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定年後の再雇用に関する裁判例 バックナンバー①

定年後の再雇用に関する裁判例①
※高年齢者雇用安定法の内容は,それぞれ,判決当時のものであることにご留意ください。

定年後の再雇用を拒まれたことについて,労働契約法19条2号の類推適用が認められた事例(学校法人Y学園事件,名古屋地裁令和元年7月30日判決)

本件は,①被告の運営する大学においては原則として定年が満65歳とされており,定年退職者は,再任用規程に従い満68歳まで(場合によっては満70歳まで)再雇用されうる②再任用規程においては,懲戒処分を受けたことのある者は再任用不可という規程のもと,再任用を希望した原告労働者が,在職中に懲戒処分歴があることを理由に再任用を拒否されたことが無効と主張した事案です。

裁判所は,そもそも,原告に懲戒事由該当性が認められず懲戒処分が無効であることを認定した上,以下のとおり延べ,再任用拒否を無効と判断しました。

「(1)労働者において定年時,定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合,使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,この場合,使用者と労働者との間に,定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である(労働契約法19条2号類推適用,最一判平成24年11月29日集民242号51頁参照。原告が解雇権濫用法理(労働契約法16条)の類推適用を主張するのも,これと同趣旨と解される。)。

(2)被告は,再雇用候補者としてふさわしい者等の要件を充足するか否かをその都度審議する必要があり,被告において,当然に再雇用する慣行は存在しないと主張するけれども,弁論の全趣旨によれば,Y2大学において,平成24年度から平成28年度まで,65歳定年時に再雇用を希望した原告を除く43名全員が再雇用されていること,平成24年度から平成28年度まで,65歳定年時に再雇用を希望しなかった教授は3名であり,うち1名は懲戒処分を受けた者であること,平成25年度から平成28年度までを見ると,再雇用された教員30名のうち,本人の希望により1年間の再雇用であった1名を除く29名全員が満68歳の属する年度末まで再雇用が継続されたことが認められること,原稿には別紙1(略)の役職歴があることや平成26年4月から平成28年3月まで専攻主任という役職にあったことも加味すれば,本件処分がされた点を除いては,原告において,定年時,再雇用契約を締結し,満68歳の属する年度末まで雇用が継続すると期待することが合理的であると認められる。

(3)そして,本件処分は,懲戒事由該当性すら欠き無効であることは前示判断のとおりであり,再任用規程3条3号の欠格事由には当たらず,(1)の特段の事情にも当たらない。被告は,原告について再雇用の欠格事由に該当したため,再雇用の審査手続を一切していないというのであって,他に原告について再雇用を不適当とする事情の主張・立証はない。

 これらによれば,被告による原告の再雇用の拒否は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないから,前記のとおり,被告と原告との間に,定年後も再任用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である。

(4)そして,再任用規程(前提事実(2)エ)に(2)の実情を合わせ考慮すると,原告の再雇用後の給与面での待遇については,原告として,定年年齢時の俸給63万0700円(略)は少なくとも支給され,雇用期間については,原告が満68歳に達する年の学年度末である令和2年3月31日までになるものと解される。」

東京地裁平成30年11月21日判決

本件は,ホテルにて平成16年に営業課支配人という役職に就き,翌年の平成17年に役職定年,平成22年に60歳で定年退職,定年後に有期嘱託社員として再雇用された労働者が,定年前の正社員としての賃金と定年後の有期嘱託社員としての賃金の相違は労働契約法に違反すると主張した事案です。

裁判所は,要旨以下のように述べて,賃金の差異は違法ではないと結論付けました。

「原告の定年退職時と嘱託社員及び臨時社員時の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)は大きく異なる上(略),職務の内容及び配置の変更の範囲(略)にも差異があるから,嘱託社員及び臨時社員の基本給ないし時間給と正社員の年俸の趣旨に照らし,原告の嘱託社員及び臨時社員時の基本給及び時間給が定年退職時の年俸よりも定額であること自体不合理ということはできない。

 そして,その他の事情についてみるに,定年退職時の年俸額はその職務内容に照らすと激変緩和措置として高額に設定されている上(略),正社員の賃金制度は長期雇用を前提として年功的性格を含みながら様々な役職に就くことに対応するように設計されたものである一方で,嘱託社員及び臨時社員のそれは長期雇用を前提とせず年功的性格を含まず,原則として役職に就くことも予定されておらず,その賃金制度の前提が全く異なるのであり(略),このような観点からみても,正社員時の賃金額と嘱託社員及び臨時社員時の賃金額に差異があること自体をもって不合理といえないことは明らかである。加えて,原告の定年退職時の年俸の月額とこれに対応する嘱託社員及び臨時社員時の賃金とを比較するとその違いは小さいものとはいえないが,それらの賃金額は職務内容が近似する一般職の正社員のそれとの比較においては不合理に低いとまではいえないこと(略)も併せ考慮すれば,被告における嘱託社員及び臨時社員の賃金額の決定過程に労使協議が行われていないとの原告の指摘を踏まえてもなお,原告の定年退職時の年俸の月額と嘱託社員及び臨時社員時の基本給及び時間給の月額との相違が不合理であると認めることはできず,これをもって労働契約法20条に違反するということはできない。」

最高裁判所平成30年6月1日判決

本件は,定年退職後に期間の定めのある再雇用契約を締結した労働者が「自身の雇用条件が,期間の定めのない雇用契約を締結している従業員と相違していることが労働契約法20条に反する」と主張し,こうした従業員と同等の雇用条件にあることの確認等を求めた事案です。

労働契約法20条は,有期労働契約について,無期労働契約の場合と比較して,期間の定めがあることを理由とする不合理な労働条件の差異を設けることを禁止しています。本件では,定年後の再雇用であることと,労働契約法20条との関係が争点になりました。

この点,裁判所は以下のとおり判断しました。

「定年制は,使用者が,その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としな がら,人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに,賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ,定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は,当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に 定められたものであることが少なくないと解される。

これに対し,使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。

そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。 」

東京地方裁判所立川支部平成30年1月29日判決(学究社事件)

本件は,定年後に再雇用された原告労働者(学習塾の講師。雇用条件は定年前からダウン)が,定年前の雇用契約を前提として賃金を算定し,再雇用契約における賃金額との差額等の請求を行った事件です。本稿との関係では,原告は「再雇用契約は,定年前の労働条件を前提としたものである」との主張をしており,その当否が問題となりました。

この点,裁判所は以下のとおり判断しました。

「原告は,再雇用契約締結時,被告に対し,定年退職前と同一の条件でなければ勤務はできないと説明したこと,再雇用後も定年退職前と同様の勤務を行っていたが,被告からその勤務態様等について何ら異議を述べられたことがないことなどからすれば,原告と被告との間には,定年退職前の労働条件を前提とした再雇用契約が成立した旨主張する。

しかし,原告と被告との再雇用契約は,それまでの雇用関係を消滅させ,退職の手続を取った上で,新たな雇用契約を締結するという性質のものである以上(中略),その契約内容は双方の合意によって定められるものである。

また,原告が「定年後の再雇用契約の内容は,定年前の契約に比して給与額が大きく下がるもので,労働契約法20条に反し無効である」旨主張していたことについても,以下のとおり判断しました。

「原告は,再雇用の前後で賃金の差が大きいことからすれば,有期労働契約となる再雇用後の労働者と期間の定めのない労働契約である退職前の正社員との間には,労働条件に大きな相違があるといえるため,被告の定年後再雇用制度における労働条件のうち賃金の定めに関する部分は,労働契約法20条に反し無効であると主張する。

 確かに,被告においては,定年退職後の再雇用契約は,期間の定めのある労働契約であるところ,その内容である賃金は,定年退職前の正社員の賃金の30パーセントから40パーセント前後が目安とされ,賃金の定めについて相違があるといえるため,労働契約法20条の適用が問題となる。

 しかし,(中略)原告は,定年前は専任講師であったのに対し,定年後の再雇用においては時間講師であり,その権利義務には相違があること,勤務内容についてみても(中略)両者の間には,その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差があるといわざるを得ない。また,本件の再雇用契約は,高年法9条1項2号の定年後の継続雇用制度に該当するものであり,定年後継続雇用者の賃金を定年退職前より引き下げることは,一般的に不合理であるとはいえない。

よって,被告における定年退職後の再雇用契約と定年退職前の契約の相違は,労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して不合理であるとはいえず,労働契約法20条に反するとは認められない。」

福岡高等裁判所平成29年9月7日判決(九州惣菜事件)

本件は,期間の定めのない労働契約を締結して働いていた原告労働者が,定年後の再雇用条件として「賃金が従前の約25%,勤務日が週3~4日となるパートタイム契約」を提案されたことについて,「当該提案が従前の労働条件に比して著しく低廉であるため,不法行為に当たる」と主張した事案です。

この点,裁判所は,以下のとおり判断しました。

同法(※高年齢者雇用安定法)9条1項に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの,その趣旨・内容に鑑みれば,労働契約法制に係る公序の一内容を為しているというべきであるから,同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為,例えば,再雇用について,極めて不合理であって,労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し,到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は,継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり,事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として当該高年齢者が有する,上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得ると解するべきである。

 その判断基準を検討するに,継続雇用制度(高年法9条1項2号)は,高年齢者の65歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり,「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されており,導入に当たっての条件の相違や優先順位は存しないところ,後二者は,65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり,当然に労働条件の変更を予定ないし合意するものではないこと(すなわち,当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており,仮に,当該定年の前後で,労働者の承諾なく労働条件を変更するためには,別の観点からの合理的な理由が必要になること)からすれば,継続雇用制度についても,これらに準じる程度に,当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度,確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり,このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する。また,有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても,再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に,有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されないものと解される(同法3条所定の労働契約の諸原則もそのような解釈を補強するものである。)。したがって,例外的に,定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには,同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する」との判断基準を示しました。

そして,本件では,「賃金についてみると,控訴人の定年前の月額賃金(33万5500円)を時給に換算すると1944円になり(弁論の全趣旨),本件提案における時給900円はその半額にも満たないばかりか,月収ベースで比較すると,本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1か月の就労日数を16日とした場合)となり,定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で,本件提案の労働条件は,定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって,本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには,そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である」として,本件では,このような合理的な理由の存在を認めませんでした。

※会社側は,減額の理由として「運営店舗数の減少」を挙げていましたが,減少数が軽微であること等を理由に排斥されています。

結論として,大幅な賃金額減少を伴う再雇用条件の提示が不法行為に当たり違法であるとして,会社側に対し,慰謝料100万円の支払を命じました。

名古屋高等裁判所平成28年9月28日判決(トヨタ自動車事件)

本件は,定年後,会社の定める再雇用基準を満たさないと判断された労働者が,再雇用基準が不合理で高年齢者雇用安定法9条1項に違反するとして,雇用関係の確認や慰謝料等を求めた事案です。

裁判所は以下のとおり判断しました。

 ア 改正高年法は,継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方,従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。),60歳の定年後,再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから,この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために,老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。
     そうすると,事業者においては,労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても,60歳から61歳までの1年間は,その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって,定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。
なお,被控訴人会社は,改正高年法の定める継続雇用制度を採用するに当たり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するに当たっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものである。
   イ これを本件について見ると,被控訴人会社が控訴人に対して提示した給与水準は,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円(4時間×243日×時給1000円)の他に,賞与として年間29万9500円が支給されたと推測されることが認められるから(弁論の全趣旨),控訴人が主張する老齢厚生年金の報酬比例部分(148万7500円)の約85%の収入が得られることになる。
上記の給与等の支給見込額に照らせば,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない。
   ウ 次に,被控訴人会社の提示した業務内容について見ると,控訴人に対して提示された業務内容は,シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)というものであるところ,当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べているように,事務職としての業務内容ではなく,単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。
     上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。
     そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。
したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない
     この点につき,被控訴人らは,控訴人が本件選定基準(職務遂行能力及び勤務態度)に満たず,同僚や上司との平穏なコミュニケーション能力を欠き,さらに,1日4時間勤務で雇用期間も1年間のみという勤務形態を前提とすると,控訴人については清掃等の業務以外の業務を提示することは困難であったなどと主張するが,上記選定基準に基づく評価は,控訴人の従前の職務上の地位を前提としてのものであって事務職全般についての控訴人の適格性を検討したものではないし,被控訴人会社において控訴人について解雇の手続を取った形跡はなく,勤務規律及び遵守事項に違反する行為があったとして,けん責処分にしたにとどまるのであって(甲31),控訴人の問題点が事務職全般についての適格性を欠くほどのものであるとは認識していなかったと考えられる。しかも,被控訴人会社は,我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず,従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど,清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難い。これらのことからすると,控訴人に対し清掃業務等の単純労働を提示したことは,あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して,控訴人が定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずるところである。
したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが指摘するような問題点があることを考慮しても,被控訴人会社の提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受け入れ難いようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,被控訴人会社の上記一連の対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できる。
   エ 以上によれば,被控訴人会社は,控訴人に対し,上記違法な対応により控訴人が被った損害について債務不履行責任及び不法行為責任を負うというべきである。
 5 争点(6)(被控訴人会社の雇用契約上の債務不履行または不法行為による控訴人の損害額)について
   控訴人は,被控訴人会社の上記違法行為により,精神的苦痛を受けたほか,60歳から61歳までパートタイマーとして継続雇用する機会を奪われたと認められる。上記のとおり,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円の他に賞与として年間29万9500円が支給され,合計127万1500円を得ることができたと認められるところ,控訴人は逸失利益の賠償を求めておらず慰謝料の支払を求めており,本件事案の内容からすると,債務不履行に基づいて慰謝料の支払を求めるのは困難であるが,不法行為に基づく慰謝料請求については,控訴人が上記賃金等の給付見込額と同額の損害賠償金を得ることができれば,その精神的苦痛も慰謝されるものと認められる
   よって,控訴人の被控訴人会社に対する請求は,不法行為に基づいて127万1500円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年○月○日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は棄却すべきである。

最高裁判所平成24年11月29日判決

本件は,定年後,1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者が,同契約の終了後,雇用継続を求めたものの会社側から拒絶されたことから,高年齢者雇用安定法所定の継続雇用制度に基づき再雇用されたとして,雇用契約関係の確認等を求めた事案です。

裁判所は,以下のとおり判断し,再雇用の成立を認めました。

法(※高年齢者雇用安定法のこと)は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図ること等を目的とする(法1条)ものであるところ,法附則4条1項により平成22年4月1日から同25年3月31日までの期間において読み替えて適用される法9条1項は,64歳未満の定年の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者の64歳までの安定した雇用を確保するため,当該定年の引上げ,継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入又は当該定年の定めの廃止のいずれかをしなければならない旨を定め,同条2項は,事業主が,当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において,労働者の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用基準を定めて当該基準に基づく制度を導入したときは,継続雇用制度の導入をしたものとみなす旨を定めている。
 上告人は,法9条2項に基づき,本社工場の従業員の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用基準を含むものとして本件規程を定めて従業員に周知したことによって,同条1項2号所定の継続雇用制度を導入したものとみなされるところ,期限の定めのない雇用契約及び定年後の嘱託雇用契約により上告人に雇用されていた被上告人は,在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総点数が1点となり,本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁,最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。そして,本件規程によれば,被上告人の再雇用後の労働時間は週30時間以内とされることになるところ,被上告人について再雇用後の労働時間が週30時間未満となるとみるべき事情はうかがわれないから,上告人と被上告人との間の上記雇用関係における労働時間は週30時間となるものと解するのが相当である。

東京地方裁判所平成22年2月10日判決

本件は,労働組合が,高年齢者雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に関して行った団体交渉申入れに対し,会社側が「当該組合には協定締結権限がない」としてこれを拒んだことが,不当労働行為に当たるかが争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり判断し,不当労働行為の成立を認めました。

高齢法9条2項の労働者代表との協定の締結及びこれに基づく継続雇用制度の導入は,同条1項2号にかかる義務を事業主が履行したとみなす法的効果を発生させるにとどまり,事業主が同条にかかる協定締結資格を有しない労働組合との間で組合員の定年到達以降の継続雇用等の労働条件について団体交渉を誠実に行うべき義務を免れさせる効果を有するものではない。労働組合に高齢法9条2項所定の継続雇用協定の締結資格がなくとも,また,事業主が,労働者代表との間で継続雇用協定を締結し,さらに就業規則において継続雇用規定を制定している場合であっても,事業主が労働組合との間で,継続雇用協定や就業規則における継続雇用規定に定める基準よりも組合員にとって有利な「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」を労働協約で別個に定めることは何ら妨げないのであるから,原告組合に高齢法9条2項所定の継続雇用協定の締結資格がないことが,本件団交申入れを原告会社が拒否する正当な理由とならないことは明らかである

東京地方裁判所平成21年11月16日判決

本件は,一つ下の大阪地方裁判所平成21年3月25日判決の場合とほぼ同じく,原告労働者が,①被告会社における60歳定年制は,高年齢者雇用安定法9条1項に違反して無効である

②その結果,被告では定年制の定めがないことになるため,60歳以後も雇用契約が存続している

③仮に60歳定年制が無効でないとしても,被告会社が60歳以降の原告らの就労を拒絶したことが不法行為に当たる

と主張した事案です。

この件について,裁判所は以下のとおり判断しました。

1 高年齢者雇用安定法9条の効力について

この点は,大阪地方裁判所平成21年3月25日判決とほぼ同様の理由で,高年齢者雇用安定法9条の私法的効力(=同法違反があった場合,定年制自体が無効となるという意味で,契約条件を変更する効力)を否定しました。

原告らは、雇用安定法九条一項違反の効果として、六五歳未満定年制の定めが無効となり、定年の定めがないことになると主張している。そこで、同項が私法的強行性を有するかを検討する。
同項の規定上、これに違反した場合に、労働基準法のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存在しない。また、同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定していない。むしろ、継続雇用制度について、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であると定義づけるだけで、制度内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得る内容となっており、直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように、同項の規定自体、私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。
 のみならず、同法は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(同法一条)、事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として、種々の施策を要求しており、社会政策誘導立法、政策実現型立法として、公法的性格を有している。そして、同法九条一項が、事業主に対する公法上の義務を課す形式をとり、義務違反に対する制裁としては、緩やかな指導、助言、勧告を規定するのみであること(同法一〇条)、同法九条二項は、一定の場合に、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容して、希望者であっても、継続雇用制度の対象としないことを容認していること、同法八条は、本件改正後も六五歳未満定年制を適法としていることを考えると、同法は、六五歳までの雇用確保については、その目的に反しない限り、各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨であると解されるのであり、同法九条一項に、原告らが主張するような私法的強行性を認める趣旨ではないことを裏付けている。実際に、同法の改正経緯を見ると、六五歳までの雇用確保を推し進める一方、事業主に対して一律に六五歳までの雇用を求めることは困難であること、雇用継続は各事業主の実情に配慮し、その自主性を尊重し、労使の工夫による自主的努力に委ねられるべきであることが一貫して指摘され、平成一六年建議でも、直ちに法定定年年齢を六五歳に引き上げることは困難であることが指摘され、各企業の実情に応じた労使の工夫による柔軟な対応を許容すべきであることが要請されているのである。
 以上のように、同法九条一項の規定自体からも、同条の全体構造からも、また、立法過程に遡った同条の趣旨からも、原告らが主張するような同項の私法的強行性を肯定する解釈は成立しない。
 以上によれば、原告らは、いずれも平成二〇年三月三一日の経過により定年退職し、被告の従業員たる地位を失ったことになるから、原告らの地位確認及び賃金請求は、その余の主張を検討するまでもなく、いずれも理由がない。

2 被告において,高年齢者雇用安定法9条1項2号で定める措置(継続雇用制度)が実施されていたといえるか

こちらも,ほぼ,大阪地方裁判所平成21年3月25日判決とほぼ同様の理由で,本件の定年制度は高齢者雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度として有効であると判断しました。

「(1) 原告らの主張は、被告が、原告ら従業員に対して、正当な理由もなく雇用安定法九条一項に違反したまま、従業員たる地位を否定する行為が、当該従業員に対する不法行為を構成するというものであると解釈できるから、被告について、同項の違反行為が認められるかを検討する。
 (2) 上述した雇用安定法の改正経緯、同法九条の趣旨、同条一項がその措置に伴う労働契約の内容等について規定していないこと、同条二項が継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを容認していることを考慮すると、同条一項二号の継続雇用制度は、年金支給開始年齢である六五歳までの安定した雇用機会の確保という同法の目的に反しない限り、各事業主が、その実情に応じ、同一事業主に限らず、同一企業グループ内での継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解すべきであり、また、その場合の賃金、労働時間等の労働条件についても、労働者の希望や事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を容認していると解するのが相当である
 上記前提事実によれば、本件制度は、被告退職後に再雇用される予定のグループ会社が、被告、その完全子会社又はNTTの完全子会社が全額出資して設立した株式会社で、被告との間に資本的な密接性が認められること、社長達やグループ会社の就業規則の中で、欠勤日数が一定日数に達した場合や更新時に健康上の問題がないと判断されなかった場合を除き、原則として六五歳まで再雇用する旨明記され、実際、除外事由に該当しない限り、希望者全員の契約が更新されてきたこと、後述のとおり、グループ会社入社後の労働条件は、当該地域に生活する労働者に配慮した内容となっていることからすると、同一企業グループでの高年齢者の安定した雇用が確保される制度と評価でき、被告における継続雇用を保障するものでないからといって、直ちに同法九条一項二号の継続雇用制度に該当しないということはできない。
 (3) 原告らは、転籍後の労働条件が劣悪であるから、雇用安定法九条一項二号の定める継続雇用制度に該当しないと主張する。しかし、継続雇用制度は事業主に一定の負担を強いるものであり、同号は、継続雇用制度によって確保されるべき雇用の内容までは規定しておらず、労働者の希望に合致した労働条件であることまで要求しないで、事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を許容する趣旨であると解するのが相当である。したがって、労働条件が低下するからといって、直ちに継続雇用制度に該当しないとはいえない。
 上記前提事実のとおり、本件制度は、定年前のグループ会社への転籍により、定年までの給与の減額を伴うが、各グループ会社の給与水準は、同一地域における同業種の賃金水準等を参考にしつつ、大幅な減額とならないよう一定の配慮をした上で設定され、減額分に対して繰延型又は一時会型を設けて、最大五~六割を賃金の上乗せや退職金の支払によって填補する仕組みであり、勤務地も限定的なものとする等、当該地域で生活する労働者の事情に配慮したものとなっているから、総所得が低下する場合があっても、直ちに継続雇用制度に該当しないとはいえない。
 また、原告らは、同法九条一項二号は五五歳以降に希望聴取すべきことを要請しているとして、五〇歳の時点で希望を聴取したのは同項に違反していると主張するが、同法は、希望聴取の時点について何ら規定せず、合理的な範囲内で事業主の裁量に委ねていると解されるから、上記主張を採用することはできない。原告らは、本件改正法施行後に改めて原告らに対する雇用形態選択の機会が付与されていないと指摘するが、上記前提事実のとおり、原告らは、三度にわたる選択の機会が付与されているし、企業が、本件改正により原告らに対して改めて選択の機会を付与すべき義務を負うと解すベき根拠はないから、上記主張もまた採用することはできない。
 原告らは、十分な情報が与えられず、本人の自由意思に基づく判断が保障されなかったから、同法の趣旨に反すると主張する。しかし、上記前提事実のとおり、被告は、原告らを含む従業員らに対し、説明会を開き、資料を配付する等して本件制度の趣旨、概要、選択手続等を具体的に説明しているのであり、原告らに対し、違法な退職強要等、自由な意思決定が阻害されたことを窺わせる事情は見当たらないから、上記主張にも理由がない。
 原告らは、本件制度は、被告のリストラ計画に応じない者に不利益を課す不公平なもので、同法の趣旨に反すると主張する。本件制度は、退職・再雇用型を選択しない限り、定年後の再雇用の機会が与えられない制度であるが、被告が企業経営の合理化の観点から被告の業務の相当部分をグループ会社に業務委託し、それにあわせて本件制度を導入し、キャリアスタッフ制度を廃止した結果であり、本件制度を不公平なものと評価する根拠にはならないし、他に、本件制度について、同法の趣旨に反する不公平なものであるとする根拠はないから、上記原告らの主張は採用できない。
 (4) 以上のとおり、本件制度が雇用安定法九条一項二号の継続雇用制度に該当しないとはいえず、被告が同項に違反していると認める根拠はないから、被告が定年後の原告らの従業員たる地位を否定したことが不法行為に該当するとの原告らの主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないといわなければならない。

大阪地方裁判所平成21年3月25日判決

本件は,原告労働者が,①被告会社における60歳定年制は,高年齢者雇用安定法9条1項に違反して無効である②その結果,被告では定年制の定めがないことになるため,60歳以後も雇用契約が存続している,と主張した事案です。

また,原告側は,③仮に60歳定年制が無効でないとしても,被告会社が60歳以降の原告らの就労を拒絶したことは高年齢者雇用安定法9条1項に反し民法709条の不法行為に当たる,として,損害賠償の請求もしていました。

この件について,裁判所は以下のとおり判示しました。

1 高年齢者雇用安定法9条の効力について

裁判所は「仮に企業が高齢者雇用安定法9条に違反したからと言って,直ちに定年制そのものが無効になったり,労働者に対する損害賠償義務が生じるわけではない」と判断し,原告側の主張をいずれも認めませんでした。

 ア 原告らは,同条には私法的効力があり,したがって,事業主と労働者間の法律関係について,60歳定年を定める就業規則を無効ならしめ,あるいは民法上の不法行為責任を課すものである旨主張するところ,以下の事情を踏まえると,同主張は理由がなく,かえって,同条は,私人たる労働者に,事業主に対して,公法上の措置義務や行政機関に対する関与を要求する以上に,事業主に対する継続雇用請求権を付与するのと同様の効果をもたらす規定(直截的に私法的効力を認めた規定)とまで解することはできない
    (ア) 同法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進,高年齢者等の再就職の促進,定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(1条),事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として,種々の施策を要求しており,社会政策誘導立法ないし政策実現型立法として,公法的性格を有している。
    (イ) また,上記1(1)で認定した同法の改正経過をみると,60歳を超えると健康や体力の面等で個人差が拡大するため,事業主に対して,65歳までの雇用を一律に求めることは困難であることが指摘され,本件改正の基礎となった平成16年建議も,「継続雇用制度についても,一律の法制化では各企業の経営やその労使関係に応じた適切な対応が取れないとの意見もあることから,各企業の実情に応じ労使の工夫による柔軟な対応が取れるよう,労使協定により継続雇用制度の対象となる労働者に係る基準を定めたときは,当該基準に該当する労働者を対象とする制度を導入することもできるようにすることが適当である」,「企業経営上の極めて困難な状況に直面しているケース等については,企業の実情を十分に考慮した助言等に止める等その施行に当たっての配慮が必要である。」とされる等,継続雇用制度の内容を一律に定めておらず,事業主側の事情等も考慮すべきとしている。これを受けて成立した同条1項は,国が事業主に対して公法上の義務を課す形式をとっているほか,同項各号の措置に伴う労働契約の内容ないし労働条件についてまでは規定していない上,同項2号も,継続雇用制度について,「現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。」と定義づけ,多様な制度を含みうる内容の規定となっている。仮に同項によって事業主に作為義務があるとしても,その作為内容が未だ抽象的で,直ちに私法的強行性ないし私法上の効力を発生させる程の具体性を備えているとまでは認め難い。
    (ウ) そして,同条2項は,一定の場合に継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容し(したがって,高年齢者が希望したとしても必ず同法所定の65歳まで雇用しなければならないものではなく,基準に基づいて選抜を行い継続雇用制度の対象としないことも容認する趣旨),高年雇用安定法の趣旨に反しない限り,各事業主がその実情に応じて柔軟な措置を講ずることを許容しているものと解される。
    (エ) しかも,事業主と個別労働者との関係を前提とする同法の規定は,努力義務規定が多く(15条,19条等),義務規定に反した場合の実効確保措置についても厚生労働大臣による助言・指導・勧告というより緩やかな措置に止まり,罰則や企業名公表制度等の制裁までは予定されていない。
    (オ) さらに,同法9条の直前に規定されている8条は,9条について努力義務が削除された後も定年年齢を65歳まで引き上げることなく60歳を下回らないと義務付けたままになっている上,同法には9条1項の義務に違反した場合について,労基法13条のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存しない。
      仮に同条1項の義務をもって私法上の義務と解すると,同義務内容となる給付内容が特定できないといった解釈上困難な問題を惹起するのみならず,仮に個々の労働者に事業主に対して雇用を保障する義務があるとした場合,その給付内容をどのように特定するか,その義務の履行を法律上強制することが可能か否か,裁判上強制した場合に実効性を確保しうるか,定年延長ないし定年廃止を事実上強制することが包含する問題性がある(同条1項2号が予定する継続雇用制度は事業主の実情を踏まえた雇用態様が想定されているが,事業主の実情をおよそ無視して能力や意欲等の多様な対象高年齢労働者を何らの制限なくして全て雇用し続けることを義務づけるという結論をとることは,高年齢者の安定した雇用の確保の基盤をかえって危うくする危険性がある。)等,多くの困難な実践的解釈上の問題を生じることとなる。
    (カ) ところで,原告は,同法9条1項違反の私法的効力が認められなければ,法を遵守せず行政の指導にも従わない悪質な事業主ほど雇用責任を免れ,他方で,労働者を困窮生活に陥れるのみならず,事業主による違法行為を助長することにもなりかねず,65歳までの雇用保障を義務化した法の趣旨を没却する旨主張するが,同主張は未だ抽象的な問題性を論じる域を出ておらず,採用の限りではない。

2 被告において,高年齢者雇用安定法9条1項2号で定める措置(継続雇用制度)が実施されていたといえるか

裁判所は「高年齢者雇用安定法9条1項2号に定める継続雇用制度をどのような内容にするかについては,企業の広範な裁量が認められる」という考え方を前提に,被告における継続雇用制度は高年齢者雇用安定法に合致していると判断しました。

ア 高年雇用安定法9条1項2号で定める継続雇用制度の許容する制度枠組み
     上記1(1)及び2(1)で認定した高年雇用安定法の上記立法目的,法的性格及び上記認定の高年雇用安定法の改正経緯を踏まえると,高年雇用安定法9条の趣旨は,高年齢者の60歳以後の安定した雇用を確保するための措置を講じることによって,年金支給開始年齢までの間における高年齢者の雇用を確保するとともに高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを可能とする労働環境を実現することにあると解するのが相当である。
     ところで,現行9条の改正の基礎となった平成16年建議の内容や同条の改正経緯,同条1項が同項各号の措置に伴う労働契約の内容等についてまでは規定していないこと,同条2項が一定の場合に継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容していることを踏まえると,同条は,上記同条の趣旨に反しない限り,各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解するのが相当であり,また,同条で定める雇用確保措置によって確保さるべき雇用の形態は,必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用であることを要せず,同希望や事業主の実情等を踏まえた常用雇用や短時間勤務,隔日勤務等の多様な雇用形態を含むものと解するのが相当である
   イ 本件制度が高年雇用安定法9条1項2号に該当すること
    (ア) 地域会社での再雇用(転籍)について
      原告らは,本件制度は地域会社の従業員を継続雇用するに過ぎず,高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しない旨主張する。
      しかし,同号で定める継続雇用制度は,上記アで説示したとおり同法の趣旨に反しない限り,各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解されるところ,同条の雇用確保措置によって確保さるべき雇用の形態も,上記アで説示したとおり必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用であることを要せず,同希望や事業主の実情等を踏まえた常用雇用や短時間勤務,隔日勤務等も含めて多様な雇用形態を含むものと解される。
      また,上記1(1)で認定した高年雇用安定法の改正経緯によれば,60歳を超える者の雇用確保については一貫して,多様な形態による雇用・就業機会の確保が図られることが重要であり,そのために同一企業又は同一企業グループ内において定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくこと等が重要であるとされており,それを踏まえて同法9条が規定されたと解されるのであるから,少なくとも,同条は,同一企業のみならず同一企業グループにおいて継続して雇用・就業の場の確保を図ることも高年雇用安定法の目的を達する方法・手段として想定していたことは明らかであり,同条1項2号で定める継続雇用制度に,転籍という方法による雇用継続がおよそ含まれないと解することはできない
もっとも,同条1項2号の上記趣旨及び同号が「事業主に対してその雇用する高年齢者の安定した雇用を確保するために同項各号に定める措置を講じなければならない。」としていることを総合すると,事業主が転籍型の継続雇用制度を採用する場合,特段の事情でもない限り,事業主と転籍先との間で少なくとも同一企業グループの関係とともに転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められなければならないと解するのが相当である。
      そこで,本件であるが,本件制度では,被告を退職した後に再雇用される予定の別会社たる地域会社(転籍先)は,いずれも被告あるいは,被告が全額出資して設立した会社等が全額出資して設立した会社であり(上記前提事実(3)),資本的な密接性が認められるのみならず,再雇用に関する就業規則を制定して,一雇用期間における欠勤日数が一定数に達した者や更新時に健康上の問題があるものを除き,基本的に再雇用及び更新されることとし,現にそのように運用されているというのであるから,本件制度は,事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係とともに転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められるといえ,本件制度が地域会社における再雇用制度であることをもって同条1項2号に反するとはいえず,かえって,同号で定める継続雇用制度に適合する制度であるといえる。

(イ) 原告らの上記第2の4ウの主張について
      原告らは,地域会社の契約社員制度は,会社の業務上の必要性がある場合に更新されるものであり,労働者が希望した場合に65歳まで雇用を保障していないから,本件制度が高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度にあたらない旨主張している。
      しかし,同条1項2号で定める継続雇用制度は上記のとおり各事業主が実情に応じて柔軟な措置をとることが許容されているところ,労働者が希望した場合に無条件で年金支給開始年齢までの雇用が保障されていないことをもって直ちに同号で定める継続雇用制度に該当しないということはできない。
      そして,地域会社での定年後の雇用期間はキャリアスタッフ制度と同様に一雇用期間における欠勤日数が一定数に達した者や更新時に健康上の問題があるものを除き,基本的に雇用終了年齢に至るまで再雇用(更新)される扱いとなっており,上記(2)アで説示した同法9条の趣旨に反するとまではいえず,後述するところも勘案すると,同号で定める継続雇用制度に適合する制度であるといえる。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
    (ウ) 原告らの上記第2の4(2)エの主張ついて
      原告らは,地域会社の契約社員制度は,法の求める賃金収入を被告の従業員にもたらさない(本件制度のうち,最終,65歳までの継続雇用が可能となる繰延型,一時金型は,60歳を超えて継続雇用された場合に得られる賃金額が60歳満了型を選択した場合よりも低くなる。)から,高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しない旨主張する。
      しかし,高年齢者の雇用は事業主に相応の負担を生じさせるものであること,また,同条1項2号で定める継続雇用制度は上記のとおり各事業主が実情に応じた柔軟な措置をとることを許容していることを踏まえると,労働条件が低下することをもって直ちに同号で定める継続雇用制度に該当しないとまではいえない。
      そして,平成16年建議において「65歳までの雇用確保に当たっては,今後の労働力供給動向を踏まえた人材の確保,雇用・就業ニーズの多様化や厳しい経営環境の中での総コスト管理の観点からも,労使間で賃金,労働時間,働き方等について十分に話し合い,賃金・労働時間・人事処遇制度の見直しに取り組むことが必要である。」と指摘されており,立法段階において,各企業の実情を考慮すること,殊に限られた経営資源の中で65歳までの雇用確保を求める場合,賃金減額や労働時間の短縮を検討することも必要との認識があったと解されること,地域会社における退職金等において一定の措置が採られていること,勤務地も限定的なものとなり,かつ,雇用保険等,公的給付や企業年金の支給との組み合わせ等により,多様な生活スタイルに応えるものとなっていると評価しうることを総合考慮すると,繰延型又は一時金型を選択した場合に総所得が低下する場合があるとしても,そのことのみをもって直ちに同号で定める継続雇用制度に反するとまではいえない。
      加えて,本件制度は,被告の労働者の99%近い従業員が加入するA労組の合意が得られていること及び現にこれら労働者による雇用形態等の選択がされて機能していると解されることを勘案すると,労使の協議・工夫による制度と評価でき,この点からも同法9条の趣旨に反した制度とはいえない。

      したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
    (エ) 原告らの上記第2の4(2)オの主張ついて
      原告らは,雇用形態等の選択について,早くとも55歳以上の時点で従業員が選択できる制度でなければならないのに,被告は,50歳の時点で雇用形態等の選択をさせており,高年雇用安定法9条1項2号に反する旨主張する。
      しかし,継続雇用に関する希望を聴取する時期や方法は高年雇用安定法に明定されておらず,基本的には事業主側の裁量に任されているところ,被告は,上記前提事実(4)(5)で記載したとおり,平成14年1月ころ及び平成18年1月ないし2月に被告の労働者に対し,雇用形態や処遇体系等を説明した上でその選択の機会を設けており,その際,選択内容である雇用形態や処遇の内容(労働条件等)について具体的に説明し,意向聴取もしていることに同選択の際,被告において,原告らに特定の選択をし,あるいはしないように脅迫ないし強制をしたような事情もないことを総合すると,被告が原告らに求めた同選択について,高年雇用安定法違反と認めることはできない。
      なお,50歳の時点で処遇形態等の選択をさせ,その後選択の機会を与えないとすることについては,当否の問題がなくはないものの,本件では再選択の機会があることから,少なくとも高年雇用安定法9条1項等に反するとはいえない。

      以上によれば,継続雇用の希望聴取時期や方法に関して被告に裁量違反を認めることができない。
      したがって,原告らの上記主張は理由がない。
    (オ) 原告らの上記第2の4(2)カの主張について
      原告らは,平成14年の雇用形態等の選択の際及び平成18年の再選択の際,被告が従業員にまともな説明をしておらず,高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度が予定する選択の機会が与えられていない旨主張する。
      しかし,高年雇用安定法上,同法と当該事業主が採用している継続雇用制度との関係を具体的に説明すべき義務を明定した規定はなく,本件制度が同法9条1項2号で定める継続雇用制度に該当することは上記イの(ア)ないし(エ)で認定説示したとおりであるところ,被告は,本件制度の対象となる従業員に対し,平成14年の雇用形態及び処遇体系の選択を求める際,選択内容である雇用形態や処遇の内容(労働条件等)について具体的に説明しており,それ以上に本件制度と同法との関係について,その当否は別として,説明をすべき義務まではなかったと解するのが相当である。
      また,本件制度による雇用形態等の選択ないし再選択が,事業上の必要性を主たる要因として実施されていたとしても,そのことによって本件制度が高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しないことになるわけではない。
      なお,上記のとおり上記雇用形態等の選択ないし再選択にあたり,被告が原告らに対して特定の選択をし,あるいはしないように脅迫ないし強制をしたような事情はない。
      したがって,原告の上記主張は理由がない。

 

東京地方裁判所平成6年9月29日判決

本件は,被告会社(ラジオ放送事業)における55歳定年制の適法性が争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり判示して,被告会社における55歳定年制の有効性を肯定しました。

1 定年退職制の合理性

ここでは,定年制という制度について「一般論としては合理性を認められるが,あくまで,社会情勢を踏まえ企業経営上必要とされる限度においてのみ許容される」という考え方が示されています。

およそ定年退職制は,一般に,老年労働者にあっては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにもかかわらず,給与が却って逓増するところから,人事の刷新・経営の改善等,企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって,一般的にいって,不合理な制度ということはできない(最高裁判所昭和43・12・25大法廷判決・民集22巻13号3459頁)。

しかしながら雇用契約における定年制度の合理性は,定年年齢と社会における労働力人口との関連において,企業における限られた雇用可能人員の中で,人件費負担増の防止,労働能力が減退した労働者の交替,若年労働者の雇用の必要性,人事の停滞回避,企業活力の維持等のために企業経営上必要とされる限度において社会的に許容されるものであるから,それは,当該定年年齢,社会における労働力人口,企業経営をとりまく諸事情を総合考慮して判断すべきものと考えられる。しかも,定年制度の改革は,賃金制度,人事管理制度,能力維持開発訓練制度と密接に関連するものであり,これらは労使の合意の上に成り立つものであり,その自主的努力の集積によって普遍化するものであるから,本件55歳定年制を原告に適用することが公序良俗違反,権利濫用,信義則違反に該当し無効であるといえるためには,本件55歳定年制についての被告会社におけるこれらの対応等が社会的相当性を欠くものであることを要するといわなければならない。」

2 高年齢者雇用安定法(※判決当時のもの)との関係

高齢者雇用安定法に基づく定年延長の推進策は,定年を60歳に引上げることを強行法規とせず,努力義務を課するにとどめ,事業主の自主的な経営判断に委ねていたが,かなりの成果を挙げ,一般企業において,平成2年1月1日現在,60歳以上の定年を定めている企業は,63.9パーセントに達しており,民放連に加盟する放送会社(全158社)についてみると,平成2年12月10日現在,同率に達している。しかし,55歳以下の定年を定める会社も,一般企業では19.8パーセント,放送会社でもそれに劣らない割合で存在しているのが実情であった。(中略)以上の諸事実に照らして考えると,(中略)被告会社は,平成2年2月当時,高年齢者雇用安定法に定める努力義務を十分に尽くさず,原告を含め定年後も就業の意欲と能力を有する退職者を組合員・非組合員の区別なく可能な限り再雇用すべき配慮に欠けていたが,本件55歳定年制が平成2年2月28日の時点における客観的法規範に反するとはいえず,しかも,当時は被告会社において60歳定年制を直ちに実現することが容易であったとすることができない以上,右個別的事情があるからといって,本件55歳定年制が公序良俗に反し,あるいは権利濫用,信義則違反に該当するということはできないというべきである。」

※当時は,定年の引き上げは努力義務とされており,企業側の裁量が法令上も尊重されていたこと等が,上記判断を導く理由とされています。

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