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懲戒処分に関する裁判例

懲戒処分に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

飲酒運転によ懲戒免職となった公務員への退職金全額不支給が適法とされた事例(最高裁令和5年6月27日判決)

本件は、酒気帯び運転を理由に懲戒免職処分を受けて退職した公務員について、退職手当等の全額不支給の適法性が争われた事案です。高裁は、全額不処分の一部について違法と判示しましたが、最高裁は以下のとおり述べこれを覆し、全額不支給は適法と判断しました。

「(1) 本件条例の規定により支給される一般の退職手当等は、勤続報償的な性格を中心としつつ、給与の後払的な性格や生活保障的な性格も有するものと解される。そして、本件規定は、個々の事案ごとに、退職者の功績の度合いや非違行為の内容及び程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価することができる場合に、退職手当支給制限処分をすることができる旨を規定したものと解される。このような退職手当支給制限処分に係る判断については、平素から職員の職務等の実情に精通している者の裁量に委ねるのでなければ、適切な結果を期待することができない。

 そうすると、本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等につき、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を、退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解すべきである。したがって、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきである。

 そして、本件規定は、退職手当支給制限処分に係る判断に当たり勘案すべき事情を列挙するのみであり、そのうち公務に対する信頼に及ぼす影響の程度等、公務員に固有の事情を他の事情に比して重視すべきでないとする趣旨を含むものとは解されない。また、本件規定の内容に加え、本件規定と趣旨を同じくするものと解される国家公務員退職手当法(令和元年法律第37号による改正前のもの)12条1項1号等の規定の内容及びその立法経緯を踏まえても、本件規定からは、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする場合を含め、退職手当支給制限処分をする場合を例外的なものに限定する趣旨を読み取ることはできない。
(2) 以上を踏まえて、本件全部支給制限処分の適否について検討すると、前記事実関係等によれば、被上告人は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたものである。現に、被上告人が、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突するという本件事故を起こしていることからも、本件非違行為の態様は重大な危険を伴う悪質なものであるといわざるを得ない。
 しかも、被上告人は、公立学校の教諭の立場にありながら、酒気帯び運転という犯罪行為に及んだものであり、その生徒への影響も相応に大きかったものと考えられる。現に、本件高校は、本件非違行為の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応も余儀なくされたものである。このように、本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い。

 以上によれば、本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。」

当事者以外の者を宛先やCCに入れてメールを送付した行為について、非違行為該当性が認められた事例(東京地裁令和5年1月30日判決)

本件は、他の従業員に対するハラスメント行為を理由にけん責等の処分を受けた労働者が、その有効性などを争った事案です。

争点の1つとして、部下を指導する際のメールについて、それ以外の者を宛先やCCに入れたことの懲戒事由該当性が問題となりましたが、裁判所は、要旨、以下のとおり述べ、懲戒事由該当性を認めました。

「原告は、令和2年3月13日、●市場における広告代理店の選定に関し、AがCを選定することを前提に検討を進めていたことについて、D●事業本部長及びAに対し、CcにK及びMを入れたうえで、もともと打ち合わせた内容とは違うとして、「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」などと記載した電子メールを送信している。

 このうち、「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」との文言は、原告の部下であったAの言動について客観的な事実を指摘することなく、感情的にAを叱責する印象を与えるものであったことは否定し難い上、前記電子メールは、D●事業本部長からAが中心になって前記検討を進めてほしい旨の指示(略)を受けた後に、A以外の者を宛先やCcに入れて送信されたものであって、業務上必要かつ相当な範囲を超えてAを叱責するものであったというべきである。

 原告は、前記電子メールは、Aが原告を無視してD●事業本部長と二人で検討を進めていたことが組織の秩序を乱す行為であることを、D●事業本部長に対して発信したものである旨主張しているものの、仮に広告代理店の選定に関するAの検討内容やその過程に何らかの問題があったとしても、原告としては、AやD●事業本部長との間で個別に指導や相談を行うことで足り、A以外の者を宛先やCcに入れて前記電子メールを送信することが、業務上必要かつ相当であったとはいい難い。

 そうすると、原告が前記電子メールを送信したことについて後にAに謝罪したこと(略)を考慮しても、原告がA以外の者を宛先やCcに入れて前記電子メールを送信し、Aを叱責したことは、他の従業員を業務遂行上の対等な者と認め、職場における健全な秩序及び協力関係を保持する義務に反して、上司としての地位を利用し、Aへの嫌がらせを行った行為(就業規則について略)に反し、(略)の懲戒事由に該当する。」

高裁判決を覆し、パワーハラスメント行為等を理由とする公務員の分限免職処分が有効とされた事例(最高裁第三小法廷令和4年9月13日判決)

本件では、パワハラ等を理由に分限免職処分を受けた公務員について、当該処分の当否が問題となった事案です。第一審、控訴審は、処分が違法である旨判示していましたが、最高裁は以下のとおり述べ、処分を有効と判断しました。

「4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 (1) 地方公務員法28条に基づく分限処分については、任命権者に一定の裁量権が認められるものの、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものである場合には、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れないというべきである。そして、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果となることを考えれば、この場合における判断については、特に厳密、慎重であることが要求されるものと解すべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第95号同48年9月14日第二小法廷判決・民集27巻8号925頁参照)。
 (2) 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、上告人の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる。
 こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
 さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。そして、本件各行為の中には、被上告人の行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
 以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、被上告人に対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、上告人の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない。
 (3) 以上によれば、本件処分が違法であるとした原審の判断には、分限処分に係る任命権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。


 5 以上のとおり、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、本件処分にその他の違法事由も見当たらず、被上告人の請求は理由がないから、第1審判決を取り消し、同請求を棄却すべきである。」

懲戒処分と異動命令の区分について(東京地裁令和4年6月23日判決)

本件は、要旨、大幅な言及を伴う異動命令について、原告側が懲戒処分に該当する旨を主張し、その当否等が争点となった事案です(その他の点は割愛)。

裁判所は以下のとおり述べ、懲戒処分該当性を否定しました。

  (1)人事権の行使としての異動命令と、企業秩序の違反に対する懲戒権の行使である懲戒処分とは、本質的に異なるものであるところ、前記認定事実(8)ウのとおり、被告は、本件異動命令をした際には、これを人事異動として社内掲示板に掲載し、本件懲戒解雇時と異なり、原告に対する弁明の機会の付与や懲戒処分通知書の交付といった手続を行っていないこと、「経営企画部詰審議役への異動は、別紙記載1(別紙略)の組織規程25条、別紙記載4(別紙略)の本件協定5条に基づき、被告が人事権の行使として決定し得る範囲のものであることを考慮すると、本件異動命令は人事権の行使として行われたものと認めるのが相当である。

(2)これに対し、原告は、ある措置の性質が人事権の行使と懲戒処分のいずれであるかは、使用者の主観的な意図にかかわらず、企業秩序違反行為に対する制裁罰という性格を有するものであるか否かを客観的に判断すべきであるとし、本件異動命令は、人事権行使の業務上の必要性がないこと、原告に対する制裁目的があること、人事権行使の結果として許容し得る程度を著しく超える不利益を負わせるものであることから、懲戒権の行使としての降格処分に該当する旨を主張する。

 しかしながら、人事権の行使と懲戒処分とは、その根拠も有効要件も異なるものであり、使用者はその相違を踏まえた上で人事権の行使又は懲戒処分としで当該措置を執っていることを考慮すると、当該措置が人事権の行使と懲戒処分のいずれであるかを使用者の主観的意図と無関係に判断することが相当とはいえない。

 そして、本件異動命令が行われた当時は、Q1の支払停止が発生し、Q1(又はその関連会社であるQ4)から家賃の支払を受けられない債務者(顧客)が被告に対する返済に窮し、シェアハウスローンが回収困難となるおそれが顕在化したことから、危機管理委員会による事実関係の調査が開始され、いずれ金融庁の検査が行われることも予想される事態となっていたことを考慮すると、被告が、上記調査や検査に適切に対応するために、シェアハウスローンに関与してきた営業部門のトップの地位にあった原告をそのままその地位に置いておくことはできないと判断したことが合理性を欠くとはいえず、本件異動命令について業務上の必要性がないとはいえない。

 仮に、被告が本件異動命令を行うに当たり、原告に対する制裁目的があったとすれば、被告が懲戒処分を意図したことを基礎づける事情にはなり得る。しかし、原告が、P2会長から「シェアハウスの一連の問題があったので降りてもらう。」と告げられたとする点は、原告本人の陳述書(書証略)にょっても、執行役員の辞任についての発言である上、前記認定事実(8)によれば、被告においては、この頃、危機管理委員会を設置して事実関係の調査を開始したばかりであったのであるから、原告に「一連の問題」の責任を取らせるには時期尚早であるともいえ、P2会長の上記発言をもって本件異動命令に制裁目的があったと認めることはできない。また、P18人事部長が金融庁からのヒアリングへの対応のため原告に対して退職願の撤回を求めた事実(前記認定事実(8))は、本件異動命令の制裁目的を推認させるものではない。
   確かに、本件異動命令に伴い、原告の給与は大幅に減額されているが、これは、執行役員を辞任した原告が、その時点で55歳を超えてぃたことから、先任社員となり(別紙記載4の本件協定3条、別紙略)、先任社員の職務区分及び職位に応じた給与額が決定されたこと(別紙記載4の本件協定6)によるものであることが認められ(証拠略)懲戒処分によるものではない。

 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。

2次的な懲戒処分(停職6か月)について、裁量権の逸脱・濫用が否定された事例(最高裁第三小法廷令和4年6月14日判決)

本件は、要旨、労働者(被上告人)が、上司及び部下に対する暴行等を理由として停職2月の懲戒処分(第1処分)を受けた後、その停職期間中に、正当理由なく暴行の被害者に対して面会を求めたこと等を理由に停職6月の懲戒処分(第2処分)を受けたことについて、第2処分の有効性(裁量権の逸脱濫用として無効となるか否か)が争点となった事案です。

最高裁は以下のとおり述べ、第2処分につき、裁量権の逸脱濫用を否定しました。

「(1) 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁、最高裁平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照)。

 (2)ア 前記2(5)アの被上告人によるHへの働き掛けは、被上告人がそれまで上司及び部下に対する暴行及び暴言を繰り返していたことを背景として、同僚であるHの弱みを指摘した上で、第1処分に係る調査に当たって同人が被上告人に不利益となる行動をとっていたならば何らかの報復があることを示唆することにより、Hを不安に陥れ、又は困惑させるものと評価することができる。
 また、前記2(5)イの被上告人によるCへの働き掛けは、同人が部下であり暴行の被害者の立場にあったこと等を背景として、同人の弱みを指摘するなどした上で、第1処分に対する審査請求手続を被上告人にとって有利に進めることを目的として面会を求め、これを断ったCに対し、告訴をするなどの報復があることを示唆することにより、同人を威迫するとともに、同人を不安に陥れ、又は困惑させるものと評価することができる。
 イ そうすると、上記各働き掛けは、いずれも、懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害する行為というほかなく、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより、その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない。また、上記各働き掛けは、上司及び部下に対する暴行等を背景としたものとして、第1処分の対象となった非違行為と同質性があるということができる。加えて、上記各働き掛けが第1処分の停職期間中にされたものであり、被上告人が上記非違行為について何ら反省していないことがうかがわれることにも照らせば、被上告人が業務に復帰した後に、上記非違行為と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえない。
 以上の事情を総合考慮すると、停職6月という第2処分の量定をした消防長の判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
 (3) 以上によれば、第2処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。」

前の懲戒処分と後の懲戒処分において認定された非違行為に関連性が認められる場合において、後の懲戒処分が一事不再理の原則に抵触しないとされた事例(東京地裁令和4年1月20日判決)

本件は、要旨、教授が学生の自宅から朝まで帰らなかったことを理由として懲戒処分がなされた後、その際に学生に対する身体接触があったことを理由に改めて懲戒処分(懲戒解雇)がなされたという事案です。本件では、後の懲戒処分が、前の懲戒処分との関係で、一事不再理の原則(一つの行為について、重ねて処罰を受けることはない)に反しないか、が争点となりました(その他の争点は割愛)。

裁判所は、以下のとおり述べ、後の懲戒処分が一事不再理原則には反しない旨判示しました。

(2)本件懲戒事由を理由に本件懲戒処分を行うことが一事不再理に反するか

  ア 使用者による懲戒権の行使は、秩序維持の観点から雇用契約に基づく使用者の権能として行われる制裁罰であるから、同一の事実について重ねて懲戒権を行使することは、その権利を濫用したものとして無効というべきである。

  イ 原告は、本件懲戒事由は、前件処分の対象とされ、あるいは考慮されており、 件処分と同一の事案に対して再び懲戒処分の理由とするものであるから、本件懲戒事由①を理由に本件懲戒処分を行うことはできない旨主張する。

  前記前提事実(2)ア及び(3)のとおり、前件処分の対象は前件懲戒事由①及び②であり、本件懲戒処分の対象は本件懲戒事.及びであるところ、前件懲戒事由①(深夜に一人暮らしの本件学生の部屋に入り、朝まで退出しなかったこと)と本件懲戒事由①(本件学生のブラウスのリボンやボタンを外して胸を触ったこと)とは、同じ機会における一連の出来事であるということはできるものの、事実としては別異のものであるから、本件懲戒処分が外形上は一事不再理に違反するものでないことは明らかである。

  ウ 次に、原告は、前件処分は本件懲戒事由を考慮してなされたものであるから、本件懲戒事由①に基づいて本件懲戒処分を行うことは、実質的に一事不再理に違反する旨主張する。

  そこで検討するに、前記認定事実(4)ケ及びコのとおり、前件処分に係る経緯については、ハラスメント防止・対策委員会において、前件懲戒事由①及び②に係る事実のみがハラスメントとして認定された上、学長がこれらの事実について懲戒処分相当であると判断し、前件処分に係る懲戒審査委員会を招集したこと、懲戒審査委員会の審議においで対象が上記事実である旨説明され、審議を経て前件懲戒事由①及び②を対象とする懲戒処分案が決定されたこと、同懲戒処分案の交付の際、学長らは、処分の理由が前件懲戒事由①及び②に係る事実のみである旨説明し、室内で何かあったことを前提にしているのではないかという原告の問いに対してはこれを否定していることが認められるのであって、かかる経緯に照らせば、被告は、実質的にも、前件懲戒事由①及び②を対象として前件処分をしたものと認めるのが相当であり、同処分が本件懲戒事由を実質的に考慮してなされたということはできない。なお、原告は、被告が前件訴訟において、本件接触行為があったことを根拠に前件懲戒事由①に係る行為(本件学生宅への立入り)が性的な意図によりなされたと主張したことをもって、同処分が本件懲戒事由①〈本件接触行為)を実質的に考慮してなされた旨を主張するが、懲戒処分を決定する(懲戒事由の該当性を判断し、懲戒処分を選択・量定する)に当たっては、懲戒事由に係る行為の意図や態様等を考慮すべきことはもとより当然である(本件懲戒規程41号参照)。そして、行為の意図を認定するに当たって、当該行為前後の事情を考慮することには合理性があるところ、本件接触行為があったことを前提に、これを根拠の一つとして原告が性的な意図により本件学生宅へ立ち入ったものとして前件処分がなされたとしても、本件接触行為が前件処分の選択・量定において実質的に考慮されていたとはいえないから、上記主張は採用の限りでない。

  加えて、前記認定事実(5)ウ及び(7)のとおり、前件訴訟においては、第一審判決及び控訴審判決のいずれにおいても、本件接触行為を事実としては認定しつつ、これを度外視した上で前件懲戒事由①の懲戒事由該当性を肯定した上で、前件処分の有効性を認めている。とりわけ、控訴審判決においては、本件懲戒事由①に基づく本件懲戒処分がなされたこと及び同処分が係争中であることを踏まえ、具体的な行為態様について認定を差し控える旨を説示しており、本件懲戒事由①を考慮せずに前件処分の有効性判断をしたことが明らかである。かかる司法審査を経て前件処分の有効性が認められ、その判断が確定していることをみても、本件懲戒処分が実質的に一事不再理に抵触するものと認めることはできない。」

部下が飲酒運転によるひき逃げ事故車両に同乗していたことを理由に、上司が監督義務違反で戒告処分をされたことにつき、当該戒告処分が無効とされた事例(徳島地裁令和3年9月15日判決)

本件は、要旨、部下が、飲酒運転によるひき逃げ(死亡事故)を起こした車両に同乗していた件につき、上司(原告)が、部下の監督不行き届きを理由に戒告の懲戒処分を受けたことについて、当該懲戒処分の有効性が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり判示し、そもそも、原告には懲戒事由に該当する行為が認められないことを理由に、戒告の懲戒処分を無効と判断しました。

2 懲戒事由該当性(争点(1))について
(1)前記認定事実(1)ウのとおり,本件事件発生時,原告は,病気休暇取得中であり,部下職員に対する指導監督を行うことは期待できず,原告には,上記病気休暇期間中について,Bを含む部下職員らに対する管理監督義務の懈怠があったと認めることはできない。
(2)これに対して,病気休暇取得前である平成30年4月30日までの期間については,原告は,消防長部局の長である消防長の地位にあり,同部局に所属する部下職員に対する管理監督をすべき義務を負っていたというべきである。そして,地方公務員は,公務の信用及び職全体の名誉を傷つけてはならない(地方公務員法33条)こととされているから,その管理監督の範囲としては,当該公務員の職務自体に関する事項にとどまらず,私生活上の行為に関し,公務に対する信用及び信頼を損なわないように指導監督することまで及ぶものと解される。
 もっとも,原告が,消防長部局に所属する80名を超える部下職員に対して,直接かつ個別に管理監督を行うことが困難であることは明らかであるから,個々の職員に対する個別具体的な管理監督は,特段の事情がない限り,原告の部下であり,各職員の所属長である各消防署の署長らに委ねざるを得ない。そして,原告は,飲酒に絡む平成27年暴行事件が発生した際や,毎月の署長・課長会議等において,所属長らに対し,公務員倫理意識の涵養や社会人としての自覚の徹底,飲酒運転防止についての部下職員への指導を指示したり,年末には,職員らに対し,飲酒運転や飲酒運転車両への同乗の禁止について注意喚起を行うなどしていたと認められるのであるから,原告には,消防長に求められる部下職員に対する管理監督義務の懈怠があったとまではいえない。
(3)また,原告が,病気休暇取得前の時期において,Bが飲酒運転や飲酒運転車両への同乗など私生活上の非行に及ぶ蓋然性が高いというべき事情を認識していたなど特段の事情があれば,Bに対し,直接,個別具体的な注意を与えるなど,より高度の管理監督義務を尽くすべきであったと解する余地もあるが,前記認定事実(3)のとおり,Bの勤務態度に大きな問題はみられず,Bが酒臭をさせた状態で出勤したことがあったとの報告も原告にはされていなかったのであるから,原告において,Bが,飲酒運転車両への同乗といった私生活上の非行に及ぶ蓋然性が高いというべき事情を認識していたとはいえないし,その認識をする契機があったともいえない。そうであれば,原告が,Bに対し,直接,個別具体的に飲酒運転の危険性等について注意を与えるなど具体的監督権限を行使すべきであったともいえず,この点からも,原告に管理監督義務の懈怠があったということはできない。
(4)被告は,①原告は,職員による飲酒関連不祥事が発生し,アルコールチェッカーの必要性を認識していたにもかかわらず,職員らにアルコールチェッカーの使用を義務付けたりしなかった,②飲酒の影響があると疑われる勤務についての職場での報告体制を確立しなかった,③原告が行っていた所属長への指示や職員への通知は形式的なものにとどまり,他の地方公共団体で行われているような飲酒運転防止に向けた行動指針を示すなどより職員に響くような管理監督を施してこなかったと主張する。

しかし,アルコールチェッカーの使用の義務付けや飲酒の影響があると疑われる勤務についての職場での報告体制の確立は,主として,職員が酒気を帯びて勤務することによる事故等の防止のための施策であり,そのような施策を行うことによって,勤務日前の職員による過度な飲酒を抑制する効果は期待できるものの,勤務時間外に飲酒運転車両に同乗するという職員の私生活における飲酒関連不祥事の防止に直接関連するとは認められず,これらを行わなかったことが,本件事件にかかる管理監督義務の懈怠であるとはいえない。また,飲酒運転が重大な犯罪行為であることは一般常識であり,所属長を通じて定期的に注意喚起を行ったり,年末年始など飲酒の機会が多くなる時期に職員に対する注意喚起を改めて行ったりすること以上に,具体的な飲酒運転防止に向けた行動指針を示すなどの施策を行うことまでもが消防長に求められているということもできない。

(5)以上によれば,原告に管理監督義務の懈怠を認めることはできず,原告に懲戒事由該当性があるとはいえない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件処分は違法であって取消しを免れない。

懲戒処分に際し弁明の機会を付与しなかったことが、軽微な手続的瑕疵とは言い難いとして、けん責の懲戒処分が無効と判断され、慰謝料の支払いが認められた事例(東京地裁令和3年9月7日判決)

本件は、勤務先会社の企業年金が確定拠出年金に移行すること(DC移行)につき、必要書類の提出を求められた原告が、会社側に関連資料の提供を求めた上で「この件で、私が不利益を被ることがありましたら、訴訟しますことをお伝えします」というメッセージ(本件メッセージ)を送信したことを理由にけん責の懲戒処分を受け、その有効性が問題となった事案です。なお、当該懲戒処分に際して、原告に弁明の機会は付与されていませんでした。

裁判所は、以下のとおり述べ、懲戒処分は無効として、慰謝料として10万円の支払が相当であると判示しました。

1 懲戒権の濫用の有無(争点1)について
(1)懲戒処分に当たっては,就業規則等に手続的な規定がなくとも格別の支障がない限り当該労働者に弁明の機会を与えるべきであり,重要な手続違反があるなど手続的相当性を欠く懲戒処分は,社会通念上相当なものといえず,懲戒権を濫用したものとして無効になるものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,本件けん責処分は,原告に弁明の機会を付与することなくなされたものである。原告がAに対して本件メッセージを送信したこと自体は動かし難い事実であるし,証拠(甲15から17まで,乙8,9)によれば,原告が度々抗議に際して訴訟提起の可能性に言及するなどして被告,その代表者および従業員に対する敵対的な態度を示していたことが認められ,これが抗議の方法として相当といえるか疑問の余地もある。しかしながら,それが脅迫に当たるか,DC移行に係る必要書類の提出を拒むなどした原告の態度が,懲戒処分を相当とする程度に業務に非協力的で協調性を欠くものといえるかについては,経緯や背景を含め,本件メッセージの送信についての原告の言い分を聴いた上で判断すべきものといえる。そうすると,原告に弁明の機会を付与しなかったことは些細な手続的瑕疵にとどまるものともいい難いから,本件けん責処分は手続的相当性を欠くものというべきである。
(3)したがって,本件けん責処分は,懲戒権を濫用したものとして無効と認められる。
2 本件けん責処分による損害(争点2)について
(1)懲戒処分は,労働者に経済的な不利益を与え,その名誉・信用を害して精神的苦痛を与え得る措置であるため,これが懲戒権の濫用と評価されるときは,使用者の不法行為(民法709条)が成立し得るが,必ずしも懲戒権の濫用が不法行為の成立に直結するわけではないから,使用者の故意・過失,労働者の不利益や損害の有無等を検討する必要があるところ,被告には原告に弁明の機会を付与せずに本件けん責処分をしたことについて,少なくとも過失が認められる。
(2)原告は,本件けん責処分によって多大な精神的苦痛を被ったとし,損害として慰謝料100万円及び弁護士費用50万円を主張する。
 けん責処分は,それ自体で労働者に実質的不利益を課すものではないものの,昇級・一時金・昇格などの考課査定上不利に考慮されることがあり得ること,始末書を提出することについては心理的な負担感も伴うことからすると,違法なけん責処分によって精神的苦痛を被ることは否定し難い。
 もっとも,前記前提事実のとおり,本件けん責処分は,被告代表者からメールで告知されたものであり,これが被告の他の従業員等の知れるところとなったなどの事情もうかがわれない。また,前記のとおり,原告が度々訴訟提起の可能性に言及するなどして被告に対する敵対的な態度を示していたことが認められ,本件けん責処分及びその原因となった本件メッセージの送信もその延長という側面が少なからずある。そうすると,原告が本件けん責処分によって多大な精神的苦痛を被ったとまではいい難い。
 その他本件に顕われた一切の事情を考慮すると,原告が本件けん責処分によって被った精神的苦痛を慰謝するに足りる相当な額は,10万円と認めるのが相当である。

女性に対する追跡行為を理由とした諭旨解雇処分が無効と判断された事例(東京地裁令和2年7月2日判決)

ここでは、2か月ほどの間、複数回にわたり、「被害女性の帰宅時に、被告の事務所が入居しているビルの外から最寄り駅のホームまで後をつけ、同じ電車に乗り込み追跡するといった行為」(判決において「本件ストーカー行為」と言われています)を行った労働者に対する懲戒処分としての諭旨解雇処分の有効性が問題となった点を取り上げます。裁判所は以下のとおり述べ、諭旨解雇の懲戒処分は無効と判断しました。

ア 上記(1)の認定事実によると,原告は,被害女性に興味を抱き,平成29年9月頃から同年11月までの間,複数回にわたり,被害女性の帰宅時に後をつけ,同じ電車に乗り込み追跡するといった本件ストーカー行為に及んだことが認められるところ,本件ストーカー行為が,被害女性の意に反するハラスメント行為に該当することは明らかである。そして,被害女性が警察に相談した後,被告が警察に協力し,原告や被害女性に対する事情聴取が行われたことや,本件警告後も,被告が警察からの数回に及ぶ照会に対応していることなどに鑑みると,本件ストーカー行為は,被告の就業規則123条20号において諭旨免職又は懲戒解雇の事由として定められている「ハラスメントにあたる言動により,法人秩序を乱し,またはそのおそれがあったとき」に該当するといえる。
 なお,被告は,原告による本件ストーカー行為は,少なくとも4回に及び,そのうち1回は,原告が被害女性と同じ駅で電車を降りて被害女性を尾行した旨主張する。しかしながら,原告は,本件ストーカー行為を行った回数について,複数回又は2,3回くらいであり,4回はないと思うと供述し,被害女性と同じ駅で電車を降りたことを否定する旨の供述をしている。また,原告は,警察から,原告が被害女性の後をつけている写真を見せられたことを認める供述はしているものの,撮影された場所は明らかではない(原告本人・43頁から44頁まで)。他に被告の上記主張を裏付ける的確な証拠がないことを考慮すると,被告の上記主張は採用することができない。
 また,被告は,本件ストーカー行為のほかに,原告が,職場内において,被害女性の近くの席に座るようになり,被害女性に対して度々視線を送るなどの行為を行った旨主張する。しかしながら,原告は当該行為を行ったことを否定する旨の供述をしており,被告の主張を認めるに足りる十分な証拠がないことから,この点に関する被告の主張は採用することができない。
イ 次に,本件諭旨免職処分は,社会通念上相当であると認められない場合に当たるかについて検討する。
 上記(1)ウの認定事実によれば,原告は,被告から事情聴取を受けた際に,反省の弁を述べる一方で,被害女性が,入院したり,PTSDになったりはしておらず,普通に出勤しているのであるから問題はないのではないかなどといった被害女性への配慮を欠く発言をしていることからすると,原告が,本件ストーカー行為が被害女性に与えた精神的苦痛を十分に理解し,本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかは疑わしく,被告において,原告には本件ストーカー行為を行ったことについて反省の態度が感じられないと判断したこと自体に問題があったとはいえない。
 しかしながら,原告には,本件警告を受けた後も被害女性に対するストーカー行為を継続していたといった事情や,他の女性職員に対してストーカー行為に及ぶ具体的危険性があったといった事情までは認められない。また,原告には,本件ストーカー行為が発覚するまでに懲戒処分歴はなく,管理職の地位にある者でもない。これらの事情を総合考慮すると,原告が本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかが疑わしい点を勘案したとしても,労働者たる地位の喪失につながる本件諭旨免職処分は,重きに失するものであったといわざるを得ない。そうすると,本件諭旨免職処分は,社会通念上相当であるとは認められない場合に当たる。
ウ 以上によれば,本件諭旨免職処分は,労働契約法15条により,その権利を濫用したものとして無効である。

パワハラを理由とする訓戒の懲戒処分が有効と判断された事例(東京地裁令和元年11月7日判決)

本件は,原告労働者の部下(外国籍)に対するパワハラ言動を理由として,訓戒の懲戒処分がなされたことについて,原告が懲戒処分の無効等を主張した事案です。裁判では,部下Cが原告の指示を受けて業務を行った際,原告が「そんな指示はしていない」と叱責し「あなた何歳のときに日本に来たんだっけ?日本語分かってる?」と発言したことについて,「本件発言は,その発言内容そのものが相手を著しく侮辱する内容であり,また,Cが日本国籍を有しない者であることからしても,同人に強い精神的な苦痛を与えるものというべきである。そうすると,上記発言は,原告が部下であるCに対し,職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的,身体的苦痛を与えたものとして,被告の就業規則79条18号所定のパワーハラスメントに当たるというべきである。」として,パワハラとしての評価がされました。

なお,本件で,原告は「本件懲戒処分を受けるに当たり,B弁護士(※会社の顧問弁護士)から事実関係のヒアリングを受けたにすぎず,懲戒権者である被告に対する釈明又は弁明の機会が与えられていないことから,被告の就業規則において必要とされる手続が履践されていない」と主張していました。

この点,裁判所は以下のとおり述べ,手続の点は懲戒処分の有効性に影響を与えない旨判示しました。

『被告の就業規則においては,「懲戒を行う場合は,事前に本人の釈明,又は弁明の機会を与えるものとする」との規定があるのみであり,釈明の機会を付与する方法については何ら定められていない。そして,本件懲戒処分に先立ち行われた本件調査は,法的判断に関する専門的知見を有し,中立的な立場にあるB弁護士が,被告から依頼を受けて行ったものであるから,釈明の機会の付与の方法として適切な方法がとられたということができ,被告の就業規則において必要とされる手続が履践されたというべきである。したがって,原告の主張は採用することができない。

 なお,本件調査の対象は懲戒事由であるパワーハラスメントの有無に関するものであり,懲戒処分の相当性についての意見聴取を含むものではないが,本件訴訟において原告は,本件懲戒処分の手続の瑕疵の点を除けば,専ら懲戒事由の存否を争っているのであり,また,訓戒の処分が被告の懲戒処分の中では最も軽いものであることなどからすれば,懲戒処分の相当性についての意見聴取がされていないからといって,被告の就業規則において必要とされる手続が履践されていないということはできない。』

懲戒処分(けん責)の無効確認請求訴訟において,確認の利益が否定された事例(東京地裁平成30年12月26日判決)

本件は,けん責の懲戒処分を受けた労働者が,当該懲戒処分は懲戒権の濫用にあたり無効であると主張し,懲戒処分の無効確認及び損害賠償請求を行った事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,懲戒処分の無効確認を求めること自体を認めませんでした(損害賠償請求についても,懲戒処分は社会通念上相当として,労働者の請求を認めませんでした。)。

「1 本件懲戒処分の無効確認に係る訴えの適法性
  (1) 本件訴えのうち本件懲戒処分の無効確認を求める部分は過去の法律関係の確認を求めるものであるところ,確認訴訟における確認の対象となる法律関係は,原則として現在における法律関係であって,過去の法律関係の確認については,現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合に限って確認の利益が認められると解するのが相当である。
    本件において,原告は,本件懲戒処分が無効かつ違法なものであることを前提に,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に慰謝料等の支払を求める請求をしているところ,当該給付請求をしている以上,過去の法律関係の確認をすることが本件紛争の抜本的解決のために最も適切かつ必要と認めることはできない。
  (2) これに対し,原告は,本件懲戒処分により①原告が今後本件就業規則62条1項9号の適用対象者となってしまうこと,②被告におけるセカンドキャリア支援制度の利用に支障が出るなどの具体的な不利益を被ることから,本件懲戒処分の無効確認の利益があると主張する。
    しかし,①については,同号は,「前条で定める処分(厳重注意,けん責,減給及び出勤停止)を再三にわたって受け,なお改善の見込みがないとき」に懲戒解雇に処すると定めているにすぎず,1回けん責処分を受けたことで当該要件が当然に充足されるわけではないから,現時点において原告に具体的な不利益が生じていると認めることはできない。また,被告のセカンドキャリア支援規程(甲20)によれば,セカンドキャリア支援制度を適用する対象者となるための1要件として,「在職中誠実に勤務し,当社の発展に貢献した者」(3条5号)と定められているところ,1回のけん責処分で当該要件を充足しなくなるとは文言上読み取れない上,過去にけん責処分を受けても当該制度を利用した従業員が複数存在すること(乙158)からすれば,上記②についても,本件懲戒処分により具体的な不利益が生じると認めることはできない。
  (3) したがって,本件訴えのうち本件懲戒処分の無効確認を求める部分は,確認の利益を欠くものとして不適法である。」

地方公務員のセクハラ行為を理由とする停職処分が有効と判断された事例(最高裁第3小法廷平成30年11月6日判決)

本件は,地方公務員であった者が,勤務時間中に作業着で訪れたコンビニにおいてわいせつな行為(行為1「勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて,そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し,当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとった」行為2「以前より当該コンビニエンスストアの店内において,そこで働く従業員らを不快に思わせる不適切な言動を行っていた」。なお,本件懲戒処分の直接の対象は行為1であり,行為2は行為1の悪質性を裏付ける事情,という整理がされている。)を行ったとして停職6か月の懲戒処分を受けたことに対し,その有効性が問題となった事案です。

第一審及び控訴審は,処分が重すぎるとしてこれを無効としていましたが,最高裁は,以下のとおり述べ,懲戒処分を有効と判断しました。

「公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をするか否か,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁平成23年(行ツ)第263号,同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照。)

 原審は,①本件従業員(※被害者)が被上告人(※懲戒処分を受けた者)と顔見知りであり,被上告人から手や腕を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと,②本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まず,そのためもあって被上告人が警察の捜査の対象にもされていないこと,③被上告人が常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められないこと,④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと等を,本件処分が社会通念上著しく妥当を欠くことを基礎づける事情として考慮している。

 しかし,上記①については,被上告人と本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係に過ぎないから,本件従業員が終始笑顔で行動し,被上告人による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,身体的接触についての同意があったとして,これを被上告人に有利に評価することは相当でない。上記②については,本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まないとしても,それは,事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。さらに,上記③については,行為1のように身体的接触を伴うかどうかはともかく,被上告人が以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2),これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは,本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。そして,上記④についても,行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道され,上告人において記者会見も行われたことからすると,行為1により,上告人の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり,社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。

 そして,市長は,本件指針が掲げる諸般の事情を総合的に考慮して,停職6月とする本件処分を選択する判断をしたものと解されるところ,本件処分は,懲戒処分の種類としては停職で,最も重い免職に次ぐものであり,停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって,被上告人が過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば,相当に重い処分であることは否定できない。しかし,行為1が,客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって,上告人の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり,また,被上告人が以前から同じ店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情に照らせば,本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず,市長の上記判断が,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。」

懲戒処分の事実を法人内で公表したことが名誉棄損に当たらないとされた事例(東京地裁平成30年9月10日判決)

本件は,大学医学部のA教授になされた懲戒処分について,学内で「職員の懲戒処分について」と題する記事が学内専用ホームページに掲載されたこと等について,A教授側が,名誉棄損に基づく損害賠償等を請求した事案です(ここでは,名誉棄損の当否以外の点は割愛)。なお,記事の内容は以下のとおりです。

「このたび,本学の教員が,平成28年12月,学外委員を含む本学の重要事項を審議する会議において,自己の主張が受け入れられないことが決定した後に,会議の途中でありながら,正当な理由なく無断で退席しました。また,本会議での審議内容については,重要事項であり非公開で進める旨の取り決めがなされていたにも関わらず,会議メンバーの了承を得ることなく,無断で録音していた審議の内容を電子メールで多数の教職員に送信しました。さらにこの内容を知った学外者を経由し,さらに多数の教職員の知るところとなりました。これらのことを受け,法務・コンプライアンス・地域貢献担当理事を中心に事実確認等を行い,役員会で審議した結果,平成29年9月28日付けで当該職員を懲戒処分として,戒告しました。このようなことが起こってしまったことは誠に遺憾であります。今後,このようなことがないよう,教職員においては今一度,自身の職責や職務への取組み姿勢を振り返るとともに,より一層,職務に専念して下さい。」

裁判所は,本件懲戒処分が有効であることを前提の上,以下のとおり判示し,名誉棄損の成立を認めませんでした。

「懲戒処分の学内周知等要領2条,4条1項によれば,被告においては,大学運営の透明性を確保するとともに,職員の服務に関する自覚を促し,同様の不祥事の再発防止を目的として,原則として全ての職員の懲戒処分について学内周知を行う旨規定されているところ,(略)本件懲戒処分についても上記規程に基づき本件学内周知行為が行われたこと,本件記事には被懲戒者が原告であることを直接特定するような記載がないことが認められる。上記によれば,本件学内周知行為は,原告の社会的評価を低下させるものではなく,原告に対する名誉棄損行為に該当しない。

 仮に本件記事から被懲戒者が原告であると認識することが可能であり,本件学内周知行為により原告の社会的評価が低下するおそれがあるとしても,本件学内周知行為は,被告の医学部教授であり,12月選考会議当時,医学部長,教育研修評議会評議員,学長選考会議委員及び同会議副議長を兼任するなど公的立場にあった原告に対する懲戒処分についてされたものであり,公共の利害に関するものであると認められること,B学長の再選に反対した報復や見せしめなどの不当な動機を伺わせるような事情も認め難く,懲戒処分の学内周知等要領2条,4条1項に基づき,大学運営の透明性を確保するとともに,職員の服務に関する自覚を促し,同様の不祥事の再発防止を目的としてされたものであって,専ら公益を図る目的で行われたものと認められること,(略)本件懲戒処分は適法かつ有効であり,本件記事の内容も真実に基づくものと認めらられることからして,違法性が阻却される。」

セクハラに当たると評価されたLINEを理由とする停職一か月の懲戒処分が無効と判断された事例(東京地裁平成30年8月8日判決)

本件は,大学の准教授であった原告が,女子学生に対するLINEがセクハラに当たるとして大学側から停職1か月の懲戒処分を受けたことにつき,①当該LINEはセクハラに当たらない②仮にセクハラに当たるとしても停職1か月は重過ぎる,として,懲戒処分の無効を主張した事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,原告の女子学生に対するLINEはセクハラに当たるとしましたが,1か月の出勤停止処分は重過ぎるとして,懲戒処分を無効と判断しました。

1 LINEのセクハラ該当性について

「原告の本件LINEにおける一連の言動は,痴漢の話題に始まり,短期大学におけるセクハラの件に触れ,女子学生Aが在籍した短期大学の学長のセクハラに及ぶや,「学長のケースって,やっちゃったの?」とか,セクハラの限界線などとして,「お尻は無理だけど,二の腕はOKとか」などと,性的な内容の話題に言及している。また,その後も,ゼミの学生の選考に関し特定の女子学生を途中で「切る」理由として「かわいくないから」などと述べるなど,女性を容姿で判断する志向を示した上で,女子学生Aに対し,「今度,デートしよっか?」と述べているもので,一般的に女性の立場から見て不愉快を感じさせるに足りる内容であることは明らかであり,実際に,女子学生Aは本件LINEの翌日である4月12日には人権コーディネータに相談し,改めてのゼミ登録ができない状況下でもあえて原告のゼミを続けることはできないとの認識を示していること(略)からすると,女子学生Aは,原告の言動により実際に不快感を抱いたと認められる。以上に照らすと,原告の本件LINEにおける言動は,セクハラ防止規程2条2号の「性的な言動により学生に不快感を与えて,当該学生の就学・研究環境を悪くすること」に当たると認められるから,就業規則61条の2及び84条の懲戒事由に該当するというべきである。」

2 懲戒処分の相当性について

「原告は,本件LINEによるやり取りの早期の段階で,女子学生Aが既読無視をしたことを咎めたとも受け取れる発言をしているところ,原告と女子学生Aが教員とそのゼミ所属希望の学生という特殊な関係にあり,原告の上記発言により女子学生AがLINEによるやり取りを途中で打ち切れないという心情に陥っていることに照らすと,少なくとも,これは不用意な発言であったといえること,原告としては,教員とゼミ所属希望の学生という関係に思いを致し,女子学生Aが原告からのLINEを打ち切れないという心情にあることをも考慮に入れて,原告の方から会話を打ち切るべきであったといえるところ,原告は,延々と約3時間にわたってLINEを続けているもので,原告の態度は軽率の誹りを免れないこと,女性を容姿で選別するかのような教員としての品位を疑わせる発言も認められること,(中略)本件LINEによる一連の発言により,実際に女子学生Aに強い不快感を抱かせていることなどに照らすと,かかる言動に対する原告の責任については,これを軽視することはできないというべきである。

 しかしながら,他方で,本件LINEの経過を子細に見ると,原告は,女子学生Aからの研究ノートという講義についての質問を受けて,丁寧にこれに答えており,その後,女子学生Aに対し,眠かったら無理せず言ってほしい旨申し向けていることなども併せて考えると,前記の既読無視の指摘やゼミの単位に関する発言については,女子学生AにLINEを打ち切らせないための意図的な行動であったとは認め難い。また,本件LINEについては全体的に軽佻な冗談を交えた雰囲気のものであり,デートに誘う発言についても,女子学生Aに断られてそれ以上の言動に出ているわけでもなく,断られることを前提とした冗談であるとみるのが自然であって,少なくとも,教員とゼミへの所属を希望する学生という上下関係を利用して,デートすることを目論んだものとは認め難い。原告の対応が軽率であったことは否定できないものの,女子学生Aの返答ぶりも全体としてかなりフランクなものであり,原告の一連の言動に対し明確な拒絶をしなかったことに照らすと,原告が女子学生Aが困惑していないと誤信し,調子づいて一連の発言をしたことを過剰に非難するのは相当ではない。さらに,(中略)原告には懲戒処分歴がないことや,懲戒処分における事情聴取ないし弁明手続の中で,本件LINEにみられるような学生とのコミュニケーションの取り方を反省し,今後同様の行為を繰り返さないという趣旨を述べていることからも(書証略),一定限度で原告に有利に斟酌すべき事情であるといえる(なお,被告は,この点に関し,同手続における原告の一部の言動を捉えて,原告に真摯な反省がみられない旨主張するところ,そのような主張は,大学運営という観点からセクハラの再発を厳に防止すべきという被告の立場に照らし理解できるものではあるが,懲戒処分の量定に当たっての被懲戒者に対する評価としては厳しすぎるといわざるを得ない。)。

 これらの事情に照らすと,被告が,原告に対し,就業規則上懲戒解雇に次ぐ重い懲戒処分として停職を選択したことは重きに失するというべきであって,本件停職処分は(中略)労働契約法15条に基づき,無効であると認められる。」

男女関係を契機とする懲戒処分、配転命令が有効と判断された事例(東京地裁平成27年9月9日判決)

本件は、使用者である会社から、元交際相手の男性との復縁工作を探偵社に依頼した行為について3日間出勤停止の懲戒処分等を受けた労働者が、当該懲戒処分の無効を主張した事案です。本件では、懲戒事由の有無、懲戒権の行使が濫用に当たるか等が主要な争点となりました。

この点、裁判所は、懲戒事由の有無については、「原告は、男性を女性に近づけ、別れを演出する等の復縁工作を行う探偵社であることを知りながら、当該探偵社に対し、130万円を支払って、原告の元交際相手であった本件男性の身辺調査及び復縁工作を依頼した(以下「本件依頼行為」という。)。当該探偵社は、本件依頼行為の依頼を遂行するために、(中略)名誉毀損行為(自宅まで撮影された顔写真の公開によるプライバシー侵害も含む。)、被害女性の結婚式・披露宴直前に、その会場に対し、開催すると大変なことが起きる等とのメールを送信する脅迫行為、及び、被告営業所に対する多数回の架電、メール、ホームページへの書き込み等をする業務妨害行為を行った(以下「本件名誉毀損等の行為」という。)。本件名誉毀損等の行為は、本件依頼行為がなければ発生しなかったといえるから、両者の間には条件関係がある。そして、原告としては、探偵社が本件依頼行為の依頼を遂行する手段として本件名誉毀損等の行為を行うことまでは認識、認容していなかったが、工作員の男性を女性に近づけて男女を別れさせる等という詐術を用いた復縁工作を行う探偵社であることは認識しており(中略)、本件依頼行為により、原告の元交際相手である本件男性及びその交際相手である被害女性のプライバシー権を正当な理由なく侵害する行為が行われることはもちろん、被害女性と本件男性を別れさせる目的で、工作員の男性が、被害女性に恋愛感情があるかのように振る舞い、被害女性をその旨錯誤に陥らせるといった詐術を用いて、本件男性と被害女性を別れさせるという社会通念上相当とはいえない行為が行われる危険があることは認識し得たと認められる」と認定し、就業規則の懲戒事由である「職場・・・外において他人の人権をみだりに侵した・・・等の行為」「・・・重大な過失により会社秩序をみだし・・・た」に該当すると判断しました。

また、懲戒権の濫用に当たらないかという点は「本件依頼行為は、本件男性及び被害女性のプライバシーを正当な理由なく侵害する行為で、かつ、社会通念上相当とはいえない行為である。そして、本件依頼行為がなければ起きなかった本件名誉毀損等の行為により、被害女性はインターネット等において実名をもって著しく名誉を毀損され、その結婚式の二次会は中止を余儀なくされ、被告は数日間の業務妨害により多数の従業員による対応を余儀なくされた。つまり、本件依頼行為は、それ自体が権利侵害である上、起きた結果はさらに重大である。そうすると、原告が、本件名誉毀損等の行為が行われることについて認識、認容していなかったこと、原告について初めての非違行為であること、被害女性と示談が成立していること、原告が、交際相手から他の女性との結婚を伝えられ、焦りの余り取った行動であることとを考慮しても、出勤停止3日の懲戒処分を行うことは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、懲戒権の濫用であるとはいえない(労働契約法15条)」とし、懲戒権の濫用にも当たらず、結論として懲戒処分は有効と判断しました。

パワハラを理由とする懲戒処分(降格)が有効とされた事例(東京地裁平成27年8月7日判決)

本件は、被告会社で現在も就労する原告が、自身のパワハラ行為を理由に会社から受けた懲戒処分(降格)が無効であると主張し、その無効確認を求めた事案です。争点は多岐にわたり、①確認の利益(裁判において、懲戒処分の無効を確認する必要があるか)②パワハラ行為の存否③懲戒事由該当性④処分の相当性⑤処分の適法性が問題となりました。

この点、①については、「ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、これらの権利又は法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきである」という、裁判所の基本的な考え方を確認したうえ「原告は、本件処分により、既に265万2527円の損害を被り、今後の収入や年金収入にも大きく影響を受けることが認められることから、本件処分の無効確認は、原告被告間の雇用関係上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる」として、確認の利益を肯定しました。

②については、証拠を検討のうえ、原告が、複数の部下に対して、パワハラと評価すべき言動を行っていたことを認定しました。

③については、原告は、懲戒処分を行うには就業規則等でその根拠が定められていることが必要であるところ、(1)会社の懲戒処分には適用条項の誤りがある(2)パワハラについての懲戒処分の根拠規定はなく、パワハラについて懲戒処分を科すには就業規則の変更が必要であったのにその手続きがとられていない、ため、懲戒処分は無効と主張していました。

(1)については「原告は、就業規則第49条14号はいわゆる『セクシャルハラスメント』を前提とした規定であり適用条項を誤っていると主張する。(中略)就業規則の適用も、正確には49条17号、同条14号の適用として理解すべきところ、原告が『セクシャルハラスメント』で懲戒処分を受けたものとは認められない。なお、就業規則49条17号の『前各号に準ずる行為』には、同条14号の文言のうちの『性的な』を除いた『相手の望まない言動により、他人に不快な思いをさせたり、職場環境を悪化させたとき』が該当すると通常考え得るし、『セクシャルハラスメント』と『パワーハラスメント』は『ハラスメント』としての共通性を有する。パワハラについて就業規則49条17号、同条14号を懲戒処分の根拠とすることに特段の問題はない」としました。そのうえで、(2)についても、パワハラが就業規則において懲戒処分の対象とされることの周知もしたうえで本件処分を行っていることをも踏まえ、「就業規則の解釈の範囲内でパワハラを懲戒処分の対象とすることは可能であって、就業規則を変更しなくてもフジ興産事件で求められている各要件(使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要することはもとより、就業規則が法的規範としての性質を有するとして拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するとした最高裁判例)は満たす」と判断しました。

④については、②で認定したパワハラ行為が「一般仲介事業グループ担当役員補佐の地位に基づいて、部下である数多くの管理職、従業員に対して、長期間にわたり継続的に行ったパワハラである。原告は、成果の上がらない従業員らに対して、適切な教育的指導を施すのではなく、単にその結果をもって従業員らの能力等を否定し、それどころか、退職を強要しこれを執拗に迫ったものであって、極めて悪質である」と評価しました。また、「部下である従業員の立場にしてみれば、真面目に頑張っていても営業成績が残せないことはあり得ることであるが、さりとて、それをやむを得ないとか、それでも良しとは通常は考えないはずである。成績を挙げられないことに悩み、苦しんでいるはずである。にもかかわらず、数字が挙がらないことをただ非難するのは無益であるどころか、いたずらに部下に精神的苦痛を与える有害な行為である。部下の悩みを汲み取って適切な気付きを与え、業務改善につなげるのが上司としての本来の役目ではないかと考える。原告自身も営業職として苦労した経験はあるだろうし、それを基に、伸び悩む部下に気づきを与え指導すべきものである。簡単に部下のやる気の問題に責任転嫁できるような話ではない。証拠調べ後の和解の席で、被告から「退職勧奨」を受けたことは当裁判所に顕著な事実であるが、これをもってようやく部下らの精神的苦痛を身をもって知ったというのなら、あまりに遅きに失する」として、かなり踏み込んだ形で原告の行為の悪質性を指摘しました。そして、「被告は、パワハラについての指導啓発を継続して行い、ハラスメントのない職場作りが被告の経営上の指針であることも明確にしていたところ、原告は幹部としての地位、職責を忘れ、かえって、相反する言動を取り続けたものであるから、降格処分を受けることはいわば当然のことであり、本件処分は相当である」と結論付けました。

⑤については、原告は、懲戒処分に際して弁明の機会が付与されなかったため、適正手続違反で処分は無効との主張をしていましたが、裁判所は「実質的な反論・弁明の機会が与えられていなかったとまでは評価できず、違法無効であるとはいえない」として、原告の主張を退けました。

結論として、原告のパワハラ行為を理由とする懲戒処分は有効、と判断しました。

賞罰委員会での審議を経て行われた懲戒解雇が、労動者に弁明の機会を付与していなくても有効とされた事例(宇都宮地裁平成27年6月24日判決)

本件は、被告(会社)から懲戒解雇処分を受けた原告(労動者)が、懲戒解雇の事由が認められないこと、弁明の機会の付与等、懲戒処分を行う上で必要な手続が取られていないことを理由に、当該懲戒解雇処分の無効等を主張した事案です。

この点、裁判所は、「原告は、平成25年5月28日から8月1日までの間、上司からの業務命令に従わず、指示された業務にも従事しなかったこと」が会社就業規則に定める懲戒事由「会社の規則、業務命令および業務指示を遵守せず、またはこれに反抗したとき」に該当すること、「平成25年6月12日から8月1日までの36日間、無断欠勤を続けたこと」が上記懲戒事由「無断欠勤14日以上にわたったとき」に該当することを認め、原告には懲戒事由該当性があることを認定しました。

この点、原告は、「被告からの業務命令に従うと、原告が前職退職時に負った秘密保持義務に違反すること」を理由に、業務命令に従わなかったことには正当な理由がある旨主張していましたが、裁判所は「原告は、本件労働審判申立以前に上記誓約書(※秘密保持義務を定めたとされるもの)を被告に提示したことはなく、原告が被告において担当していた業務を行うことによって、上記誓約に反する事態が生じることを窺わせる事実を認めることもできない」として原告の主張を排斥しました(原告は、その他、原告に対するパワハラがあったので懲戒事由が認められない等の主張をしていましたが、いずれも裁判所はこれを否定しました。)。

また、懲戒解雇にあたり弁明の機会を付与しなかった点については、裁判所は「被告の就業規則において弁明の機会を与える旨の規定は置かれておらず、懲戒をするにあたっては、労使の代表者で構成する賞罰委員会の意見を聞くこととされているところ、このような場合、弁明の機会を付与しないことをもって直ちに懲戒手続が違法ということはできない。そして、本件においては、賞罰委員会に諮って本件懲戒解雇がなされているものであるから、手続に違法な点があるということはできない。原告は、賞罰委員会において、原告が訴えていたパワーハラスメントや秘密保持義務違反は話題にされていないのであるから、原告の弁明を聴く機会が保障されたということはできないとも主張するが、(中略)パワーハラスメントや秘密保持義務違反のおそれを認めることはできないから、賞罰委員会がこの点を審理しなかったことをもって、手続に違法な点があるということはできない」として、別途弁明の機会を付与しなくとも、本件においては懲戒解雇が有効と判断しました。

※ひとことコメント

本件は、明示的に弁明の機会を付与してはいませんが、会社側は懲戒解雇に至るまでに何度も原告に説得、警告をするなど実質的には原告の言い分を聴取していたこと、会社の規則上、弁明の機会を付与することが要件化されていなかったこと、等の事実が認定されています。これらが裁判所の判断の上で重要な事情だったと思われますので、本判決の結論のみを一般化するのは難しい(あくまで事例判決である)と思います。

上司名義の印鑑を購入して無断で業務上の書類に押印する行為等を理由とする停職処分の有効性を認めた事例(東京地裁平成26年9月11日判決)

本件は、防衛省陸上自衛隊1等陸尉である労働者が、所属する霞ヶ浦駐屯地業務隊長から、停職6日の懲戒処分を受けたことについて、同処分が違法であるとして、処分の無効及び慰謝料等の損害賠償請求を行った事案です。

本件懲戒処分は「労働者が上司の名義と同じ名義の印鑑を購入し、業務上の書類に無断で押印した行為等」を理由とするものでしたが、労働者側は「上司が業務上違法な行為を行っており、当該無断押印行為は、これを自分が控えることと引き換えに上司に違法な行為をやめさせるためのものであり、正当な目的に基づくから本件懲戒処分は相当でない」旨の主張をしていました。

これに対し、裁判所は、労働者の無断押印行為、上司からこれを辞めるように指示があったにも関わらず労働者がこれに従わなかったことを認定した上、労働者の無断押印行為により事業上の事務処理に多大な支障が生じたことを容易に推認できるとしました。そして、労働者側の上記主張に対しては、「ある職務執行の適正が阻害されているからといって、別の職務執行が阻害されてよいはずがない」「職務執行の適正化を図る目的があるとしても、その是正は公益通報その他の適法な手段によるべきであって、上記目的が無断押印行為を繰り返して総務課ひいては埼玉地本の職務執行の適正を妨げることを正当化できる論拠となるものではない」とし、労働者の上記主張を認めず、結論として、懲戒事由は認められ、処分の程度も相当であるとして、本件懲戒処分を有効と判断しました。

なお、労働者側は、上司の違法行為(と労働者が考える事由)について所定の公益通報を行っており、①本件懲戒処分が公益通報手続の終了直後になされたこと、②使用者側は早い段階から労働者の無断押印行為を認識していたにもかかわらず、本件懲戒処分が平成24年2月に至るまで行われなかったこと等を捉え「本件懲戒処分は、労働者が公益通報を行ったことを理由とする組織的な不利益取扱いにあたる(高井注:公益通報したことを理由に労働者に不利益を及ぼすことは禁じられています)」という主張もしていました。

この点、裁判所は「本件公益通報によって原告(高井注:労働者のことです。)に不利益取扱いがなされないようフォローアップしつつ、懲戒処分等の手続を進める方法もあり得たと思われるので、本件処分が行為時から時間的に相当経過した後に行われたことが最善の対応といえるかは疑問があるが、(裁判所が認定した事実関係によれば)本件処分の意図が本件公益通報をした原告への報復ないしは不利益な取扱いとして行われたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない」ないとして、本件処分の有効性には影響を与えないと判断しました。

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