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パワー・ハラスメント(パワハラ)の裁判例

パワー・ハラスメント(パワハラ)に関する裁判例

パワー・ハラスメント(パワハラ)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

本人のいない箇所における言動が違法なハラスメントに該当すると判断された事例(東京高裁令和5年10月25日判決)

本件は、歯科医師として就労する控訴人が、職場での各種ハラスメントを受けたとして、損害賠償請求を行った事案です。ここでは、当該請求のうち、控室における雑談(控訴人不在)における言動がハラスメントとして認定された箇所に関する判示を取り上げます。

コ 控室での会話(番号71)
 一審原告は、令和3年1月16日、一審被告Y1が、一審原告がいない場で他の従業員(歯科衛生士)に対し番号71の「具体的行為」欄記載のとおり一審原告の名誉を毀損し侮辱する内容の発言をしたと主張する。一審原告が依拠する証拠(甲104)は、一審被告Y1が院内で一審原告の悪口を言っているのではないかとの疑いを持った一審原告が、その証拠を得ようとして、院内のオープンスペースである控室に秘密裏にボイスレコーダーを設置しておいたところ、偶然一審被告Y1の会話内容が録音できたことから、その録音内容を反訳して書証として提出した書面であることが認められる(甲102)。従業員の誰もが利用できる控室に秘密裏に録音機器を設置して他者の会話内容を録音する行為は、他の従業員のプライバシーを含め、第三者の権利・利益を侵害する可能性が大きく、職場内の秩序維持の観点からも相当な証拠収集方法であるとはいえないが、著しく反社会的な手段であるとまではいえないことから、違法収集証拠であることを理由に同証拠の排除を求める一審被告らの申立て自体は理由があるとはいえない(同様に一審被告らが違法収集証拠であると主張する他の証拠についても、著しく反社会的な手段により収集されたものとまでは認められないから、同証拠の排除を求める一審被告らの申立ても理由がない。)。
 その上で、前記の証拠(甲104)によれば、一審被告Y1は、本件歯科医院の控室において歯科衛生士2名と休憩中に同人らと雑談を交わす中で、一審原告のする診療内容や職場における同人の態度について言及するにとどまらず、歯科衛生士2名と一緒になって、一審原告の態度が懲戒に値するとか、子供を産んでも実家や義理の両親の協力は得られないのではないかとか、暇だからパソコンに向かって何かを調べているのは、マタハラを理由に訴訟を提起しようとしているからではないかとか、果ては、一審原告の育ちが悪い、家にお金がないなどと、一審原告を揶揄する会話に及んでいることが認められる。
 これらの会話は、元々一審原告が耳にすることを前提としたものではないが、院長(理事長)としての一審被告Y1の地位・立場を考慮すると、他の従業員と一緒になって前記のような一審原告を揶揄する会話に興じることは、客観的にみて、それ自体が一審原告の就業環境を害する行為に当たることは否定し難い。
 したがって、この点について不法行為の成立を認めるのが相当である。

ハラスメント防止委員会による口頭での厳重注意の不法行為該当性が否定された事例(札幌地裁令和3年8月19日判決)

本件は、大学のハラスメント防止委員会において、被処分者に対してなされた厳重注意の決定(本件決定)について、その不法行為該当性が争われた事案です(なお、被処分者が処分された理由となる行為としては、同僚の国籍に関する発言が挙げられています。)。

裁判所は、以下のとおり述べ、不法行為該当性を否定しました。

「(2)原告は,本件決定が原告の名誉感情を侵害する不法行為に該当する旨主張するところ,人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価である名誉感情の侵害は,それが社会生活上許される限度を超えた侮辱行為であるときに,法的保護に値する人格的利益を侵害するものとして不法行為が成立すると解される(最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁,最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。

(3)そこで検討するに,本件決定は,原告の発言をハラスメント行為と認定して原告に対する学長による厳重注意を相当とするものであり,原告の主観的名誉感情を害する側面があることは否定できない。
 しかしながら,本件委員会による決定は,学内におけるハラスメントの相談や苦情申立てについて調査した上,その対応措置及び処分の検討の結果等を学長に報告するものであって,加害者である被申立人の言動に対する否定的評価が含まれ得ることは,その性格上当然に想定されているといえ,これが被申立人に通知されることも,本件委員会規程上,不服申立ての機会を確保するために定められた手続であって,被申立人を非難する目的で否定的評価を告知するものではない。

 そして,本件決定は,本件発言が人権侵害に当たる旨を判断しているものの,その否定的な評価は,発言自体に向けられたほかは,原告による同様の案件が2度目であることや,原告においてハラスメントに当たるとの認識がないことを指摘するに留まっており,それ以上に,原告の人格攻撃に及んだり,殊更に侮辱的表現を用いたりするものではなく,本件委員会の決定として想定される限度を超えて原告の名誉感情を傷つけるものとは認め難い。かえって,本件決定においては,懲戒処分に至らない口頭での厳重注意等を相当とするに留めるとともに,付帯事項(留意点)として,原告に対する措置だけでなく,大学内の組織的な対応や管理職等がとるべき対策等についても言及し,本件決定による措置が原告とH教授の関係性の改善に資するよう望む旨が表明されていることが認められ(甲1),本件決定の文脈全体をみても,原告に対する一方的な非難や攻撃を意図したものではないことがうかがえる。

 原告は,本件決定が懲戒処分と同等以上の制裁を原告に加えるものであるとも主張するが,本件決定が原告と本件法人との間の雇用契約上,懲戒処分又はそれと同様の制裁に当たらないことは,本件委員会規程及び本件決定の内容に照らして明らかである。

 以上に加え,本件決定が,原告も自認する発言を基礎としたものであり,重大な事実誤認は認められないこと,本件発言に至る経緯等(前記(1)ア,イ)に照らし,本件発言をハラスメントに当たると判断した点に重大な誤りがあるとはいえないこと,本件決定の調査,判断等の過程に本件委員会規程を逸脱するような手続違背も見当たらないことも考慮すれば,本件決定につき,社会生活上許される限度を超えた侮辱行為と評価することはできないというべきである。

(4)以上によれば,本件決定は,法的保護に値する原告の人格的利益を侵害するものとは認められないから,原告主張の不法行為は成立しない。」

原告労働者が主張したパワハラ行為は認定されなかったものの、使用者側のパワハラ調査過程に違法性が肯定された事例(京都地裁令和3年5月27日判決)

本件は、要旨、幼稚園で勤務していた原告が、園長からパワハラを受けたとして、雇用主である被告に対して損害賠償請求を行った事案です。

パワハラ行為の有無については、以下のとおり、原告の主張は認められませんでした。

また,B園長がパワハラを行ったとの原告の主張については,これに沿う原告本人の供述及び陳述書(甲41)がある。
 しかしながら,B園長は,パワハラの事実を否定する趣旨の供述をしているところ,そのうちいくつかの場面に居合わせたK副園長も,B園長が原告の主張するような言動をしたとは供述していない。加えて,原告の主張を裏付ける的確な証拠が存在しないことからすれば,前記第3の1の認定事実を超えて,原告が主張するようなB園長の言動があったと認めることは困難である。なお,前記認定事実によれば,B園長とのやり取りにおいて,原告が泣き出したことが,少なくとも平成27年5月1日と同年6月25日の2回にわたり認められる。また,他の職員も,B園長の指導により,原告が泣いていたことが複数回あったとしている。しかし,原告の本件幼稚園への異動前の職場であるE保育所の所長は,原告には悩むところが多くあり,多くを抱え込み追い詰められてしまう傾向があることを指摘しており(乙6),前記認定の本件幼稚園の職員に対するヒアリング結果に照らしても,原告自身の性格的なものが多分に影響しているものと思われ,原告が泣いたとの事実をもって,原告の主張するB園長の言動があったと直ちに推認することも難しいといわざるを得ない。
 以上によれば,前記認定事実に反する原告本人の供述部分及び陳述書の記載部分は採用できず,他にB園長が原告主張の言動をしたことを認めるに足りる証拠はない。

 もっとも、本件では、原告の被害申告を受けた被告の調査において、以下の問題点を指摘し、慰謝料等33万円の支払いを認めました。

7 争点(5)(被告職員が,公務災害補償基金に対し,本件日記のコピーを提供した行為の違法性)について
(1)上記5で判示したとおり,原告は,被告におけるパワハラの調査目的のため,必要性・相当性の認められる範囲内であれば,被告職員による本件日記の利用を許容していたと解するのが相当である。そして,被告は,被告職員が公務災害補償基金に対し,本件日記のコピーを提供したことは,上記利用目的に沿ったものであると主張する。
 しかしながら,公務災害補償基金は,公務災害に係る各種補償を行うことなどをその業務とする地方共同法人であるところ,前記認定事実によれば,被告職員は,平成29年6月28日,公務災害補償基金に対し,公務災害の認定請求に関する調査資料として,本件日記のコピーを送付したことが認められる。
 そうすると,上記提供行為は,被告におけるパワハラの調査目的のための利用ではないから,直ちに上記利用目的内の行為であるとは認め難く,原告が,上記提供行為を当然に許容していたものと評価することはできない。
(2)この点について,被告は,仮に上記提供行為が利用目的を超えるものと評価されるとしても,上記提供行為は,京丹後市個人情報保護条例7条2項5号に該当し,適法である旨主張する。
 しかしながら,同号による個人情報の提供を受ける主体は,「他の実施機関,国,独立行政法人等,他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人」であるところ(京丹後市個人情報保護条例7条2項5号),公務災害補償基金は,「他の実施機関」,「国」,「他の地方公共団体」には該当しない。また,「独立行政法人等」については,同条例2条9号,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律2条1項及び別表並びに独立行政法人通則法2条1項に規定されているが,公務災害補償基金は,「独立行政法人等」にも該当しない。さらに,「地方独立行政法人」については,同条例2条9号及び地方独立行政法人法2条1項に規定されているが,公務災害補償基金は,「地方独立行政法人」にも該当しない。
 そうすると,公務災害補償基金は,同条例7条2項5号に基づき,個人情報の提供を受けることができる主体に含まれていないから,被告職員の上記提供行為は,同条例7条2項5号には該当せず,被告の主張は採用できない。
(3)以上によれば,被告職員が,公務災害補償基金に対し,本件日記のコピーを提供した行為は,原告のプライバシーに係る情報の目的外利用に当たるところ,原告が上記行為を当然に許容していたと評価することはできず,また,条例に基づく行為であるともいえないから,原告の事前の同意がない限り,許されないというべきである。そして,本件日記には,原告がB園長から受けたとされるパワハラの内容やそれを受けての原告の思いなどが記載されており,その秘匿性も相当程度高いことにも照らせば,被告職員の上記行為は,原告のプライバシーを侵害するものとして,国家賠償法上違法である。
8 争点(6)(被告職員が,B園長に対し,本件日記のコピーを交付して書き込みをさせ,その後これを保管させていた行為の違法性)について
(1)前記認定事実によれば,Q次長及びO課長は,平成27年8月12日,B園長に対し,本件日記のコピーを交付し,その上で書き込みをさせ,その後これを保管させたことが認められる。そして,上記5で判示したとおり,原告は,被告におけるパワハラの調査目的のため,必要性・相当性の認められる範囲内において,本件日記が利用されることを許容していたと解されるところ,O課長らのB園長に対する上記行為は,被告におけるパワハラの調査の一環として行われたものではある。
 しかしながら,本件日記には,原告がパワハラであると主張している事実関係に加えて,原告の心情等に係る記載もあるなど,原告の重大なプライバシーに係る事項が記載されているところ,B園長は,原告がパワハラの加害者であると主張している人物であるから,B園長に本件日記の内容が開示されれば,原告のプライバシーが侵害されることはもとより,いくらパワハラの調査のために提出されたものであっても,被害者であると主張する原告の立場からすれば,心情的に,B園長には本件日記の内容をそのままの状態では知られたくないと考えるのが通常であると思われる。また,B園長に原告が主張している事実関係を確認してもらう必要があったとしても,本件日記のコピーをそのまま渡すのではなく,事実関係のみを抽出して作成した書面を交付するなど,他の方法によっても,B園長に事実関係を確認することは十分可能であったと思われ,B園長に本件日記のコピーそのものを交付する必要性は低かったといえる。
(2)以上によれば,パワハラの調査目的のためであるからといって,B園長に対して本件日記のコピーそのものを交付して書き込みをさせ,それを保管させることは,原告のプライバシーに係る情報の適切な管理に係る合理的な期待を裏切るもので,必要性・相当性の認められる範囲を超えており,原告が上記行為を許容していたと評価することはできない。
 したがって,被告職員が,B園長に対し,原告の承諾を得ることなく,本件日記のコピーを交付して書き込みをさせ,それを保管させた行為は,原告のプライバシーを侵害するものとして,国家賠償法上違法である。

原告労働者が主張するパワハラ行為が認定されず,損害賠償請求が認められなかった事例(東京地裁令和元年10月29日判決)

本件は,原告労働者が,上司であるA支店長から以下のパワハラ行為を受けたと主張して,損害賠償請求を行った事案です。

・A支店長は,平成26年12月8日午後6時頃から午後8時頃まで,丙支店の支店長席の付近において,原告に対し,「年金獲得に俺は命をかけてきた。俺のやり方は絶対に間違っていない。なんでお前ら俺が言ったことができないんだよ。死ぬ気でやってみろよ。命がけで仕事するんだよ。今日寝なくていいから。一日くらい寝なくても死なないから,明日までに決意書書いてこい。」と発言し,原告は,翌朝までに「決意」と題する書面(書証略。以下「本件決意書」という。)を作成して提出することを強制された(本件パワハラ行為①)

・A支店長は,平成27年1月8日午後6時頃から午後8時頃まで,丙支店の支店長席の付近において,原告に対し,「今回も目標が達成できていないのか。返事もしないし,お前らやる気があるのか。何がしたいんだよ。お前ら本気を見せろよ。お前らの営業成績が不振のおかげで支店の成績が落ちまくってて支店長のメンツが潰れているんだよ。自分の命かけてやってこいよ。今年も同じような成績では許さないからな。明日まで必ず全員新年の抱負を決意書として書いてこい。」と発言し,原告は,翌朝までに「新年の抱負」と題する決意書(以下「本件抱負書」という。)を作成して提出することを強制された(本件パワハラ行為②)

・A支店長は,同年5月12日午前9時頃から午前10時頃まで,丙支店の会議室において,原告に対し,「今月も目標が達成できそうにないじゃないか。自分の命をかけてやるんだよ。仕事に楽しさなんていらないんだよ。苦しんで苦しんで,これでもかってくらい自分を追い込むんだよ。休日でもどこを営業で回るのか,絶対に達成するんだという気持ちをもって考えるんだよ。」と発言した(本件パワハラ行為③)

・原告が,同月15日午後6時頃から午後7時頃まで,丙支店の会議室の隣の個室において,A支店長に退職の意思を伝えた際,A支店長は,原告に対し,「安易に退職という逃げ道を選ぶなよ。仕事や苦しんで苦しんでやるものなんだよ。退職を考えるんじゃなくて,どうしたら営業成績が上がるのかを考えろよ。」と発言し,原告の退職を認めなかった(本件パワハラ行為④)

・A支店長は,同月21日午後6時頃から午後7時頃まで,丙支店の支店長席の付近において,原告に対し,「どうしてすぐ諦めるのか。仕事に楽なものなどない。部下が辞めることは支店長の評価にも影響出るんだよ。退職の件は聞かなかったことにする。もう一度考え直してこい。」と発言し,退職を撤回するよう勧告した(本件パワハラ行為⑤)

・原告は,A支店長から,毎日最低30件を営業として顧客訪問することを求められ,そのほかにも,既存顧客への定期積金の集金,定期積金及び定期預金の満期管理,新規獲得等膨大な量の顧客訪問を行うよう業務命令を受けていた。この業務量は,遂行が明らかに不可能なものであり,原告の処理範囲を超える割当であって,支店長という優位性を背景として原告に対し精神的・身体的苦痛を与えるパワハラ行為であった。

 これに対し,裁判所は以下のとおり述べ,パワハラ行為の存在自体が認定できないと判示しました。

「本件パワハラ行為①について,原告の供述を裏付ける客観的な証拠は見当たらないところ,(中略)本件決意書の記載内容や体裁等を考慮しても,A支店長の原告に対する発言内容を推知することはできず,直ちにA支店長が違法というべき発言をした具体的事実や本件パワハラ行為①の事実が推認されるものとはいえないし,A支店長が金庫室内扉の鍵管理機を操作した時刻の記録や退館時刻の記録に照らすと,同日午後6時頃から午後8時頃まで本件パワハラ行為を受けていたという点にも疑念が生じるものといわざるを得ない。」

「本件パワハラ行為②についても,原告の供述を裏付ける客観的な証拠は見当たらないところ,(中略)本件抱負書の記載内容や体裁等を考慮しても,直ちにA支店長が違法というべき発言をした具体的事実や本件パワハラ行為②の事実が推認されるものとはいえない。」

「本件パワハラ行為③について,原告が平成27年5月12日にBとの間で,同日13日にDとの間でそれぞれメッセージの送受信をした事実及びその内容は,(中略)原告のメッセージ中には「営業は店長に怒られました,「Eさんにはパワハラと退職の件話したわ」などの,Dのメッセージ中には「支店長からのパワハラですよね」との記載がある。しかし,このような記載によっては,当時,原告が,どのような事実をもって「怒られ」たとか「パワハラ」と表現していたのかは判然とせず,A支店長の具体的な言動を推知することはできず,直ちにA支店長が違法というべき発言をした具体的事実や本件パワハラ行為③の事実が推認されるものとはいえない。」

「本件パワハラ行為④及び本件パワハラ行為⑤について,原告が同月21日にBとの間でメッセージ送受信をした事実及びその内容は(中略)また,同月頃には原告がA支店長に対して退職したい旨を述べたものであるところ(中略),A支店長は原告の退職の意向を了承せず,改めてよく考慮するように述べたことがうかがわれる。しかし,A支店長が,慰留というべき程度を超えて,原告に対し,本件パワハラ行為④又は本件パワハラ行為⑤のような違法な言動をした事実を推認することができる客観的な証拠等は見当たらない。」

「原告の医療機関の受診や診断書の記載内容の経緯は(中略)とりわけ,F医師作成に係る平成30年1月27日付けの診断書には,適応障害の発病の状況について,原告の主張に沿う記載がある。しかし,F医師の原告に係る初診の時期は平成29年5月24日であり,原告が被告を退職した平成27年8月から1年8か月余りを経過しているものであるから,F医師の診断内容は,原告の説明に基づく事実関係を前提とするものである可能性があり,少なくとも,本件訴訟において前提とすべき事実関係に基づき診断した内容であるとは認められず,この診断内容をもって直ちに本件パワハラ行為の存在を肯定することはできない。また,その余りの診断書類も,これによって本件パワハラ行為の存在を認めるに足りるものとはいえない。」

「証人Bの供述,丙支店配属の従業員であった者の各陳述書(書証略)には,原告の主張・供述に沿う部分がある。しかし,証人Bは,原告の同僚であったが,平成27年10月頃に被告を退職したものであって,現在まで原告と交際がある友人であり(証人B),本件証拠上うかがわれる関係性に照らし,原告の供述を支えるに足りる客観的な証拠力があるとまではいえない。また,上記各陳述書についても,その作成者らと原告と被告等との利害関係その他の関係や,被告に対する心情等その信用性を肯定するに足りる諸事情の存否は明らかで履く,にわかに採用することはできない。」

「原告は,前記のとおり,A支店長から遂行が明らかに不可能な量の業務を割り当てられた旨主張するところ,原告が毎日30件の顧客を訪問するよう指示されていたとしても,本件各証拠上うかがわれる事情において,それが信用金庫の営業業務として達成が困難な程度のノルマないし業務量を課したものであると認めるに足りるものはなく,A支店長の原告に対する業務の割り当てに関して違法であると評すべき行為は認められない。」

「以上の検討のほか,原告が被告に対して初めて損害賠償を求めたのは平成30年1月9日であり,被告を退職してから2年以上も経過した時期のことであること(証人A),被告の人事部にによる原告との面談記録の存在(書証略。なお,原告は,本人尋問において,これらの記載内容の真実性等を否定するが,原告の供述に対する弾劾証拠としては一定の証拠力を有するものというべきである。)等の諸事情を総合考慮すると,A支店長の供述が虚偽であると断ずるだけの客観的な根拠は見当たらないというべきであり,本件パワハラ行為についての原告の供述は,にわかに採用することができない。」

「したがって,A支店長において原告に対する業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動があったものと認めることはできず,他に本件パワハラ行為の事実を認めるに足りる証拠はない。」

労働者に対する暴行,人格権の侵害について,慰謝料の支払いが認められた事例(福岡地裁平成30年9月14日判決)

本件は,長距離トラックの運転手として勤務していた労働者が,在職中に受けたパワハラ行為等について,損害賠償を請求した事案です(その他,未払賃金等の請求もなされていますが,本項では割愛します。)。

裁判所は,以下のパワハラ行為を認定したうえで,会社及び事実上の代表者Cに対し,慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の支払いを命じました。

(1)認定されたパワハラ行為及びその評価

①「被告Cは,原告の帰社が遅れたことに腹を立て,原告の頭頂部及び前髪を刈り,落ち武者風の髪型にした上,洗車用スポンジで原告の頭部を洗髪し,最終的に原告を丸刈りにした」

②「引き続いて,原告は,他の被告会社従業員から,下着姿にさせられた上,洗車用の高圧洗浄機を至近距離から身体に向けて噴射され,洗車用ブラシで身体を洗われたが,この様子を被告Cはその場で黙認し,静止しなかった」

→①の行為は「原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害する行為であることは明らかである」。②の行為も「原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害する行為であるところ」,①の行為等に「引き続いてされたものであるから,被告Cの暗黙の指示に基づくものと推認でき,仮にそうでないとしても,被告Cとしては,事実上の取締役として,社内において原告に対する侵害行為がされるのを制止すべき義務を負っていたのに,これを懈怠したものであることは明らかである。したがって,被告Cは,民法709条に基づき(略)原告が受けた精神的苦痛について不法行為責任を負う。また(略)被告Cは事実上の代表取締役であると認められ,前記の被告Cの行為は,原告の帰社が遅れたことに対する制裁としてされたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてなされたものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,(略)原告が受けた精神的苦痛について賠償責任を負う。」

③「被告Cは,平成25年9月16日,社員旅行から帰った後,被告会社本店において,原告に対し,車内からロケット花火を持ってくるように命じた上,下着一枚になって裏の川に入るように命じた。そして,被告Cは,他の従業員に対し,当てたら賞金を与えるとして原告に向けてロケット花火を発射するように命じ,従業員をして,至近距離からロケット花火を原告に向けて発射させ,逃げ出した原告に対して石を投げさせた。」

→「従業員らの原告に対する行為は,原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害する行為であるから,これを指示した被告Cは,民法709条に基づき,前記の従業員らの行為により原告が受けた身体的,精神的苦痛について不法行為責任を負う。また上記被告Cの行為は,社員旅行という会社の行事に際して行われたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,前記の原告が受けた身体的,精神的苦痛について賠償責任を負う。」

④(いじめに耐えかねて被告会社から失踪した原告が)「復職を認めてもらおうとして被告会社に戻った際,E常務に指示されて,社屋入口前で,被告Cが出社して来るまで土下座をし続け,出社して来た被告Cはこれを一瞥したが土下座を止めさせることはなく,原告はその後も数時間にわたり土下座を続けたことが認められ」

→「従業員が数時間にわたり社屋入口で土下座し続けるという行為は,およそ当人の自発的な意思によってされることは考えにくい行為であり,被告Cとしても,原告が強制されて土下座をしていることは当然認識し得たものとみられる。にもかかわらず,(略)被告Cは制止することなく原告に土下座を続けさせたのであるから,原告は被告Cの指示で土下座させられたのと同視できるというべきである。したがって,被告Cは,民法709条に基づき,土下座させられたことにより原告が受けた身体的,精神的苦痛について不法行為責任を負う。また,上記被告Cの行為は,原告の被告会社での就労再開に関して行われたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,前記の原告が受けた身体的,精神的苦痛について賠償責任を負う。」

⑤「被告C名義のブログには」上記で認定されたパワハラ行為の「記載及び写真が掲載されており,その中には原告が同寮の従業員からいじめ行為を受けたり土下座したりしている写真や,「ホラ吉」「葉山小亀夫」といった原告を侮蔑するような表現が含まれていた。前記ブログはインターネットを通じて不特定多数人が閲覧可能な状態にあった。被告Cは自らの名義となっている前記ブログを確認することもあったが,(略)原告に関する記事について,同ブログを作成管理するGに対し,掲載を止めるよう求めたことはない。」

→「被告C名義のブログ記事は,これが他人から閲覧されれば原告の名誉を棄損する内容であり,(略)原告に関する記事が掲載されることによって,原告の名誉を棄損するものであると認められる。そして,(略)被告Cは従業員に対する名誉棄損行為を防止すべき義務を負っていたといえるから,ブログ記事の掲載を放置したことについて,民法709条に基づき不法行為責任を負う。また,被告Cは事実上の代表取締役であると認められるから,被告会社は,会社法350条に基づき,被告Cが職務を行うについて原告に与えた精神的苦痛を賠償すべき責任を負う」

上司からの暴行がパワハラと認定されたが,当該パワハラと適応障害との因果関係が否定された事例(東京地裁平成30年7月30日判決)

本件は,事案を単純化すると,上司からパワハラ(暴行)を受け,その結果として適応障害を発症したとして,労働者が当該上司及び勤務先に慰謝料等を請求した事案です。

本件では,訴訟に先立ち労災申請がなされており,労災申請は認められていました。

一方,裁判所は,以下のように述べ,上司(C)のパワハラ行為自体は認めたものの,当該パワハラ行為により適応障害を発症したことについては認めませんでした。

(1)パワハラ行為について

「被告Cは,平成27年7月11日午前,原告に対し,原告の仕事ぶりを非難して,原告の腕を掴んで前後に揺さぶる暴行を加えた上,別の客室で,再度,恫喝口調で原告を詰問し,「やれよ。」「分かったか。」などと繰り返し述べて迫り,壁に原告の体を押し付け,身体を前後に揺さぶる暴行を加え,逃れようとした原告が壁に頭部をぶつけるなどし,原告に頭部打撲,頸椎捻挫の傷害を負わせたものであって,このような被告Cの行為が,原告に対する不法行為を構成することは明らかである。」

(2)パワハラ行為と適応障害との関係について

「被告Cの暴行によって原告が受けた心理的負荷についてみるに(中略)被告Cは,平成27年7月11日,2度にわたり原告の腕を掴んで前後に揺さぶるなどの暴行を加えた上,恫喝口調で繰り返し原告を詰問するなどし,結果的に原告に頭部打撲,頸椎捻挫の傷害を負わせたものであって,身体的な傷害結果もさることながら,被告Cの行為態様からすると,原告に相当な恐怖感を与えたであろうことは想像に難くなく,ある程度の心理的負荷を与えたことは否定することはできない。

 しかしながら(中略)上記原告の頭部打撲,頸椎捻挫の程度は,経過観察7日間を要する程度に止まっている上(原告は,本件事件から約2か月後の同年9月16日にもY1病院を受診しているが,医師の診察所見として意識清明で神経学的にも異常はなく,頭部CTの結果でも異常はないとされている。),被告Cの行為態様としても,原告が主張するような頭部を壁に打ち付けるようなものではなかったことは(中略)認定したとおりであり,その暴行態様が強度なものであったとまではいい難いことや,被告Cの暴力行為としては,本件事件時の1日のみに止まっていることからすると,かかる被告Cの暴行が,客観的にみて,それ単体で精神障害を発病するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには,躊躇を覚えざるを得ない。

 そして,(中略)原告が,Y1病院のみならず本件事件当日に受診したY4病院でも,医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると,原告の適応障害の原因が本件事件以外の業務上の要因にもあるとの合理的な疑いを容れる余地がある。

 確かに(中略),本件労災申請(適応障害)において,中央労基署長が原告の適応障害につき業務上の疾病である旨の判断をしており,同申請に関し,東京労働局労災医員が,被告Cの暴行が認定基準上の「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」に該当するとして,その心理的負荷の強度を「強」であるとの意見を述べていることは軽視できるものではない。しかしながら,行政庁の上記判断が裁判所の判断を拘束する性質のものでないことはいうまでもないところであるし,前記のとおり,被告Cの暴力行為は本件事件当日のみのことであることや,原告の受けた傷害の程度が外傷を伴わないものでさほど重いものとはいえないことなどを考慮すると,上記労災医員の意見を過度に重視することは相当でないというべきである。」

パワハラの存在が否定され,損害賠償請求が否定された事例(東京地裁平成30年3月19日判決)

本件では,パワハラ行為の有無が争点となりました。より具体的には,労働者側は,パワハラの証拠として,被害内容を記載した日記などを証拠提出しており,その記載内容が事実か否かが争われました。

裁判所は,以下のとおり述べ,パワハラ行為は認定できないと結論付けました。

「原告は,本件パワハラ等が存在したと主張し,原告本人及び原告母の尋問結果中にはこれに沿う供述があり,原告作成の日記(書証略,以下「本件日記」という。)には,別紙1(略)の番号1から23までの本件パワハラ等に沿う内容の記載がある。

しかしながら,原告は,平成27年9月1日からX病院に定期的に通院し,(中略)本件カルテには(中略)本件パワハラ等に関する記載は一切無く,本件紛争発生後の平成28年10月22日に,初めて,「「バカ」などばとうされたりした。」との記載が出てくる。本件カルテには,原告の仕事に関する出来事も細かく記載されているところ(中略)担当のD医師は,原告について,「ADHD+うつ状態」という診断をしていたのであるから,本件パワハラ等のエピソードを原告及び原告母から聴取していれば,当然その内容を詳しく記載しているはずである。そうであるにもかかわらず,これらの記載が全くないことは,本件パワハラ等のエピソードが当時原告及び原告母から同医師に対して述べられていなかったことを強く推認させる。また,平成28年4月9日からは,担当医がD医師からE医師に変更になっているが,同医師も原告の仕事について(中略)細かく記載している一方で,本件パワハラ等については全く記載していないところ,2人の異なる医師が,本件パワハラ等について,全く記載していないことは上記推認をさらに高めるものといえる。むしろ,本件カルテには,「仕事はボーとしているが,ミスはない。周りにささえられている。」など会社の配慮を窺わせる記載があり,本件パワハラ等が存在しなかったことを推認させる。また,平成28年10月5日,原告は,B2専務及び被告代表者と話し合うために,会社に出向き,話し合いの冒頭で予め準備していた書面を読み上げて,自分の考えを被告に伝えているところ,被告に訴えている一番の内容は,(中略)同年10月20日付の退職を撤回したいというものであり,(中略)B2専務による本件パワハラ等に関する言及は全くなされていない(中略)。被告への職場復帰を希望して,事前に書面まで用意しているにもかかわらず,本件パワハラ等に関する訴えが一切ないことは,本件パワハラ等が存在しなかったことを強く推認させる。これらの事実及び証拠に照らせば,原告及び原告母の上記供述は採用することはできない。

次に,本件日記には,客観的な診療記録である本件カルテの記載内容と整合しない記載がある上(中略),本件日記には,「2015/5/1」から「2017/9/30」(注;2016の誤記)までの出来事が記載されているが,本件口論の翌日である平成28年9月30日以降の頁は余白であり,その後の出来事は一切記載されていないところ(中略),同日以降の記載が全くない日記は形態として不自然なものであるといわざるを得ない。このほか,本件日記は,最初の月である平成27年5月は18日分の記載はあるが,その後は,同年6月は5日分,同年7月は1日分(中略)にとどまり,その内容も本件パワハラ等が中心的に記載された偏った内容となっていること,平成28年5月以降約4か月間の西暦の記載が全て誤っていること,(中略)日記であるにもかかわらず,日記の日付と記載されている出来事の日時が一致しない記載が複数あること(中略),原告は,労働審判段階においても,本件パワハラ等が存在したとの主張をしていたにもかかわらず,本件日記は証拠として提出されておらず,本件訴訟の第3回口頭弁論で初めて提出されたものであること(当裁判所に顕著)を併せ考慮すれば,本件日記が,各日付の前後に作成されたものであるのか疑問があり,本件日記をもって,本件パワハラ等の事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

在職中、長期間にわたって仕事を与えられなかったことがハラスメントに当たると判断された事例(神戸地裁平成29年8月9日判決)

本件は、労働者側が、勤務先に対し、在職中に長年にわたって仕事を与えられないという嫌がらせにより精神的苦痛を被ったとして、パワハラに基づく慰謝料を請求した事案です。

この点、裁判所は、パワハラの概念について「厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ」の平成24年1月30日付け報告書は、職場のパワハラの概念とその行為類型を次のように説明している。当裁判所もこれを適切なものとして採用することとする。

職場のパワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為または職場環境を悪化させる行為をいう。その行為類型のうち典型的なものとしては、次の①~⑥が挙げられる。

①暴行・傷害(身体的な攻撃)

②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過少な要求)

⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)」

として、厚生労働省ワーキンググループの定義を採用しました。

そのうえで、本件については、概ね「平成10年4月から平成23年3月までの約13年間にわたり、意味のある仕事をほとんど与えられなかった」と認定し、これが上記⑤の過少な要求に当たると判断しました。

そして、結論としては、慰謝料請求額500万円に対し、慰謝料として40万(弁護士費用相当額10万で計50万)の支払義務を認めました。

※一言コメント

原則論としては、使用者は、賃金さえ支払っていれば、労働者の労働力をどのように使っても自由(つまり、労働力を用いない=仕事をさせないことも可能。)とされています。この意味で、労働者には就労請求権(働かせるよう請求する権利)はない、というのが通説の理解です。しかし、これが、明らかに嫌がらせの趣旨で濫用されている場合はこの限りではなく、本件も、13年間という期間を重視して、パワハラとしての損害賠償を認めたものと思われます。

もっとも、原則論としては上記のとおりなので、全てのケースに一般化できる裁判例ではないことは念頭に置いておくべきだと思います。

※ご参考

裁判例で言及されている厚生労働省ワーキンググループの提言については以下のとおりです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000021hkd.html

 

コンビニの従業員に対するパワハラにつき、会社及び加害者の責任が認められた事例(東京地裁平成28年12月20日判決)

本件は、コンビニエンスストアに勤務していた原告労働者が、経営会社の代表者及び勤務店の店長から各種のパワハラ行為を受けたとして、加害者及び会社に対する損害賠償を請求した事件です。

本件の特徴として、認定されたパワハラ行為が多岐にわたる点が挙げられます。個々のパワハラ行為については割愛しますが、裁判所は、こうした多岐にわたるパワハラ行為について、以下のように評価しました(被告らはパワハラ行為の存在を否定していたので、これについての判断です。)。

「被告会社及び被告乙山(※会社代表者)は、原告の主張する事実の多くを否認し、その理由として、原告の主張には変遷があり、ありもしない暴行の事実を主張したり、暴行の程度を大げさに主張したりしている可能性が大きいと主張する。しかし、主張に変遷がある旨の指摘に対して、原告は、当時の捜査に対する被告乙山の認否等の経緯があった旨主張が変化した理由を説明しており、この被告乙山の認否については特段争いはない(弁論の全趣旨)のであって、かかる理由による変化を変遷と評するのは相当でない。また、ありもしない暴行の事実を主張したりしている可能性がある旨の指摘に関しては、原告が全くの虚偽を述べていることをうかがわせるような証拠は見当たらず、むしろ、被告乙山はいくつかの件を認めているし、相当数の件については客観的な証拠が存在していて、このようにして認められる事実は、相互に補強しあって、同種同様の内容で、一連一体ともいうべき本件いじめ・パワハラ全体を裏付ける意味をも有するところ、被告乙山自身も、原告に対する暴行があまりに日常化していたために細かな点で思い出せないことがある旨を警察官に述べているほどであり(<証拠略>)、被告乙山が否認している部分は、同被告の記憶が明確でなかったり、混乱したりしているか、そうでなければ、客観的な証拠から認められること以外は敢えて否認しているものと推認することができる」として、パワハラ行為の一部が認定できることをもって、一連のパワハラ行為全体を裏付けることができるという判断を示しました。

※一言コメント

基本的に、個々のパワハラ行為は別問題で、個々の行為ごとに慰謝料等の損害賠償請求権が発生するのが原則です。逆に言えば、パワハラ行為Aがあったからといって、別のパワハラ行為Bがあったとは直ちに推認できない、というのが原則だと思いますが、本件は、複数のパワハラ行為が認定できることや、訴訟における被告らの態度に鑑み、上記のような判断がなされたものと思われます。

代表取締役の言動につき、ハラスメントとして不法行為責任が認められた事例(長野地裁松本支部(平成29年5月17日判決)

本件は、被告会社の従業員だった現蔵が、在職中に代表取締役からパワハラを受けたと主張して、当該代表取締役及び会社に対して、慰謝料等の支払い当を求めた事案です。会社側はこれを争ったため、ハラスメント行為の有無が争点になりました(その他の請求については割愛します。)。

裁判所は、結論として、代表取締役による以下の発言をハラスメントと認め、慰謝料の支払いを命じました。

①原告Bに対して

(ア)「係長もいますね。女性の方もいらっしゃいます。そういう方も含めてですね、これは私がしている人事ではありませんから、私ができないと思ったら降格もしてもらいます」との発言は、原告Aと原告Bを降格候補者として挙げており、根拠もなく同原告らの能力を低くみるものである。

(イ)「人間、歳をとると性格も考え方も変わらない」との発言は、年齢のみによって原告Bの能力を低くみるものである。

(ウ)「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。50代はもう性格も考え方も変わらないから」との発言は、原告Bを含む50代のものを代表者に刃向かう者としており、年齢のみによって原告Bらの勤務態度を低くみるものである。(中略)「社員の入替えは必要だ。新陳代謝が良くなり活性化する。50代は転勤届を出せ」との発言も、原告Bを含む50代の者を被告会社の役に立たないとしており、年齢のみによって原告Bらの能力を低くみるものである。

②原告Aに対して

①の(ア)及び(ウ)は原告Aについても同様。その他、

(エ)「事務員は営業会議の日に残業みたいな仕事をしていないで、勉強会をしろ。おばさん達の井戸端会議じゃないから、議事録を作れ」との発言は、事務を担当する者が仕事をしていないと根拠もなく決めつけるものである。

(オ)「自身の夫の比べても自身の給与が高いと思わないか」との発言は、原告Aが給与に見合った仕事をしていないと根拠もなく決めつけるものである。

(カ)「倉庫に行ってもらう」との発言は、仕事内容を変更して嫌がらせをする趣旨のものである。

③原告Dについて

(キ)「俺が辞めさせた奴がなんでここにいるんだ」との発言は、原告Dを以前の会社で辞めさせた役に立たない者とする趣旨のものである。

※一言コメント

本判決のハラスメントに関する判断枠組みに特別なものはありませんが、どのような言動がハラスメントとして認定されたかの一実例としては参考になります(もっとも、言動のハラスメント該当性は、発言がなされた会話の文脈や個別事案の背景等にも影響を受ける点は留意すべきです。)。

パワハラ行為を行ったことを理由とする懲戒解雇が有効とされた事例(東京地裁平成28年11月16日判決)

本件は、部下に対するパワハラ行為を理由として懲戒解雇された労働者が、当該懲戒解雇の無効を主張して提訴した事案です。争点は、部下に対するパワハラの有無、仮にパワハラが認められるとして、これを理由とする懲戒解雇が認められるかという点でした。

裁判所は、原告がパワハラ行為を行っていたことを認定した上、「原告のB及びDに対する言動は、業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの、いずれも強い口調での罵声を伴うものであるし、Dに対しては年齢の割に役職についていないことを非難するような発言をし、Bに対しては、「お前、アホか」と言ったり、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなど、相手の人格や尊厳を傷つけるような言動に及んでいる。また、Bに対する「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」という発言は、相手にいつ仕事を辞めさせられてもおかしくないという不安を抱かせる内容であり、発言の前後の文脈を考慮したとしても、上司の地位を利用した理不尽な言動と評価せざるを得ない。」「原告のF及びEに対する言動についても、業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの、同様にいずれも強い口調での叱責を伴うものであるし、Fに対しては「今まで何も考えてこなかった」「そんな生き方、考え方だから営業ができない」「お前は生き方が間違っている」などとFのそれまでの生き方や考え方を全て否定するような発言をしているうえ、「お前は丸くない、考え方が四角い」という話をして、Fが内容を理解できずに意図を尋ねてもまともに答えずに、丸と四角の絵を何度も書かせるなどし、その結果、Fは業務中にたびたび涙を流していたというのである。また、原告は、Eに対し、「お前は嫌いだ」「話しかけるな」などと発言し、Eが原告と会話をすることや部内のミーティングへの参加を禁止したり、Eが出社後会社にいることを許さず社外で一日過ごさせるなどの行動に及び、Eが休日子どもと遊ぶ写真をフェイスブックに投稿したところ、「よく子どもと遊んでいられるな」と発言するなどして、その結果、Eが精神的に耐えがたい苦痛を感じ、適応障害に罹患するまでの状態に精神的に追い詰められていたことが認められる」として、これらの言動が理不尽に部下に精神的苦痛を与えるもので、業務上の指導の範疇を逸脱したものであるとして違法性を認めました。

そのうえで、こうした違法なパワハラ行為を理由とする懲戒解雇の相当性については、「原告は、平成26年3月末にB及びDに対するハラスメント行為により被告から厳重注意を受け、顛末書まで提出したにもかかわらず、そのわずか1年余り後に再度F及びEに対するハラスメント行為に及んでおり、短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んだ態様は悪質というべきである。また、原告による上記行為の結果、Fは別の部署に異動せざるを得なくなり、Eに至っては適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど、その結果は重大である。原告は、2度目のハラスメント行為に及んだ後も、自身の言動の問題性を理解することなく、あくまで部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず、全く反省する態度が見られない。原告は、本人尋問において、1回目のハラスメント行為後のJらによる厳重注意について、「緩い会話」であったと評しており、この点にも原告が自身の言動の問題性について軽視する姿勢が顕著に現れているというべきである。また、原告の陳述書や本人尋問における供述からは、自身の部下に対する指導方法は正当なものであり間違っていないという強固な信念がうかがわれ、原告の部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しいと判断せざるを得ない。このように、原告は、部下を預かる上司としての適性を欠くというべきである。」

「更に、上記のとおり、原告は、自身の部下に対する指導方法を一貫して正当なものと捉え、部下4名に対するハラスメント行為を反省する態度を示していないことに照らすと、仮に原告を継続して被告に在籍させた場合、将来再び部下に対するパワーハラスメント等の行為に及ぶ可能性は高いというべきである(このことは、原告を東京以外の営業所に異動させたり、グループ企業に出向させた場合にも同様に妥当する。)。被告は使用者として、雇用中の従業員が心身の健康を損なわないように職場環境に配慮する信義則上の義務を負っていると解されること、被告の所属するグループ企業においてはハラスメントの禁止を含むコンプライアンスの遵守が重視されていることを考慮すると、2度のハラスメント行為に及んだ原告を継続雇用することが職場環境を保全するという観点からも望ましくないという被告の判断は、尊重されるべきである」として、本件の懲戒解雇は有効と判断しました。

※一言コメント

認定事実によれば、原告のパワハラ行為の程度もさることながら、パワハラ行為が2度に及んでおり原告に改善の見込みがないと判断されたことが、懲戒解雇有効という結論につながっていると思われます。

パワハラ等の行為を理由とした前訴にて和解をした労働者と会社との間において、会社が前訴にて成立した裁判上の和解条項に違反したとして、労働者の会社に対する損害賠償請求が認められた事例(東京高裁平成27年8月26日判決)

本件は、前訴で成立した裁判上の和解条項について、会社がこれに違反したとして、労働者が損害賠償請求をしたという事案です。本件では、以下のとおりの和解条項

「1 被告らは、原告に対し、被告らの言動が端緒となって本件が発生したことを重く受け止め、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努めることを約束する。

2 被告Xセンターは、同被告の従業員である原告との間で和解が成立したことを、前項の文言を記載した上で同被告の全職員に回覧する等して周知させる。

3 被告らは、原告に対し、本件解決金として、連帯して70万円の支払義務があることを認め、これを、平成24年12月28日限り、原告代理人●名義の普通預金口座●に振り込む方法により支払う」

につき、1項2項がきちんと履行されたか否かという点が問題となりました。

この点、第一審は、会社側に和解契約の不履行はなかったとして労働者の請求を認めませんでしたが、控訴審は、和解成立後の会社の対応について「同会議(※本件の対応を検証するために被告会社において設置された会議)は、被控訴人Xが前訴和解後、和解条項に対して不誠実な態度をとり続け、今日に至っており、労務管理の専門家でありながら、失敗の経緯及び解決を見いだせない現状に鑑み、被控訴人Xの会長及び幹部の管理能力及び結果責任は看過できず、現状を放置することは適切ではない旨の報告をしたことが認められる。そして、先に認定した本件紛争の経緯に照らせば、上記報告書の指摘は、誠に正鵠を得たものというべきである」として、会社側の和解条項1項(再発防止に努める義務)違反を認めました。

また、2項(周知義務)についても「被控訴人Xが前訴和解で控訴人に対して約束したのは、『前訴被告らの言動が端緒となってl控訴人が前件訴訟を提起したことを重く受け止めること、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努めること』であり、周知義務は、上記約束を前提に、被控訴人Xが、前訴被告らと被控訴人Xの職員である控訴人との間で前訴和解が成立したことについて、上記文言を記載した上で被控訴人Xの全職員に回覧する等して実際に周知させることを義務として負ったものと解される。したがって、ここにいう周知義務は、上記文言を記載した書面を形式的に職員に回覧することのみを意味するものでないkとは当然である。被控訴人Xとしては、前訴和解の成立を受け、前訴被告らの言動が端緒となって控訴人が前件訴訟を提起したことを重く受け止めているとの認識及び姿勢を全職員に実際に周知させるべきであり、かつ、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努めること、これを控訴人と約束したことについて、全職員が了解可能となる程度に周知させる義務を負ったというべきである」として、周知義務の内容を具体的に認定し、会社側の義務違反を認めました。

※控訴審判決は、第一審判決よりも、和解条項を具体的・実質的に解釈して、原告(労働者)の請求を認めた点が特徴的と言えます。

上司の発言により自殺してしまった労働者について、当該発言がパワー・ハラスメントに当たるとして、上司及び会社の損害賠償責任が認められた事例(福井地裁平成26年11月28日判決)

本件は、自殺してしまった労働者Aの父親が、自殺の原因は上司のパワハラ(Aに対する発言)にあるとして、当該上司及び会社に対して損害賠償を請求した事案です。争点は、直属の上司であるC,更に上司のD、会社Y社のそれぞれについて、損害賠償責任が認められるかという点が争点となりました。

(1)Cの責任

まず、裁判所は、CのXに対する発言内容等をXが記録していた手帳について「手帳の記載は、被告Cの指導に従って、被告Cから受けた指導内容、言われた言葉やこれらを巡っての自問自答が記述されたもので、被告C自身も自分が注意したことは手帳に書いてノートに写すように指導していたこと」「(手帳の)すべての日付が被告Cをチームリーダーとして業務に従事した日であること」「(手帳の)記述内容が客観的事実と符合していること」を挙げ、この手帳に記載されたCの発言「死んでしまえばいい」「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」等が存在したと認定しました。

そのうえで、こうした発言について「仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Aの人格を否定し、威迫するもの」としたうえ、「これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得」ないとしました。そして、Cの言動によりAは正常な判断能力を阻害されて自殺に至ってしまったという労災認定における医師の診断書は信用できるとして、Cの発言と自殺との因果関係を認め、Cの損害賠償責任(死亡に伴う逸失利益等の合計約7200万円)を認めました。

(2)Y社の責任

Cの雇用主であるY社についても、Cに対する監督が不十分であることを理由に、Cと同様の損害賠償責任を認めました(民法715条に基づく使用者責任)。

(3)Dの責任

一方、Dについては、Aの作業の大半が外注先でのものであり、CのAに対する指導の実態について把握するのが困難であること、AからDに対してCからのパワハラについて訴えた事実は認められないこと、を挙げて、損害賠償責任を認めませんでした。

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