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自主退職に関する裁判例

自主退職に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

辞職又は退職申込の意思表示の存在が否定された事例(東京地裁令和5年3月28日判決)

本件は、原告が労働者たる地位確認等を請求した事案で、原告側にて辞職の意思表示または合意退職に向けた申し込みがあったか否かという点が争点の一つとなりました。

裁判所は以下のとおり述べ、これを否定しました。

1 争点1(原告による辞職又は退職合意申込みの有無)について
(1)被告は、令和3年12月27日、被告代表者が、原告がC大へフローリング材を搬送した際にガードマンに暴言を吐くなどしたと聞き及んだことから、原告に問い質したところ、原告が「もう勤まらない。」と発言した(本件発言)ため、「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」と返答したところ、原告が、貸与された携帯電話及び健康保険証を置いて被告の事務所を立ち去り、翌日以降出勤しなかったことを指摘して、原告が辞職又は退職合意申込みの意思表示をした旨を主張する。
(2)しかし、被告が主張する原告が本件発言をするに至った経緯を前提としても、原告が被告における就労意思を喪失したことを窺わせる事情は見当たらず、本件発言は、被告代表者からC大の案件について問い質されたことに憤慨した原告が、自暴自棄になって発言したものとみるのが自然であり、これを辞職又は退職の意思をもって発言したものとみるのは困難である。
 また、原告が本件発言をした後、健康保険証等を置いて被告の事務所を去り、翌日から出勤しなかったとする点も、被告代表者の「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」との返答を受けての行動であって、かかる発言は、社会通念上、原告の退職を求める発言とみるのが自然であること(当該発言について、被告代表者は、文字どおり原告が使用していた私物を整理することを求めたにすぎない旨を供述するが、採用できない。)からすると、これを解雇と捉えた原告がとった行動とみて何ら不自然ではなく、その約3週間後(年末年始を挟んでいるため、近接した時期といえる。)である令和4年1月15日に、原告が被告に対し解雇予告手当の支払などを求める書面を被告に送付していること(甲4)もこれを裏付けるものといえる。
 そうすると、被告主張の事実から原告が辞職又は退職合意申込みの意思表示をしたということはできない。
(3)また、この点を措いても、原告が本件発言をした事実を認めるべき証拠は、被告代表者の供述のみであって、これを裏付ける証拠は提出されていない。
 被告は、本件発言を否定する原告本人の供述に対する弾劾証拠(乙9、10)を提出するが、本件発言がなされたとする原告と被告代表者のやり取りに先立つ原告の就労状況について客観的事実と異なる点があったとしても、当該やり取りに関する原告本人の供述が弾劾されるとはいい難く、かつ原告本人の供述(反対証拠)が弾劾されたからといって、直ちに裏付けを欠く被告代表者の供述の信用性が増強されるともいい難いのであって、結局のところ、原告が本件発言をした事実を認定することは困難である。
(4)したがって、原告が辞職又は退職合意申込みの意思表示をしたとは認められず、本件雇用契約は現在(本件口頭弁論終結時)も存続している。

口頭による退職の合意が、有効と判断された事例(札幌高裁令和4年3月8日判決)

本件は、ごく単純化すると、労働者と会社との間で、労働者から口頭により退職に関する申し入れがなされた点に関し、これが確定的な退職合意と言えるか否かが争点となった事案です。

第1審は、労働者の意思表示は確定的なものではないとして、退職の成立を認めませんでしたが、第2審(高裁)は以下のとおり述べ、第1審判決を破棄して、退職の成立を認めました。

イ 本件面談までの事実経過及び本件面談の経過を見るに,上記認定事実のとおり,以下の事実が認められる。
① 事務部長は,令和元年12月2日,一審原告に非違行為を理由とする処分を検討していると告げたうえで退職勧奨を行い,3日後に返答するよう求めた。
② 本件面談は,一審原告,事務部長及び一審被告事務職員の3名で行われ,まず一審原告が約1時間にわたって弁明を行い,その後に事務部長が退職勧奨に対する返答を求めると,一審原告は上司に対する不満を述べた上で,そのような上司の下で働く気はないから退職すると繰り返し述べ,事務部長が退職するということでよいかと確認すると,一審原告は退職する旨を述べた。
③ その後,一審原告は,残っている有給休暇は全て取得したいと述べ,一審被告事務職員が,一審原告の有給休暇残日数を全て取得することを前提とすると,退職日としては令和2年1月20日が適当であると述べ,事務部長及び一審原告もこれを確認した。
④ また,事務部長及び一審被告事務職員が,一審原告に退職願をその場で作成することを求めたのに対し,一審原告は,印章を持ち合わせていないがそれでよいか尋ね,一審被告事務職員が難色を示すと,一審原告は母印でもよいかと尋ね,これに対して一審被告事務職員が母印はよくないので退職願用紙を持ち帰って郵送で返送するよう求め,一審原告が返送の郵送代も厳しいというと,一審被告事務職員は退職願用紙とともに,切手を貼付した返送用封筒を一審原告に渡した。
⑤ 続いて,一審原告が,翌々日の令和元年12月7日にロッカーやデスクの私物を持ち帰りたいと述べ,事務部長はこれを了承し,一審原告の上司にはそのことを伝えておく旨述べ,さらに,一審原告の上司には一審原告が自己都合で退職すると伝える旨を述べたが,一審原告は特段の異議を述べなかった。
⑥ さらに,一審被告事務職員と一審原告は,残存年次有給休暇日数とこれを前提とした退職日の確認をし,退職後の健康保険の任意継続について確認した。
ウ また,本件面談後の経過を見るに,上記認定事実のとおり,以下の事実が認められる。
⑦ 一審原告は,本件面談で述べたとおり,令和元年12月7日,一審被告病院を訪れ,私物を持ち帰るとともに,使用していた机の引出しの鍵及び更衣ロッカーの鍵を戻し,一審被告病院内のコンピューターネットワーク上に存在した,自らの氏が付されたサブフォルダ内のデータ全てをサブフォルダごと消去した。
⑧ 一審原告は,本件面談後,上記の令和元年12月7日以外に,一審被告病院に出勤していない。
⑨ 一審原告は,現在まで,一審被告病院の職員証及びICカード,健康保険被保険者証並びに制服3着を,一審被告に返還しておらず,また,一審被告から本件面談時に交付され,またその後に送付された退職願を一審被告に提出していない。
 そして,一審原告は,令和元年12月16日,弁護士である一審原告訴訟代理人に相談し,爾後の手続を委任して,一審被告に対する通知,仮処分申立て及び本件訴訟の提起追行などを行った。
エ 以上を踏まえて検討する。
 上記①及び②のとおり,本件面談が,事務部長による退職勧奨当日ではなく,その3日後に行われ,その際,一審原告側は本人1名であるが,一審被告側も事務部長及び一審被告事務職員の2名であり,また,一審原告が長時間にわたって弁明した後に,上司への不満を述べたうえで,退職する旨を述べ,事務部長が確認したのに対して,一審原告が再度退職する旨を述べていることに照らすと,一審原告の退職する旨の発言が,一審被告側からの圧力に抗しきれずに意に反して行ったものであるとか,精神的に動揺した中で衝動的にしたものであるとは認め難い。
 また,上記③,⑤及び⑥のとおり,一審原告は,退職する旨述べた後に,有給休暇の残日数を全て取得したい旨を述べ,これを前提とした退職日を事務部長及び一審被告事務職員との間で打ち合わせたり,令和元年12月7日に私物の持ち帰りをしたいと述べたりしていること,また,事務部長が,一審原告が自己都合退職する旨をその上司に話しておく旨述べても,一審原告は異議を述べなかったことに照らすと,本件面談の時点で,一審原告は自らが退職することを前提とした発言をしたというべきであり,特に,一審原告が退職する旨をその上司に話しておくと事務部長が述べたのに対して一審原告が異議を述べなかったことは,一審原告が退職することが一審被告病院内で広く知られることを容認するものであって,一審原告が確定的な退職の意思を有していたことを示す事情というべきである。
 なお,上記④のとおり,一審原告は,本件面談の際,その場で退職願の作成を求められたのに対し,印章を持ち合わせていないことを理由として退職願用紙を持ち帰っているが,一審原告は積極的に退職願の持帰りを希望したものではなく,かえって自ら,印章を持っていないがそれでよいかとか,母印でもよいかと尋ねていることからすれば,事務部長又は一審被告事務職員が印章なしでもよいとか,母印でもよいと答えれば,一審原告はその場で退職願を作成して提出する意思を有していたと推認することができる。この点について,一審原告は,当審における本人尋問において,本件面談の際に退職願を作成しなかったのは,退職したくなかったからであって,母印でもよいかと尋ねたのは,これを認めるのであればこの職場はおかしいと思ったからだと供述するが,上記の発言の経過に照らして不合理であって,採用することができない(なお,一審被告事務職員が,退職願に押印することを求めたのは,一審被告内部の事務処理上の形式を整えようとしたものに過ぎず,一審原告の発言が本件労働契約の合意解約の申込みの意思表示に当たらないことを前提とするものではないと解される。)。
 そして,上記⑦のとおり,一審原告は,本件面談で打ち合わせた令和元年12月7日に,一審被告病院を訪れ,私物の持帰りと机の引出し及び更衣ロッカーの鍵の返却をし,さらに,一審被告病院のコンピューターネットワークから,自らの氏が付されたサブフォルダ内のデータ全てをサブフォルダごと消去しているところ,これらは自らが退職し,職場に戻らないことを前提とする行為であり,とりわけ,コンピューターネットワークからのデータの消去は,確定的に退職をするのでなければ通常行わない行為というべきである。
 また,上記⑧のとおり,一審原告は,本件面談後,上記の令和元年12月7日以外に,一審被告病院に出勤していない。
 以上のとおり,一審原告が,本件面談の際に,退職する旨を述べるにとどまらず,退職することを前提とした打ち合わせを事務部長及び一審被告事務職員と行ったり,一審原告が退職することをその上司に伝えると事務部長が述べたのに異議を述べなかったり,本件面談の後にも,退職することを前提とする行為を行っていることに照らせば,本件面談の際に一審原告が述べた,「退職さしていただきます。」との発言は,退職を考えているという趣旨の発言にとどまらず,確定的な退職の意思に基づいてされた,本件労働契約の合意解約の申込みの意思表示であると認めるのが相当である。
オ なお,上記⑨のとおり,一審原告は,現在まで,一審被告病院の職員証及びICカード,健康保険被保険者証並びに制服3着を,一審被告に返還していない。
 しかしながら,上記認定事実のとおり,本件面談において,一審原告の退職日は令和2年1月20日と打ち合わせられ,退職後の健康保険の任意継続についても確認していたのであるから,一審原告が上記物品を同日まで所持し続けることは,本件面談時に一審原告が本件労働契約解約の意思表示をしたことと矛盾しない。
 そして,一審原告が,令和元年12月16日,弁護士である一審原告訴訟代理人に相談し,爾後の手続を委任して,一審被告に対する通知などを行っていることに照らせば,一審原告は,同月7日に一審被告病院から私物を持ち帰るなどした時点から,上記一審原告訴訟代理人に相談した時点までのいずれかの時点で,退職の意思を翻意させたと認めることができる。
 したがって,一審原告が,上記物品を現在まで一審被告に返還していないことや,退職願を一審被告に提出していないことは,本件面談の際の一審原告の発言が本件労働契約の合意解約の申込みの意思表示であることを否定する事情とはならない。
カ 以上によれば,一審原告が,本件面談の際に述べた,「退職さしていただきます。」との発言は,本件労働契約の合意解約の申込みの意思表示であると認めることができる。

退職に係る意思表示が、意思能力の欠缺を理由に無効と判断された事例(長崎地裁令和3年3月9日判決)

本件は、退職願の提出により依願免職処分を受けた労働者が、退職願は、統合失調症により意思能力を欠いた状態で提出されたものであるとして、依願免職処分の無効を主張した事案です。ここでは、退職の意思表示の有効性に係る判示を取り上げます。

裁判所は、以下のとおり述べ、退職の意思表示を無効と判断しました。

2 争点(1)(本件処分の有効性)について
(1)原告は,上記第2の4(1)原告の主張欄ア(ア)のとおり主張するところ,意思能力の有無は,対象となる法律行為の難易等によって変わり得る。本件で問題となる退職の意思表示は,公務員としての身分を失うという重大な結果をもたらすという点で公務員である個人にとって極めて重要な判断であるから,それを行うのに必要な判断能力も相応に高度のものであると考えられる。
 そこで,上記1の認定事実を前提に,原告の当時の判断能力の程度を検討する。

(2)ア 原告は,平成4年10月17日にCクリニックにおける受診を開始しているが,受診後間もない頃の診療録には既に統合失調症を前提とした記載がある(上記1(2)イ)。その後,平成27年12月26日まで,統合失調症の治療のため,Cクリニックのほか,E病院に通院していること(上記1(3)ア,エ),J医師は,平成29年11月28日,原告につき統合失調症と診断し,その発生年月日を平成4年としていること(上記1(7)ウ)からすれば,原告は,遅くとも平成4年10月には統合失調症を発症していたものと認めることができる。
イ 次に,本件退職願提出時頃の原告の症状について検討すると,原告は,平成25年4月にL事務局に異動して以降,職場において問題を起こすことなく仕事を行う一方(上記1(4)ア),平成26年頃から,家族との会話や入浴・睡眠をせず,自室に大量の食品や衣類等を持ち込むなど,自宅における異常な行動が増えていた(上記1(4)ウ)。また,平成27年12月の職場離脱行動(上記1(4)エ)を境に,職場においても,独り言などの奇異な行動をとるようになり(上記1(4)カ,ク),本件退職願を提出する前日(平成28年3月23日)には,異動の内示につき大声で不満を述べるなどしていた(上記1(4)ケ)。
 このように,原告は,平成27年12月には,自宅だけではなく,職場においても奇異な行動をしていたのであるが,これは,服薬を中断すると統合失調症の症状が悪化するにもかかわらず(上記1(4)ウ,甲A42),原告がこれをしなかったために生じたものといえる(上記1(4)ウ)。
 そうすると,平成27年12月以降,原告の統合失調症は悪化し続けていたものといえるのであり,本件退職願を提出した平成28年3月24日時点では,原告の統合失調症は相当程度悪化していたといえる。
ウ 原告は,本件退職願提出直後である同月30日時点において,B係長が原告母に引取りを依頼するほどの異常な言動がされ(上記1(6)イ。30日異常行動),さらに,同日からE病院の隔離病棟に医療保護入院し,入院後も,妄想や支離滅裂な言動をし(上記1(7)ア),J医師から,入院当初について,成年被後見人相当であったと診断される状態であった(上記1(7)エ)。
エ 以上のとおり,原告は,遅くとも平成4年10月には統合失調症を発症し(上記ア),平成27年12月以降,悪化し続け,平成28年3月24日時点で相当程度悪化しており(上記イ),その直後に30日異常行動に及んで同日のうちに医療保護入院に至っているうえ,原告の入院当初の心身の状態は,精神科の医師によって成年被後見人相当と診断されるほどであった(上記ウ)。これらからすれば,本件退職願を提出した平成28年3月24日時点において,原告の判断能力は,統合失調症のため,自身の置かれた状況を正確に把握したり,自身の言動がどのような影響をもたらすか,特にどのような法的効果をもたらすかについて判断したりすることができない程度であったと認めるのが相当である。
 なお,原告の30日異常行動や医療保護入院は,本件退職願の意思表示がなされた後の事情ではあるものの,30日異常行動及び入院時において原告に異動への不満による興奮が認められているところ(上記1(6)イ,(7)ア),異動の内示は,本件退職願の前日になされているのであるから,同意思表示がなされるよりも前の事実(異動の内示)と,同意思表示がなされた後の事実(30日異常行動及び医療保護入院)との間に関連性があるというべきであるし,30日異常行動と医療保護入院は,本件退職願が提出されてからわずか1週間足らず後のことであり,時間的近接性もあることからすれば,本件退職願を提出した当時の判断能力を検討するに当たって,その後の30日異常行動や医療保護入院の事実を考慮することも許されると考えられる。
(3)上記判示を前提に,本件退職願による意思表示の有効性を検討すると,上記(2)エのとおり,平成28年3月24日時点において,原告は自身の言動がどのような法的効果をもたらかすのかについて判断することができない状態にあったといわざるを得ない。そうすると,少なくとも,公務員としての身分を失うという重大な結果をもたらす退職の意思表示をするに足りる能力を有していなかったというべきである。
 よって,本件退職願による意思表示は,原告のその余の主張を判断するまでもなく,意思能力を欠く状態でされたものであり,無効である。
(4)上記認定判示に対し,被告は上記第2の4(1)被告の主張欄ア(ア)のとおり主張し,B係長はこれに沿う供述をする(甲31[13頁])。
 しかし,B係長が原告の意思能力に問題がないと判断した根拠は,原告が,本件退職願の記載の不備を指摘された際にそれを理解して訂正することができていたことや,退職の意思を確認された際にも訳が分からずにやっているという風な様子ではなく,受け答えがしっかりしていたことにあるというものにすぎず,単純な質問に応答するに足る能力があったことを示すものにとどまるのであって,これを超えて,退職という重要な意思表示を行うのに要する判断能力がなかったとの判断を覆すに足りない。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。
(5)以上によれば,本件退職願による意思表示は,原告の意思能力を欠いた状態でされたものであるから無効であり,無効な本件退職願を前提としてされた本件処分は,その基礎を欠く違法なものであって,取り消されなければならない。

退職日までの就労を拒否されたことについて,使用者の帰責性がないと判断された事例(東京地裁令和元年7月3日判決)

本件は,被告会社においてタクシー運転手として勤務していた原告が,複数回の交通違反によりタクシー運転手としての就労を拒否されたうえ解雇されたとして,雇用契約上の地位確認(解雇無効)及び就労拒否後の賃金を請求した事案です。

裁判所は,原告が平成29年5月18日に退職届を提出して自主退職をしたことを理由に,解雇の有効性については判断を示さず地位確認請求を棄却しました。

また,退職日までの賃金請求については,タクシー運転手としての労務が会社側の拒否により履行不能になっていたことは認めながらも,以下のとおり述べ,会社側の責任を否定し,賃金請求を認めませんでした。

「ア 前記認定のとおり,原告は,被告での勤務を開始して以降約3年半の間に,少なくとも人身事故2件を含む交通事故を5件発生させたほか,6件の交通違反で検挙され,免許停止処分を2度にわたって受けるなど,交通事故及び交通違反を繰り返していたといえる。前記認定のとおり,交通事故の過失態様は,交差点において後方を十分に確認することなく後進し後方の車両に衝突する(平成27年1月29日),見通しの良い直線の首都高速道路で気の緩みからハンドル操作を誤り中央分離帯に接触する(平成28年1月27日),停車中に車中で物を拾おうとした際に足がアクセルに触れ前方に停車していた車両に追突する(同月28日)といった重大なものであり,人身事故における傷害結果も全治4か月の傷害や,全治10日間の頸椎捻挫と軽くはない。前記認定のとおり,Z1所長は,交通事故のたびに原告に反省を促すとともに,事故報告書を提出させ,事故を起こした原因をよく振り返るように指示していたが,そのような中で,原告は平成28年1月27日に上記物損事故を起こし,同事故について厳しく指導を受けたにもかかわらず,その翌日である同月28日にも再び上記人身事故を起こし,しかも同事故について被害者の怪我の程度は大したことないといった発言をするなど,事故の重大性を理解しない態度を示していた。上記事故を受けて本件免許停止処分が出されるに至り,Z1所長は,原告をタクシー運転手として勤務させることは危険であると判断し,就労拒否の判断を下したものである。その後,本件免許停止処分の期間は満了したが,前記認定のとおり,原告は度々被告会社を訪れるものの,その目的はタクシー運転手としての勤務再開に向けられたものではなく,事故防止に向けた具体的取組を被告に説明したり,タクシー運転手として勤務を希望する旨を申し出たりすることはなかった。

 以上の経緯を総合すると,度重なる指導にもかかわらず重大な事故を繰り返し発生させ反省する様子を見せない原告を,このままタクシー運転手として勤務させ続けることは危険であるとしてその就労を拒否し,事務職への転換を提案したZ1所長の判断は,安全性を最も重視すべきタクシー会社として合理的理由に基づく相当なものであったというべきであり,本件免許停止処分の期間が満了した後も,原告が事故防止に向けた具体的取組を被告に説明することはおろか,タクシー運転手として勤務を希望する旨を申し出ることすら一度もなかったことをも踏まえると,被告が本件免許停止処分以降,約1年間にわたって原告の就労を拒否し続け,原告が労務を提供することができなかったことについて,被告の責めに帰すべき事由があると認めることはできない。」

希望退職に伴う優遇措置制度の実施前に退職届を提出した労働者が当該制度の適用から除外されたことについて,違法性が否定された事例(東京地裁令和元年9月5日判決)

本件は,医薬品製造会社の授業員であった原告が被告に退職届を提出するに際し,被告が,原告が希望退職制度の優遇措置の対象外になることを知りながら退職届を受領し,原告からの退職届の撤回請求に応じなかったことが不法行為に当たるとして,原告が被告に対し損賠賠償請求を行った事案です。

裁判所は,以下のとおり述べ,原告の請求を認めませんでした。

「(1)原告は,被告は,本件退職届を受理することにより,原告が本件制度の優遇措置の適用を除外されることを知りながらこれを受理し,また,原告が本件退職届の取下げを申し出たにもかかわらずこれに応じなかったものであり,そのため,原告は本件制度に基づく割増退職金を受ける機会を失ったのであるから,これらは不法行為に当たる旨主張する。

(2)しかしながら,前記認定のとおり,被告が本件退職届を受理した平成30年10月15日には,被告において本件制度の実施が決定されていなかったのであるから,被告が,本件制度の除外要件が適用されることを知りながら本件退職届を受理したとは認められない。

 なお,仮に上記時点において本件制度の内容が概ね決定されており,これが実施されれば原告に優遇措置の除外要件が適用される可能性が相当程度あったとしても,被告は,本件制度の内容について,公表までの間は秘密を保持することとしていたものであり,かかる取扱いは希望退職制度である本件制度の目的,内容に照らして合理的なものというべきであるから,本件退職届を受理するに当たり,原告に対して本件制度の内容を告知すべき義務があるということはできない。

 したがって,被告が,原告が本件制度の適用を除外されることを知りながら本件退職届を受理したとの不法行為は認められない。

(3)原告は,被告が本件退職届の取下げの申出に応じなかったことが不法行為に当たる旨主張する。

 しかしながら,前記認定のとおり,被告は本件退職届の決済を行い,原告に対してその旨を伝えているのであるから,本件制度の公表時点において,労働契約を解約する合意が成立していたものと認められる。そして,本件制度の公表後に退職届の取下げを認めるとすれば,本件制度の公平,適正な運用が妨げられることは明らかというべきであり,被告が本件退職届の取下げの申出に応じるべき義務は認められない。

 したがって,被告が本件退職届の取下げに応じなかったことが不法行為に当たるということはできない。

(4)原告は,被告の就業規定において退職届の提出期限が決められていたことや,業務の引継ぎを考慮し,退職予定日の55日前に退職届を提出したのであるが,早期に退職届を提出した者ほど本件制度の適用が除外されることになるのは不合理であると主張する。

 しかしながら,本件制度においては,募集退職日の前日以前の退職日で既に退職届を提出し,被告がこれを承認している場合には,優遇措置の適用を除外する旨が定められているところ,原告は,募集退職日(平成31年3月31日)の前日以前である平成30年11月30日を退職日として本件退職届を提出し,被告はこれを受理しているのであるから,本件制度において,g根国は優遇措置の適用を除外される者に該当し,原告に対して優遇措置を適用しないことは,本件制度の運用に当たり何ら不合理なものではない。

 また,本件制度の適用除外に関する上記規定は,同制度を公平,適正に運用するために合理性が認められるものであり,他方,原告が被る不利益は,優遇措置を受けられないというにとどまるもので,退職の自由が制限されるものではないところ,本件退職届が提出される経緯についても,原告は自らの都合で退職を決定したもので,被告から早期の退職を求めたというような事情は窺われないことからすれば,原告の主張する事情を考慮しても,原告に対して優遇措置を適用しないことが不合理となるものではない。」

マンションの住み込み管理人が管理人室から自発的に退去したことは、自主退職と評価できないとした事例(東京地裁平成26年12月24日判決)

本件は、マンションの住み込み管理人として働いていた労働者A及びBが、使用者(マンション管理会社)から「マンション管理組合の要望(管理人の昼休みも管理人室のカーテンを開けていて欲しい等)に従って欲しい」と言われてこれを断ったところ、使用者側から退職を求められたというものです。その際、A及びBは、自身が解雇されたものと思い管理人室を立ち退いたところ、使用者側は「当該立ち退きが自主退職の意思表示に当たる」と主張したもので、裁判ではかかる使用者側の主張の当否が主な争点になりました。

この点、裁判所は、本件において使用者から労働者への解雇の意思表示はなされていないという事実認定を前提としたうえで、自主退職について、一般論として「労働者にとって労働契約は、生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば、かかる労働契約を労働者から解消して自主退職するというのは、労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって、かかる労働契約の重要性に照らせば、単に口頭で自主退職の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに自主退職の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による自主退職の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が自主退職を前提とするかのような行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるをえない特段の事情があれば、自主退職の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である」との判断基準を示しました。

そして、本件においては、管理人室からの立退きは自主退職を前提とするかのような行動であるとしつつも、A及びBが既に解雇されたと思い、管理人室に居座ると家賃を支払わなければならないと認識していた(そして、使用者側から退職届を書くよう求められていたことに鑑みれば、A及びBがかかる認識に至ったのも無理からぬところがある)ことを指摘し、管理人室からの立退きは自主退職の意思表示とは評価できない、と結論づけました。

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