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正社員との雇用条件の差異に関する裁判例

正社員との雇用条件の差異に関する裁判例

正社員とそれ以外の社員との雇用条件の相違に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

契約社員へ寒冷地手当を支給しなかったことが、不合理と判断されなかった事例(東京地裁令和5年7月20日判決)

本件では、正社員には支給されている寒冷地手当が、時給制で働く契約社員に支給されていないという相違の合理性が争点となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、当該相違は不合理ではない旨判断しました。

2 争点(1)-時給制契約社員に対し寒冷地手当を支給しないことが不合理な労働条件の相違に当たるか。
(1)労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)と同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)との労働条件に相違がある場合に、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものである。
 そして、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。また、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される(最高裁判所平成30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁参照)。
(2)正社員の基本給は、①担当する職務の内容による分類(職群、又はコース・役割グループ)、②職務の複雑困難性及び責任の度合による区分、又は社員に期待される役割による区分(職務の級、又は役割等級)並びに③前年度の勤務成績が良好であることを必要条件として上位に変更され得る賃金階層(号俸)によって定められており、勤務地域による差異は設けられていない(1(2)ア(ア)(イ))。
 そして、寒冷地手当は、正社員が毎年11月から翌年3月までの各月1日という冬期の基準日に所定の寒冷地域に在勤することを条件として支給され、その額は、地域の寒冷及び積雪の度による区分並びに世帯主か否か及び扶養家族の有無による区分に応じて定められている(第2の1(2)イ)。
 そうすると、寒冷地手当は、正社員の基本給が上記①から③までの要素によってのみ決定され、勤務地域による差異が設けられていないところ、寒冷地域に在勤する正社員は、他の地域に在勤する正社員と比較して、寒冷地域であることに起因して暖房用燃料費等に係る生計費が増加することから、寒冷地域に在勤する正社員に対し、寒冷地域であることに起因して増加する暖房用燃料費等に係る生計費をその増加が見込まれる程度に応じて補助することによって、勤務地域を異にすることによって増加する生計費の負担を緩和し、正社員間の公平を図る趣旨で支給されているものと解される。
 これに対し、時給制契約社員の基本賃金は、所属長によって地域ごとに定められるものであり、その一部を構成する基本給は、その勤務地域における地域別最低賃金に相当する額に所定の加算をしたものを下限額とし、募集環境を考慮して、既達予算の範囲内で定めることができるものであり(1(2)イ)、勤務地域ごとに異なる水準で決定されている。そして、基本給の下限額の基礎となる地域別最低賃金は、「地域における労働者の生計費」が考慮要素の一つとされ(最低賃金法9条2項)、これを決定する過程において、各都道府県の人事委員会が定める標準生計費が参照されている(甲共27p30、弁論の全趣旨(被告第1準備書面p43、原告準備書面5p12))。このように、時給制契約社員の基本賃金は、勤務地域ごとに必要とされる生計費も考慮された上で、勤務地域ごとに定められているのであるから、勤務地域を異にする者の間に、基本賃金に勤務地域による差異がないことに起因する不公平が生じているとはいえず、寒冷地手当の支給により公平を図る趣旨が妥当するとはいえない。
 そうすると、正社員、とりわけ郵便の業務を担当する新一般職と郵便の業務を担当する時給制契約社員との間には職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲につき相応の共通点があること(1(3)アイ、1(4)アイ)を考慮しても、正社員に対して寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価できるものではない。

定年後再雇用された労働者と正社員との労働条件の相違について、労働契約法20条に違反するとした原審の判断が破棄差し戻しとなった事例(最高裁令和5年7月20日判決)

本件は、定年後に嘱託社員として1年間の有期雇用として再雇用された労働者について、正社員との基本給、賞与等の相違が労働契約法20条に違反するか否かが争点となった事案です。高裁は労働契約法20条違反を認めましたが、最高裁は以下のとおり延べ、破棄差し戻しの判決を下しました。

「2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(1)ア 上告人の就業規則等によれば、上告人と無期労働契約を締結して自動車教習所の教習指導員の業務に従事していた者(以下「正職員」という。)の賃金は、月給制であり、基本給、役付手当等で構成されていた。このうち、基本給は一律給と功績給から成り、役付手当は主任以上の役職に就いている場合に支給するものとされていた。また、正職員に対しては、夏季及び年末の年2回、賞与を支給するものとされ、その額は、基本給に所定の掛け率を乗じて得た額に10段階の勤務評定分を加えた額とされていた。
 正職員は、役職に就き、昇進することが想定されており、その定年は60歳であった。
イ 平成25年以降の5年間における基本給の平均額は、管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者については、月額14万円前後で推移していた。上記平均額は、上記の者のうち勤続年数が1年以上5年未満のもの(以下「勤続短期正職員」という。)については月額約11万2000円から約12万5000円までの間で推移していたが、勤続年数に応じて増加する傾向にあり、勤続年数が30年以上のものについては月額約16万7000円から約18万円までの間で推移していた。
 また、平成27年の年末から令和元年の夏季までの間における賞与の平均額は、勤続短期正職員については、1回当たり約17万4000円から約19万6000円までの間で推移していた。
(2)ア 上告人は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項2号所定の継続雇用制度を導入しており、定年退職する正職員のうち希望する者については、期間を1年間とする有期労働契約を締結し、これを更新して、原則として65歳まで再雇用することとしていた。
イ 上告人は、上記アの有期労働契約に基づき勤務する者(以下「嘱託職員」という。)の労働条件について、正職員に適用される就業規則等とは別に、嘱託規程を設けていた。嘱託規程においては、嘱託職員の賃金体系は勤務形態によりその都度決め、賃金額は経歴、年齢その他の実態を考慮して決める旨や、再雇用後は役職に就かない旨等が定められていた。
 また、上記アの有期労働契約においては、勤務成績等を考慮して「臨時に支払う給与」(以下「嘱託職員一時金」という。)を支給することがある旨が定められていた。
(3)ア 被上告人X1は、昭和51年頃以降正職員として勤務し、主任の役職にあった平成25年7月12日、退職金の支給を受けて定年退職した。被上告人X1は、定年退職後再雇用され、同月13日から同30年7月9日までの間、嘱託職員として教習指導員の業務に従事した。
 被上告人X2は、昭和55年以降正職員として勤務し、主任の役職にあった平成26年10月6日、退職金の支給を受けて定年退職した。被上告人X2は、定年退職後再雇用され、同月7日から令和元年9月30日までの間、嘱託職員として教習指導員の業務に従事した。
イ 被上告人X1の基本給は、定年退職時には月額18万1640円であったところ、再雇用後の1年間は月額8万1738円、その後は月額7万4677円であった。被上告人X2の基本給は、定年退職時には月額16万7250円であったところ、再雇用後の1年間は月額8万1700円、その後は月額7万2700円であった。
 被上告人X1は、定年退職前の3年間において、1回当たり平均約23万3000円の賞与の支給を受けていたところ、再雇用後、有期労働契約に基づき、正職員に対する賞与の支給と同時期に嘱託職員一時金の支給を受けており、その額は、平成27年の年末以降、1回当たり8万1427円から10万5877円までであった。被上告人X2は、定年退職前の3年間において、1回当たり平均約22万5000円の賞与の支給を受けていたところ、再雇用後、上記と同様に嘱託職員一時金の支給を受けており、その額は、平成27年の年末以降、1回当たり7万3164円から10万7500円までであった。
 被上告人らは、再雇用後、厚生年金保険法及び雇用保険法に基づき、原判決別紙1及び3の「厚生年金(報酬比例部分)」欄及び「高年齢雇用継続給付金」欄記載のとおり、老齢厚生年金及び高年齢雇用継続基本給付金を受給した。
(4) 被上告人X1は、平成27年2月24日、上告人に対し、自身の嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しを求める書面を送付し、同年7月18日までの間、この点に関し、上告人との間で書面によるやり取りを行った。
 また、被上告人X1は、所属する労働組合の分会長として、平成28年5月9日、上告人に対し、嘱託職員と正職員との賃金の相違について回答を求める書面を送付した。
3 原審は、上記事実関係の下において、要旨次のとおり判断し、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求を一部認容すべきものとした。
 被上告人らについては、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、嘱託職員である被上告人らの基本給及び嘱託職員一時金の額は、定年退職時の正職員としての基本給及び賞与の額を大きく下回り、正職員の基本給に勤続年数に応じて増加する年功的性格があることから金額が抑制される傾向にある勤続短期正職員の基本給及び賞与の額をも下回っている。このような帰結は、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の観点からも看過し難いことなどに鑑みると、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間における労働条件の相違のうち、被上告人らの基本給が被上告人らの定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分、及び被上告人らの嘱託職員一時金が被上告人らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである(最高裁令和元年(受)第1190号、第1191号同2年10月13日第三小法廷判決・民集74巻7号1901頁参照)。
(2)以上を前提に、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について検討する。
ア 前記事実関係によれば、管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
 また、前記事実関係によれば、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。
 しかるに、原審は、正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。
イ また、労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。
 前記事実関係によれば、上告人は、被上告人X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない。
ウ 以上によれば、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。

(3) 次に、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で賞与と嘱託職員一時金の金額が異なるという労働条件の相違について検討する。
 前記事実関係によれば、被上告人らに支給された嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。
 また、上記(2)イのとおり、上告人は、被上告人X1の所属する労働組合等との間で、嘱託職員としての労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが、原審は、その結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯を勘案していない。
 このように、上記相違について、賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。
5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいう限度で理由があり、原判決中、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、被上告人らが主張する基本給及び賞与に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。」

嘱託社員らに家族手当及び住宅手当を支給しないことが労働契約法20条にいう不合理な相違と認められた事例(神戸地裁姫路支部令和3年3月22日判決)

本件は、正社員と、それ以外の嘱託社員(有期契約の社員)等との間で、賞与、家族手当、住宅手当、昼食手当に差があることについて、労働契約法20条等に違反するかが争点となった事案です。

裁判所は、このうち、家族手当及び住宅手当について、要旨、以下のとおり述べ、労働契約法20条違反を認めました。

イ 家族手当,住宅手当
(ア)前記前提事実(2)イ(エ)のとおり,被告は,扶養家族を有する社員,又は住居費の負担のある社員に対して,家族手当又は住宅手当として,扶養家族や同居者等の属性に応じて,一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと,被告が支給する家族手当及び住宅手当は,従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであったといえる。
 そして,扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは,原告ら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。
 また,前記1(9)アのとおり,原告ら嘱託社員と一般職コース社員は,いずれも転居を伴う異動の予定はされておらず,住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。そうすると,家族手当及び住宅手当の趣旨は,原告ら嘱託社員にも同様に妥当するということができ,このことは,その職務の内容等によって左右されることとはいえない。また,確かに,現役社員については,幅広い世代の労働者が存在し,雇用が継続される中で,その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し,再雇用者については,一定の年齢に達して定年退職をした者であるから,その後の長期雇用が想定されているとか,生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし他方で,住居を構えることや,扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上,再雇用者になると,その基本月額は相当な割合で引き下げられる一方で(前記前提事実(3)オ(オ)(ク)(ケ)),被告において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺われない。
 これらの事情に照らすと,再雇用者を含め,原告ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは,不合理であると評価することができる。
 したがって,一般職コース社員に対して家族手当及び住宅手当を支給する一方で,原告ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違については,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると認められる。
 (イ)これに対し,被告は,家族手当及び住宅手当は,重要な職務を遂行し得る有為な人材の確保や長期定着を図る趣旨を有し,この趣旨は一般職コース社員にのみ妥当することから,これらを原告ら嘱託社員に支給しないことは不合理ではない旨を主張する。
 しかし,まず再雇用者を除く原告ら嘱託社員については,その有期労働契約が多数回更新されており,一定の雇用年数に達した場合には無期労働契約への転換が図られているなど(前記前提事実(3)オ(コ)~(ソ),乙7),実際には相応の継続的な雇用が想定されていたといえること,加えて,家族手当及び住宅手当の趣旨は,再雇用者を含め,原告ら嘱託社員について同様に当てはまるにもかかわらず,同原告らに対してその支給が一切されていないこと,有為な人材の確保やその定着を図るという目的は,他の手当の支給等によっても達成し得ると解されることなどに照らすと,被告が主張する事情をもって,上記(ア)の判断を左右するものとはいえない。

有期雇用の社員に対し通勤手当を支給しないことが、労働契約法20条に反せず、不法行為にも当たらないとされた事例(大阪地裁令和3年2月25日判決)

本件は、被告会社と、断続的に有期労働契約を締結していた元労働者が、「無期労働契約を締結している従業員には通勤手当が支給されるが、有期労働契約を締結している社員には通勤手当が支給されない」という相違が、労働契約法20条に違反し、不法行為に当たるとして、通勤手当相当額の損害賠償請求を求めた事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、原告の請求を認めませんでした。

4)争点4(本件相違が不合理と認められるものか否か)及び同5(不法行為の成否)について
ア 労働契約法20条所定の不合理性について
 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が,職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないとし,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解されるところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難いところである。
 したがって,同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。(以上,前掲最高裁平成30年6月1日判決参照)
イ 本件通勤手当の趣旨ないし目的について
 争点2において認定説示したとおり,被告における通勤手当ないし通勤交通費の支給は,①配転命令の対象となる職員については,想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに,社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にする(インセンティブ施策すなわち経営判断)という趣旨と②配転命令を受けない派遣スタッフ等については,魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨を有するものと解される。
ウ 職務の内容について
(ア)前提事実(3)のとおり,派遣スタッフ等は,自らが選択したJOBを前提とした被告との派遣労働契約に基づき,派遣先の特定の就労場所において,その指揮命令に従って,特定の業務にのみ従事するものであり,指揮命令をする派遣先や雇い主である派遣元(被告)の意向により左右されものではない。
 また,前提事実(3)のとおり,OSスタッフも,自らが選択した受託業務を前提に,被告との雇用契約に基づき,被告が受託した委託元の特定の就労場所において,特定の業務にのみ従事するものであり,雇い主である派遣元(被告)の意向により左右されものではない。
 しかるところ,前提事実(4)のとおり,原告は,①平成27年8月17日から同年9月30日まで,派遣先である一般財団法人Cにおいて,製品素材の検査業務に,②同年12月25日から平成28年1月5日まで,派遣先である株式会社Dにおいて,家電の販売・接客,家電の陳列,家電の搬出等の販売関連業務(関係し付随する業務を含む。)に,③同年2月1日から同年4月10日まで,派遣先である株式会社Eにおいて,電話により顧客に対してサービスの契約申込やサービスの相談,商品の説明等を行うテレマーケティング関係業務(関係し付随する業務を含む。)に,④同年4月11日から平成29年6月30日まで,派遣先であるF株式会社において,設備の保守・メンテナンス,在庫の管理業務等のサービス関係業務(関係し付随する業務を含む。)に,各従事した。
 また,前提事実(4)のとおり,原告は,平成26年9月1日から平成27年5月31日までOSスタッフとして,委託事業者である株式会社Bにおいて,××サービスの加入促進活動・契約獲得業務(チラシのポスティング)の業務に従事していたものである。
(イ)他方,原告が比較対象として例示するR職社員は,第3,2(7)で認定したとおり,職種・勤務地限定なしの無期労働契約を締結した社員であり,その業務内容は,営業業務(具体的な営業計画を立て,顧客獲得活動,派遣契約の締結,就業開始から就業終了にかけての派遣労働者の支援),JC業務,スタッフ職業務(内勤事務職,各部署において,企画立案・経営判断に必要な情報の取りまとめを行う。)であり,労働者派遣事業者たる被告の根幹業務というべきものであった。
 そして,R職社員は「許可なく会社以外の業務に従事しないこと,または,その他の労務に服しないこと」として,兼業は許可制とされている。
(ウ)以上によれば,派遣スタッフ等としての原告とR職社員の職務の内容は大きく異なるものであり,特に,業務内容について共通するところはなかったということができる。
 なお,別の無期労働契約社員であるCWスタッフは,派遣就業をするものであるが,事務派遣スタッフとしてのキャリア形成を目的とし,被告においてビジネススキル等の教育研修を施した上で,一般企業に事務派遣スタッフとして派遣して就業経験を積み,事務キャリアを形成していく職種であり,派遣スタッフ等としての原告とは職務の内容が異なるものである。また,その他の無期労働契約社員(EO職社員,SR職社員,RJ職社員,EX職社員,P-EX職社員)も,その職種区分の内容・性質に照らし,派遣スタッフ等としての原告とは職務の内容が大きく異なるものといえる。
エ 職務の内容及び配置の変更の範囲について
(ア)派遣スタッフ及びOSスタッフは,派遣労働契約又は雇用契約に基づき,各契約で定められた期間,特定されたJOB又は受託業務にのみ従事するものであり,被告による配転命令の対象となることも予定されていない。
(イ)他方,原告が比較対象として例示するR職社員は,業務には限定がないため,配転の範囲も全国に及び,将来の幹部候補生として,定期的に職種変更があり,被告の基幹業務に幅広く従事し,これに伴い,被告から全国範囲で配転を命じられるものである。
 また,具体的な業務を遂行するに際しては,被告の広範な裁量の下,所属する部署の業務のみならず,必要に応じ,臨機応変に多種多様な業務を遂行することになるほか,派遣労働者のように労務提供に際して指揮命令をする者が限定されていないため,権限を有する者からの指示があれば,それに従って広く労務を提供することになる。
(ウ)以上によれば,派遣スタッフ等としての原告とR職社員の職務の内容及び配置の変更の範囲は,大きく異なるものであったというべきである。
 なお,その他の無期労働契約社員についても,異動対象地域の広狭はあるものの,配転命令の対象となるため,突然,その意に反して異動を命ぜられ,異動先の指揮命令を受けて就労することになり得ることから,派遣スタッフ等としての原告とは職務の内容及び配置の変更の範囲が大きく異なるものといい得る。
オ その他の事情について
(ア)派遣労働は,雇用関係にある派遣元事業主と指揮命令関係にある派遣先が存するという特殊性があり,派遣労働者の労働条件は派遣元と派遣先との間で締結される派遣契約や労働市場の影響を受けるものである。
 また,OSスタッフの賃金についても,被告が委託者と締結する業務委託契約で定められる委託料を踏まえて決定される構造にあり,派遣スタッフと同様の状況にある。
 加えて,派遣スタッフ等の労働条件は,JOBごとに提示された個別的かつ詳細な労働条件を内容として規定されていくものであるのに対し,R職社員の労働条件は,就業規則所定のものに定められており,その余の職員についても配転命令の対象となるなど労働条件は広範な変化を予定しているものである点で,派遣スタッフ等と異なっている。
 そして,第3,3(1)イで述べたとおり,派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は,派遣先の労働者との均衡等を考慮した待遇について規律する労働者派遣法による不合理な待遇ないし格差の是正が中心となると解されるところ,本件において派遣先に雇用される労働者の労働条件ないし待遇についての相違は何ら問題とされていない。
(イ)労働者待遇確保法2条は,労働者がその雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること(2条1号),労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること(2条2号),労働者が主体的に職業生活設計を行い,自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること(2条3号)を旨として施策が行われるべき旨を定めている(第3,1(4))。
 しかるところ,前提事実(3)のとおり,被告において,派遣スタッフ等になろうとする登録者は,自己の希望する条件(職種,就業可能日数,勤務時間,交通費,希望する職場環境[規模,喫煙又は完全分煙等,オフィススタイル]等の働き方)を特定して登録した後,被告により提案ないし提示されるJOBの中から,自らの希望に従い,通勤交通費の支給はないが高額の時給単価のJOBを選ぶことも,多少時給単価が低めでも通勤交通費の支給があるJOBを選ぶことも可能であるところ,第3,2(17)及び同(18)で認定したとおり,原告についてもJOB等を選択する際,自身の経験・能力を生かせる仕事であるか,安定した仕事であるかに加え,待遇面に関して,1日の時給合計額から往復の交通費を差し引いた金額を勤務時間数で除した時間給がいくらであるかという点を重視して,当該JOB等に従事して就労するか否かを決めていたのであるから,当該JOBごとの労働条件を吟味した上で就労するか否かを決定していたといい得る(なお,第3,2(12)エで認定したとおり,本件当時,被告から派遣スタッフ等に対し,通勤交通費の支給はなく,自己負担であることが明確に説明されていたことも踏まえると,原告は,選択した各JOB及び受託業務には通勤交通費の支給がなく,通勤に要した費用は,支給される時給の中からの自己負担となることについて,就労する前提として承知した上で就労する業務を選択していたということができる。)。
 また,被告では,派遣スタッフ等以外の従業員の多くは,許可なく兼業することを禁じられているのに対し,派遣スタッフ等について,兼業に関する制約はなく,派遣スタッフ及びOSスタッフとして登録し,更には派遣労働契約や受託業務に就く旨の契約を締結した場合であっても,当該労働者は,並行して他の派遣会社に登録したり,その紹介等を受けて就労すること,あるいは全く関係なく別の会社で同時並行的に就労することは禁じられていない。
 しかるところ,原告は,第3,2(16)で認定したとおり,被告においてOSスタッフとして就労中,Bにおいて,個人客を対象としたインターネット回線のプランに関するチラシのポスティング業務に従事したり,Bでの就労期間中,限りなく無期に近い労働契約に基づき他社のスーパーマーケットで就労して,兼業していた(他方,R職社員は,被告の許可なく兼業することはできず,また,被告の配転命令に応じて多種多様な業務を遂行することになる。)。
 そうすると,原告について,労働者待遇確保法の定める自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられており,主体的に職業生活設計を行い,自らの選択に応じて就労していたと評価することが可能である(なお,同法は,派遣先に雇用される労働者との間において職務の内容等に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図るべく,所要の措置を講ずる旨を定めているところ,上述したとおり,本件においては,派遣先の労働者の待遇との関係では何らの不合理性も問題にされていない。)。
(ウ)第3,2(19)で認定した事実並びに証拠(乙24,25,132)及び弁論の全趣旨によれば,原告が派遣スタッフないしOSスタッフとして従事した各JOB及び受託業務における時給額,原告が要した通勤交通費及びアルバイト・パートの平均時給額は,別紙6の表1及び2とおりであったと認められるところ,これらの比較によれば,原告が得ていた時給額はアルバイト・パートの平均時給額よりも相当程度高額であり,その差額は,各JOBにおいては原告が通勤に要した交通費を支弁するのに不足はないものであり,また,受託業務においても100円程度上回っており,原告が通勤に要した交通費の相当部分を補うのに足りるものであったと認められる。また,派遣スタッフ等の時給は,無期転換スタッフの時給・通勤手当,調整手当と同程度である。
 そうすると,原告が得ていた時給額は,一般的にみて,その中から通勤に要した交通費を自己負担することが不合理とまではいえない金額であったということができる。
(エ)また,派遣労働者の賃金について,通勤手当を含めて総額制にし,別途通勤手当を支給しないこと自体を禁ずる法律は存しない。
 そして,平成24年頃の派遣労働者の通勤手当支給率は,45.5%であった(第3,2(20))ところ,労働者待遇確保法(なお,同法はいわゆる理念法である。)の法案審議においてかかる状況を問題とする趣旨ではあるものの,「派遣において交通費を支給しないことは違法ではないかもしれないんですが,」として,派遣労働者に交通費を支給されるべき旨の質問がされ,政府参考人が労働契約法20条で規律される旨回答したこと等を総合勘案すると,当時,派遣労働者に通勤手当を支給しないことが一般的に違法であるとの取扱いがされていたとはいえない。
カ 小括
 以上の認定ないし説示にかかる被告の無期労働契約社員と有期労働契約社員である原告についての業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を踏まえると,本件相違は,労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできない。
 以上のほか,本件相違について,本件当時,原告に通勤手当が支払われないことにつき,当否は別として,民法709条の損害賠償請求を基礎づける程の違法性があったことを基礎づけるような事情もない。

賞与及び私傷病欠勤中の賃金の取扱いについての労働条件の差異が、労働契約法20条に反しないとされた事例(最高裁第3小法廷令和2年10月13日判決)

本件は、賞与及び私傷病による欠勤中の賃金について、無期契約の労働者と有期契約の労働者で相違が設けられていることに尽き、当該相違の合理性有無が争点となりました。

裁判所は、以下のとおり述べ、上記の相違は不合理とまでは言えないと判示しました。

①賞与について

(ア) 第1審被告の正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり,基本給とは別に支給される一時金として,その算定期間における財務状況等を踏まえつつ,その都度,第1審被告により支給の有無や支給基準が決定されるものである。また,上記賞与は,通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,第1審被告の業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,第1審被告は,正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
 (イ) そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は,その具体的な内容や,第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であることがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。
 さらに,第1審被告においては,全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,第1審被告は,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。その結果,第1審原告が勤務していた当時,教室事務員である正職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
 (ウ) そうすると,第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて,教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば,正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり,そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや,正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても,教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
 ウ 以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」

②私傷病による欠勤中の賃金について

第1審被告が,正職員休職規程において,私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは,正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと,同賃金は,このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。
 そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の職務の内容等をみると,前記(1)のとおり,正職員が配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務等が存在し,正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるなど,教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったことは否定できない。さらに,教室事務員である正職員が,極めて少数にとどまり,他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては,教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか,職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在するものである。
 そうすると,このような職務の内容等に係る事情に加えて,アルバイト職員は,契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば,教室事務員であるアルバイト職員は,上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。また,第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがって,教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものとはいえない。
 以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

退職金の有無という労働条件の差異が労働契約法20条に反しないとされた事例(最高裁第3小法廷令和2年10月13日判決)

本件は、無期契約の労働者には退職金を支給する一方、有期契約の労働者にはこれを支給しないことの合理性有無が争点となりました。

裁判所は、以下のとおり述べ、上記の相違は不合理とまでは言えないと判示しました。

ア 第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
 イ そして,第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員Bである第1審原告らの労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。
 さらに,第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
 ウ そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
 なお,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。
(3) 以上によれば,売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」

年末年始勤務手当、祝日休、扶養手当等で、労働条件の差異が不合理とされた事例(最高裁第1小法廷令和2年10月15日判決)

本件は、正社員と契約社員で、年末年始の勤務手当、年始の勤務に関する祝日休、扶養手当に関する相違についての合理性有無が争点となりました。

最高裁は、以下のとおり、いずれの相違についても不合理と判示しました。

①年末年始勤務手当について

第1審被告における年末年始勤務手当は,郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると,同業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
 上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,本件契約社員にも妥当するものである。そうすると,前記第1の2(5)~(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

②年始期間の勤務に対する祝日給について

第1審被告における祝日給は,祝日のほか,年始期間の勤務に対しても支給されるものである。年始期間については,郵便の業務を担当する正社員に対して特別休暇が与えられており,これは,多くの労働者にとって年始期間が休日とされているという慣行に沿った休暇を設けるという目的によるものであると解される。これに対し,本件契約社員に対しては,年始期間についての特別休暇は与えられず,年始期間の勤務に対しても,正社員に支給される祝日給に対応する祝日割増賃金は支給されない。そうすると,年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解され,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間の祝日給及びこれに対応する祝日割増賃金に係る上記の労働条件の相違は,上記特別休暇に係る労働条件の相違を反映したものと考えられる。
 しかしながら,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。そうすると,最繁忙期における労働力の確保の観点から,本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの,年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は,本件契約社員にも妥当するというべきである。そうすると,前記第1の2(5)~(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で,本件契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

③扶養手当について

第1審被告において,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも,上記目的に照らせば,本件契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,前記第1の2(5)~(7)のとおり,上記正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものというべきである。
したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

年末年始の勤務手当、病気休暇(有給・無給)に関する労働条件の差異が不合理とされた事例(最高裁第1小法廷令和2年10月15日判決)

本件は、正社員と契約社員で、年末年始の勤務手当、病気休暇の相違についての合理性有無が争点となりました。

最高裁は、以下のとおり述べ、いずれの相違についても不合理と判示しました。

①年末年始勤務手当について

第1審被告における年末年始勤務手当は,郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると,同業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
 上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると,前記第1の2(5)~(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
 したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

②病気休暇について

第1審被告において,私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも,上記目的に照らせば,郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,上記時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,前記第1の2(5)~(7)のとおり,上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく,これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,私傷病による病気休暇として,郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

夏季及び冬季の休暇に関する差異が不合理とされた事例(最高裁第1小法廷令和2年10月15日判決)

本件は、正社員と契約社員において、夏季休暇及び冬期休暇が正社員のみに認められていることについて、その合理性が争点となった事案です。

裁判所は、以下のとおり述べて、当該相違は不合理と判示しました。

上告人において,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは,年次有給休暇や病気休暇等とは別に,労働から離れる機会を与えることにより,心身の回復を図るという目的によるものであると解され,夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして,郵便の業務を担当する時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされるなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって,夏期冬期休暇を与える趣旨は,上記時給制契約社員にも妥当するというべきである。
 そうすると,前記2(2)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と同業務を担当する時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方で,郵便の業務を担当する時給制契約社員に対して夏期冬期休暇を与えないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

有休での病気休暇及び休職制度に関する差異が労働契約法20条に違反しないと判断された事例(東京高裁平成30年10月25日判決)

本件の主たる争点の一つが,病気休暇,休職制度に関する正社員と時給制契約社員の相違(正社員の方が手厚い)につき,労働契約法20条に違反するか否か,という点でした。

裁判所は,本件事案については要旨以下のとおり延べ,労働契約法20条には違反しない旨の判断を示しました。

「ア 前記前提事実のとおり,勤続10年未満の正社員には,私傷病につき90日以内の有休の病気休暇が付与されるのに対し,時給契約社員には,無休の病気休暇10日のみが認められているという相違がある。

 病気休暇は,労働者の健康保持のため,私傷病によって勤務することができない場合に療養に専念させるための制度であり,正社員の病気休暇に関し,これを有給のものとしている趣旨は,正社員として継続して就労をしてきたことに対する評価の観点,今後も長期にわたって就労を続けることによる貢献を期待し,有為な人材の確保,定着を図るという観点,正社員の生活保護を図るという観点によるものと解することができ,一般職の職務の内容等について,前記(5)において説示したところに照らしても,一定の合理的な理由があるものと認められる。これに対し,時給制契約社員については,期間を6か月以内と定めて雇用し,長期間継続した雇用が当然に想定されるものではなく,上記の継続して就労をしてきたことに対する評価の観点,有意な人材の確保,定着を図るという観点が直ちに当てはまるものとはいえない。また,社員の生活保障を図るという観点について,上記(5)認定の事情から判断することは難しいものの,被控訴人においては,期間雇用社員の私傷病による欠務について,私傷病による欠務の届出があり,かつ診断書が提出された場合には,承認欠勤として処理されており,欠勤ではあるものの無断欠勤ではなく,問責の対象としない取扱いがされており,控訴人についても,これに従って手続がされている(証拠略)。そして,このような場合に,社会保険に加入している期間雇用社員については,一定の要件の下で傷病手当金を受給することができるため,著しい欠務状況でない限り,事実上は,ある程度の金銭的補てんのある療養が相当な期間にわたって可能な状態にあるという事情があるものと認められる。

 以上によれば,被控訴人において,正社員について90日又は180日までの有給の病気休暇を付与し,時給制契約社員については10日の無休の病気休暇を認めるのみであることについて,その相違が,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして,不合理であると評価することができるとまではいえないというべきである。

 イ さらに,休職制度の有無についても,正社員に関しては,前記アに説示したところと同様の理由により,有為な人材の確保,定着を図るという観点から制度を設けているものであり,合理性を有するものと解されるところ,時給制契約社員については,6か月の契約期間を定めて雇用され,長期間継続した雇用が当然に想定されるものではないのであり,休職制度を設けないことについては,不合理なこととはいえない。したがって,この点に関しても,この相違は,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして,不合理であると評価することができるとまではいえないというべきである。」

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