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労働時間に関する裁判例

労働時間に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

なお、労働時間に関する裁判例のバックナンバーは,をご参照ください(番号をクリック)。

課長職の管理監督者該当性が否定された事例(東京地裁令和5年3月3日判決)

本件は、レストランチェーンを営む会社にて課長職を務める原告の管理監督者性等が争点となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを認めました。

(1)被告は、原告が労基法41条2号の管理監督者に該当する旨主張するところ、同号の管理監督者が、時間外手当等の支給の対象外とされるのは、当該労働者が経営者と一体的な立場にあり、重要な職務と責任を有しているために、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて労働することが要請されるという経営上の必要とともに、当該労働者は出退勤などの自己の勤務時間についてある程度自由裁量を働かし得るため、厳格な労働時間規制をしなくても保護に欠けるところがないことが理由であるとされる。
 したがって、当該労働者が管理監督者に該当するというためには、その業務の態様、与えられた権限・責任、労働時間に対する裁量、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されるべきである。
(2)以下、このような観点から、原告が管理監督者に当たるかについて検討する。
ア 業務の態様、権限、責任
 前記認定事実に照らすと、原告は、被告における最重要部門である戦略本部において、「□□」ブランドの事業経営について、D会長から示されたアイデアや大枠をもとに、企画内容、出店場所、メニューリスト、価格やコスト等について案を作成し、D会長とC常務とともに三者や話合いをして調整し、D会長の承認後はC常務とともに実行フェーズに移すという業務を遂行していたほか、戦略営業部の責任者として、「□□」13店舗を統括していたのであって、これらの業務が被告にとって経営上非常に重要なものであることは否定できない。
 もっとも、戦略本部における上記の経営企画業務は、あくまでD会長の考えを具体化する作業というべきであって、原告にある程度の裁量や権限があったことは認められるが、最終的にはD会長が重要な経営事項を決定していたものと認められる。
 また、原告は、「□□」の各店舗の社員の一次評価を行ったり、各店舗のアルバイトを採用する権限を有していたものの、アルバイトの解雇や社員の採用・解雇等の権限はなく、その人事権限は限定的なものであった。
 さらに、本件請求期間においては、「□□」の新規店舗の急拡大により人員が慢性的に不足し、原告は戦略本部における経営企画業務よりも、シフト表作成、社員・アルバイトの指導・教育、開店作業、キッチン業務、ホール業務、閉店作業等の店舗業務に追われることとなり、戦略本部の意思を実現するために経営側として従業員に指揮命令するというよりは、指揮命令される側である従業員側の労務が中心になっていたと認められる。
 以上を踏まえると、本件請求期間においては、会社の経営全体における原告の影響力は低くなっており、その権限・責任も限定的であったと評価するのが相当である。
イ 労働時間に対する裁量
 前記認定事実のとおり、原告は、タイムカードによって労働時間を管理されていた。
 また、原告は、「□□」各店舗の従業員のシフト表を作成する権限を有していたが、各店舗の開店・閉店時間についての裁量はなかった。
 本件請求期間においては、「□□」各店舗の人員が慢性的に不足していたため、原告は各店舗に出勤して店舗業務を行わなければならず、結果的にほとんどの月で月100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていた。
 以上を踏まえると、本件請求期間において、労働時間が原告の自由裁量に任されていたとは認められない。
ウ 待遇
 前記認定のとおり、被告における原告の年収は、平成30年度は上位16番目、令和元年度は上位23番目に位置しており、被告における労働者の最高位である部長に次ぐ待遇を受けていたものである。
 もっとも、原告は本件請求期間において月に100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていたところ、これに見合う手当や賞与が支払われていたとは言い難い。すなわち、非管理監督者である店長職の給与(最上位の店長は月額33万円。甲2の別紙1参照。)と比較すると、最上位の店長が月100時間の時間外等労働を行った場合には、45時間分の固定残業代が有効だとしても、割増賃金が相当程度発生するため、原告の月額42万円の給与を優に超えることになるのである。そうであれば、原告が非管理監督者と比べて厚遇されているとはいえない。
 以上によれば、原告の月額42万円という給与額及び700万円程度の年収額は、労働時間等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ないといえるほどに優遇されているとまではいえない。

(3)以上のように、原告は、被告においてある程度重要な職責を有していたものの、本件請求期間においては、実質的に経営者と一体となって経営に参画していたとまではいえず、労働時間に関する裁量を有していたともいえないし、待遇面でも十分なものがあったとはいえない。したがって、原告が管理監督者の地位にあったということはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠は存しない。

変形労働時間制の適用が無効とされた事例(名古屋地裁令和4年10月26日判決)

本件は、全国展開するチェーン店において、変形労働時間制の適用有無等が争点となった事案です。

裁判所は、就業規則に記載のないシフトの仕様等を理由に、以下のとおり述べ、変形労働時間制の適用を否定しました。

(1)変形労働時間制の有効性
ア 1か月単位の変形労働時間制が有効であるためには、①就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、②就業規則において定める場合には労働基準法89条により各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業時刻も定める必要があり、③業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、各日の勤務割は、それに従って、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りるとされている(労働基準法32条の2第1項、労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)。
 これを本件についてみると、前記前提事実(2)アのとおり、被告は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現に原告が勤務していた◇◇店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されている(前記前提事実(2)エ)ことに照らすと、被告が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない。
イ 被告は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
 しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない。加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(労働基準局長通達昭和22年9月13日発基17号)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することもできない。
 したがって、被告の主張は採用することができない。
ウ よって、被告の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

勤務報告書の提出等に要した時間につき、労働時間該当性が認められた事例(東京地裁令和4年6月1日判決)

本件では、現場での警備業務終了後、会社に戻り報告書を提出していた事案において、当該時間の労働時間該当性が争点となった事案です。裁判所は以下のとおり述べ、労働時間該当性を認めました。

「原告は、毎週水曜日に、本件支社に赴き、勤務実績報告書を提出していたほか、制服等を着用し、内勤の従業員による点検を受け、シフト希望表を作成して提出し、賃金支払票の交付を受けていたことが認められるところ、これら本件業務報告等は原告の業務に関連する行為であることは明らかである。そして、本件書面には、警備員には、週に1度、水曜日に会社に来てもらい、勤務希望表及び勤務報告書の提出、給与明細の受取り、制服の点検討を行う旨記載されていること、原告は現場における業務がない日もわざわざ自宅から本件支社に赴いて本件業務報告等を行っていることを踏まえると、本件業務報告等は、被告の明示又は黙示の指示により行った業務というべきであり、これに要した時間は労働時間に該当するというべきである。

 被告は、警備員に対し、勤務実績報告書を本件支社に持参することを義務付けておらず、郵送やファクシミリにより行うことも可能であった旨主張し、郵送での提出が認められたことがあることを示す証拠(書証略)を提出している。しかしながら、勤務実績報告書の提出自体は業務命令であることは明らかであるし(書証略)、警備員の本件業務報告等の対応を行っていたP1課長は、警備員の7割程度は勤務実績報告書を本件支社に持参していたにもかかわらず、持参する警備員に対し、郵送やファクシミリでの対応が可能であることを明確に指示していたとはうかがわれないのであるから(書証略)、例外が認められる場合はあるにせよ、原則としては本件支社に勤務実績報告書を持参することを求めていたというべきであって、勤務実績報告書の提出に要した時間は、被告の指示により業務を行った時間というべきである。」

休憩時間の労働時間性が否定された事例(静岡地裁令和4年4月22日判決)

本件は、鉄道沿線の警備業務に従事する労働者の休憩時間について、労働時間該当性が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、労働時間該当性を否定しました。

 (1)実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているということができる。ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じ
た場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解される(最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。

 (2)これを本件について見ると、前記1(1)(5)(6)のとおり、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、静岡隊の隊員が休憩時間中に出動要請を受けたのは、平成30年度に1回、令和元年
度に1回であり、隊員1人当たり2年に1回程度しかない。いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得している。しかも、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであった。そもそも新幹線の線路等はJRが保守点
検を尽くしており、被告の警備業務は補佐的役割であるので、勤務時間中も含めた静岡隊への出動要請は年10回前後であるし、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならない。
  また、前記1(2)(3)(4)のとおり、被告においては、休憩時間中の過ごし方も、多くの者は被告が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されている。そ
して、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、原告らもトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかったものである。
  以上の事実からすると、被告における休憩時間については、JRからの緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである。
  したがって、被告における休憩時間は、労働基準法の労働時間に当たるとは認められない。

就業場所での泊まり込み時間について、実労働時間と認められた事例(福岡地裁小倉支部令和3年8月24日判決)

本件は、被告の運営する施設に泊まり込みで就労していた労働者について、労働時間性が問題となった事案です。裁判所は、以下のとおり述べ、労働からの解放が保障されていなかった時間について、労働時間該当性を認めました。

判断枠組みについて

 ア 労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうが、所定労働時間外に労働者が使用者の業務の範囲に属する労務に従事した場合に、それに要した時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり(最高裁判所平成1239日第一小法廷判決民集543801頁参照)実作業に従事していない不活動時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該
時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。(最高裁判所平成14228日第一小法廷判決民集562361頁参照)そこで、各時間帯ごとに、労働時間該当性を検討する。

本件について

イ 平日の午前6時から午前830分まで平日の午前6時から午前830分までの間原告らは、利用者のトイレの介助などを行うことがあり(定事実(2))、これらの利用者対応は、被告の業務の範囲に属する労務にあたる。被告は、原告らの雇用契約にはQ2に関するものは含まれていないと主張するが、被告が、Q1Q2の両方の施設を運営していること、Q2の利用者は、日中はQ1で障害者向けの就労移行支援を受けていること原告らがQ1でも利用者らの支援を行っていることなどからすれば(書証略論の全趣旨)Q2における利用者対応も被告の業務に含まれるというべきである。Y午前6時には宿直担当者が帰ること利用者の中に精神的に不安定な者身体の不自由な者がいることは把握しているから(人証略)、原告らが利用者の対応を行っていることも知っていると考えられ、グループラインで利用者対応に関する指示がなされていたこと(認定事実(2))らも、被告は、利用者対応をすることについて、原告らに指揮命令をしていたと認められる。したがって、原告らが利用者の対応を行った時間は、労働時間にあたる。

  また、原告らには、利用者の対応をしていない不活動時間もあると考えられるところ、利用者から対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。
  ただし、原告らにも朝食を取るなど、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、午前6時から午前830分までの間の30分は労働時間にあたらないというべきである。
  なお、原告X1Q2で勤務していなかった期間においても、基本的な働き方は変わらないから、労働時間、休憩時間は同様に考えるのが相当である。
 ウ 平日の午後4時から午後9時まで
  平日の午後4時から午後9時までの間、原告らは支援記録を書いたり、夕食の配膳等を行ったりする他、利用者の人浴の見守り介助を行っていた
(認定事実(2))からこれらの時間は労働時間にあたる。

  また、それ以外の不活動時間においても介助等の利用者対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり労働時間にあたる。
  ただし原告らも夕食を取ったり風呂に入ったりしていたと考えられること原告らは週に341度につき30分から1時間程度自分の用事で外出していたこと(認定事実(2))からすれば原告らにも労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから少なくとも午後4時から午後9までの間の1時間は労働時間にあたらないというべきである。
  なお原告X1Q2で勤務していなかった期間においても同様である。
エ 休日の午前6時から午後9時まで

 休日も、原告らは、利用者のトイレや入浴の介助や、支援記録の記載等を行う他、利用者の外出に同行するなどしていたから(認定事実(2))、これらの時間は労働時間にあたる。

  また、それ以外の不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。ただし、原告らも食事を取ったり、自分の用事で外出したりしていたことを考えると、原告らには、少なくとも朝に30分、昼に1時間、夜に1時間、合計2時間30分は、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられ、これらは労働時間にあたらないというべきである。

なお、原告X1Q2で勤務していなかった期間においても同様である。

  オ 平日、休日の午後9時から翌日の午前6時まで

  原告らは、利用者が相談をしてきた時や、トイレの介助を頼んできた時は、宿直担当者に起こされ、利用者対応をしていたから(認定事実(2))、これらの時間は労働時間にあたる。

  また、それ以外の不活動時間においても、必要があれば起きて利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。ただし、原告らは、原告X1Q2で勤務していなかった期間を除いては、原告のうち一方が午前6時に起床して内鍵を掛ける場合は、もう一方が夜間対応をするというように、ある程度夜間にどちらが対応するかを決めていたこと、被告もそのような分担を禁止しているとはうかがわれないことからすれば、原告らは、それぞれ、2日に1日は夜間の利用者対応が義務付けられておらず、労働からの解放が保障されているというべきである。したがって、原告らは、平成295月から同年8月を除いた前後の期間については、午後9時から翌日の午前6時までが労働時間にあたる日と、労働時間にあたらない日が、交互(1日ずつあったというべきである。一方、平成295月から同年8月までの期間は、原告らはそれぞれ、一人で夜間の勤務をしていたのであるから、午後9時から翌日の午前6時までの間は、労働時間と扱うべきである。

  ただし、Q2では、23ケ月に1回、利用者がいなくなり、原告らが2名とも利用者を探しに行っていたから(認定事実(2))、そのような場合は、実際に労務に従事したとして、労働時間として扱うべきである。支援記録によっても、利用者が逃走した具体的な日時は明らかではないが、利用者は、23ケ月に1回、逃げ出していたから、3ケ月に1度は、原告ら2名とも、午後9時から午前6時まで労働時間であると扱うのか相当である。」

出退勤時間を記録するICカードの打刻時間のみによる労働時間の認定が否定された事例(東京地裁令和2年11月27日判決)

本件は、自死に至った労働者の遺族が、自死は業務によって発症した精神疾患に起因するものであるとして労災認定を行ったものの、労基署は労災を認めなかったため、裁判所に対して労基署の処分の取り消しを求めた事案です。ここでは、労働時間に関する判示を取り上げます。

原告側は、原則として、会社において出退勤管理に利用されていたICカードの出勤時刻及び退勤時刻から労働時間を認定すべきであると主張していましたが、裁判所は以下のとおり述べ、これを否定しました(なお、結論としても、労基署の判断を維持しました)。

(5)時間外労働時間による心理的負荷について
ア 本件での時間外労働時間認定におけるICカード及び本件申告書の証拠価値について
 この点,原告は,亡Pの平成26年6月16日から同年9月10日まで(以下,本(5)項では平成26年については月日のみ表記する。)の始終業時刻は,別紙2の1「亡Pの出勤・退勤時刻の主張対照表」の「原告」欄の「主張・再反論の理由」欄記載のとおりの理由で,原則としてICカードを打刻した時刻と認定し,6月28日の終業時刻,9月6日の始業時刻については例外的に本件申告書の記載の時刻と認定すべきである旨主張する。しかし,次のとおり,ICカードの打刻時刻や本件申告書記載の時刻のみから,直ちに亡Pの労働時間を認定することはできない。
(ア)ICカードの証拠価値について
 まず,ICカードの証拠価値について検討するに,確かに,前記(1)オ(ア)のとおり,本件会社では,ICカードにより出勤時刻及び退勤時刻を記録し,これに基づいて残業代を支払っていたのであり,本件会社におけるICカードの打刻は,単に出退勤の有無を管理する趣旨のものにすぎないとはいえない。
 しかしながら他方で,前記(1)ウ(エ)及び(オ)のとおり,宴会のある日については,N以外は全員一斉に始業し,宴会部門の担当者は皆で後片付けをした後,全体の作業が終わったことをMが確認した上で,宴会終了時刻頃には,当日の宴会に係る業務につき一斉に終業していたことが多く,また,宴会のない日や宴会が昼頃に開催されていた日は,ソースの調理や肉の下ごしらえ,野菜を切るなど翌日以降の宴会の料理の準備をしていたが,厨房において所定終業時刻以降に宴会の準備作業をすることはなく,下処理にかかる調理業務も全体の作業が終わったことをMが確認した上で一斉に終業していたことが多かったのであり,ICカードに打刻された出退勤時刻と他の同僚の出退勤時刻や宴会終了時刻(宴会のない日は所定終業時刻)との間に大きな齟齬がある日の多くの日について,亡Pが他の同僚よりも早く出勤して何らかの業務をする必要性や宴会終了時刻(宴会のない日は所定終業時刻)又は他の同僚の退勤時刻後に恒常的に何らかの業務をする必要性があったとは考え難い。
 また,証拠(乙1・165頁,乙12)によれば,Mは,亡Pが遅くまで事務室に残っていた際,翌日やることの手順を整理しているとか,人を待っていましたなどと言われたことがあり,また,宴会業務の終了後,L及び亡Pの調理師専門学校の同級生でスパレストランの責任者であった者と話をしているのを見たことがあったと認められる。また,証拠(乙1・173頁)によれば,Nは,亡Pに帰る旨声を掛けた際,Jにいってきますと言われたことがあり,さらに,証拠(証人L14頁)によれば,亡PがLを待っていて一緒に帰宅したことが一度あることが認められる。これらの事実からすれば,宴会の有無にかかわらず,亡PのICカードの打刻時刻が他の同僚の退勤時刻,所定終業時刻ないし宴会の終了時刻と大きく齟齬している理由については,亡Pが業務終了後にLを待っていたり,翌日の段取りを考えていたり,本件ホテル及び本件スパのほかのレストランに行ったりしていたことにあったことが窺われる。そして,これら亡Pの行動については,MないしLによる明示ないし黙示の業務指示によるものであったと認めるに足りる証拠はない。
 以上に照らせば,ICカードに打刻された出退勤時刻をもって直ちに本件会社の指揮命令下に置かれた時間であると推認することはできないといわざるを得ない。

美容師の業務において、練習会等への参加が労働時間に当たらないと判断された事例(東京地裁令和2年9月17日判決)

本件は、被告会社が運営する美容室にて美容師として就労していた労働者が、時間外労働に関する割増賃金等を請求した事案です。ここでは、練習会や着付け講習会(技能向上のための練習)の労働時間性についての判断を取り上げます。

裁判所は、以下のとおり述べ、労働時間制を否定しました。

(イ)練習会の労働時間該当性
a 被告会社がアシスタントである従業員に対してスタイリストに昇格しないことによる不利益を課していたなどの事情は証拠上見当たらないのであって,仮にスタイリストに昇格するための経験を積む機会が練習会のほかにないとしても,このことから直ちにアシスタントである従業員が練習会への参加を余儀なくされていたということはできない。加えて,証拠(乙19,原告本人〔47,48頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,練習会に参加する従業員は,練習のためのカットモデルとなる者を各自で調達し,カットモデルを調達できないこともあったこと,従業員は練習会でカラー剤等の費用相当額をカットモデルとなった者から徴収して被告会社に支払っていたが,カットモデルとなった者から個人的な報酬を受け取ることができたことが認められる。
 これらのことに照らすと,練習会は従業員の自主的な自己研さんの場という側面が強いものであったというべきである。
b このような練習会の性格に鑑みると,被告Y1が練習会における練習の開始や終了に関する指示等をしていたとしても,店舗の施設管理上の指示等であった可能性を否定することができないし,原告が被告Y1から施術について注意等を受けた際に練習不足であるとの指摘を受けたことを契機として練習会に参加したとしても,これをもって練習会への参加を余儀なくされたとはいえない。
c これに対し,原告は,練習会の途中で帰宅することは許されておらず,原則として従業員全員が練習会に参加しており,体調不良等を理由として練習会に参加しない場合には被告Y1の許可が必要であった,スタイリストに昇格した後に被告Y1から練習が足りないと言われて練習会への参加を命じられた,練習会でのアシスタントの指導をする必要があった旨供述等(甲12,原告本人〔4,8,31頁〕)するが,これを裏付ける的確な証拠はなく,被告Y1が原告の上記供述等の内容を否定する供述等(乙19,被告会社代表者兼被告Y1本人〔4~6頁〕)をしており,被告Y1の供述等の内容に特段不自然,不合理な点は見当たらないことに照らすと,原告の供述は直ちに採用することができない。
d 以上に述べたところによれば,原告が練習会に参加し,自らの練習や後輩の指導をしたことがあったとしても,被告会社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできないのであって,原告が練習会に参加した時間が労基法上の労働時間に該当するとはいえない。
(ウ)着付けの講習会の労働時間該当性
 弁論の全趣旨によれば,本件サンプル期間のうち,平成28年10月19日,同年11月2日,同月9日,同月16日,同年12月7日は,原告は被告会社の外部で実施された着付けの講習会に参加したことが認められるが,被告会社が原告に対して同講習会に参加するよう命じたと認めるに足りる証拠はない(原告は,元々着付けに興味があり,お店のためになればよいと思って被告Y1から許可を得て同講習会に参加した旨供述するにとどまる(原告本人〔9,10頁〕)。)。
 したがって,着付けの講習会に参加した時間は,被告会社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできず,労基法上の労働時間に該当するとはいえない。

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