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労働契約の内容に関する裁判例

労働契約の内容に関する裁判例

労働契約の内容に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

出勤日数シフトの大幅な削減が、権利濫用として違法と評価された事例(東京地裁令和2年11月25日判決)

本件は、労働契約において就労日数や時間について明確な合意がなく、毎月のシフトにおいて勤務日等が決まっていた事案において、会社側がシフトを大きく削減したことの適法性などが争われた事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、本件では、こうしたシフトの削減に合理的理由がなく、権限の濫用により違法であると判断しました。

8 争点(9)(シフトの不当な削減による賃金請求権の有無〔予備的請求〕)について
(1)前記2のとおり,本件労働契約において勤務時間につき週3日,1日8時間,週24時間とする合意があったとは認められず,毎月のシフトによって勤務日や勤務時間が決定していたことからすれば,適法にシフトが決定されている以上,被告は,原告に対し,シフトによって決定された勤務時間以外について,原告の責めに帰すべき事由によって就労できなかったとして賃金を請求することはできない。しかしながら,シフト制で勤務する労働者にとって,シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり,労働者の不利益が著しいことからすれば,合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には,シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され,不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について,民法536条2項に基づき,賃金を請求し得ると解される。
 そこで検討すると,被告の平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間),同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間),7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが,同年8月のシフトは,同年7月20日時点では合計17日であったところ,同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上,同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ,同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった(前記1(3))。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており,勤務時間も一定の時間が確保されているが,少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については,同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り,シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。
 この点,原告は,被告が団体交渉の当初から,児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから,被告のシフトを組むことができなくなったものであり,被告が就労できなかったことは原告の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
 しかしながら,第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ,被告が児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で,一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年3月19日であり(前記1(4)イ),平成29年9月29日時点で被告が一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
 そして,原告はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば,勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について,同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず,このようなシフトの決定は,使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。

期間の定めのない労働契約に転換した労働者について、正社員の就業規則を適用することが認められなかった事例(大阪地裁令和2年11月25日判決)

本件は、労働契約法18条1項に基づき無期雇用に転換された労働者の労働条件(正社員就業規則の適用有無)等が争点となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、本件においては、正社員就業規則の適用を認めませんでした。

争点2(無期転換後の労働条件に関し、正社員就業規則による旨の合意の有無)について

ア 原告らは,遅くとも平成30年10月26日の団体交渉時までに,無期転換後の無期パート雇用契約書及び契約社員就業規則のうち無期契約社員規定が無効となる場合には無期転換後の原告らに正社員就業規則が適用されることについて,被告との間で黙示の合意があった旨主張する。
 しかし,前記認定事実((1)ク)のとおり,被告は,一貫して,無期転換後の無期契約社員が正社員になるとは考えておらず,正社員就業規則が適用されるものではない旨回答しているのであって,無期パート雇用契約書及び契約社員就業規則の無期契約社員規定が無効となる場合には正社員就業規則が適用されるといった原告らの考えを被告が了解したと認めるに足る事情は何ら存在しない。
イ かえって,原告らは,被告の回答が上記のとおりであることを認識した上で,無期転換後の労働条件は契約社員就業規則による旨が明記された無期パート雇用契約書(乙1)に署名押印して被告に提出しており,原告らと被告との間には,無期転換後も契約社員就業規則が適用されることについて明示の合意があるというべきである。
 この点,原告らは,上記雇用契約書のうち契約社員就業規則が適用されるという部分について,原告らには形式的なものと誤信した錯誤があるから無効であり,また本件組合との合意(甲7)に反するから労組法16条により無効であると主張する。
 しかし,原告らは,団体交渉を通じて,被告が無期転換後の原告らに契約社員就業規則が適用されると考えていることを十分認識していたと解されるのみならず,上記雇用契約書が,無期転換後の労働条件について被告の上記考えを反映したものであることは文言上明らかであって,これを形式的なものと誤信して署名押印したとの原告らの主張は採用し難い(なお,原告らの主張を心裡留保による無効をいう趣旨と解しても,原告らの主張を採用し難いことに変わりはない。)。
 また,前記認定事実によれば,被告と本件組合との合意(甲7)は,原告らの労働条件やその待遇に関する基準を定めたものではないことは明らかであるから,上記雇用契約書について労組法16条違反をいう原告らの主張も採用の限りでない。
ウ 以上によれば,無期転換後の労働条件に関し,正社員就業規則による旨の合意があったとする原告らの主張は採用できない。」


争点3(無期転換後の労働条件に関し,正社員就業規則が労契法18条1項第2文の「別段の定め」に当たるか)について
「(1) 原告は,無期転換後の無期パート雇用契約書に基づく意思表示及び無期契約社員規定を追加した契約社員就業規則は無効であるから,残る正社員就業規則が労契法18条1項第2文の「別段の定め」に当たる旨主張する。
ア しかし,上記雇用契約書に基づく意思表示が無効でないことは,争点2で認定・説示したとおりである。
イ 次に,契約社員就業規則について,原告らは,これを無期転換後の原告らに適用することは合意原則(労契法1条,3条1項,6条)に違反する旨主張する。
 しかし,無期転換後に契約社員就業規則が適用されることについて合意があったと認められることは,争点2で認定・説示したとおりであり,原告らの上記主張は採用できない。
ウ また,原告らは,無期転換後の原告らに契約社員就業規則を適用することは,正社員より明らかに不利な労働条件を設定するものとして,均衡考慮の原則(労契法3条2項)及び信義則(同条4項)に違反し,合理性の要件(同法7条)を欠く旨主張する。
 しかし,証拠(甲2~4)及び当裁判所に顕著な前訴最判によれば,被告において,有期の契約社員と正社員とで職務の内容に違いはないものの,職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては,正社員は,出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか,等級役職制度が設けられており,職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて,将来,被告の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し,有期の契約社員は,就業場所の変更や出向は予定されておらず,将来,そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがあることが認められる。
 そして,証拠(甲4,乙1)によれば,無期転換の前と後で原告らの勤務場所や賃金の定めについて変わるところはないことが認められ,他方で本件全証拠によっても,被告が無期転換後の原告らに正社員と同様の就業場所の変更や出向及び人材登用を予定していると認めるに足りない。
 したがって,無期転換後の原告らと正社員との間にも,職務の内容及び配置の変更の範囲に関し,有期の契約社員と正社員との間と同様の違いがあるということができる。
 そして,無期転換後の原告らと正社員との労働条件の相違も,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り,労契法7条の合理性の要件を満たしているということができる。
 この点,原告らは,無期転換後の原告らと正社員との間に職務内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に関して違いがないことを前提に,無期転換後の原告らに契約社員就業規則を適用することの違法をいうが,前提を異にするものとして採用できない。
 なお,無期転換後の原告らと正社員との労働条件の相違が両者の就業実態と均衡を欠き労契法3条2項,4項,7条に違反すると解された場合であっても,契約社員就業規則の上記各条項に違反する部分が原告らに適用されないというにすぎず,原告らに正社員就業規則が適用されることになると解することはできない。すなわち,上記部分の契約解釈として正社員就業規則が参照されることがありうるとしても,上記各条項の文言及び被告において正社員就業規則と契約社員就業規則が別個独立のものとして作成されていることを踏まえると,上記各条項の効力として,原告らに正社員就業規則が適用されることになると解することはできない。
エ さらに,原告らは,無期契約社員規定の追加により無期転換後の原告らに契約社員就業規則を適用することは,無期転換後は正社員としての地位を得るとの原告らの合理的期待を侵害し,労働条件の実質的な不利益変更に当たるから,労契法10条の類推適用(なお,無期契約社員規定は,原告らの無期転換前から実施されている。)により無効である旨主張する。
 しかしながら,そもそも労契法18条は,期間の定めのある労働契約を締結している労働者の雇用の安定化を図るべく,無期転換により契約期間の定めをなくすことができる旨を定めたものであって,無期転換後の契約内容を正社員と同一にすることを当然に想定したものではない。
 そして,無期契約社員規定は,労契法18条1項第2文と同旨のことを定めたにすぎず,無期転換後の原告らに転換前と同じく契約社員就業規則が適用されることによって,無期転換の前後を通じて期間の定めを除き原告らの労働条件に変わりはないから,無期契約社員規定の追加は何ら不利益変更に当たらない。
 なお,原告らは,原告甲については採用の際に半年か1年後に正社員にするとの約束を被告から取り付けており,無期契約社員規定の追加はかかる合理的期待を侵害するとも主張する。
 確かに,原告甲の採用時に正社員として採用されることを望む同人に対して,被告彦根支店長が社員ドライバーにすることは約束するが,直ぐにというわけにはいかず,約半年から1年間程度は待って欲しい旨の発言をしたことは前記2(1)イで認定したとおりである。
 しかし,証拠(甲4①)及び弁論の全趣旨によれば,その後に取り交わされた雇用契約書には,半年ないし1年後に正社員として登用する旨の記載はなく,約10年間にわたり,有期の契約社員として契約の更新が繰り返されてきたことが認められる。
 そうすると,採用時の上記やりとりは,契約社員就業規則に,有期の契約社員のうち,特に勤務成績が良好な者は選考の上,正社員に登用することがあると規定されていることを踏まえて,原告甲についても,将来正社員として登用される可能性があることを説明したにすぎないと解するのが相当であり,採用時の上記やりとりをもって原告甲に正社員となることについての合理的期待があったとまではいえない。
 よって,無期契約社員規定の追加が労働条件の実質的な不利益変更に当たるとの原告らの主張は採用できない。
(2) 以上のとおり,正社員就業規則が労契法18条1項第2文の「別段の定め」に当たるとの原告らの主張は,いずれも理由がない。

基本給の定期昇給の慣行が,法的拘束力を有するものと判断された事例(東京地裁令和元年12月12日判決)

本件は,学校法人の運営する高校で勤務していた労働者らが,雇用契約上の地位確認や未払賃金請求を行った事案です。ここでは,長期間にわたり実施されていた定期昇給の慣行が,法的拘束力を有すると判断された部分を取り上げます。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,労使慣行の成立を認めました。

原告は,常勤講師について基本給が定期昇給する労使慣行が存在する旨主張するので,以下,同慣行の成否について検討する。
(1)前記認定事実のとおり,A高校においては,昭和54年度から平成10年度までの間,参与に就任した者,退職後に再雇用された者,55歳又は58歳に達した者及び病気や産休等により長期間欠勤し又は休職した者を除き,常勤講師を含む全教員が毎年度少なくとも1号俸ずつ昇給していた。また,被告が作成した昭和61年4月11日付け「定期昇給の運用基準(内規)」には,就業規則に定める「職員が1年間良好な成績で勤務したとき」とは,昇給日現在において引き続く30日を超える欠勤中の状態でないこと,昇給日前1年間に減給以上の制裁を受けた者でないこと,昇給日前1年間の欠勤について勤勉度失点を計算した結果,失点の合計が60を超えないこと及び学長等により昇給不適の判定を受けた者でないことの各要件を全て満足する場合を指すものとして運用すると記載されていたところ,平成10年度までの間に同運用基準が変更又は廃止されたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,I理事長は,平成10年度のA高校の新入生は定員が500名であるのに対し応募が400名に達せず,A高校の人件費依存率は過去3年間が71パーセントから87.6パーセントの間であったのに対し,平成10年度は100パーセントを超える見込みであり,その原因は本件労働組合の組合員らによる募集妨害活動にあるとの認識を有しており,平成9年12月10日の団体交渉において,そのことを説明した上で,平成10年度はペースアップは行わないが定期昇給を認める旨述べ,本件労働組合の組合員を定期昇給の対象から除外しなかった。
 上記の諸事情を総合すれば,A高校においては,遅くとも平成10年度までに,勤務形態の変更,就業規則所定の昇給停止年齢への到達,病気等による長期欠勤その他の特別の事情がない限り,常勤講師を含む全教員を,翌年度も契約が更新され又は継続する限り,毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給させることが事実として慣行となっていたことが認められ,被告の代表者理事長を含む労使双方が,同慣行を規範として意識し,これに従ってきたとみることができる。そうすると,同慣行は,遅くとも同年度の時点で,法的拘束力を有する労使慣行となっていたものというべきである。
 したがって,A高校においては,平成10年度の時点で,常勤講師について毎年度1号俸ずつ定期昇給するとの慣行が法的拘束力を有するものとして存在し,その後にその拘束力が失われたことをうかがわせるに足りる証拠もないから,同慣行は平成29年度まで引き続き法的拘束力を有するものとして存在していたというべきである。

労働契約を締結するに当たり,勤務地の限定がなされていないことに関する説明義務違反が肯定された事例(東京地裁平成31年3月8日判決)

本件は,美容皮膚科を営む被告と看護師業務について労働契約をした労働者について,「当該労働契約上,勤務地が恵比寿に限定されていたか否か」等が問題となった事案です(その他の争点は割愛)。

裁判所は,勤務地を恵比寿に限定する合意は認められないと判断しましたが,以下のとおり延べ,説明義務違反に基づく損害賠償請求を認めました。

「本件雇用契約において,原告の勤務地が恵比寿本院に限定されていたとは認められない。しかし,原告は,本件雇用契約を締結するにあたり,被告に対し,子供を保育園に迎えに行く時間との関係で,転居先に近い恵比寿本院における時短勤務を希望する旨を繰り返し伝えている(略)。被告は,原告との面談を通じて,原告が時短勤務を希望する理由を十分に認識していたのであり(略),原告が恵比寿本院以外に勤務することになる場合,保育園との関係で,原告の勤務に支障が生じることは当然に予測できたはずである。このことに加え,被告は,本件雇用契約の締結にあたり,原告に対し,自らの負担で本件研修を修了することを求めている(略)。本件研修費は64万8000円であるところ(略),原告の勤務条件は,時給1800円,就業時間は1日5時間,週2回勤務,月間勤務日数は累計10日迄であるから(略),原告の月収は最大9万円(1800円×5時間×10日)であり,本件研修費は,原告の7か月分以上の賃金に相当するものである。このような場合,原告にとって,長期間にわたる本件雇用契約の継続が重要な関心事であり,そのことは被告も十分に認識できたといえる。このような事情の下においては,被告は,本件雇用契約の締結に先立ち,原告に対し,原告の勤務継続にとって支障となり得る事情について,十分に説明しておくべき信義則上の義務を負うと解するのが相当である。

 (略)被告は,本件雇用契約の締結に先立ち,勤務地についての説明を求める原告に対し,シロノクニリックの他の院で人手が足りない時に,恵比寿本院から応援にいってもらうことがあるかもしれないといった説明は行っているが,恵比寿本院の状況によっては,他の院への配置転換の可能性があることや,長期間にわたり他の院に勤務しなければならない可能性があることについての説明は行っていない。また,雇用契約確認書には,配置転換や出向の可能性があることの記載はあるが,一方で,原告の所属や勤務地について恵比寿本院と明示されていることもあり,雇用契約確認書の記載から,一時的ではなく長期間にわたり,恵比寿本院以外にも勤務しなければならない可能性のあることが,必ずしも明確になっているとはいえない。そうすると,被告が,本件雇用契約の締結に先立ち,原告に対し,長期間にわたり,恵比寿本院以外に勤務しなければならない可能性があることについて,十分な説明を尽くしたと認めることはできない。したがって,被告は,原告に対する信義則上の説明義務に違反したといえる。」

※説明義務違反に基づく損害としては,本件雇用契約の締結に伴って受講した研修費等合計65万2567円を認めました。この点,被告会社は,当該研修(アートメイクの業務に関するもの)が汎用性のあるものであると反論しましたが,裁判所は,「原告は,現勤務先でアートメイクの業務には従事しておらず(略),将来アートメイクの業務に携わることが確実であるといった事情も認められない以上,仮に本件研修に汎用性があったとしても,原告に損害が発生していないと解することはできず,この点に関する被告の主張は採用できない」としました。

リハビリ出勤期間(無給の合意あり)中の勤務について,最低賃金法で規定された最低賃金額での給与支払義務が肯定された事例(名古屋高裁平成30年6月26日判決)

本件は,うつ病で休職していた労働者が,本格的復職に先立ちリハビリ出勤(テスト出局。無給の合意あり)していた労働者が,休職期間満了までに復職できず解雇されたことについて,地位確認及び未払い賃金の支払等を求めたものです。ここでは,リハビリ出勤期間中に,会社側に賃金支払義務があるか否か,という点を取り上げます。

裁判所は,無給の合意がなされたテスト出局(リハビリ出勤)について,以下のとおり判示しました。

「テスト出局の趣旨,目的に照らせば,休職者の提供する作業の内容は,当該休職者の労働契約上の本来の債務の本旨に従った履行の提供であることを要するものではなく,また,休職者の提供する作業の内容がその程度のものにとどまる限り,被控訴人(※会社)も休職者に対して労働契約上の本来の賃金を支払う義務を負うこととなるものではないと解される。

 しかしながら,テスト出局が単に休職者のリハビリのみを目的として行われるものではなく,職場復帰の可否の判断を目的として行われる試し出勤(勤務)の性質を有するものであることなどにも鑑みると,休職者は事実上,テスト出局において業務を命じられた場合にそれを拒否することは困難な状況にあるといえるから,単に本来の業務に比べ軽易な作業であるからといって賃金請求権が発生しないとまではいえず,当該作業が使用者の指示に従って行われ,その作業の成果を使用者が享受しているような場合等には,当該作業は,業務遂行上,使用者の指揮監督下に行われた労働基準法11条の規定する「労働」に該当するものと解され,無給の合意があっても,最低賃金の適用により,テスト出局については最低賃金と同様の定めがされたものとされて,これが契約内容となり(4条2項)。賃金請求権が発生するものと解される」

そして,本件では,労働者が上記の意味で「労働」に従事していたことを認め,当該労働に対しては最低賃金法ベースで計算した賃金の支払義務を認めました。

労働契約書等,書面の作成されていない労働契約において,当該労働契約の内容を認定した事例(東京地裁平成30年3月9日判決)

本件は,飲食店に雇用された労働者が,未払割増賃金の支払いを求めた事案です。本件では,残業代を計算する際の基礎賃金の算定に際して,給与等を明示した労働契約書が作成されていない点が問題となりました(その他の点は割愛)。

裁判所は,原告被告の労働契約の内容を認定するに際し,以下のとおり判示しました。

「原告らと被告との間で労働契約が成立したことに争いはないが,賃金の金額や計算方法を明示する労働契約書や労働条件通知書は作成されていない。このようなときは,求人広告その他の労働契約の成立に関して労働者と使用者との間で共通の認識の基礎となった書面の内容,労働者が採用される経緯,労働者と使用者との間の会話内容,予定されていた勤務内容,職種,勤務及び賃金支払の実績,労働者の属性,社会一般の健全な労使慣行等を考慮して,補充的な意思解釈で明示又は黙示の合意を認定して賃金その他の契約内容を確定すべきである。

 なお,求人広告その他の労働者募集のための労働条件提示は,使用者からの労働契約締結のための申込みの誘引で,それ自体は契約を成立させる意思表示ではないが,労働条件を的確な表示で明示すべきもので(職業安定法5条の3,42条,65条8号参照),労働者が応募して労働契約を申し込むときは上記労働条件提示の内容を当然に前提としているから,上記労働条件提示で契約の内容を決定できるだけの事項(一定の範囲で使用者に具体的な決定権を留保するものを含む。)が表示されている限り,使用者が上記労働条件提示の内容とは労働条件が異なることを表示せずに労働者を採用したときは,労働者からの上記労働条件提示の内容を含む申込みを承諾したことにほかならず,両者の申込みと承諾に合致が認められるから上記労働条件提示の内容で労働契約が成立したというべきである(略)。この場合,使用者の内心において,上記労働条件提示の内容で労働契約を締結する意思がなくても,労働者がそのことを知り,又は知ることができた場合でない限り,労働契約は無効にはならない(民法93条)」

そして,本件では,雇用条件の概要が記載された求人広告等を踏まえ,原告らの基本給を認定し,未払い割増賃金の支払いを認めました。

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