記載のある電子メール(書証略)を、同月10日にはEに対して出勤のため電車に乗ったが、気分が悪くなり途中下車を繰り返して会社についた旨の記載のある電子メール(書証略)をそれぞれ送っていることからすると、原告は休職する同月13日よりも前、本件タクシー内行為の直後から、吐き気等による体調不良の状態にあったものと窺われ、本件タクシー内行為が、原告の体調不良の契機となったことは否定できない。
しかしながら、原告は、被告乙山が本件タクシー内行為の直後に被告会社を退職したため、被告乙山と接触する機会がなかったにもかかわらず、現時点に至るまでの長期間、休職しなければならないような症状が続いているところ(原告の診療録(略))、写真撮影行為や本件タクシー内行為が、原告に対して相応の精神的苦痛、衝撃を与えるものであったとしても、そこ態様は上記認定事実(1)及び(5)のとおりであったことに加えて、肉体的な接触を含む行為は、本件送別会の帰途という機会に行われた一回的な本件タクシー内行為のみであったことに照らせば、数年にもわたって症状が改善しない重度の精神疾患を発生させるような強度な性的自由の侵害を伴うものであったとは認め難いというべきであり、被告乙山の不法行為と原告の精神疾患との間に相当因果関係を認めることは困難である。」
本件は、高校教員かつレスリング部の指導者であった労働者が、保護者へのセクハラ行為を理由として懲戒免職処分を受けたことに尽き、当該処分の有効性が争点となった事案です。
本件で有無及び評価が問題となった行為は以下のとおりです。
本件行為1:本件高校の受験を死亡していた生徒(本件生徒)の母親(保護者女性)に対し、「入試、部活等で話したいのですが、夕食しながらどうですか?」との記載を含むLINEのメッセージを送信した行為
本件行為2:保護者女性と食事をした店に隣接する駐車場に止めていた自車内にて、保護者女性を抱き寄せてキスをし、その後に交際を求めた行為
裁判所は、以下のとおり判断し、懲戒免職処分を有効と判断しました。
「3 懲戒事由該当性
(1)本件行為1について
ア 被告市教委は、原告が、前期選抜にあたり受験生の保護者と個人的に接触してはならないにもかかわらず、保護者女性を受験や部活動のことを理由に誘ったとし、この行為は、「標準例1(6)個人情報の不正利用等」の「ア 職務上知り得た個人情報を不当な目的に利用した場合(懲戒処分の量定は、「免職、停職又は減給」)に該当すると判断している。
イ 前記認定のとおり(認定事実(2)ア)、原告は、同年11月2日、本件生徒が在籍するQ2中学校を訪問して同学学年主任らに対して本件生徒の本件高校への入学の勧誘をし、同月9日にこれを伝えられ、本件生徒の希望を確認した保護者女性が、同月17日、Q2中学校に対し、本件生徒が前期選抜で本件高校を受験希望である旨を連絡するとともに、同月18日に本件高校のレスリング部の練習に参加した本件生徒が、本件高校を前期選抜で受験するとの意向を原告に伝え、Q2中学校も、同月20日、本件高校に対して、本件生徒が本件高校を前期選抜で受験する旨の連絡をしたのであるから、原告が、同月18日に本件生徒が本件高校を前期選抜で受験するという情報を得ることができたのは、原告が本件高校の教諭であり同高校のレスリング部の監督という地位にあったからであることが明らかであって、原告が、同地位と無関係に、保護者女性との従前の関係性から、本件生徒が本件高校を前期選抜で受験するという情報を得たとは認められない。そして、原告は、保護者女性に対して、「入試、部活等で話したいのですが、夕食しながらどうですか」などという理由を付けて、二人だけでの食事に誘い(認定事実(2)イ)、その後、保護者女性に対してキスをし、更に一対一の交際を申し込んでいる(認定事(3)イ、工)のであるから、上記個人情報を利用して、保護者女性との私的な交際を実現しようとしたものにほかならない。
以上によれば、原告の本件行為1は、標準例1(6)アに該当するということができる。
ウ 原告は、同標準例は、当該個人情報を相手方が知り得ない状態で職務上取得した場合を想定したものであるところ、本件では、本件生徒が前期選抜で本件高校を受験予定であるという個人情報は、保護者女性自らが原告に提供したものであるから、「職務上知り得た個人情報」には該当しないと主張する。しかしながら、公務員は、その職務に関連して、当該相手方の協力の下に自発的に個人情報の提供を受けることがあり得るところ、そのようにして提供された個人情報を不正利用することが許されないことは当然であって、同標準例にいう「職務上知り得た個人情報」を、相手方が知り得ない状態で取得したものに限定すべき合理的理由は全くないから、原告の上記主張は採用できない。
また、原告は、保護者女性とは以前から本件生徒のレスリング競技に関する相談を受けたりアドバイスをしたりする関係にあったから、本件生徒の本件高校の受験の話を持ち出して会食の場を持ったとしても、「個人情報を不当な目的で利用した」場合には該当しないとも主張するが、原告は、受験の話を持ち出して保護者女性を食事に誘い、その機会を利用して保護者女性との一対一の私的な交際を実現しようとしたのであり、これは不正な目的にほかならないから、原告の上記主張も採用できない。
(2)本件行為2について
ア 被告市教委は、原告が、前期選抜受験生の保護者に対し、優越的立場にありながら、抱き寄せてキスをし、不倫関係を求める行為を行ったとし、標準例に定める非違行為に該当しないときは、当該行為に類似する標準例に定める非違行為に対する懲戒処分の取扱いに準じて当該行為に対する懲戒処分を決定する旨の規定(本件要綱7条)に照らし、上記行為は「標準例1(13)セクシュアル・ハラスメント」の「ア 暴行もしくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び、もしくはわいせつな行為をした場合」に準ずるものと判断している。
イ 前記認定のとおり、①原告は、本件高校の前期選抜における本件生徒の合否の判定に深く関与することができる地位にあり(認定事実(1)ウ)、保護者女性もそのことを認識していたこと(認定事実(2)イ)、②原告は、本件生徒の入試、部活について話したいという理由で保護者女性を食事に誘ったこと(認定事実(2)イ)、③保護者女性は、二人だけの食事になることを避けようとして友人を同伴させることを提案したが、原告が「話しにくい話題もある」としてこれを受け容れなかったこと(認定事実(2)イ)、④食事後、保護者女性は、原告から送って行くと言われ、一度は断わったが、原告から更に送って行くと言われてこれを受け容れたものの、原告が車の鍵を探して店内に戻った間に、友人にLINEメッセージを送り、職場からの電話を装って自分の携帝電話に電話をかけてほしいと頼んでいること(認定事実(3)ア)、⑤保護者女性が予めボイスレコーダーを準備し、実際にこれを起動させていること(認定事実(3)ウ)、⑥それまで、原告と保護者女性との間に一対一の私的交際はなかったところ、保護者女性は、車内で原告から交際を申し込まれたが、即座に断っていること(認定事実(1)ア、(3)工)が認められる。
上記①ないし⑥の事実を総合すると、本件生徒の前期選抜の合否に深く関与するという優越的立場にある原告が、消極的な姿勢を示している保護者女性を二人きりの食事に応じさせたのみならず、更に、消極的姿勢を示している保護者女性を自車に乗るよう促し、車内において保護者女性の意に添わないキス行為に及び、更に不倫交際を申し込んだということができる。前記標準例は、「暴行もしくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び、もしくはわいせつな行為をした場合」と規定しているところ、原告は、本件行為2に際して「暴行もしくは脅迫」を用いてはいないし、本件全証拠によっても、本件行為2の際に、保護者女性が事前に明確な拒否の姿勢を示したり、キスしようとする原告に対して抵抗したにもかかわらず、原告がそれらの拒否や抵抗を排除してキスをしたとまでは認められないから、原告が「強いて」本件行為2を行ったとまではいえず、したがって、本件行為2が上記標準例に該当するということはできない。
しかしながら、原告は、本件生徒の前期選抜の合否を左右し得るという優越的立場にあり、保護者女性としては、本件生徒の合否に影響を及ぼす可能性を考慮して、原告からの誘いや要求を明確に拒絶することが事実上困難な立場にあった(前記③及び④の事実は、保護者女性がまさにそのような状況に置かれていたことを示すものである。)。このような状況は、上記標準例にいう「職場における上司・部下等の関係に づく影響力を用いる」のと極めて似かよった状況であり、原告は、そのような状況下で、保護者女性の意に添わないキスという性的な行為に及び、更に不倫交際を申し込んだのであるから、これらの行為をもって、前記標準例に準じるものと評価することには、十分な合理性が認められる。
ウ これに対し、原告は、⑦原告と保護者女性は平成29羊5月26日にも,駐車場に停めていた原告の車の中でキスをしたことがあった、④本件行為2の直前に、「キスしていいか。」「抱きしめていいか。」と尋ねたところ、保護者女性がマスクを取り、原告の方に体を傾けて少し天井を見るような姿勢で目をつむったと主張し、保護者女性は本件行為2に同意していたから、本件行為2を上記標準例2に準じるものと評価することはできないと主張する。
しかしながら、保護者女性は、上記⑦及び④の事実をいずれも否定しているところ、これらの事実があったと認めるに足りる証拠はないから、上記各事実があつたことを前提とする原告の主張は、採用することができない。
また、原告は、本件行為2の具体的状況につぃての保護者女性の供述内容に変遷があることなどを挙げて、本件行為2に同意していないという保護者女性の供述は信用できないとも主張する。確かに、本件行為2の具体的状況についての保護者女性の供述内容には変遷があるが、これらの変遷のうちには、その供述を記録した者の質問の技量等によって左右され得るものや、保護者女性の置かれた立場に照らして多少の混乱があっても格別不自然とまではいえないものもある上、その変遷の内容や程度は、前記イの①ないし⑥の事実の存在を些かも左右するものではないから、本件行為2が保護者女性の意に添わないものであったという上記認定及び判断は左右されない。
要するに、原告は、保護者女性に対して優越的立場にあり、保護者女性が原告からの誘いや要求を明確に拒否することが困難な状況にあるにもかかわらず、保護者女性から事前に明確な拒否がなく、物理的な抵抗も受けなかったことをもって、保護者女性が原告からキスされることに同意していると一方的に考え、保護者女性に対し、キスという性的行為に及んだ上に不倫交際を申し込んだものであり、これらの行為は、典型的なセクシュアル・ハラスメント行為である。
標準例1(13)アは、「暴行もしくは脅迫を用いて」又は「強いて」わいせつな行為をした場合と規定しており、その文言上、原告の本件行為2が直ちにこれに該当しないことは前記のとおりであるが、同標準例は、一般服務関係におけるセクシュアル・ハラスメント行為の例を示したものであって、性犯罪行為の例を示したものではないのであるから、保護者女性が優越的立場にある原告の誘いや要求に対して事前に明確に拒否したり物理的に抵抗することが困難であるという状況の下で行われた本件行為2を、同標準例に準ずるものと評価することには十分な合理性がある。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
なお、原告は、本件行為2の後に保護者女性により録音された二人の会話内容(書証略)から、保護者女性の明るい話しぶりや保護者女性が笑いながら原告と会話を続けていたことが分かり、原告が保護者女性の同意なくキスをするような状況でなかったことは明らかであるとも主張するが、本件で録音されたごく短時間の会話の音声のみからそのような推認をすることは困難である上、セクシュアル・ハラスメント事案においては、被害者が事態を深刻化させないようその場では加害者に迎合するような態度を取ることはままあることであって、本件行為2の直後に保護者女性が表面上明るい話しぶりであったり笑ったりしていたからといって、本件行為2に同意していたとはいえないから、原告の上記主張は採用できない。
(3)懲戒事由該当性についての結論
以上のとおり、本件各行為は、懲戒処分の対象となる非違行為の類型を定めた本件要綱の標準例に該当し、又は、それに準ずる行為であり、「職の信用を傷つけ、又は職貝の職全体の不名誉となるような行為」として地方公務員法33条に違反し、また、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」でもあるから、同法29条1項1号及び3号に該当する行為であるということができる。したがって、原告に懲戒事由があるとした被告市教委の判断に、裁量権の逸脱又は濫用はない。
4 処分の量定について
(1)標準例1(6)アは「免職、停職又は減給」、標準例1(13)アは「免職又は停職」と規定しているところ、本件要綱4条は、懲戒処分の具体的な量定は、標準例を基準とし、同条各号掲記の要因を総合的に考慮のうえ判断するものとしている。
そこで、以下、本件要綱4条各号掲記の要因についての被告市教委の判断について検討する。
ア 動機、態様及び結果について
被告市教委は、本件各行為の動機、態様及び結果について、本件高校への前期選抜での受験が決定していた受験生の保護者に対し、受験を話題に食事に誘い、優位的立場にありながら、抱き寄せてキス等の行為をし、不倫関係を求める行為の態様は、社会生活上の倫理はもとより、教員に求められる高度の倫理に反し、動機において酌むべき点はなく、当該保護者に精神的苦痛を与え、何より受験生は本件各行為により受験を諦め、進路変更を余儀なくされる重大な結果を招いたと判断している(前記認定事実(5)ウ)ところ、前記認定の事実関係に照らし、被告市教委の上記判断に格別不合理な点は見当たらない。
この点につき、原告は、保護者女性は本件行為2に同意していたことを前提に、このような行為を禁止する法律はなく、第三者から非難される筋合いの行為ではないなどと主張するが、上記前提が採用できないことは既に説示したとおりである上、公務員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない(地方公務員法33条)のであって、その職務の性質上、高い倫理観が求められるところ、本件行為2は、保護者女性の同意の有無にかかわらず、前期選抜の公正さへの信頼を損ない、公務員の職全体の不名誉となるような行為であることは明らかであるから、原告の上記主張は採用できない。
更に、原告は、本件生徒が本件各行為のことを知った経緯に関する保護者女性の供述に変遷があることや、本件生徒の内心を直接知り得ないことなどを指摘して、本件生徒が本件高校を受験しなかったことと本件各行為とは関係がないと主張するが、本件生徒が本件高校の前期選抜の受,験を止めてQ3高校に進学することになった経緯は、前記認定(認定事実(4))のとおりであって、本件各行為があったことを知ったことが、本件生徒の進路希望の変更の主たる要因であることは明らかである。原告は、一度決めた本件生徒の本件高校への進学希望を変更して他校に進学させようと考えた保護者女性が、その変更の理由にするために、同意に基づいてした本件各行為を一転して問題化したと考えられるとまで主張しているが、保護者女性が本件行為2に同意していたと認められないことは既に説示したとおりであるし、平成29年12月6日に保護者女性が本件各行為につきQ2中学校に相談に行った時点で、Q3高校の特待生の募集期限は徒過しており、保護者女性が本件各行為を問題化したからといって、本件生徒に本件高校に代わり得るレスリング強豪校の進学先が見つかる保証などないのであるから、そのような動機で保護者女性が本件各行為を問題化するというのは極めて不合理な推論であって、およそ採用できない。
イ 故意又は過失の度合いについて
被告市教委は、本件各行為は判断能力がある状況下の故意行為であり、強く非難されると判断しているところ、この判断に不合理な点はない。
ウ 公務内外に及ぼす影響について
被告市教委は、本件各行為が、特に中立・公正性が求められる試験制度に対する信頼を著しく害し、教員に対する社会の期待と信頼を裏切り、学校教育に対する信用を失墜させた影響は大きいと判断しているところ、この判断に不合理な点はない。
エ 当該職員の職責、職貴と非違行為の関係について
被告市教委は、原告が本件生徒の合否を判断する立場にあり、その職責と本件各行為との関係は関連性が強いと判断しているところ、この判断に不合理な点はない。
オ 過去の非違行為
被告市教委は、原告に過去の非違行為がないことを確認しており、この点も考慮に入れていることが認められる。
カ 前後の態度について
被告市教委は、原告が、本件各行為後、関係者への仲裁を依頼して、事態の沈静化を図ろうとしており、「事案の重大性を認識していない」と保護者女性は不快感を示していると判断しているところ、本件各行為後、原告が第三者に仲介を頼んで沈静化を図ろうとしたことも事実であり(認定事実(4)イ、書証略)、この判断に格別不合理な点があるともいえない。
(2)以上のとおり、本件要綱4条各号掲記の要因についての被告市教委の判断にも不合理な点は見当たらない。すなわち、原告の本件各行為の態様は相応に悪質で、その動機に特段酌むべき事情はなく、結果も重大で本件各行為が公務内外に及ぼす影響も軽視できないものであるから、原告がレスリング部監督として高い指導実績を上げていたこと、原告には懲戒処分歴がないことなど、原告に有利な事情を勘案しても、免職処分を選択した被告市教委の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえない。」
本件は,「同僚から食事に誘うメール,交際申し込みのメールを送られたことを会社に相談したものの,会社が充分な事実調査をしない等対応が不十分であった」として,被害者が会社に対して損害賠償を請求したという事案です。
裁判所は,以下のとおり述べ,会社の損害賠償責任を否定しました。
「原告は,被告には本件セクハラ行為に関する調査義務があるところ,これを怠った点で被告は債務不履行責任を免れない旨主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,被告は,平成25年9月頃に,原告から,Cよりメールを送信されて困っているなどとセクハラ行為に係る相談を持ち掛けられたのを受けて,まもなく,Cに対し,事実関係を問い,Cから事実認識について聴取するとともに,問題となっている送信メールについてもCに任意示させて,その内容を確認するといった対応をとっているものである。
そうしてみると,被告において,事案に応じた事実確認を施していると評価することができるところであって,被告に債務不履行責任を問われるべき調査義務の違背があったとは認め難い。
原告は,被告において,Cと原告との間で交わされたメールの提出を求め,あるいは,従業員全員から聴取を行うべきであったなどと主張しているが,前判示のとおり,被告において,メールの確認はしているし,そのような事実確認も経ている中,プライバシーに係る相談事象について,他の従業員に対し,殊更事実確認を行うことが必須ということもできず,被告に原告が主張するような具体的な注意義務があったとまでは認め難い。したがって,その主張する点から前記判断が左右されることはない。
(2)ア 原告は,被告において,原告に対する職場環境配慮義務ないし安全配慮義務として,Cに懲戒処分を行うべき義務があり,その違反があったなどとも主張する。
しかし,前記認定事実によれば,Cが原告に対してした所為は,前記1(2)ないし(4)の範囲にとどまるものであったところ(原告は,Cの上記所為につき,ストーカー行為規制法所定のストーカー行為にも該当するものであった旨主張するが,同認定事実によれば,身体の安全等や行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われたものとまでは認め難く,これに該当するものとは認められない。同法2条3項参照),被告は,同(5)のとおり,こうしたCの所為につき,Cに対し,原告に不快の情を抱かせている旨説示して注意し,メール送信等もしないよう口頭で注意を施したものである。しかも,その際,被告は,Cからはメール送信も既にしなくなっている旨の申し出を受け,その申出内容もメールの内容を見ることで確認し,原告も,ひとまずCの謝罪を了としていたものである(証拠略)。そうすると,被告が,以上のような事実関係に鑑み,Cに対して上記のとおり厳重に注意するにとどめ,懲戒処分を行うことまではしないと判断したとしても,その判断が不合理ということはできず,これに反し,被告において,Cに対する懲戒処分を行うべき具体的な注意義務を原告に対して負っていたとまでは認め難い。
イ 原告は,被告において,原告に対する職場環境配慮義務ないし安全配慮義務として,配置転換等の措置を取るべき注意義務があり,その違反があったとも主張する。
しかしながら,Cが原告に対してした所為が前記(2)ないし(4)の範囲にとどまるものであったことや,そういった行為であっても原告に不快な情を抱かせるものとしてCに対して厳重に注意もなされていること,そして,Cも自身の行為を謝し,原告もひとまずこれを了とし,その際,あるいはそれ以降,特段,Cから,メール送信等により原告に不快な情を抱かせるべき具体的言動がなされていたとも被告に認められていなかったことは前記説示のとおりであるところ,前記認定1(10)のとおり,被告には本社建物しか事業所が存せず,配転をすることはそもそも困難であった上,この点措いても,そもそも倉庫業務担当者と営業補助担当者の接触の機会自体,伝票の受け渡し程度で,乏しかったものである(後に伝票箱による受け渡しで代替される程度に止まっていることからもこの点は窺われる。)。しかも,被告は,原告の発意に基づくものであったかは措くとしても,上記わずかな接触の機会についても,その意向も踏まえ,納品伝票を入れる伝票箱に入れることでやり取りをすることを認めたり,さらには担当者自体を交代するといったことも許容していたものである。そうしてみると,被告において,事案の内容や状況に応じ,合理的範囲に超える措置を都度とっていたと認めることはできるところであって,原告が指摘するような注意義務違反があったとは認め難い。」
本件は、労働者2名が、同僚への言動がセクハラ行為に当たるとして会社から出勤停止の懲戒処分及びこれを理由とする降格処分を受けたことに対し、当該懲戒処分や降格処分が無効であると主張した事案です。
この事案で、高裁は、①労働者2名の言動はセクハラ行為にあたり、懲戒事由は認められる②しかし、(1)被害者が拒否の姿勢を示しておらず、労働者らはこうした行為も許されると誤信していたこと、(2)労働者らは懲戒処分前にセクハラに対する会社の方針を認識する機会がなく、セクハラ行為について事前に注意を受けていなかったこと、等を挙げ、懲戒処分は重すぎて無効であり、これを理由とする降格も無効、という判断をしていました。
これに対して、最高裁は、①については高裁の判断を是認しましたが、②(1)について、労働者2名の言動は「いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであった」とし、被害者が拒否の姿勢を示していないことについても「被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくない」として、これを労働者に有利に考慮することは相当ではないとしました。
そして、②(2)についても、会社においてはセクハラ研修への参加を全従業員に義務付け、注意喚起の文書も周知していたことなどの事情を挙げ、労働者らはセクハラに対する会社の方針を当然に認識すべきであったといえること、セクハラ行為の多くが第三者のいない状況で行われており、被害者からの被害申告前に会社が労働者らに対して具体的な注意等をする機会があったとは伺われないことを指摘し、懲戒処分前の経緯を労働者らに有利に考慮することも相当ではないとしました。
そして、最高裁は、結論として、高裁判決を覆し、本件の懲戒処分及び降格処分を有効と判断しました。
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