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従業員の義務に関する裁判例

従業員の義務に関する裁判例

従業員の義務に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

自宅待機を命じられた労働者に対する基本給の不払いが一定程度認められた事例(ナック事件,東京地裁平成30年1月5日判決)

本件は,不正行為を理由に自宅待機を命じられ,その後に懲戒解雇された労働者が,未払給与(残業代)等の支払を求めた事件です。争点は多岐にわたりますが,ここでは,「会社からの自宅待機命令期間中に,会社は賃金を支払う義務を負うか否か」という論点について取り上げます。

この点,裁判所は「使用者が労働者に自宅待機や出勤命令を命じて労働者から労務提供を受領することを拒んでも当然に賃金支払義務を免れるものではないが,使用者が労働者の出勤を受け入れないことに正当な理由があるときは,労務提供の受領を拒んでも,これによる労務提供の履行不能が使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるとはいえないから,使用者は賃金支払い義務を負わない」という判断枠組みを示しました。

そのうえで,本件について,「原告は,それまでにも不当営業活動を行って,始末書の提出を命じられたり,減給処分を受けたりしていたにもかかわらず,顧客に対し意図的に被告が容認しない契約内容を説明する,被告の社印を悪用して被告が容認しない念書や覚書や不実の議事録を作成する,被告の事務手続を意図的に妨げるなどの不当営業活動を繰り返し,その結果,顧客から苦情が寄せられ,また,被告のノウハウ情報の経済的価値が毀損されているおそれが生じており,懲戒解雇を含む重い懲戒処分に付することが想定されたことが認められるから,原告の不当営業活動に対する調査,証拠隠滅の防止,懲戒処分の検討及び不当営業活動の再発防止を要し,そのため原告の出金を禁止する必要があったというべきであり,被告の平成25年12月19日からの本件自宅待機は正当な理由があるというべきである」としました。

一方,続けて「ただ,無給の自宅待機や出勤停止が長期化することは労働者にとっては生活資金となる賃金を得られない一方,解雇されたわけでもないから自宅待機や出勤禁止が解除されて勤務を再開しなければならない可能性が残り,兼業や兼職も就業規則等に基づき制限される状態(中略)が継続することになって,その地位の著しい不安定を招くから,使用者としては労働者を懲戒解雇するか,懲戒解雇以外の懲戒にとどめるのか,懲戒には付さないのか,遅滞なく意思決定をすべきであり,相当期間を超えて中途半端な無給の自宅待機又は出勤禁止を継続することは許されないというべきである」として,被告の就業規則(懲戒事由につき調査する必要がある場合は,15日を限度に無給での出勤停止を命じることができる)も参照して,平成26年1月14日までは無給であることを肯定しました。さらに,民法536条2項にいう「使用者の責に帰すべき事由」(※これが認められる場合,会社側は労働者が就労していなくても賃金を支払う義務があります。)は限定的に解されることを指摘した上,1月14日以降,解雇の意思表示がなされた同月23日までの間は,賃金不払いも適法であると結論付けました。

※一言コメント

この論点は,民法等の知識がないと分かりにくい部分もあると思いますが,まとめると,

・原則:会社が労働者に自宅待機を命じた場合,賃金支払義務を負う

・例外:会社が当該労働者の労務提供を拒むことに正当な理由がある場合は,賃金支払義務を負わない。ただ,労働者に与える不利益の大きさに鑑み,無給期間は相当な範囲に限定される

というのが大枠の考え方です。

本件では,労働者の不正行為に伴い,会社側で事実調査を行う必要性が高かったこと等の事情を考慮して,賃金支払義務が否定されています。

短大教授に対する、授業を割り当てない旨の業務命令が無効と判断された事例(学校法人H学園事件、岡山地裁平成29年3月28日判決)

本件は、被告の運営する短大において平成11年から専任講師、平成19年から専任准教授として就労してきた原告が、「授業を割り当てず、学科事務のみ担当させる」等の業務命令(本件職務変更命令)を受けたことについて、当該業務命令が無効であるとしてその効力を争った事案です。

この業務命令の有効性について、被告側は、要旨「①原告が教員としての最低限の能力を欠いている」「②原告による授業の水準が低い」「③原告の授業中には菓子等(カップラーメンなど)を食べる者さえいる状況であったにもかかわらず、原告はこれを黙認等するばかりか、あまつさえ自ら学生に菓子を配る有様であった等、適切な指導をしなかった」ことを業務命令の理由として挙げていました(なお、本件の原告には視覚障害があり、授業を補佐する補佐員の関与によりこうした問題を改善できるか、という点も考慮要素となりました。)。

裁判所は「本件職務変更命令は、教員が行うべき本来的職務のうち、担当授業を免じ、研究及び学科事務に集中させるものであって、原告に対し、教員の本来的職務とは異質の負担を新たにかけるわけでもなく、何ら減給等の不利益を伴うものでもないことが認められる。原告は、本件職務変更命令は配転命令であり、職務限定合意がある原告が同意しない限り効力を有しないと主張するが、このような本件職務変更命令の内容にかんがみると、原告の主張は採用できない。しかし、前記2(1)のとおり、原告が本件利益(※「原告が本件短大で教授・指導することは、原告が更に学問的研究を深め、発展させるための重要な要素といえるから、原告が、本件短大において環境等の自己の専門分野等につき学生を教授、指導する利益(以下「本件利益」という。)と定義されています。)を有することは否定できないことによれば、業務上の必要性が存しない場合、不当な動機・目的をもってされた場合等客観的に合理的と認められる理由を欠くときには、本件職務変更命令は権利を濫用するものとして無効になるというべきである」との判断基準を示しました。

そのうえで、被告が主張する本件職務変更命令の理由として、「①原告が教員としての最低限の能力を欠いている」については、原告が行った授業に何らかの不十分な点があっても、それは教育内容改善のための各種取り組みにおいて是正されていくべき事柄であり、直ちに教員としての最低限度の教育能力を欠くことにはならないというべきであるとしました。

また「②原告による授業の水準が低い」については、「これまで、本件学科のFD会議、教授会等において、この点が正面から指摘され、検討対象となった形跡は見当たらない上、そもそも原告は、平成11年9月、被告との間で本件教員契約を締結して本件短大の教員となった後、長年にわたり生物学、環境(保育内容)等の授業を担当し、平成19年には被告により本件短大の准教授に任じられたものであるから、これは、被告が原告につき准教授としての資質、能力があると判断したことの証左である。さらに、これまでの教員同士による授業参観の内容や、学科教員会議での検討内容等を踏まえても(書証略)、視覚障害以前に、原告の資質、能力に根本的な問題があることを指摘された形跡や、それをうかがう事情は見当たらないし、本件学科内で実施されている授業アンケートの結果からも(書証略)、原告の授業は学生に一定程度指示されていたことが認められるから、原告の授業内容が、単なる遊び等であったとはいえず、学生が学習成果を上げるのに不十分な内容であったとは認められない。」と判断しました。

「③原告の授業中には菓子等(カップラーメンなど)を食べる者さえいる状況であったにもかかわらず、原告はこれを黙認等するばかりか、あまつさえ自ら学生に菓子を配る有様であった等、適切な指導をしなかった」については、「授業中の飲食の点については、前記1(15)、(16)のとおり、原告は学生らに対し謝罪し、B学長に対し本件始末書を提出するなどして再発防止を誓っているところであり、改善が見込めないとはいえない。その他の雑談、読書、睡眠、無断退出等の点については、そもそも事理弁識能力が備わっているはずの短大生の上記のような問題行動につき、その全てを原告の責に帰すべきことは適切ではない」としたうえで、今後の指導についても「本件学科内で、学生の問題行動につき、全体としてどのように指導していくか、あるいは、原告に対する視覚補助の在り方をどのように改善すれば、学生の問題行動を防止することができるかといった点について正面から議論、検討された形跡は見当たらず、むしろ、望ましい視覚補助の在り方を本件学科全体で検討、模索することこそが障害者に対する合理的配慮の観点からも望ましいものと解される」として、結論として、「被告が本件職務変更命令の必要性として指摘する点は、あったとしても被告が実施している授業内容改善のための各種取組等による授業内容の改善や、補佐員による視覚補助により解決可能なものと考えられ、本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず、本件職務変更命令は、原告の研究発表の自由、教授・指導の機会を完全に奪うもので、しかも、それは平成28年度に限ったものではなく、以後、原告には永続的に授業を担当させないことを前提とするものであるから(証拠略、弁論の全趣旨)、直ちに具体的な法的権利、地位とまでは認められないにしせよ、原告が学生を教授、指導する本件利益を有することにかんがみると、原告に著しい不利益をあたえるもので、客観的に合理的と認められる理由を欠くといわざるを得ない」として、本件職務変更命令は無効と判断しました。

※一言コメント

本判決は、短大教授である原告の「本件短大において環境等の自己の専門分野等につき学生を教授、指導する利益」を重視して、これが損なわれることになる本件職務変更命令の有効性を否定しました。

こうした考え方は、一般の雇用契約では「労働者にどのような仕事をさせるか(させないか)は、特段の定めがない義理は使用者が自由に決めてよい」というのが通常であることと比較すると差異があります。本判決は、憲法上の人権としての「教授の自由」に配慮した判断であると思われますが、この点にどこまで配慮すべきなのかは判断が分かれる可能性があるように思われるため、控訴がなされれば、控訴審での判断が注目されます。

任務懈怠を理由とした、会社から労働者への損害賠償請求が否定された事例(N社事件、東京地裁平成27年6月26日)

本件は、会社側が、元従業員に対し、在職中の任務懈怠により損害を被ったとして、労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償を請求したという事案です。争点は、労働者による任務懈怠行為の有無、会社側に生じた損害の額、任務懈怠と会社側に発生した損害の因果関係でした。

この点、裁判所は、労働者による任務懈怠行為の存在自体についてはこれを肯定しましたが、会社に生じた損害については「(原告が主張する損害)計算の前提として、原告主張の損害発生の蓋然性がどの程度あったのかを検討する必要がある。そのためには、各展示会・イベントにおける実際の原告の商談状況、各展示会・イベントでの見込み客の集客状況、競合他社の状況、原告が販売する製品の価値・機能等の概要及び製品としての魅力の程度、等の具体的状況が明らかにされるべきところ、これに関する原告の主張立証はなく、A社長の陳述書における原告主張の損害に関する陳述のみでは原告主張の損害発生の蓋然性がどの程度あったかを認めるに足りない。そうすると、原告主張の損害の発生は認められない」として、損害の発生を否定しました。

また、会社は、A社長らが労働者から受けた業務妨害がなければ会社が挙げられたであろう営業粗利益をも会社の損害として主張していましたが、これについても裁判所は「確かに、被告の任務懈怠により、周囲が支援・助力を余儀なくされ、ひいては、原告全体の業務運営が阻害されることにつながったことは認められるものの、損害発生の前提となる原告の販売計画がどのようなものであり、同計画の達成度がどのような状況にあったかについては、これを認めるに足りる証拠はない。また、売上げ達成の見込みは、原告の販売する製品の商品力、営業担当者の営業力、競合他社の状況、市場の景況感等によって左右されるものであり、これらの検討なくして増収見込みの蓋然性は明らかとはならない。そうすると、A社長の陳述書における原告主張の損害に関する陳述のみでは原告主張の損害発生自体認めるに足りない」として、上記と同様の理由づけにより否定しました。

また、労働者の任務懈怠行為と損害発生との因果関係についても「使用者は、解雇以外にもさまざまな労務管理上の措置を労働者に講ずることが可能である。一般的には、定期的な人事評価を実施して待遇に反映させるほか、当該人事評価の理由等を上司から直接説明するとともに、当該労働者の業務遂行上の問題点を指摘しつつ改善に向けた協議をすることが考えられるし、(中略)改善の見込みが乏しいというのであれば、同労働者による業務上の失敗あるいはこれに伴う損害の発生を防ぐために、同労働者に重要案件を担当させないこととしたり、配置転換を検討することなどが考えられる。また、非違行為に関しては、懲戒処分に処して改善を促すことで対応すべきであるし、解雇事由と評価できるまでの事情がない場合であっても退職勧奨は可能である。しかるに、本件解雇までの間に、上記のような対応を原告が被告に講じたことを認めるに足りる証拠はなく(中略)、原告が労務管理上の不備を放置していた状況も認められる。そうすると、対応の不手際及び労務管理上の不備によって被る不利益を甘受すべき責任が原告にある」として、因果関係についても否定し、結論として、会社から労働者に対する損害賠償請求を認めませんでした。

※一言コメント

会社に生じた損害については、主として立証不十分を理由に否定されています。一般的に、会社から労働者への損害賠償請求は認められにくいということは言えると思いますが、証拠等が十分であった場合には、異なる判断になっていた可能性も否定できないと思います。

また、因果関係の点については、上記にて損害の発生自体が否定されている以上、傍論とも言えますが、会社が取るべき労務管理の形について具体的に説示しています。

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