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労働災害(労災)に関する裁判例①

労働災害(労災)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

上司のパワハラ(暴言を伴う叱責)等を理由とした労災の成立が否定された事例(品川労基署長事件,東京地裁令和元年8月19日判決)

本件は,原告労働者が,要旨,①残業の強制②業務上の違法行為の強要③上司によるパワハラ,を理由に精神疾患を発症したとして労災申請をしたところ,労基署が労災認定をしなかったため,その是正を求めて裁判所に提訴したという事案です。

裁判所は,①については,月の残業時間が概ね20時間前後だったと認定した上,心理的負荷の強度を「弱」とし,②については違法行為の強要という事実自体を否定しました。

③上司のパワハラについては,要旨,以下のとおり述べました。

「証拠(略)によれば,①当初,原告の指導役であったZ4課長は,原告が平成24年4月に訴外会社に入社して間もない頃,原告が顧客やZ4課長から依頼されていた事項を失念していた際に5,6回,原告の頭を軽くはたいたり,原告がメモを十分にとっていなかったことに対して,「ちょっと頭の出来がよくないよね。上司である私がメモ取ってるのだから新人も取るべきだよね。」と述べたりしていたこと,③その後,原告の指導役となったZ3課長は,原告に対し,質問しても反応がない際に,同じ質問を繰り返したり,質問する声が大きくなったり,厳しい口調で指導・叱責したりすることがあったほか,原告も大きな声を出して言い合いとなったため,周囲からお互いの声の大きさを落とすように注意されたりすることがあり,平成25年10月頃から,Z2部長の指示により,再度,Z4課長が原告の指導役となったことが認められる。」

「原告が,営業担当者であった淵野辺案件について,(中略)Z3課長に相談した際,Z3課長は,原告に対し,「君の考えはどうなんだ?」,「君がどうしたいっていうのはないの?」等と同じ質問を繰り返すとともに,「ふざけんなおまえ」,「あほ」と述べるなど,時折,厳しい口調で指導していたことが認められる。

 しかし(中略)上司が,原告に対し,指導の必要がないにもかかわらず,単なる嫌がらせ当の目的で暴言を述べたり,何らの理由もなく,指導の声が大きくなったり,区長が厳しくなったりしたなどとみとめることはできない。」

裁判所は,③上司によるパワハラとしては主として以上の点を認定し(なお,原告の頭を5,6回はたいた行為については,「相当性を欠く部分があったことは否定できないものの,原告が平成24年4月に訴外会社に入社して間もない頃の出来事であり,それが平成25年9月頃の本件疾病の発病まで継続していたと認めることもできないことからすると,これらの出来事が本件疾病の発病に有意な影響を与えたということは困難である」とされています。),「上司から,業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」又は「業務を巡る方針等において,周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じた」ものとして,「上司とのトラブルがあった」(項目30)として心理的負荷は「中」と判断しました。

 以上①~③に関する総合評価として,心理的負荷が精神障害認定基準にいう「強」に至らないとして,労災を否定しました。

主要取引先との業務に関する精神的緊張の程度が大きいもの評価して,業務起因性を肯定した事例(宇和島労基署長事件,福岡地裁令和元年6月14日判決)

本件は,養殖業者への魚薬販売業務に従事していた労働者が心臓疾患により死亡した事案について,当該労働者の配偶者が労災を主張したものです。

裁判所は要旨以下のとおり延べ,労災該当性を認めました。

(1)労働時間

「亡Cの時間外労働時間は別紙3(略)のとおりと認められ,これによれば,発症前1か月間が71時間33分,発症前2か月間が36時間27分,発症前3か月間が63時間57分,発症前4か月間が77時間12分,発症前5か月間が105時間20分,発症前6か月間が67時間であり,月平均70時間15分であったと認められる。」

(2)精神的緊張の程度等

「亡Cの営業成績は,比較的良好なものであったが,その大部分をZ3(※大口の取引先)からの売上に依存しており,それはZ3のD社長からの信頼を得て売上を伸ばしてきたものであった。その反面,D社長からの信頼を損なうことになれば,自らの営業成績ばかりか本件営業所の売上にも大きな影響を与えかねない状況にもあったものでもある。

 すなわち,亡Cは,1日2回程度の割合でZ3を訪問し,D社長の求めに応じて,魚薬に関する情報提供や投薬指導のみならず,競合業者における出荷状況等に関する情報提供,養殖魚の管理及びこれらに関する従業員の指導など,Z3の業務全般に対するサポートを行っていた。他方,D社長は,むら気が多く,取引業者や従業員等に対して理不尽とも思えるような叱責をしたり,出入り禁止を告げて取引量を大幅に減らすようなことがあり,亡Cもそのような場面を目の当たりにしていたのである。

 確かに,亡Cは,D社長から理不尽な叱責を受けていたような事情まではうかがわれないし,むしろ,気に入られて業務を依頼されていたものと見受けられ,亡CもD社長のことが好きであるといった発言をしていたようである。

 しかし,そのような状況は,亡Cの日ごろの営業努力の成果等に依るものであり,実際には,恒常的に,D社長の要求に応え,その信頼を損ねないように努めて行動しなければならなかったものと考えられるのである。加えて,平成25年初めにZ10担当者が出入り禁止を言い渡された以降,亡CのZ3に対する魚薬の販売量が増加して投薬指導などの負担が増加するとともに,Z10担当者からの助力も期待できない状態となる一方,D社長から営業員の増員を求められたにもかかわらず,E所長は,亡Cに対し,営業員増員ができないのでZ3の訪問回数を減らしてよいなどと指示しているが,Z3から多くの営業成績を上げている亡Cが,その訪問回数を減らすなどということはおよそ考え難いことであったというべきであり,これらの状況からすれば,亡Cの精神的緊張は,例年に比して,相当大きくなっていたものと認められるのである。」

(3)小括

「以上によれば,亡Cの発症前6か月間の業務は,例年と異なり繁忙期を過ぎても70時間前後の長時間の時間外労働が認められるものであるところ,認定基準にいう発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認めらえる場合には当たらないものの,相当な長時間労働が継続していたものというべきであり,さらには,死亡直前の平成26年2月5日及び6日に厳しい作業環境での消毒業務を行ったことを併せ考慮すると,業務と発症とは相当程度の関連性があるものというべきである。

 これに加えて,その時期の亡Cの業務内容は,例年と比較しても,重要な取引先に対する精神的緊張の相当大きいものであったと認められ,亡Cは,肉体的・精神的負荷の大きい業務を長期間にわたり継続していたものであるから,亡Cの業務は心臓疾患を発症するような過重性があったものというべきである。

 そうであれば,亡Cに発症した急性心不全については,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性を認めるのが相当である。」

産婦人科の医師の精神疾患につき,業務起因性を認めた事例(萩労働基準監督署長事件,広島地裁令和元年5月29日判決)

本件は,平成11年から産婦人科医として勤務していた医師が,赴任後から不眠等を訴え,その後も不調を訴え続けた結果,平成21年に自死に至ってしまったケースについて,当該医師の配偶者が労災に当たると主張した事案です。

労基署は労災該当性を否定しましたが,裁判所は,基本的には労基署と同様の認定基準に依拠しながらも,要旨以下のとおり延べ,労基署の判断を取り消し労災該当性を認めました。

(1)労働時間について

「被災者において,発病前おおむね6か月の間に,1か月に80時間以上の時間外労働を行ったと認められることから,別表1(略)の具体的出来事16の甲で心理的負荷の強度が「中」になる例として挙げられる事由に該当するといえ,その心理的負荷の程度は「中」と認める。」

(2)2週間以上の連続勤務について

「本件において被告が自認する連続勤務の時期を抽出すると,①平成20年8月24日ないし同年9月5日(13日間),②同月21日ないし同年10月3日(13日間),③同月20日ないし同年11月7日(19日間),④同年12月28日ないし平成21年1月9日(13日間),⑤同月11日ないし同月30日(20日間)となる。これらを前提にしても,被災者において,発病前おおむね6か月の間に2週間(12日)以上にわたる連続勤務を複数回行っており,休日に対応しなければならない業務が生じたとの事情によるものと認められ,別表1(略)の具体的出来事17の項で心理的負荷の強度が「中」になる例として挙げられる事由に該当する。したがって,被災者の連続勤務については,その心理的負荷の強度は少なくとも「中」と認めるのが相当である。」

(3)部下とのトラブル

「被災者とF医師との間では,常勤医師としての業務遂行に関し,客観的に見て明らかな対立が生じており,その後も根本的な解決に至ることがなかったものと認められる。以上は,別表1(略)の具体的出来事の項目32「部下とのトラブルがあった」の項で心理的負荷の強度が「中」とされる例として挙げられる事由「業務を巡る方針等において,周囲からも客観的に認識されるような対立が部下との間に生じた」に該当するといえ,その心理的負荷の強度は「中」と認める。」

(4)全体評価

「以上のとおり,本件においては,別表1(略)の具体的出来事の項目16(長時間労働),17(連続勤務)及び32(部下との対立)において,いずれも心理的負荷の強度が「中」と認められる事由が存する。そのうち連続勤務については,認定基準上,心理的負荷の強度が「強」の判定には至らないものの,特に平成20年12月末から平成21年1月末にかけての連続勤務に関してみれば,その内容や程度は相当に重く,その前後における被災者の言動等について,上記2(2)に認定説示したとおり,その頃被災者の心身の状態が悪化し,複数の定型症状及び一般症状が認められるようになったことを踏まえると,被災者への心理的負荷が大きいものであったというべきである。加えて,被災者について部下との対立に係る出来事が存在し,心理的負荷の程度が「中」と認められること,以上の結果等として心理的負荷の強度が「中」と認められる長時間労働に係る出来事が生じたこと等を総合考慮すれば,本件における全体評価は,「強」と認めるのが相当である。」

(5)まとめ

「ア 以上のとおり,認定基準によれば,被災者について,全体評価は「強」と判断される。

イ また,認定基準を離れてみても,上記(2)カに認定説示したとおり,被災者の精神障害の発病に近接した時点に,相当期間の連続勤務や長時間労働,部下との明らかな対立等の一般に相当程度の心理的負荷をもたらすと思料される複数の事情が生じており,特に平成20年12月末から平成21年1月末にかけて,被災者が相当程度の連続勤務を行い,これに符合して,その頃に被災者の心身の状態悪化が顕著になったとの相関関係を指摘することができる。その一方で,上記(3)に認定説示したとおり,被災者が精神障害を発病した主要な要因として,業務以外の出来事による心理的負荷等を挙げることはできない。

 その他,本件病院の産婦人科に勤務する常勤医師は2名のみであったところ,過去に勤務した医師の多くが,四六時中拘束されているとの感があったと述べていること(書証略),上記3(5)に認定した被災者作成の文書等においても,当番の負担感を含め,繰り返し同旨の指摘があること,本件病院を含む県内の病院に医師を派遣すべき立場にあるJ教授が,常勤医師2名の態勢の場合,手術や分娩の際は両名とも関与を余儀なくされる可能性が高く,そのような常勤医師は,仮に当番に当たらない休日等であれ,緊急手術等の事態が生じて呼出しを受ける場合に備えた行動を取らざるを得ず,常勤医師3名以上の場合とでは心の余裕が全く異なると述べていること(証拠略)を考慮すると,被災者の業務と精神障害の間に相当因果関係を肯定してよいというべきである。

ウ したがって,被災者が発病した精神障害について,業務起因性を肯定するのが相当である。」

過労により適応障害を発症して自殺に至ってしまった労働者相続人からの損害賠償請求において,35%の素因減額を認めた事例(福岡地裁平成30年12月11日判決)

本件は,長時間労働により適応障害を発症して自殺に至ってしまった労働者の遺族が,会社に対し損害賠償を請求した事案です。

裁判所は,長時間労働と自殺の因果関係を肯定し,会社の賠償責任を認めましたが,以下のとおり延べ,損害額の35%の素因減額を肯定しました。

「(1)精神疾患の存在及び亡Dがそれを被告らに告げなかったことについて

(略)亡Dは,平成17年頃に鬱病に罹患し,平成22年から社会不安障害で通院し,平成24年5月以降は鬱病あるいは軽症鬱病エピソードの診断を受け,同年12月頃には寛解した旨の医師の意見があるものの,再発防止のため,平成25年1月26日までは投薬治療を受けていたことからすれば,本件自殺に至る適応障害の発症前において,鬱病等の精神疾患が長期間にわたり継続していたと認められ,心理的負荷に対する一定程度のぜい弱性を有していたことは否定できない。そして,投薬治療を中止してから,同年4月上旬に本件自殺の原因となる適応障害を発症するまで,さほど期間は経過していないことからすれば,亡Dの従前の精神疾患等の素因が,長時間労働党の心理的負荷による適応障害の発症に限定的ながらも影響したと認めるのが相当である。したがって,亡Dが,被告らにおいて特段の支障なく勤務を継続してきたことを踏まえても,同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性を有していたことが窺われ,被告らに損害の全てを負担させることは公平に失するから,この点については民法722条の類推適用により,素因減額を行うのが相当である。

 他方で,亡Dは,精神疾患の存在や通院の事実について被告らに報告しなかったことが認められるところ(証拠略,弁論の全趣旨),労働者の精神疾患に関する情報は自己のプライバシーに属し,使用者に対して積極的に申告することが期待し難い性質のものである。また,被告らは,亡Dが,通常の労働者であっても鬱病等を発症し得る程度を超える長時間の時間外労働に従事していることを認識していた以上,亡Dや原告Aが精神疾患や通院の事実を申告しなくても,業務を軽減するなどして心身の健康に配慮する必要があったのであるから,この点について,直ちに過失相殺を行うのは相当でない。

(2)亡Dがサポート要員の付与を辞退したことについて

亡Dは,(略)平成25年2月12日に,サポート要員付与の打診を断っているところ,同日時点で,既に亡Dの業務の進捗は芳しくなく,時間外労働が増えてきていたのであるから,亡Dとしては,自身の労働環境を改善するため,サポート要員の付与を受け入れるべき状況にあったといえる。仮に,亡Dが,同日時点においてサポート要員の付与を受け入れていれば,同年3月中旬以降の亡Dの業務は軽減されたと予想されるから,亡Dがサポート要員の付与を辞退したことについて,損害の公平な分担の観点から,過失相殺を行うのが相当である。

(3)亡Dが本件未処理等を行っていたことについて

(略)亡Dが本件未処理等(※業務上のミスのこと)を行っていたことは,本件遺書の記載のとおり,本件自殺を決意する一因にはなっていたのであり,損害の公平な分担の観点から,過失相殺を行うのが相当である。

(略)

亡Dが,精神疾患の既往症を有していたこと,サポート要員の付与を辞退したこと,本件未処理等を行っていたことについて,民法722条を適用及び類推適用し,損害額の35%を減額するのが相当である。」

※「通常の労働者であっても精神疾患に至り得るほどの長時間労働により,遅くとも平成25年4月に適応障害を発症した」旨を認定しながら,亡くなった労働者の方の固有の事情を強調しすぎているように思われ,判旨には賛同しかねるところがあります。

民事訴訟において,石綿関連疾患と被告での業務との因果関係を否定して,被告に対する損害賠償請求を認めなかった事例(甲社事件,大阪地裁平成30年3月29日判決)

本件は,石綿製品を販売する会社にて就労していた労働者が,両性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚に罹患したことにつき,被告での就労が原因であるとして,被告に対して損害賠償請求を行った事案です。

裁判所は,要旨,以下のとおり述べ,原告の請求を認めませんでした。

1 石綿へのばく露について

「原告は,X1営業所(※被告における営業所)の業務において,梱包されていない状態のガスケットの仕入れ,保管及び運搬並びにガスケットが保管された事務所及び倉庫の清掃(以下,まとめて「本件作業」という。)を行っていたことが認められる。(中略)原告は,本件作業によって石綿にばく露したことが認められる。」

2 被告業務との因果関係について

「本件作業によって飛散した石綿粉じんの濃度は約0.0014f/cc以下であって(中略)日本石綿協会によって自主基準として定められた白石綿の許容濃度である0.15f/㎤の10分の1を下回っている。そして(中略)被告が扱っていたガスケットの割合は,青石綿より白石綿を使用したものが相当多かったこと,青石綿の許容濃度は白石綿の許容濃度の10分の1の数値にとどまることを考慮すると,本件作業による石綿ばく露の程度は,健康に悪影響を及ぼす程度にまで達していなかったことが推測される。以上によれば,原告が,X1営業所の業務において,健康に悪影響を及ぼす程度の石綿にばく露したことまでは認め難いといわざるを得ない。」

そして,原告が,被告退職後の主牢先での業務により「毒性の強い茶石綿に相当程度ばく露し,これにより良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚に罹患する可能性が十分にある」として,被告の業務と原告の疾患との相当因果関係を否定し,原告の損害賠償請求を認めませんでした。

労災からの復職に際し会社側が賃金減額を提示したところ,労働者が納得せず復職に至らなかった事案で,不就労期間中の賃金請求の一部が認められた事例(一心屋事件,東京地裁平成30年7月27日判決)

本件は,就労中に右手薬指を機械に挟み休職した労働者の復職に際し,会社側が①勤務場所変更②時間外手当を7万円の定額支給から残業時間に応じた支払に変更③勤務場所変更に伴い手当の廃止・減額,という労働条件変更を提示したところ,労働者が納得せず復職に至らなかった事案で,労働者側が「復職に至らなかったことは会社側の責任である」として,不就労期間中の賃金支払い等を請求した事案です(その他の争点は割愛)。

裁判所は,以下のとおり述べ,原告の請求の一部を認めました。

「原告が就労中の事故により本件怪我を負い,休職するに至っていること,(中略)原告の実労働時間は相当長時間にわたっていたことからすれば,原告が復職するにあたり,被告が人事権の行使として,同様の事故が起こらないように配慮する目的でその勤務内容を決定すること自体は不自然なことではなく,また,人事権行使の裁量の範囲内であれば,勤務内容の変更に伴い,職務に対応する手当等の支給が廃止されることも許容される場合があり得る。しかしながら,(中略)被告は,原告との交渉において,時間外手当の定額支給を残業時間について割増賃金を支払う方法に変更すること及び通勤手当の2万円減額を提案している。時間外手当については,そもそも被告の賃金規程上何らの記載もされておらず,原告と被告との間で定額残業代として支払う旨の合意がされた事実を認めるに足りる適切な証拠はなく,また,原告の勤務内容を調理部(洗浄室)に限定することから当然に時間外手当の支給要件の欠如が導かれるものでもない。また,原告に対する通勤手当は,賃金規程上の規定内容とは異なる形で支払われていたものであって,原告の勤務内容を調理部(洗浄室)に限定することから当然に通勤手当の減額が導かれるものではない。そうすると,被告の提案は,人事権行使の裁量の範囲に留まらない賃金減額を含むものと言わざるを得ず,原告の同意なく一方的に決定できるものではないが,被告が原告に交付した書面(書証略)にはその旨の記載はなく,また,同意の有無が復職とは無関係である旨の記載もない。そして,原告が平成28年10月11日に被告に赴いた際には,上記認定事実のとおり,原告のタイムカードは準備されておらず,Mが原告に対して同意書に署名して提出をしてもらいたいとの意向を被告が有している旨を伝えているのみであり,その当時被告において原告の就労を受け入れる体制にあったことを認めるに足りる適切な証拠はなく,また,被告が原告に対して,同意書の提出がなくとも原告の就労を認める等の説明を行った等の事実を認めるに足りる適切な証拠もないことからすると,客観的に見れば,少なくとも平成28年10月11日時点では,被告は,労働条件の不利益変更に関する同意書に署名しない限り原告の就労を受け入れないとの態度を示していたものと評価できるから,原告の不就労について,被告には責めに帰すべき事由があるといえ,この間,休職前の賃金である月額35万1600円の割合による賃金の支払を請求することができる。

※原告は,残業代も含む賃金を請求していましたが,裁判所は「原告は,残業代を含んだ原告の給与額である月額73万2708円の割合による賃金の支払を請求するが,残業代請求権は,通常の労働時間を超えて労働をした場合にその時間に応じて具体的な金額が特定されるものであり,権利の性質上,民法536条2項に基づく請求になじまず,また,残業代相当額の損害が原告に生じたものとも評価できない」としてこれを否定しました。

※なお,裁判所は,その後,原告の代理人弁護士が被告に対し「休職前と同額の賃金で配置転換に応じる」旨の提案を行った時点をもって,被告が原告に対し労働条件の不利益変更に対する同意を求める状況が解消されたとして,以後の賃金支払義務を否定しました。

飲食店店長の死亡について、雇用会社の代表取締役に会社法429条1項の責任(役員の第三者責任)が認められた事例

本件は、飲食店の店長だった元従業員が、長時間労働により致死性不整脈に至り死亡してしまった件につき、遺族が会社及び会社の代表取締役に対して損害賠償請求を行った事案です。主だった争点は、①死亡と業務との因果関係の有無②会社代表取締役の責任の有無、でした。

①について

本件で、亡Gの労働時間は、会社から支給されたGPS機能付き携帯電話機の記録により管理されていました。裁判所は、亡くなった労働者の労働時間について、厚生労働省の平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」を参照することを前提に、「被告会社は、亡G(※亡くなった労働者のこと。以下同じ。)の労働時間をGPSにより管理していたところ、Jの供述によれば、亡Gは被告会社において管理監督者として扱われ、残業代の支給対象となっていなかったこと、そのため、亡Gが労働時間を過大に申告する利点はなかった(長時間労働が上司に対するアピールともならないことはJも認めるところである。)」としました。また、GPSの記録が亡Gの同僚の証言と合致ないし矛盾しないことを指摘のうえ、「亡Gの労働時間は、基本的にはGPSによる記録に基づいて推計された四日市労働基準監督署作成の別紙3(略)を修正して認定する」と判断しました(※本件に先行して労災申請がなされており、四日市労働基準監督署は、GPSに基づき労働時間を認定していました。)。

以上を前提に「亡Gは、致死性不整脈の発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり平均80時間を超える時間外労働をしたと認められる。したがって、亡Gの業務は、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務であると評価できるから、致死性不整脈の発症との関連性は強いと評価できる」とし、その他、亡Gの既往歴等も検討のうえ、結論として、死亡と業務との因果関係を肯定しました。

②について

①の判断を前提に、裁判所は、会社については、「被告会社は、亡Gの労働時間が長期にわたり長時間に及んだ原因を特段分析もしておらず、また、亡Gの業務を軽減する措置を取っていないと言わざるを得ない。」等として、被告会社の安全配慮義務違反(損害賠償責任)を認めました。

そのうえで、会社と別に、代表取締役が責任を負うかについて、「会社法429条1項(※同項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。)にいう取締役の会社に対する善管注意義務は、会社の使用者としての立場から遵守されるべき被用者の安全配慮義務の履行に関する任務懈怠をも包含すると解するのが相当である」としたうえで、「被告会社は、平成25年2月時点で、正社員78名、パート・アルバイト従業員676名の合計754名の従業員を雇用していること、取締役は4名であり、そのうち代表取締役は被告代表者ら3名であること、各店舗の運営は、正社員である各店舗の店長が行っていることが認められる。このような被告会社の規模・陣容、店長の職務内容に照らせば、正社員である亡Gに対して被告会社が負う安全配慮義務は、被告会社の代表取締役である被告代表者らの業務執行を通じて実現されるべきものである」としました。

そのうえで「亡Gの上司であるJは亡Gの労働時間を把握しているから、代表取締役である被告代表者らもJから報告を受けることで亡Gの労働時間及びその労務の過重性を認識し得た」として、代表取締役の任務懈怠責任を肯定しました。

※一言コメント

労災の事案では、会社の責任はともかく、会社代表者の個人責任が認められたケースとして参考になります。会社の事業規模、運営形態が判断の前提となっており、この点に関する明確な判断基準は判示からは不明ですが、同種事案を検討するうえでは参考になるものと思われます。

うつ病の業務起因性が否定された事例(SGSジャパン事件、東京地裁平成29年1月26日判決)

本件は、うつ病で休職していた原告が、休職期間の満了を理由に退職扱いとされたことについて、雇用契約が継続していることの確認等を求めた事案です。争点は多岐にわたりますが、主たる争点は、原告が、被告での業務によってうつ病に罹患したか(業務起因性)の部分で、原告は、①被告における長時間労働②上司からのパワハラ行為が原因であり業務起因性があると主張していました。

この点、裁判所は、業務起因性の判断については、厚生労働省労働基準局長の通達である「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日基発1226第1号)」に沿って検討するという従前からの裁判所の一般的な立場を確認しました。

そのうえで、①(被告における長時間労働)については、原告の主張する労働時間について「出張に伴う移動時間を含むものであることはDTRの記載(書証略)及び弁論の全趣旨から明らかである。しかしながら、出張前後の移動時間は、労働者が自由に時間を利用することができ、拘束性に乏しいことから、その時間は、時間外手当を請求する労働時間とはならないことはもちろん、本件疾病の業務起因性を認める要素となる労働時間としても認めがたい」としました。また、原告が、深夜早朝に持ち帰り残業をしていると主張していた点については「メールの送信記録自体は、その性質上、当該記録された時間まで原告が継続して労働していたことを直ちに認めるに足りるものではない。また、時間外労働の前提となる労働時間は、あくまでも使用者の指揮監督下において労務の提供を余儀なくされた時間であるところ、就業場所外の所定労働時間外の時間は、通常は被告の指揮監督下にはない時間であることが推定されるというべきであるから、特に被告会社から持ち帰り残業を指示されたとか、業務量が多く持ち帰り残業をせざるを得ないような状況にあったといった事情が認められない限り、原告が自宅で深夜早朝に業務上のメールを送信した事実があるからといって、直ちに、その前後の時間が上記した意味における労働時間になるわけではない。しかるに、本件において、被告会社が原告に対し持ち帰り残業を指示した事実の立証はなく、原告の業務量については、後記のとおり、客観的にみて、恒常的に持ち帰り残業を必要とするほどの業務量があったとは認めがたい」として、原告の主張をいずれも排斥しました。

また、②(上司からのパワハラ行為)についても、原告が主張するパワハラ行為を個々に検討のうえ、「原告の述べる事実を検討しても、被告C(※原告の上司)が原告に対し、パワハラや嫌がらせであると評価できるような行為を行ったとは認められない」として、結論として、原告の疾病は業務によるものではないと判断しました。

そのうえで、原告が休職期間満了時に復職できる状態にあったか(復職可能性)については、「P医師(※原告の主治医)は、同年(※平成24年)5月29日、原告が同年7月1日から復職可能であるとの診断書(書証略)を作成したことが認められる。しかしながら、P医師が同診断書に係る診断をするにあたり、復職後求められる労働能力や職場の状況について被告会社と情報を共有していたことを認めるに足りる証拠はな」いこと、被告が「原告に対して、平成24年6月、復職前の面談を求めたことを、原告が論点のすり替えであるなどと言い張り、復職に向けた手続きが進まない状態になったこと」等から、結論として「本件疾病は業務上の疾病ではなく、休職期間満了による自然退職を定めた本件就業規則の定めの適用があり、休職期間満了時までに債務の本旨に従った労務の提供ができる程度に原告の病状が回復していたとは認められないから、本件就業規則に基づき、原告は、平成24年9月5日(休職期間満了日の翌日)に被告会社を退職したというべきである」として、この点に関する原告の請求を認めませんでした。

※一言コメント

疾病の業務起因性については、これを裏付ける的確な主張立証ができていなかったことの帰結だと思われますが、復職可能性の判断に際して、主治医と被告会社との情報共有の点を要素として挙げている点が参考になります(会社側が、労働者側から適切な情報提供が得られない場合、こうした状況が労働者側に不利に考慮される可能性があるという意味で)。

歓送迎会後の送迎中の事故死が業務上の災害に当たるとされた事例(行橋労働基準監督署長事件、最高裁第二小法廷平成28年7月8日判決)

本件は、会社の指示で会社が受け入れていた留学生の歓送迎会に参加し、会の終了後に当該留学生を居住先のアパートまで送迎する車を運転中に交通事故にあってお亡くなりになった方(労働者)について、当該事故が業務上の災害といえるか否かが争われた事案です。

最高裁は、業務上の災害というための要件である「労働者が事業主の支配下にあったといえるか」について、以下のように述べて、これを肯定しました。

「前記事実関係等によれば、本件事故は、E社長に提出すべき期限が翌日に迫った本件資料の作成業務を本件歓送迎会の開始時刻後も本件工場で行っていたAが、当該業務を一時中断して本件歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため本件会社の所有に係る本件車両を運転して本件工場に戻る際、併せて本件研修生らを送るため、本件研修生らを同乗させて本件アパートに向かう途上で発生した者であるところ、本件については、次の各点を指摘することができる。」

「Aが本件資料の作成業務の途中で本件歓送迎会に参加して再び本件工場に戻ることになったのは、本件会社の社長業務を代行していたF部長から、本件歓送迎会への参加を個別に打診された際に、本件資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにも関わらず、「今日が最後だから」などとして、本件歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で、本件資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず、むしろ本件歓送迎会の終了後には本件資料の作成業務にF部長も加わる旨を伝えられたためであったというのである。そうすると、Aは、F部長の上記意向等により本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件工場に戻ることを余儀なくされたというべきであり、このことは、本件会社から見ると、Aに対し、職務上、上記の一連の行動を取ることを要請していたものということができる」

「そして、上記(中略)の経緯でAが途中参加した本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるにあたり、本件会社の社長業務を代行していたF部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、F部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。」

「また、Aは、本件資料の作成業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻る際、泡併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ、もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは、本件歓送迎会の開催に当たり、F部長により行われることが予定されていたものであり、本件工場と本件アパートの位置関係に照らし、本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、AがF部長に代わってこれを行ったことは、本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。」

「以上の諸事情を総合すれば、Aは、本件会社により、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、併せてF部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、本件研修生らを本件アパートまで送ることがF部長らの明示的な指示を受けてされたものとうかがわれたないこと等を考慮しても、Aは、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきである。」

※一言コメント

本件は、地裁及び高裁では「業務上の災害」には当たらないとされていましたので、最高裁で判断が覆ったことになります。歓送迎会が、私的な飲み会か、業務の一環か、という評価が結論を分けたことになります。歓送迎会は、参加が任意であれば、一般には私的な飲み会として業務関連性は認められないというのが裁判例の傾向ですが、本件の歓送迎会は会社の業務との関連性が非常に強かったようであり、最高裁の判断は妥当と考えます。

従業員の自殺について労災認定がされていたが、その後の民事訴訟では会社に対する損害賠償請求が否定された事例(ヤマダ電機事件、前橋地裁高崎支部平成28年5月19日判決)

本件は、被告の従業員として勤務していた亡Aが自殺をしたことについて、亡Aの相続人が、亡Aの自殺は被告での長時間労働等によりうつ病に罹患したことを理由とするものであるとして、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損賠賠償請求をした事案です。なお、本件訴訟に先行する労災手続においては、本件自殺は業務上の事由が原因であるとして、労災給付の支給決定がなされていました。

しかし、本件では、詳細な事実認定のうえ、結論として「亡Aの業務上の負荷については、フロア長への昇格や短時間での労働時間の増加により、一定程度の心理的負荷が生じていたと言うことは否定できないが、他方、開店準備作業に大幅な遅れが生じていたとは認められないこと、作業期間中の亡Aの具体的業務について、特段の負荷が生じる内容であるとは認められず、本件過誤についても強い心理的負担を生じるものとはいえないこと、被告の支援・協力体制に不備があったとはいえない上、店舗内の人間関係についても特段問題はなかったことなどからすれば、亡Aについて、精神障害を発症させるほどの強い業務上の負荷が生じていたとはいえないというべきである」として、業務による精神障害の発症を否定しました。

なお、先行する労災申請においては、亡Aが精神障害を発症していた旨の労災医師の意見書がありましたが、これについても、認定した事実との齟齬を理由に、証拠としては採用できないとしました。

そして、「本件においては、亡Aが自殺をした動機や原因については結局のところ不明であるといわざるを得ないが、その交際関係など他に了解可能な動機がある可能性は否定できず、また、平成11年に警察庁が公表した自殺の動機に関する統計資料において、「不詳」とされているものが約7パーセント存在することも考慮すれば、亡Aが自殺した点のみをもって、何らかの精神障害を発症していたものと見ることもできない」として、「亡Aが9月15日の時点で重症うつ病エピソードを発症していたとの原告らの上記主張は理由がない」と結論づけ、原告の請求を認めませんでした。

※一言コメント

労災と民事訴訟では、精神障害による自殺と業務との因果関係の判断基準はほぼ同じと理解されているため、先行する労災で業務起因性が認められている場合は、後の民事訴訟でも同様の結論になる可能性が高いですが、本件はその例外と評価すべき事案です。

海外営業所の総経理として就労していた者は「海外出張者」に当たるとして、労災不支給決定を相当とした原判決を取り消した事例(中央労働基準監督署長事件、東京高裁平成28年4月27日判決)
※一つ下の裁判例の控訴審判決です。

本件は、ひとつ下で紹介している裁判例の控訴審判決です。争点は、海外で就労していた亡Aに労災保険の適用があるという点でした。

この点、控訴審判決は、「労災保険法の施行地内(国内)で行われる事業に使用される海外出張者か、それとも、同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって、国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続が必要である者かについては、単に労働の提供の場が海外にあるだけで、国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか、それとも、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から、当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、どのような労働関係にあるかによって、総合的に判断されるべきものである」という、第一審とほぼ同様の判断基準を示しました。

しかし、本件事案への具体的当てはめでは、「亡Aの所属は、上海駐在時を通じて、訴外会社海運部東京営業所国際輸送課で変わらず、亡Aの地位は、平成19年6月1日、同課課長待遇に、平成20年4月1日、同課課長代理にそれぞれ昇進しているものの、平成21年12月28日に乙社が設立されてその総経理に就任したことによる訴外会社における所属及び地位についての変更はなかったこと、乙社及び丙社のいずれについても、亡Aは、その業務の中心となる運送業務について、受注の可否の決定や値段や納期など契約内容の決定を行う権限も、顧客に発行する見積書の内容を決定する権限も、訴外会社から与えられておらず、それらの決定権限は日本国内の訴外会社の担当者にあったこと、訴外会社は、亡Aの丙社赴任に当たり、文書による辞令交付や諸手当の説明等は行っておらず、所属する東京営業所における長期的な出張として内部処理していたこと、上海駐在時を通じて、亡Aの人件費が訴外会社から丙社を介して亡Aに支払われていたこと、亡Aが訴外会社東京営業所海運部国際輸送課に籍を置き、出勤簿を業務管理課長に提出するなど、訴外会社の労務管理に服していたこと、乙社の業務は、丙社の業務を移行したものであり、乙社の設立前後を通じて、亡Aの日常業務に大きな変化はなかったこと、丙社は、独立した法人格を持たない駐在員事務所に過ぎず、また、乙社は、独立した法人格を有するものの、訴外会社の100%子会社であること、訴外会社は、亡Aの上海駐在時を通じて、国内事業場の事業に属する労働者である海外出張者として亡Aに係る労災保険料の納付を継続していたこと等の事実が認められる。」としたうえで「以上認定の事実によると、亡Aについては、単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、当該事業場の使用者の指揮命令に従い勤務する労働者である海外出張者にあたるというべきで」ある、として、亡Aは労災保険法上の保険給付の対象者であると認め、原判決を取り消しました。

※一言コメント

第一審と控訴審で、考慮している事実自体は大きく異ならず、当該事実に関する評価の差が結論を分けたものと思われます。

日本の会社に籍を置き、海外営業所の総経理として就労していた労働者の死亡に際し、労災不支給決定が相当とされた事例(中央労働基準監督署長事件、東京地裁平成27年8月28日判決)

本件は、ある会社(日本企業)に籍を置き、上海現地法人の総経理として働いていた労働者Aが、急性心筋梗塞を発症して死亡したことについて、Aの妻が、Aの死亡は業務上の死亡で労災に当たるとして、労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたところ、労基署は「亡Aの死亡は出張業務中の災害とは認められず、海外派遣者として特別加入の承認も受けていなかったので、労災の対象にならない」として不支給決定を行ったため、Aの妻がその鳥s消しを求めた、という事案です。

労働者が海外出張で被災した場合、原則として国内の労災保険でカバーされますが、海外出張ではなく海外事業所での勤務のための海外赴任の場合は、「特別加入」という手続を取っていないと労災保険の適用がありません。

本件では、Aは特別加入の手続を取っていなかったため、Aは、海外出張に類する形で労災保険の適用を受けられるか否か、という点が争点となり、上海現地法人の「事業所」性(日本の会社から独立した事業所に海外派遣されているのか、一時的な海外出張と同視できるのか)が争われました。

この点、裁判所は、「特別加入手続を経ずに保険関係の成立が認められる海外出張者と海外派遣とのいずれに当たるかは、期間の長短や海外での就労に当たって事業主との間で勤務関係がどのように処理されたかによるのではなく、当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、いかなる労働関係にあるかによって総合的に判断すべきである」という判断基準を示しました。

そして、本件における上海の事業所については「単に中国の法令上一定の組織化された独立の活動単位として予定されているにとどまらず、訴外会社の上海における活動拠点としての実体を有し、乙社設立後はその業績拡大のため営業所を開拓するなどしており、訴外会社(※日本の会社のこと。以下同じ)においても独立した営業所として位置づけていた」「また、丙社にあっては、法令上営利活動が制限されており、契約締結ができないものであり、それゆえに訴外会社が契約締結の当事者となっているものであるが、そのことが直ちに丙社の事業所性を否定する事情ともならない。重要事項の決定を訴外会社本社が行っていることも、独立した国内の事業所であっても、その決裁権限には内部的制約があり得ることに鑑みれば、丙社が独立した事業所であることを直ちに否定すべき事情とはならない。」としました。

また、亡Aについては「丙社及び乙社における亡Aの地位についてみるに、亡Aは、丙社の唯一の日本人正社員として、中国内顧客への訪問、見積り、業者との打合せ、港での立会作業、納入先での打合せ及び立会い、訴外会社担当者との打合せ等物流業務一般並びに社内会議、社員教育に従事して組織図上も現地社員を統括する立場にあり、乙社としても業務内容に変化はなかった上に総経理として実質的責任者の地位にあったのであるから、前記独立した海外の事業所である丙社ないし乙社に属し、その業務に従事していたことは明らかである」としました。

なお、亡A側は、亡Aが日本の会社に籍をおいていたこと等を理由に、亡Aが通常の出張者と同様に扱われるべき(=労災保険が適用されるべき)という趣旨の主張をしましたが、これについては「この点、亡Aが訴外会社東京営業所海運部国際輸送課に籍を置き、訴外会社の労務管理等に服し、賃金等の支払も訴外会社が負担していたものであり、亡Aの上海勤務にあたっては正式な辞令交付などはされなかったことも認められる」が「丙社は独立した法人格を持たない事業所に過ぎず、また、乙社は独立した法人格を有するものの訴外会社の100パーセント子会社であって、同社における亡Aの地位はDが説明するようにいわゆる出向に近いと訴外会社において認識されていたといえることに照らすと、上記のような労務管理等が採られたことは訴外会社の会社内部における処理の問題にすぎないといわざるを得ないのであって、亡Aが丙社ないし乙社の事業に従事することを否定する事情とはならない。」として、亡A側の主張を認めませんでした。

結論として、「亡Aは、海外事業所である丙社ないし乙社の事業に属してその事業に従事していたことから海外派遣社に当たり、労災保険法上の保険関係の成立には特別加入の承認を得ることを必要とする」ところ、特別加入をしていないから、労災給付の不支給は適法であると判断しました。

労災保険給付の受給者に打切補償を支払ったうえで行った解雇について、労働基準法19条1項但書前段の適用を認めた事例(最高裁第二小法廷平成27年6月8日判決)

本件は、業務上の疾病により休業して労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく労災補償給付を受けた労働者が、会社から打切補償として平均賃金の1200日分相当額(労基法81条参照)の支払を受けたうえでなされた解雇について、この解雇が労基法19条1項但書の場合に該当するか(労働者が、労基法第81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に該当するか)が争点となりました。

この点、裁判所は、労働基準法(労基法)と労働者災害補償保険法(労災保険法)とが法律としては別個であること自体は前提としながらも、「労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると、業務災害に関する労災保険制度は、労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、このような労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(中略)。このように、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保険給付は、これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということができる」としたうえで、こうした理解を前提とすれば「(労働基準法において)使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、同項ただし書の適用の有無につき取扱を異にすべきものとはいい難い。また、後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば、これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるともいい難い」として、「労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては、同項ただし書が打切補償の根拠として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である」との判断を示しました。

労災事案において、遺族補償年金と損害賠償金の元本とを損益相殺することが相当とされた事例(最高裁大法廷平成27年3月4日判決)

本件は、長時間の時間外労働等により精神障害を発症した労働者が死に至ってしまったという事案において、その遺族が会社に対して損害賠償請求をしたものです。その際、遺族は、既に労災の遺族補償年金を受領していたため、損害賠償金と当該受給済みの遺族補償年金とをどう調整すべきかという点が問題になりました。

最高裁判決であり、法律の解釈論についての議論のため非常に複雑でありますが、ポイントは以下のとおりです。

この点、労働者側は「遺族補償年金等がその支払時における損害金の元本及び遅延損害金(=本来の支払期限より支払いが遅れたことに伴う利息、という程度の意味です。)の全部を消滅させるに足りないときは、まずは遅延損害金と調整すべき」とした最高裁H16判決に従った処理がなされるべきと主張していました。

しかし、最高裁は、今回、以下のとおり述べて判例を変更し、遺族補償年金と損害賠償金の元本とを損益相殺として調整すべきと判断しました。

「遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を店舗することを目的とするものであって(条文略)、その填補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による填補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。

なお、不法行為に基づく損害賠償金の遅延損害金については、不法行為の時点から発生し当然に遅滞に陥るというのが確定した最高裁判例ですが、この判例と上記理解との整合性に関しては、上記判例の理解に擬制的な要素があることを認めた上で、「被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損賠賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地から見て相当であるというべきである」と判断しました。

精神障害の業務起因性を認め、これを否定していた労災不支給処分が取り消された事例(東京地裁平成27年2月25日判決)

本件は、「亡Aは甲電鉄バス株式会社においてアルコール検査の結果を理由として退職を強要されたことが原因で精神障害を発病し、その結果自殺したものである」として、Aの妻が労災申請をしたところ、これが認められなかった(労災補償の不支給処分がなされた)ことから、Aの妻が原告として裁判所に当該不支給処分の取消しを求めたというものです。

本件では、Aの自殺が業務に起因して発病した精神障害によるものか(業務起因性)の点が争点となりました。

この点、裁判所は、業務起因性の判断において、基本的には、厚生労働省が策定した「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下、認定基準といいます。)に従いつつこれを参考としながら、具体的事情によっては適宜これを修正する方法による、という判断枠組みを示しました。そして、この点は、認定基準が本件の不支給処分時には存在していなかったとしても同様であるとしました。

そのうえで、本件について、認定基準における心理的負荷の強度を検討し、Aが自殺に至るまでの事実関係を詳細に認定したうえ、「亡Aの精神障害は、心理的負荷の強度が『強』である6月28日付け検知事案及びこれに端を発する一連の出来事(遅くとも7月4日付け検知事案及びこれに端を発する一連の出来事)の後6か月以内に発病したものである」として、結論として認定基準を満たし、Aの自殺は労災として認められると判断し、本件の不支給処分を取り消しました。

会社が主催した納会での急性アルコール中毒死が、労災と認められなかった事例(品川労働基準監督署長事件、東京地裁平成27年1月21日判決)

本件は、原告の夫であった亡Aが、勤務先であった甲社が主催の納会で飲酒をした結果、急性アルコール中毒で死亡したことについて、原告が、これが労働災害(労災)に当たるとして損害賠償を請求した事案です。この事案では、Aの死亡が、業務上の事由に拠るものといえるのかという点が主な争点になりました。

この点、裁判所は、労働災害(労災)の成立には、①被災労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること(業務遂行性)を前提に、②当該不詳又は疾病が被災労働者の従事していた業務に内在する危険性が現実化したものと評価できること(業務起因性)が必要になる、という従来からの最高裁の立場を確認しました。

その上で、本件について、①について、本件納会は会社内において会社が主催した(費用も全額会社負担)こと、所定労働日における所定労働時間を含む時間帯に開催されたこと、代表者はじめ従業員全員が参加していること、当日は所定就業時間である17時までの勤務を前提として賃金が支払われていること、等を指摘し、「本件納会をもって本件会社の本来の業務やこれに付随する一定の行為に属するとはいいがたいが、他方で、参加者については勤務扱いを受けることを前提とする本件会社の主催行事であるというべきであるから、これを純然たる任意的な従業員の親睦活動とみることはできない」として、業務遂行性を肯定しました。

しかし、②について、「亡Aの当該飲酒行為が、本件納会の目的を逸脱した過度の態様によるものと認められる場合には、前述の急性アルコール中毒の発症について、業務に内在する危険性が現実化したものとはいえず、業務起因性が認められない」という基準を立てたうえ、亡Aが、飲酒強要等によらずに自らの意思で缶ビール(350ml)2~3本を飲んだ後に、日本酒(1.8L)1本のほとんどを一人で飲みきったこと、納会開始から1時間が経過した頃には、上司から飲酒のペースが早いことを指摘され自制を促されていたこと、こうした飲酒の結果亡Aが酩酊するに至ったことを認定した上、「(上記の)短時間における多量の飲酒行為については、仕事納の日の社内清掃後における1時間ないし2時間程度の懇親、慰労の趣旨で行われた本件納会の目的から明らかに逸脱した過度の飲酒行為である」としたうえで、「これによる亡Aの急性アルコール中毒の発症については、業務に内在する危険性が現実化したものとはいえず、業務起因性を認めることはできない」として、業務起因性を否定し、労災には当たらないと結論づけました。

石綿粉じんのばく露による損害賠償請求が認められなかった事例(F社事件・奈良地裁平成26年10月23日判決)

本件は、被告会社のとある工場において勤務した経験を持つ3人の労働者が、「その勤務中に石綿(いわゆるアスベスト)の粉じんに接したため各種の病気になってしまった」と主張し、会社に対し、労働契約上の安全配慮義務違反(労働者が健康に働けるよう配慮し、適切な措置を講じる義務)ないし不法行為(会社が労働者をこうした危険な現場で働かせることは違法である)を理由として損害賠償請求をした、という事案です。

本件では、主に、①会社は、労働者らを使用している際に石綿の危険性を認識することができたのか②労働者が病気になってしまった原因が本当に石綿だといえるのか、という点が問題になりました。

裁判所は、①について、石綿に関する国内外の研究の進展、日本における法令の整備状況等を検討したうえ、石綿によって原告らの病気が発症するという危険性が認識されたのは早くても昭和33年頃以降であり、これ以前には会社に対して安全配慮義務を求めることはできないとしました。そして、労働者3人のうち2人については、その就労時期が、会社に安全配慮義務が認められる時期以前であるとして、労働者の請求を認めませんでした。

残り1人の労働者については、就労時期の点では問題がなかったのですが、②について、病気の原因は労働者の喫煙の可能性もある等の理由を挙げ、石綿により損害が生じたとまでは認められないとして、やはり労働者の請求を認めませんでした。

会社への入社前にうつ病と診断されていた労働者が入社後に自殺をしてしまった事案について、労災の成立を認めた事例(八王子労働基準監督署長事件・東京地裁平成26年9月17日判決)

労働者が業務上の負担でうつ病等を発症して自殺に至ってしまった場合、これが労災と認められるためには、うつ病等の発症が業務に起因するものと認められる必要があるというのが原則的な考え方です。本件では、自殺してしまった労働者の方が入社前からうつ病を発症していたため、自殺が業務の結果生じてしまったといえるか(=業務起因性)が問題となりました。

この点について、裁判所は、基本的には、厚生労働省が作成した「心理的負荷による精神障害の認定基準」という判断基準に従い、当該労働者に関する具体的事情を踏まえ必要に応じて基準を修正するという考え方を示しました。

そのうえで、本件では、労働者のうつ病は会社入社時にはおおむね治癒されていたので、かかるご病気をお持ちでない方と同様の基準で判断すべきとしたうえ、事案を詳細に検討し、自殺の業務起因性を認め、自殺が労災にあたると判断しました。

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