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雇止め(有期労働契約の打ち切り)その他労働契約の終了に関する裁判例

雇止め(=有期契約の打ち切り)その他労働契約の終了に関する裁判例

雇止め(有期労働契約の打ち切り)に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

労働契約法19条2号における「更新」とは、直近の労働契約と同一の労働条件での労働契約締結を指すと判断した事例(東京地裁令和6年4月25日判決)

本件は、定年後再雇用の労働者が有期労働契約の更新を求めた事案ですが、その中で、労働契約法19条2号の「更新」の意義が争点となりました。この点、裁判所は以下のとおりの判断を示しました。

「(1)労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。

 なぜならば、労契法19条2号は、期間満了により終了するのが原則である有期労働契約において、雇止めに客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約を成立させるという法的効果を生じさせるものであるから(同条柱書)、その要件としての「更新」の合理的期待は、法的効果に見合う内容であることを要すると解されるからである。

 また、労契法19条2号は、最高裁判所昭和61年12月4日第一小法廷・裁判集民事149号209頁(以下「日立メディコ最高裁判決」という。)の判例法理を実定法としたものであるところ、同判決は、雇用関係の継続が期待されていた場合には、雇止めに解雇権濫用法理が類推され、解雇無効となるような事実関係の下に雇止めがされたときは、「期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる。」としており、これが条文化されたものであるから、ここでいう「更新」は、従前の契約の労働条件と同一の契約を締結することをいうと解しているものと理解できる。

 さらに、更新は、民法の概念としては、契約当事者間において従前の契約と同一の条件で新たな契約を締結することをいうと解されるところ(雇用契約につき民法629条1項、賃貸借契約につき同法603条、604条、619条1項、ただし、期間については従前の契約と同一ではないと解されている。)、労働契約(労契法6条)と雇用契約(民法623条)とは同義のものと解されるから、労働契約において民法の概念と異なる解釈をとる理由はない。

 日立メディコ最高裁判決が、更新の期待の合理的な理由を肯定するに当たり、有期労働契約が従前の契約に至るまで継続して締結されてきたことを考慮要素とする一方、これが同一の労働条件によるものであったかは重視していないこと、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないことから、過去の契約関係において賃金などの労働条件に若干の変動がある場合であっても従前(直近)の労働契約と同一の労働条件で更新されると期待することに合理的な期待があるといえる場合があると考えられる。そして、ここで検討している労契法19条2号の「更新」とは何かという問題は、期待の合理的理由の考慮要素としての過去の労働条件変動を伴う契約締結が「更新」に当たるかという問題ではなく、雇止めに解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めに客観的合理的な理由がなく社会通念上相当性がない場合には従前と同一の労働条件で契約の成立を認めるという法的効果を生じさせるための要件として、どのような労働条件の契約締結について合理的期待を要求するかという問題である。したがって、日立メディコ最高裁判決が、「更新」の期待の合理的な理由を肯定するに当たり過去の有期労働契約が同一の労働条件によるものであったことを重視しておらず、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないからといって、労働者が解雇権濫用法理を類推適用されるための要件としての期待の合理性の対象となる「更新」について、従前の(直近の)労働契約と同一の労働条件ではなくてよいという帰結に直ちになるものではない。

 そして、仮に、労契法19条2号の「更新」を同一の当事者間の労働契約の締結と解し、労働条件を問わず同一の当事者間において労働契約が締結されると期待することについて合理的理由があれば解雇権濫用法理の類推適用がされるとした場合、使用者が、従前(直近)と同一の労働条件による労働契約の締結を拒否し、従前の労働契約より不利な労働条件での労働契約を提案し、労働者がこれを承知しなかった場合には、使用者の労働条件変更の提案に合理性があったとしても、雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性があるといえない限り、従前(直近)の労働契約と同じ労働条件による労働契約が成立する結果となり、有期労働契約の期間満了の都度、就業の実態に応じて均衡を考慮して労働条件について交渉すること(労契法3条1項、2項)は困難となるから、労働契約における契約自由の原則(労契法1条、3条1項、2項)に反する帰結となる。そして、このような場合において、原告主張のように、労契法19条柱書の雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性の審査において、使用者の労働条件の変更提案の合理性が斟酌され、使用者の労働条件の変更提案の合理性が肯定されるときには雇止めに客観的合理的な理由、社会通念上相当性があることが肯定され、雇止めが有効となるといった解釈をとる場合、雇止めについての解雇権濫用法理の類推適用を法制化した労契法19条柱書の適用において、その由来及び文言とは異なって、使用者による労働条件の変更提案の合理性といった考慮要素を新たに取り入れる結果となるが、そうすべき根拠は必ずしも明らかではない。無期労働契約においては、使用者が労働者に対し労働条件の変更提案を行い労働者がこれを拒否した場合に解雇するという変更解約告知について、解雇権濫用法理(労契法16条)の下、使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば解雇を有効とするという解釈は未だ定着しておらず、使用者による労働条件の変更提案の合理性審査基準が確立していない今日において、有期労働契約において使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば雇止めを有効とするという解釈を採用することは、有期労働契約における当事者の予測可能性を著しく害する結果となる。

 以上から、労契法19条2号にいう「更新」は、従前の労働契約と同一の労働条件で有期労働契約が締結されることをいうと解するのが相当である。」

学生へのアンケート結果等を理由とした雇止めが無効とされた事例(京都地裁令和5年5月19日判決)

本件は、大学の非常勤講師として就労されていた方が、学生からのアンケート結果等を理由に雇止めされたことにつき、その当否が問題となった事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、雇止めは無効と判断しました。

2 争点①(本件雇止めは労働契約法19条に違反し無効か。)について
(1)本件労働契約の更新に対する合理的期待の有無について
 被告は、原告には、そもそも、本件労働契約の更新に対する期待について合理的な理由が認められないと主張するので、この点について検討する。
 前記前提事実(3)アのとおり、本件就業規則5条1項には、学園の財政状況、業務遂行状況、勤務状況、健康状態及び教育課程編成の動向等の理由で契約更新を行わない場合がある旨明記されており、原告も、契約更新の都度、労働条件通知書にも記載された同内容を認識していたはずであること、上記認定事実イのとおり、本件大学では1年ごとに非常勤講師の適性について協議、検討し、適任者と判断した者とのみ契約更新をしていること、前記前提事実(13)イのとおり、原告の業務内容は、特定の年度における英語コミュニケーションⅠないしⅣの授業を担当するというものであって、大学に求められる4つの業務のうちの1つである教育分野の限られた一部を担当するにすぎず、短期雇用でも差支えのない業務内容であること、本件大学の担当者において原告に契約更新を期待させる言動をしたというような事情も見当たらないこと、前記前提事実(2)のとおり、本件労働契約は4回更新されたにすぎないことからすれば、原告の本件労働契約の更新に対する合理的期待の程度が高いとは認められない。
 もっとも、前記前提事実(4)ア、イのとおり、原告が担当する英語コミュニケーションⅠないしⅣという科目は、一般的に大学において第一外国語として履修対象とされることが多い英語についての科目であって、しかも、本件大学においては、学生の1年次及び2年次の必修科目とされているのであるから、仮に将来的に学園の財政状況上・教育課程編成上の問題が発生する事態になったとしても、開講されるコマ数が大幅に減らされるようなことが起こるとは容易には考え難い科目であること、前記前提事実(6)のとおり、原告は学期ごとに安定的に5ないし6コマを担当してきたことからすれば、恒常性のある業務ということもできなくはないから、4回にわたり契約更新された原告が、雇用継続に対する期待を抱いても不思議はないのであって、上記のとおり、程度が高いとまではいえないものの、原告が契約更新されると期待することについて、一定程度の合理性は認められるということができる。そこで、かかる期待の程度を踏まえて、本件雇止めの肯否について判断する。
(2)本件雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性の有無について
ア 本件アンケートの評価結果について
 被告は、本件雇止めの理由として、本件アンケートのうち教員評価の設問についての原告に対する評価結果が、いずれの項目においても、原告を除く他の教員と比べて大きく下回っていること、本件アンケートの原告に対する評価結果が、令和元年度春・秋学期と令和2年度春学期を比べた場合に、いずれの項目についても大きく悪化していることを挙げる。
 しかしながら、本件アンケートの評価結果は、そもそも、どこまで学生の真摯な意見が反映されているのかという点や、それにより教員の指導能力や勤務態度の良し悪しを判定することができるのかという点が、それらを担保する仕組みが設けられていないこともあって、必ずしも明らかでないことを指摘せざるを得ない。
 また、別紙2の上の表によれば、本件アンケートのうち教員評価の設問についての原告に対する評価結果が、いずれの項目においても、原告を除く他の教員と比べて0.43ポイントから0.96ポイント下回っていることは認められるものの、全ての項目について「大きく」下回っているとまでいうことはできず、また、原告に対する評価結果だけを見れば、全ての項目について中間の評価である3ポイント(前記前提事実(7)イ(ア)参照)は超えているのであるから、これをもって、原告に対して不利益な評価をすることの妥当性も疑問である。
 さらに、別紙2の下の表によれば、令和2年度春学期における本件アンケートの原告に対する評価結果が、いずれの項目ついても、令和元年度春・秋学期と比べて0.35ポイントから0.62ポイント悪化していることは認められるものの、全ての項目について「大きく」悪化しているとまでいうことはできず、また、令和2年度春学期における原告に対する評価結果だけをみれば、1つの項目を除いて、中間の評価である3ポイント(前記前提事実(7)イ(ア)参照)は超えているのであるから、これをもって、原告に対して不利益な評価をすることの妥当性も疑問である。
 よって、この点に関する被告の主張を採用することはできない。
イ 成績評価について
 被告は、本件雇止めの理由として、原告が、本件留意点ペーパーの内容及び趣旨を理解していないため、他の非常勤講師と比べて、学生の英語能力向上に資する授業を実施できておらず、平成29年度から令和2年度までの不合格率の平均が高水準にあると主張する。
 しかしながら、上記認定事実エないしキのとおり、原告は、教務部から指定を受けた教科書が少し難しすぎることを理解していたものの、本件留意点ペーパーに従って、教科書を中心にした授業をせざるを得なかったこと、教科書を離れてレベルを下げた問題を出題したのでは、教科書に基づいた授業をしている意味がなくなることから、教科書のレベルから大きくかけ離れない程度の問題を作らざるを得なかったこと、試験や課題については、正解・不正解が裁量の余地なく決まることから、機械的に採点し、そのまま最終成績として報告をしていたことが認められる。そうすると、原告は、本件留意点ペーパーの内容及び趣旨を理解していないどころか、むしろ、本件留意点ペーパーに忠実に従ったために、他の非常勤講師より多数の不合格者を出したものと認めるのが相当である。また、前記前提事実(8)イによれば、原告の授業を受講する学生の不合格率は、最大でも20パーセント弱であって、必ずしも多すぎるということもできない(なお、令和2年度の秋学期の不合格率は本件雇止めに際しては考慮されていない。)。
 よって、この点に関する被告の主張を採用することはできない。
(3)上記(1)における判示のとおり、原告が契約更新されると期待することについて、一定程度の合理性が認められるにとどまるものの、上記(2)における判示によれば、被告が挙げる本件雇止めの理由は全く採用することができないから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできないというべきである。
 よって、労働契約法19条2号に基づき、原告と被告との間では令和3年4月1日以降も本件労働契約が継続していることになり、原告は被告に対し労働契約上の地位を有する。

有期の労働契約について、当該期間が試用期間に当たる旨の労働者主張が認められなかった事例(東京地裁令和5年2月8日判決)

本件は、要旨、営業職員としての見習契約(有期)を締結していた労働者について、当該期間が試用期間の趣旨か否か等が争点となった事案です。

裁判所は、この争点につき、以下のとおり述べ、労働者側の主張を認めませんでした。

1 争点(1)(原告と被告との間で無期労働契約が締結されたか)について
(1)証拠(甲3、18)によれば、被告の営業職員の雇用形態等については、以下のとおりであると認められる
ア 被告においては、営業職員として採用されることを希望する者は、被告との間でアドバイザー見習候補契約(期間1か月)を締結して、研修を受け、生命保険一般課程試験の合格を目指す。
イ 被告は、生命保険一般課程試験に合格し、健康状況が良好である等の一定の条件を満たした者との間で、アドバイザー見習契約(有期労働契約)を締結する。アドバイザー見習契約については、契約期間が第Ⅰ期間(1か月)と第Ⅱ期間(3か月)に分かれている。
ウ アドバイザー見習契約の第Ⅱ期間中に、アドバイザーB(Ⅰ号給)として採用されるための格付基準(本件規程10条。本件採用基準)を満たした者は、Aアドバイザーとして、被告との間で無期労働契約を締結する。Aアドバイザーには、アドバイザーBのほかに、アドバイザーA、アドバイザーS等があるところ、アドバイザーBは、Aアドバイザーとして採用される者の最初の資格と位置付けられる。
(2)本件見習契約についても上記(1)イで認定した枠組みに従って締結されたと認められるところ、本件見習契約(甲2)においては契約期間が明示的に定められている(第Ⅰ期間は1か月間、第Ⅱ期間は最大3カ月間)から、本件労働契約は有期労働契約であると評価すべきであり、他に原告と被告との間で締結された契約はないから、原告と被告との間で無期労働契約が締結されたとは認められない。
(3)原告は、本件見習契約の期間中に本件採用基準を満たせばAアドバイザーとして採用されるから、当該期間は労働者の適性を評価するための期間であって、これを試用期間と評価すべきである旨を主張する。しかしながら、労働者の適性を把握するために有期労働契約を締結すること自体は許容されているところ、本件見習契約の期間においては、労働者の適性を評価することが予定されているとしても、さらには実態としてはほとんどの者がアドバイザーBに採用される(証人B[28])としても、本件見習契約においてはその終期が明示的に定まっている(第Ⅰ期間、第Ⅱ期間を通算すると4カ月が限度となる。)以上は、これを試用期間と解することはできないというべきである(本件では期間の満了により本件見習契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているというべきであって、最高裁平成元年(オ)第854号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号668頁の射程は及ばないと解すべきである。)。
 原告は、本件見習契約を有期労働契約と解すると、労働契約を容易に解消することが可能になるから、試用期間について積み重ねられてきた判例法理の潜脱スキームである旨主張するが、労働者の適性を把握するために有期労働契約を締結すること自体は許容されていることからすると、試用期間について積み重ねられてきた判例法理の潜脱になるとまではいえない。

雇止めに関し、初回に関しては更新についての合理的期待が認められたが、2回目以降についてはこれが否定された事例(東京地裁令和4年6月22日判決)

本件は、有期労働契約の雇止めに関し、労働契約更新への合理的期待の有無が争点となった事案です。

裁判所は、要旨以下のとおり述べ、1回目の更新については合理的期待を肯定し、以後についてはこれを否定しました。

2 争点1(更新に対する合理的期待の有無及びその期間)について
(1)平成31年3月31日時点での更新の期待について
ア 前記のとおり、本件契約に係る契約書には、更新があり得る旨の記載があったところ(前提事実(2)エ)、被告の職員であるEは、平成31年2月21日、原告に対し、本件契約が更新されるとの内容の本件メールを送信したものである(認定事実(2))。
 本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信した原告において、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、原告には、同日時点において、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。
イ 被告は、平成31年2月の時点で本件契約を更新しない旨判断し、その旨を原告にも伝えていたが、誤って本件メールを送信した、その後、更新をしない旨の連絡を原告に入れようとしたが、原告の折り返しの連絡がない等の理由で同年3月6日になってその旨を原告に伝えた等の主張をする。
 しかしながら、被告が同年2月の時点で本件契約を更新しないと判断して原告に連絡したことや、本件メールを送信したことが誤りであったことを裏付ける証拠はない。むしろ、被告の提出する証拠(乙1の2)には、同月25日の欄に「先日更新確定したが一度弊社として今後の件対応について再度検討すると伝える。」との記載があり、当該記載は、本件契約の更新が一度は被告において確定していたことを前提とするものである。加えて、原告と被告職員との間で同年3月2日及び4日に業務上の連絡を取り合っていながら、契約更新についての話が出なかったこと(認定事実(4))からすると、同月1日以降に被告において契約更新をしない旨の連絡を試みていたが、原告が折り返さないので伝えられなかったとも認め難く、かかる被告の主張も採用できない。
 以上によれば、被告においても、少なくとも本件メールを送信した時点では、本件契約の更新をするとの判断をしていたと認めるのが相当であり、本件メールの送信前から本件契約を更新しないと判断していた事実及びその旨を原告に伝えていた事実を認めることはできず、被告の上記主張は採用できない。
ウ 被告は、原告が平成31年3月9日、原告がBに対して本件契約を更新しないことにつき了承の意思表示をしていた旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、原告は同日、納得いかないが会社として難しいなら分かった旨伝えていた(認定事実(5))ものであるし、同月13日のBとの個人面談においても、雇止めになるような落ち度があるのか疑問視する趣旨の発言をするなど、本件雇止めについて納得していない態度を示していた(同(6))のであるから、原告が本件契約を更新しないことにつき了承していなかったことは明らかであり、被告の主張は採用できない。
(2)令和元年5月31日時点における更新の期待について
ア 原告は、平成31年3月31日時点だけでなく、それ以降の契約更新についても合理的期待が生じている旨主張する。
 しかしながら、本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、令和元年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。
 そして、本件メール以外に、被告において同月以降の更新につき期待させるような言動があったと認めるに足る証拠はなく、本件契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情も認められない。加えて、本件雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされていなかったことからすると、本件メールに記載のない二度目以降の契約更新について、原告が更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできない。
イ 原告は、業務内容や事業の特殊性から、本件契約は長期にわたる更新が前提となっていた旨主張するが、当該主張は一般的な介護業務・事業の性質をいうものにとどまる上、本件契約における業務の内容や事業の性質が、本件契約が原則として更新されることが予定されていたといえるだけの実質を備えていたと認めるに足りる証拠もない。就業規則(甲9)に試用期間が1か月と定められているからといって、実質的には無期雇用が前提とされていると評価することもできず、原告の上記主張は、令和元年6月以降の契約更新を期待することに合理的な理由があることを基礎づけるものとはいえない。
 また、原告は、本件契約の手続が簡便であることをもって、長期にわたる契約更新の合理的期待があった旨主張するが、本件メールの内容(認定事実(2))からは、本件契約の更新について契約書の作成が行われていたことが認められるのであって、契約更新について一定の手続がとられていたものといえるから、再面接が行われないことをもって同年6月以降の契約更新を期待することに合理的な理由があるとはいえないというべきである。
 他に前記アの結論を左右するに足る事情は認められず、原告の主張は採用できない。
(3)したがって、原告については、本件契約が令和元年5月31日まで継続すると期待することについては合理的な理由があるものと認められるが、同年6月1日以降については、契約更新を期待することについて合理的な理由があるとは認められない。

雇止めにつき、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、その効力が否定された事例(東京地裁令和4年1月27日判決)

本件は、要旨、大学の専任講師として被告と有期雇用契約を締結していた労働者について、業務中の他の職員に対する言動等を理由に雇止めがなされ、その有効性が争点となった事案です。裁判所は、労働契約法19条の適用があること(19条2号の契約更新への合理的期待)を前提とした上、以下のとおり述べ、雇止めは無効と判断しました。

(5)検討
 以上の事実関係を踏まえて,本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといえるかどうか検討する。
ア 上記(1)から(4)までで検討したとおり,原告は,合理的な理由なく一方的に感情を高ぶらせて及んだ暴力的行為に対して本件けん責処分を受けたこと(理由①),本件留学生に対する不適切な発言に対して本件厳重注意を受けたこと(理由②),A大学のオリエンテーションに複数回遅刻し,事前に欠席届を提出せず平成29年度及び平成30年度のカリキュラム編成専門部会を複数回欠席したことがあったこと(理由③),本件研究室の整理整頓を怠り,本件女性職員に対してセクシャルハラスメントを行い,学生のいるカフェテリア内で大声で叫んだことがあること(理由④)が認められ,他方,被告が本件雇止めの理由として主張するその余の事実については,認定することができない。

イ(ア)本件けん責処分の対象となった原告の暴力的行為は平成29年12月14日の出来事であり,原告の本件女性職員に対するセクシャルハラスメントは平成28年10月から平成29年1月頃までの出来事であり,原告がカフェテリア内で大声で叫んだのは平成29年8月の出来事である。前記前提事実(9)アによれば,被告は,平成29年3月31日付け有期労働契約(前記前提事実(2)オ)を更新しないときには,同年末までに原告に対してその旨を予告しなければならないところ,被告は,同年末までにこれらの出来事を把握していながら,原告を雇止めすることなく,平成29年3月31日付け有期労働契約を更新することとし,原告との間で本件労働契約を締結したものと認めることができる。
(イ)この点,B局長は,被告は,平成29年12月の時点で,同年3月31日付け有期労働契約を更新することを予定していたところ,その後,本件けん責処分及び本件厳重注意の対象となった原告の言動が発生したが,上記有期労働契約の契約期間の満了日である平成30年3月末までの期間が短く,本件留学生に対する不適切な発言に関する懲戒委員会の判断が年度をまたぐことになり,翌年度の授業の計画も決まっていたため,時期的な問題から雇止めを見送って,1年間様子を見ることとし,本件労働契約を締結したものであって,本件労働契約を締結する際には本件けん責処分及び本件厳重注意の対象となった言動は考慮できていないのであって,仮にこれらを考慮することができていれば,平成29年3月31日付け有期労働契約を更新して本件労働契約を締結することなく,雇止めにしていた可能性が高い旨の証言等をする(乙37,証人B)。しかしながら,前記前提事実(8)イのとおり,原告の担当科目の授業については,他の教員に割り当てて実施することもできるのであるから,被告において,本件けん責処分及び本件厳重注意の対象となった原告の言動,本件女性職員に対するセクシャルハラスメント並びに平成29年8月のカフェテリア内での言動を考慮すると雇止めをする必要があると判断していたのであれば,これを回避する必要があったとは認め難く,B局長の上記証言等は採用することができない。
(ウ)また,上記(1)及び(4)ウにおいて説示したとおり,本件けん責処分の対象となった暴力的行為については,被告も,本件けん責処分をもって終えるものとしていたのであり,また,原告は,平成29年1月頃にD教授から注意を受けた後は,業務上必要な範囲を超えて本件女性職員に接触することはなかったことが認められる。
(エ)以上の(ア)から(ウ)までの事情を総合考慮すると,上記(ア)の出来事を理由に本件雇止めをすることは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとはいえないというべきである。
ウ 原告の本件留学生に対する不適切な発言は,本件留学生から論文指導を求められた際に具体例を挙げて指導した場面に限られたものであって,本件全証拠を精査しても,原告が,本件厳重注意の後に,学生や留学生に対して差別的あるいは不適切な言動を繰り返したことは認められない。また,被告は,原告の本件留学生に対する不適切な発言について,軽微なもので懲戒処分を必要としないと判断したからこそ,本件厳重注意をするにとどめたものと認められる(前記前提事実(9)イ)。
 したがって,原告が本件厳重注意を受けたことを理由に本件雇止めをすることは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとはいえないというべきである。
エ また,原告について,オリエンテーションに複数回遅刻し,平成29年度及び平成30年度のカリキュラム編成専門部会を事前の欠席届を提出しないままに複数回欠席し,本件研究室の清掃・整理整頓を怠っていたことは認められるものの,上記遅刻によってオリエンテーションの実施に具体的な支障を生じさせたわけではなく,上記欠席によってカリキュラム編成専門部会の運営に具体的な支障を生じさせたわけではないことや,本件研究室が整理整頓されていないことによって被告やその職員に何らかの具体的支障が生じたことの主張立証もないことを考慮すると,これらだけでは本件雇止めをする客観的に合理的な理由とまではいい難く,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないというべきである。

塾講師の契約更新に関し、担当コマ数を削減する内容での雇用契約提示を拒否したことを理由とする雇止めが有効とされた事例(東京地裁令和3年8月5日判決)

本件は、要旨、塾講師として有期契約を締結していた労働者(原告)が、前年度よりも担当コマ数を削減した契約内容の提示を受け、これを拒否したことを理由に契約更新がされなかったこと(雇止め)について、その有効性が問題となった事案です。

裁判所は、原告が契約更新に期待を持ったことには合理性があった(労働契約法19条2号)としながらも、以下のとおり述べ、雇止めは有効と判断しました。

(1)判断枠組みについて

「労契法19条柱書前段に該当する雇止めの中には,労働者が従前と同一の労働条件での更新を求める場合において,使用者が従前とは異なる(通常は従前よりも低下した内容。)労働条件を提示し,労働者が同条件に合意しないことを理由として使用者が更新を拒絶する場合がある。労働者がその従前よりも低下した労働条件に合意する場合には,労働契約が更新されることになるが,有期労働契約の更新に対する合理的な理由があるという労契法19条2号の要件を具備する場合において(前判示のとおり,労働契約更新に対する合理的期待の存在であり,「同一の労働条件」に対する合理的期待の存在ではない。),労働者がその条件に合意しないときには,上記3において判示したとおり雇止めの問題となり,当該雇止めについて,客観的に合理的な理由及び社会的相当性という同条柱書後段の要件を具備するときは,従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされる。この場合に雇止めに至った根本的な原因は,使用者が更新に際して従前と異なる労働者が承諾できない内容の労働条件を提示したことにあるから,労契法19条柱書後段の該当性は,使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中心的に検討すべきである。具体的な判断に当たっては,従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされるという法的効果を踏まえ,使用者が従来の労働条件を維持することなく新たに提示した労働条件が合理的であることを基礎付ける理由の有無及び内容,使用者が提示する労働条件の変更が当該労働者に与える不利益の程度,同種の有期契約労働者における更新等の状況,当該労働条件提示に係る具体的な経緯等の諸般の事情を総合考慮し,使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中核として労契法19条柱書後段該当性を判断すべきである。」

(2)本件について

「(ア) 前記認定事実のとおり,平成23年度以降の原告の授業アンケート結果及びこれを踏まえた総合評価の結果は,被告東日本本部に所属するJ科講師の中で4年度にわたり最下位であり,その他の年度も最下位ではないもののそれに近似する順位であったことが認められ,原告は被告東日本本部において相対的に著しく低い評価が継続していた。被告は,原告に対し,平成28年度の基礎シリーズの授業アンケート結果が前年度から満足度が大きく低下し,平成25年度の基礎シリーズ以降も悪化傾向にあることを指摘して改善を促したにもかかわらず,原告の平成28年度の年間の授業アンケート結果は,同年度の基礎シリーズ期間中に実施されたアンケート結果から悪化したものであった。このように,原告の授業アンケート結果及びこれを踏まえた総合評価の結果は,客観的に見て相当に低い状態が継続していたものであり,次年度に向けて改善する可能性が相当程度存在したこともうかがわれない。このことに加え,平成29年度に向けて18歳人口や予想浪人数等を使用して算出した設置講座予定数は前年よりも減少していたこと,その結果,平成29年度の出講契約の締結に当たり,被告東日本本部のJ科講師のうち原告よりも授業アンケート結果や総合評価が高い講師において,当初の提案段階で授業アンケート結果及び総合評価が低いことを理由に,出講日数を軽減することも考慮した上で2コマ減を提示された講師が2名存在したこと,同年度の出講契約に向けて2コマ減と提示された被告東日本本部の講師が4名存在したことなどの事情を総合すると,被告が,原告に対し,授業アンケート結果及び総合評価が低いことを理由に平成29年度の出講契約の締結に向けて1コマ減を提示したことは,合理的理由があるというべきである。

 そして,被告の講師評価制度によれば,授業アンケート結果及び授業以外の業務に関する評価を踏まえて総合評価を数値化し,これにプラス評価及びマイナス評価を加味した上で最終評価を決定するが,マイナス評価においては,被告における各種規定やルールへの違反等の事情が考慮される。原告は,懲戒解雇事由に該当することを前提として,情状を考慮の上,一部契約解除とする本件懲戒処分を受けたところ,その時期が平成28年度出講契約の終了間際であったことから,同懲戒処分に基づき原告と被告との間の平成28年度出講契約の一部の解除はされなかった。そこで,被告は,上記講師評価制度に基づき,原告に対する本件懲戒処分をマイナス評価として考慮し,平成28年度の年間の最終評価を決定したものであり,その過程に違法,不当な点は見当たらず,本件懲戒処分によって平成28年度の年間の最終評価が一層低下したことを理由に,被告が平成29年度の出講契約に向けて当初からさらに1コマ減(ママ)したことには合理的理由があるというべきである。

 そうすると,被告が,原告に対し,被告の講師評価制度に基づき,当初は授業アンケート結果及び総合評価を基に1コマ減を提示し,平成29年度出講契約締結に向けた交渉が行われている中で原告がマイナス評価に相当する懲戒事由該当行為を行い,本件懲戒処分の内容である一部契約解除が実際にはされなかったことも踏まえ,本件懲戒処分によって平成28年度の年間の最終評価が一層低下したことから,被告が原告に対し,平成29年度の出講契約に向けて当初から更に1コマ減とする内容の本件コマ数減提示をしたことは,合理的であると評価することができる。

(イ) また,被告が原告に対し最終的に提示した契約内容は,Hコースよりも授業時間が短く授業単価も低いI科の2コマの減少であり,提示した合計コマ数も6コマであること,平成23年度から平成26年度までの4年間は合計7コマを担当する出講契約であったこと,本件コマ数減提示による前年度からの減収幅は平成26年度の出講契約の更新の際に生じた減収幅よりも大きいものではあるが,本件コマ数減提示での月額の基本賃金は同年度の出講契約における基本賃金よりも高額であること,原告が月額の基本賃金が低下した平成26年度以降に被告予備校以外の私立学校で兼業し被告からの給与以外に収入を補填していたことなどの事情を総合考慮すると,本件コマ数減提示は,原告に多大な経済的影響を与えるものとまではいえず,被告予備校での出講を経済的な基盤とする原告に生じる不利益の程度に一定程度配慮した提示であったと評価することができる。

 加えて,前記認定事実によれぱ,原告は,受験予備校を主たる事業とする被告において23年間勤務し,被告における講師評価制度について熟知していたものであり,過去にも授業アンケート結果を踏まえてコマ数減を提示され面談を実施した経験を有していた中で,平成28年度の基礎シリーズ後に授業アンケート結果に関する指導を受け,それでもなお評価の向上が見られなかったことから,被告において同年度末に次年度の出講契約に向けた面談の機会を設けていたにもかかわらず,一方的に正当な理由なく面談を拒否するだけでなく,本件名刺を配布し,被告が当初の提示として1コマ減を提示した際には,原告と被告との間で何らの協議も行われていない中で,突如,「労働組合への加入と裁判の準備を進めております。」「とてもワクワクしております。人生の終わりにこのようなチャンスを与えて下さったことに心より感謝申し上げます。」などと一方的に自らの主張を誇示するかのような態度に出た上,本件懲戒処分を踏まえて被告が最終的に本件コマ数減提示を行った際には,被告が話合いを希望するのであれば機会を設ける旨申し出たにもかかわらず,具体的な協議を求めなかったことが認められる。以上の諸事情を総合すると,被告の原告に対する本件コマ数減提示に係る説明及び対応に違法,不当な点があったとはいうことはできない。

(ウ)以上に判示した事情,殊に,被告が原告に対し従来の労働条件より低下する内容を提示した本件コマ数減提示は,客観的に合理的であることを基礎付ける理由が認められるともに,他の有期労働者である講師との間でも均衡を欠くものではなく,原告の不利益の程度にも配慮された内容であり,提示に至るまでの具体的な経緯に違法,不当な事情も見当たらないことなどの事情を総合考慮すると,本件コマ数減提示は,客観的合理性があり,社会的相当性を有するというべきである。」

勤務態度が良好でないこと等を理由とする雇止めが無効とされた事例(東京地裁令和3年7月6日判決)

本件は、他店(家電量販店)での販売促進業務等に従事することを前提に、被告と有期の労働契約を締結し、5回の労働契約更新がなされた労働者が、雇止めの有効性を争った事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、雇止めは無効と判断しました。

1 争点1(本件労働契約の更新に対する合理的期待)について
 本件雇止めまでに本件労働契約が5回にわたり更新されていることは当事者間に争いがない。被告は,本件労働契約に係る業務(家電量販店における販売促進業務)について,時季ごとの一時的な需要に応じて人員の増減を要するものであることを主張するが,かかる主張を基礎付ける具体的事実の主張立証はない。そうすると,原告において,本件労働契約の期間満了時(令和元年12月末日)に,本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる(労働契約法19条2号)。
 これに対し,被告は,原告の勤務態度に問題があることを度々注意指導しており,原告において本件労働契約が更新されない可能性があることを十分理解していた旨を主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない(この点については後記2において詳述する。)。
 また,被告は,原告がC□□店での勤務に否定的であり異動を希望していた旨を主張するが,当該事実を前提としても,原告は被告との雇用関係が存続することを前提に勤務場所等の変更を希望していたものというべきであるから,本件労働契約の更新に対する期待の合理性を何ら左右するものではない。
2 争点2(本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性)について
 被告は,原告が出勤の打刻を失念することが頻繁にあった旨を主張するが,証拠(乙4の1~10,乙6。なお,乙5により原告が出勤の打刻を失念した事実を認めることはできない。)によれば,原告の打刻忘れはいずれも令和元年5月までのことであり,その後,本件労働契約が2回更新されていることに照らすと,当該事実が本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性を基礎付けるものとはいえない。
 また,被告は,原告が,①被告から休日に業務連絡の電子メールを受信したことについて激高し,「休みの日にメールしてくるんじゃねえ。」と連絡を拒絶したこと,②Bの従業員(D)が他社の従業員に協力を要請したことについて,不平不満を強硬に主張したこと,③商品販売に関する指示に従わず,そのことを注意されると記憶にないなどと大声で叫んだこと,④A本社で行われた研修の際,Bの従業員(E)が他社の従業員に原告の時給が高額であると発言したとして,Eがどこにいるのかと大声でわめいたことを主張するが,原告がかかる感情的な言動に及んだ事実を認めるに足りる証拠はない。
 さらに,被告は,原告が自らの勤務態度や知識不足等について繰り返し指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかったと主張し,その証拠としてBや被告の従業員が送信した電子メール(乙1,2,7,8)を提出するが,これらのうち乙第1号証・第2号証については,そもそも原告の勤務態度等に問題がある旨が指摘された事実を認めることができず,乙第7号証・第8号証によれば,Aの会議等において原告の接客方法が問題視された事実が認められるものの,それを踏まえて原告に対し指導がなされた状況や指導を受けた原告の対応に関する証拠はなく,原告が勤務態度等について指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかった事実を認めることはできない。
 そうすると,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものというべきである(労働契約法19条柱書)。

初回の契約期間満了後の雇止めが無効とされた事例(和歌山地裁令和2年12月4日判決)

本件は、被告と平成27年7月21日~平成28年3月31日までとする有期雇用契約を締結し、被告が経営する学校の開校(平成28年4月1日)準備作業に携わっていた教員が、初回の契約期間満了時に雇用契約を更新されなかったことについて、雇止めの無効等が争われた事案です。

裁判所は以下のとおり述べ、雇止めは無効と判断しました。

 2 争点1(本件雇止めの有効性)について

  (1)本件雇用契約の更新について合理的な期待があるか

  原告は、開校後に本件高校の野球部の総監督となる予定であったP4総監督から同校の野球部部長となることを打診され、Y学園長からもP4総監督の推薦を理由に勤務を依頼された上で、前職を辞して本件雇用契約を締結していること(前記1(1)イから工)、原告は、硬式野球部部長及び地歴公民の常勤講師を具体的な業務内容として本件雇用契約を締結していること(前提事実(2)()及び())、同契約において契約の更新を行う場合の考慮要素が定められていたこと(前提事実(2)())に照らすと、原告及び被告は、原告が本件高校の開校準備業務のみに従事するものではなく、本件雇用契約の期間満了後に本件高校が開校したときには、上記考慮要素を踏まえた判断を経た上ではあるものの、本件雇用契約を更新し、原告が野球部の部長として野球部に所属する生徒の指導を行うとともに地歴公民の授業を担当することを予定していたというべきである。

  そうすると、本件雇用契約に関する雇用契約書では、契約更新の有無について「自動的に更新する」、「更新する場合があり得る」及び「契約の更新はしない」の選択肢から「更新する場合があり得る」が選択されていた(前記1(2)ア及びイ)とはいえ、本件高校が予定どおり開校される限り、本件雇用契約に関し、期間満了時である平成28331日における更新は締結時から予定されていたものというべきであり、そのことについて原告には合理的な期待があったと認められる。

  (2)本件雇止めについて客観的に合理的な理由及び相当性があるか

  本件雇用契約において、契約の更新に関する考慮要素が定められていたこと(前提事実(2)())に照らすと、本件雇止めに係る合理的な理由及び相当性の判断についても、所定の考慮要素、具体的には、原告の勤務成績、態度、職務遂行能力、従事していた業務の進

捗状況及びコミュニケーション能力の観点からみて、同人に問題があったか否かが重視されるというべきである。

 ア 普段の勤務態度

  ()原告には、被告が作成した名刺について不満を述べた上、そのことを本来は被告に対して生徒募集活動の結果を報告するための書類である営業報告書に記載していたこと(前記1(4))通勤手当として交通費の支給を受けていた(前提事実(2)()b(b))にもかかわらず、本件高校の校舎内で頻繁に寝泊まりをしていたこと(前記1(4))営業報告書の連絡先、顧問の氏名、所属部員数等の基本的な情報について「?」として具体的な記載をしていなかったこと(前記1(3)())があり、これらが勤務態度として適切であったかについては疑問がある。

  しかしながら、名刺に対する不満(①)については、被告が新たな名刺を作成し直していること(前記1(4))も踏まえると、その指摘自体は相当なものであったとみられる。本件高校の校舎での寝泊まり(②)については、被告がこれを止めるように指導した実績はなく、Y学園長においては、これを現認した際、特段の注意をすることなく飲食物の差入れをして

いること(前記1(4))に照らすと、被告は、このような原告の行動を問題にしていたとは認められない。営業報告書の記載(③)については、原告が営業活動の結果をP4総監督に対して報告しており(前記1(3)())、被告が原告に対して記載内容の改善等を求めていたことがうかがえないことに照らすと、被告は、このような報告の態様に特段問題があるとは考えていなかったと認められる。

  したがって、これらの事実をもって直ちに本件雇用契約の更新を拒絶する客観的合理的な理由に当たるとはいえない。

  ()原告が堺市で行われた学校説明会に本件高校の教頭が参加しなかったことを批判する発言をしたことは認められる(前記1(3)())が、具体的な内容や状況等が明らかではないことに照らすと、本件雇用契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるとは

いえない。

  ()被告は、原告について、言葉遣いが荒く、トラブルが絶えず、上司から注意を受けてもこれを改めなかった、②本件学校を訪問した取引先の者に対して不適切な対応をした、③事前に決裁が必要であるにもかかわらず、無断で備品を購入し、事後に代金の請求を行うことがあった、④稟議制度や営業報告書の提出について不満を述べていた、⑤営業活動を禁止され、校内勤務を命じられたにもかかわらずこれに従わなかった、⑥出張命令簿等の必要書類を提出しなかったなどと主張するが、いずれも認めるに足りる証拠は存在しない。

 イ 交通事故について

  ()原告が生徒募集の営業活動の際に交通事故を起こしたこと(前記1(5))に争いはないものの、事故の原因が明らかでなく、これについて被告が原告に対して処分や注意をしていない(人証略)ことに照らすと、本件雇用契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるとはいえない。

  ()原告が上記事故で平成27821日から同月24日まで人院し、業務に従事できなかったことは認められる(前記1(5))が、これによって被告の業務遂行に特段の支障があったことはうかがえず、本件雇用契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たると

はいえない。

 ウ 静岡での面談について

  原告が平成27122日午前8時にQ2校においてY学園長と面談するという業務命令を履行することができなかったことは認められる(前記1(6))ものの、被告が原告に対してQ2校への出張を命令したのは前記指定日時の2日前であったこと、既に原告には前日及び当日にも業務の予定が入っていたこと、それらについて被告による引継ぎなどの調整や指示はなかったこと(前記1(6)ア及びイ)に照らすと、原告が前記日時に遅刻したことに関しては、被告側の対応にも原因があったというべきである。そうすると、原告が遅刻したという事実を殊更に重視し、本件雇用契約の更新を拒絶することは、社会通念上相当性を欠くといわざるを得ない。

エ 小括

したがって、以上に加え、P4総監督及びY学園長が原告の勤務態度には問題がなかったと述べていること(人証略)Y学園長は、本件雇止めにおいて、原告が被告の他の職員とコミュニケーションを取れていなかったことを最も重視したと述べる(人証略)が、そのような事実を認めるに足りる証拠がないことを踏まえると、前記アからウで検討した事実、高校生の教育に携わるという業務の特質等を総合的に評価したとしても、被告が本件雇用契約の更新を拒絶することは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められ

ない。」

有期労働契約を7回更新した事例で、次回の更新についての合理的期待が否定された事例(東京地裁令和2年10月1日判決)

本件は、これまでに7回にわたり有期労働契約が更新されていた(通算の契約期間は5年超)ものの、8回目の更新がなされなかったことについて、労働者側が、更新に合理的期待が認められるとして、雇止めの有効性を争った事案です。

裁判所は、本件がいわゆる実質無期型には当たらないことを前提に、以下のとおり述べ、後進についての合理的期待を否定しました。

労働契約8の満了時,原告と被告との間の労働契約の契約期間は通算5年10箇月,有期労働契約の更新回数は7回に及ぶものであった(第2の1(2))。
 他方で,原告と被告との労働契約では,毎回,必ず契約書が作成されており,契約日より前に,被告の管理職から原告に対し,契約書を交付し,管理職が原告の面前で契約書全部を読み上げて契約の意思を確認する手続を取っていた(1(2)(6)(8))。また,労働契約1から7までの契約書に定められた勤務地は東京ベイエリア支店の流通センター事業所であり,契約書に定められた勤務内容はAの商品配送の事務作業であり,労働契約1を締結した当初から,契約書には更新時の業務量が更新の判断基準であることが記載され,労働契約5から7までの契約書には,契約は契約書記載の勤務地で,契約書記載の業務を遂行するためのものであり,これが消滅縮小した場合は契約を終了することが記載されていた(第2の1(2))。そして,労働契約1から7までの契約期間中に原告が現実に担当していた業務は,契約書どおり東京ベイエリア支店の流通センター事業所におけるAの商品配送業務の事務作業であり,それ以外の顧客の業務は5%以下であったこと,Aの商品配送業務は,被告が顧客のAから単年度ごとの入札を経て受注していたものであった(1(1)イ,(4)ア)。以上からすれば,労働契約1から7までは,流通センター事業所におけるAの商品配送業務を被告が受注する限りにおいて継続する性質の雇用であり,そのことが原告に対し明示されていたといえる。
 そして,被告は,平成29年5月頃にAの商品配送業務を受注できず,それにより,同年8月末日をもって流通センター事業所の閉鎖を余儀無くされ,原告が従事していた業務がなくなることとなったため,直近4年間の労働契約3から6までは,7月1日開始の期間1年の契約であったのに,次期の労働契約7は,Aの受注の終期と同じく,同年7月1日から同年8月31日までの期間2箇月の契約となった(第2の1(2),第3の1(4)イ)。そして,期間2箇月の労働契約7を締結する前に,原告は,被告の管理職から,被告がAの業務を受注できなかったこと,そのため流通センター事業所の業務が同年8月末までで終わり,次期契約は同業務が終了するまでの期間2箇月の契約となること,その後の更新はされないことの説明を,個人面談も含めて2回以上受け,雇止めの際は失業保険給付までの期間を最短とするため会社都合とすることや,被告に代わってAの業務を受注した後継業者(G)への移籍もできることが説明され,後継業者との面接を希望するか否か意思を確認され,後継業者との面接を行った(1(5))。労働契約7の締結時には,管理職が,原告に対し,不更新条項を設けた契約書の読み上げを行い,原告は,被告の管理職から,契約書とは別に説明書面を交付され,同書面に基づいて,次回の更新はしないこと,明示された勤務地,勤務場所及び従事業務に限定された雇用であること,これがなくなったり,縮小した場合には,契約を終了する可能性があることの説明を受けたほか,更新はないのかとの原告の質問に対し,管理職から,「有期雇用契約社員には雇用上限が設けられているため,仮に,平成29年9月以降に別の事業所で働くとしても,ずっと被告で働くことはできない。」旨の説明を受けた(1(6)ア)。また,原告が後継業者への移籍を希望せず,被告の別の事業所での労働契約を希望したことを受けて,被告から,原告に対し,別の支店の事業所を就業場所とする労働契約8が提案され,期間7箇月の労働契約8が締結されることになったが,労働契約8の締結前には,被告の管理職が,原告と面談し,不更新条項が設けられた契約書を読み上げたほか,次回以降の雇用契約は締結しないこと,更新年数の上限は期間満了日であり,今回の契約で雇用契約は終了すること,雇用契約は,明示された勤務地,勤務場所及び業務に限定された雇用であること,これがなくなったり,縮小した場合には,契約を終了する可能性があることなどが記載された説明書面を交付して,同書面に基づき説明を行った(1(8)ア)。
 以上の各事実からすれば,労働契約1から7までは,流通センター事業所におけるAの商品配送業務を被告が受注する限りにおいて継続する性質の雇用であったところ,被告が同業務を受注できず事業所を閉鎖して撤退するに至ったため,労働契約7の締結前に,原告が,被告の管理職から,被告がAの商品配送業務を失注し事業所を閉鎖する見込みとなり,次期契約期間満了後の雇用継続がないことについて,個人面談を含めた複数回の説明を受け,被告に代わりA業務を受注した後継業者への移籍ができることなどを説明され,契約書にも不更新条項が設けられたことにより,労働契約7の締結の時点においては,それまでの契約期間通算5年1箇月,5回の更新がされたことによって生じるべき更新の合理的期待は,打ち消されてしまったといえる。そして,労働契約8締結時も,契約書に不更新条項が設けられ,管理職が,原告に対し,契約期間満了後は更新がないことについて説明書面を交付して改めて説明を行ったことにより,合理的な期待が生じる余地はなかったといえる。
 したがって,労働契約8の期間満了時において,原告が,被告との有期労働契約が更新されるものと期待したとしても,その期待について合理的な理由があるとは認められない。

事前に案内されていた更新上限回数を超えての更新につき、合理的期待が認められないとされた事例(仙台地裁令和2年6月19日判決)

本件は、被告との間で期間1年の有期雇用契約を締結、更新を計4回繰り返し、被告の運営する介護施設で就労していた労働者が、5回目の契約更新を拒否されたことについて、雇止めの無効を主張した事案です。

裁判所は、以下のとおり述べ、雇止めを有効と判断しました。

「①本件募集要項には、勤務条件のうち更新・雇用期限等として「1年間の有期労働契約。勤務成績により更新は4回まで可能。」と明記されていたこと、②原告は、本件募集要項の内容を確認し、本件募集要項に基づいて応募をしたこと、③採用面接の際、原告がZ3課長から雇用期間が1年間であり、契約更新の回数が4回までであり、5年間が限度であると説明を受けていたこと、④本件契約の雇用契約書において、「更新期間」は「指定管理期間終了まで(最長4回まで更新可)」と記載されており、原告が当該契約書に署名押印していたこと、⑤本件契約の更新について、契約更新ごとに雇用契約書が作成されており、平成26年度ないし平成28年度の更新時の雇用契約書において、「更新期間」は「最長4回まで更新可能」との記載がされており、原告がそれぞれの雇用契約書に署名押印していたこと、⑥平成29年度の雇用契約書において、「契約を更新する可能性 無し」、「更新期間」は「―」と記載がされており、原告が当該契約書に署名押印していたこと、以上の事実が認められる。

 これらの事実によれば、原告は、被告に採用される当初から雇用契約の更新回数が最長4回までであり、雇用期間が最大5年間であることを認識して、本件契約を締結していたものであり、その後の本件契約の更新についても、更新ごとに雇用契約書が作成され、その度に更新回数の最長が4回までであることについて明記がされ、最終更新年である平成29年度には雇用契約の更新を行わない旨が明記されていたことからすると、特段の事情がない限り、原告において、雇用契約の更新4回、雇用期間5年を超えて更に本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認めることはできない。」

特定のプロジェクトに従事するものとして雇用された労働者の雇止めが無効とされた事例(高知地裁令和2年3月17日判決)

本件は,システムエンジニアの労働者が,被告(大学)にて技術職員として有期雇用され,その雇止めの有効性が問題となった事案です。この雇用契約においては,労働者が「DNGLプロジェクト」に従事することが前提とされていました。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,契約更新への合理的期待(労働契約法19条2号)を認めました。

※結論として,雇止めを無効としました(通算契約期間が5年を超えたため,無期雇用への転換も認めました。)

1 契約締結時の期待

「上記2(1)のとおり,本件労働契約は,DNGLプロジェクトを前提として,最長でも同プロジェクト終了時までを契約期間として予定していた有期労働契約であると認められる。

 そして,Z3主幹は,本件労働契約締結前である平成24年12月13日,原告に対し,DNGLプロジェクトは平成24年度を含め7年間である旨をメールで説明していたこと(上記認定事実(2)キ),原告は,同年11月7日の時点で,7年後には,DNGLプロジェクトに係る業務が完了することを認識していたこと(上記認定事実(2)オ),Z5副学長との面談及び平成25年8月20日の面談において,Z5副学長は,原告に対し,6年間の雇用継続を約束する旨の提案や,まずは1年間の契約でもどうかといった提案をしたこと(上記認定事実(4)エ,オ),本件労働契約締結時に交付された労働条件通知書には契約を更新する場合があると明記されたいたこと(前記前提事実(2)ア)などが認められる。

 以上を総合すれば,本件労働契約締結時において,原告は,本件労働契約の期間は5か月であるものの,契約期間満了時に更新され,DNGLプロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続されるという期待を抱いたものと認めることができる。そして,DNGLプロジェクトが国からの補助金を受けて実施される事業であり,複数の大学法人によって共通の大学院を設置するもので,5年一貫の大学院教育を施すべく,毎年新規の学生を募集するものとなっていたというDNGLプログラムの性質上,補助金交付が終了した後も,何らかの枠組みで大学院教育課程の継続が想定され得たことからすれば,DNGLプロジェクト自体が途中で終了するとは予想し難かったといえる。また,当時の学長であったZ6学長の意向を踏まえて,後に学長になったZ6学長の意向を踏まえて,後に学長になったZ5副学長が,自ら,DNGLプログラムの責任者として,6年間の契約期間の提案を行った等を考慮すれば,被告大学外から招聘された立場にあった原告にとって,DNGLプロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続されると期待したことには,合理的な理由があるというべきである。」

2 契約期間満了時の期待

「本件労働契約は,DNGLプロジェクトを前提として,最長でも同プロジェクト終了時までを契約期間として予定していた有期労働契約であると認められ(上記2),原告も,本件労働契約締結時において,本件労働契約はDNGLプロジェクト終了時まで継続することを期待していたことが認められる(上記3(1))。そして,契約締結前は維持しようと考えていた神奈川の住居を平成25年10月中に引き払い,高知に生活の拠点を移したこと(上記認定事実(4)カ),実際に原被告間でDNGLプロジェクトが実施されている期間中3回にわたって労働契約の更新が行われたこと(前記前提事実(2)イ),原告は,Z3主幹から,平成29年2月,同年4月以降の契約を1年契約にするのか,当初約束していた平成31年3月までの2年契約にするのかを人事担当部署とDNGLプログラム責任者(人証略)と相談の上,進めて行きたいとのメールを受け取ったこと,平成30年3月31日時点において,DNGLプロジェクトが同年4月1日から平成31年3月31日まで実施されることが決定しており,原告もこれを認識していたこと(前記前提事実(3),上記認定事実(1))からすれば,原告は,本件労働契約の契約期間が満了する平成30年3月31日時点において,労働契約が更新され,被告大学において勤務を継続できる旨の期待を抱いていたと認めるのが相当である。」

有期労働契約において,更新を原則として5年とする旨の規定に基づく雇止めの有効性が否定された事例(福岡地裁令和2年3月17日判決)

本件は,昭和63年に入社後,期間1年の有期雇用契約を29回に渡り更新してきた労働者が,雇止めの無効を主張した事案です。被告会社では,平成20年に「雇用契約の期間が契約開始から通算して5年を超える場合は,以後,原則として更新はしない」旨の就業規則が設けられており,当該ルールとの関係も問題となりました。

裁判所は,争点について要旨以下のとおり述べ,原告の主張を認容しました。

1 労働契約終了の合意があったか否か

「(1)被告は,平成25年4月1日付の雇用契約書において,平成30年3月31日以降は契約を更新しないことを明記し,そのことを原告が承知した上で,契約書に署名押印をし,その後も毎年同内容の契約書に署名押印をしていることや,転職支援会社への登録をしていることから,原告が平成30年3月31日をもって雇用契約を終了することについて同意していたのであり,本件労働契約は合意によって終了したと主張する。
 確かに,原告は,平成25年から,平成30年3月31日以降に契約を更新しない旨が記載された雇用契約書に署名押印をし,最終更新時の平成29年4月1日時点でも,同様の記載がある雇用契約書に署名押印しているのであり,そのような記載の意味内容についても十分知悉していたものと考えられる。
 (2)ところで,約30年にわたり本件雇用契約を更新してきた原告にとって,被告との有期雇用契約を終了させることは,その生活面のみならず,社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり,その負担も少なくないものと考えられるから,原告と被告との間で本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり,これを肯定するには,原告の明確な意思が認められなければならないものというべきである。
 しかるに,不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは,原告にとって,本件雇用契約が更新できないことを意味するのであるから,このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって,直ちに,原告が雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない。
 また,平成29年5月17日に転職支援会社であるキャプコに氏名等の登録をした事実は認められるものの,平成30年3月31日をもって雇止めになるという不安から,やむなく登録をしたとも考えられるところであり,このような事情があるからといって,本件雇用契約を終了させる旨の原告の意思が明らかであったとまでいうことはできない。むしろ,原告は,平成29年5月にはεに対して雇止めは困ると述べ,同年6月には福岡労働局へ相談して,被告に対して契約が更新されないことの理由書を求めた上,被告の社長に対して雇用継続を求める手紙を送付するなどの行動をとっており,これらは,原告が労働契約の終了に同意したことと相反する事情であるということができる。
 そして,他に,被告の上記主張を裏付けるに足る的確な証拠はない。
(3) 以上からすれば,本件雇用契約が合意によって終了したものと認めることはできず,平成25年の契約書から5年間継続して記載された平成30年3月31日以降は更新しない旨の記載は,雇止めの予告とみるべきであるから,被告は,契約期間満了日である平成30年3月31日に原告を雇止めしたものというべきである。」

2 更新への期待

「(1) 原告は,昭和63年4月に新卒で被告に入社した以降,平成30年3月31日に雇止めとなるまでの間,九州支社の計画管理部において経理業務を中心とした業務に携わり,本件雇用契約を約30年にわたって29回も更新してきたものである。この間,被告は,平成25年まで,雇用契約書を交わすだけで本件雇用契約を更新してきたのであり,平成24年改正法の施行を契機として,平成25年以降は,原告に対しても最長5年ルールを適用し,毎年,契約更新通知書を原告に交付したり,面談を行うようになったものである。
 このような平成25年以降の更新の態様やそれに関わる事情等からみて,本件雇用契約を全体として見渡したとき,その全体を,期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには,やや困難な面があることは否めず,したがって,労働契約法19条1号に直ちには該当しないものと考えられる。
(2)ア そこで,原告に本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか否か(同条2号)について検討を進めるに,まず,被告は,原告が昭和63年4月に新卒採用で入社した以降,平成25年まで,いわば形骸化したというべき契約更新を繰り返してきたものであり,この時点において,原告の契約更新に対する期待は相当に高いものがあったと認めるのが相当であり(原告が定年まで勤続できるものと期待していたとしても不思議なことではない。),その期待は合理的な理由に裏付けられたものというべきである。また,被告は,平成25年以降,原告を含めて最長5年ルールの適用を徹底しているが,それも一定の例外(例えば,原告に配布された「事務職契約社員の評価について」(甲17)には,「6年目以降の契約については,それまでの間(最低3年間)の業務実績(目標管理による評価結果・査定)に基づいて更新の有無を判断する。」とされているなど)が設けられており,そのような情報は,原告にも届いていたのであるから,上記のような原告の契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったということはできないのである。
イ 他方,原告は,αから,前記1(4)アの④ないし⑦の説明を受けていない,あるいは,α,β又はδなどから,契約更新は大丈夫である旨の話を聞いたなどと主張し,その旨の供述をするところ,雇用期間を5年に限る旨説明にやって来たαが,上記④ないし⑦の説明をしないとは考え難いし,まして,原告の契約更新を肯定するような発言をすることは考え難いことである。また,βらにおいても,軽々にそのような発言ができる立場にあるとは認め難いのであり,原告の上記供述は採用し難いものである。
 しかし,前記アのとおり,原告は,既に平成25年までの間に,契約更新に対して相当に高い期待を有しており,その後も同様の期待を有し続けていたものというべきであるから,原告が契約更新に期待を抱くような発言等が改めてされたとは認められないとしても,原告の期待の存在やその期待が合理性を有するものであることは揺るがないというべきである。
ウ したがって,原告の契約更新に対する期待は,労働契約法19条2号により,保護されるべきものということができる。」

3 雇止めの正当性(客観的合理的な理由及び社会通念上の相当性)

「(1)被告は,九州支社が長年赤字状態にあり,人件費の削減を行う必要性があったこと,九州支社には計画管理部の他に原告が従事できる業務は存在しないこと,原告の担当していた業務が人員を1名必要とするほどのものではなく外注によってもまかなえるものであったことなどを主張するとともに,原告に対する評価は,期待水準通りといったものであるばかりか,コミュニケーション能力に問題があることが繰り返し指摘されており,原告のコミュニケーション不足が原因でグループ会社の担当者からクレームが来たこともあったことなどを指摘する。
 (2)ところで,被告の主張するところを端的にいえば,最長5年ルールを原則とし,これと認めた人材のみ5年を超えて登用する制度を構築し,その登用に至らなかった原告に対し,最長5年ルールを適用して,雇止めをしようとするものであるが,そのためには,前記3で述べたような原告の契約更新に対する期待を前提にしてもなお雇止めを合理的であると認めるに足りる客観的な理由が必要であるというべきである。
 この点,被告の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性というおよそ一般的な理由では本件雇止めの合理性を肯定するには不十分であると言わざるを得ない。また,原告のコミュニケーション能力の問題については,上記(1)に述べるような指摘があることを踏まえても,雇用を継続することが困難であるほどの重大なものとまでは認め難い。むしろ,原告を新卒採用し,長期間にわたって雇用を継続しながら,その間,被告が,原告に対して,その主張する様な問題点を指摘し,適切な指導教育を行ったともいえないから,上記の問題を殊更に重視することはできないのである。そして,他に,本件雇止めを是認すべき客観的・合理的な理由は見出せない。
 なお,被告は,転職支援サービスへの登録をしたり,転職のためパソコンのスキルを上げようとしていたにもかかわらず,雇用継続を要求することは信義則上許されないとも主張するが,前記2(1)で検討したとおり,雇用継続を希望しつつも,雇止めになる不安からそのような行動に出ることは十分あり得ることであって,信義に反するものということはできない。
(3)以上によれば,原告が本件雇用契約の契約期間が満了する平成30年3月31日までの間に更新の申込みをしたのに対し,被告が,当該申込みを拒絶したことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないことから,被告は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる。
(4)そうすると,原・被告間では,平成30年4月1日以降も契約期間を1年とする有期雇用契約が更新されたのと同様の法律関係にあるということができる。そして,原告は本件訴訟において,現在における雇用契約上の地位確認を求めていることから,その後も,有期雇用契約の更新の申込みをする意思を表明しているといえる。他方,被告は,原告の請求を争っていることから,それを拒絶する意思を示していたことも明らかであるところ,争点(2)及び(3)で説示したところと事情が変わったとは認められないから,平成31年4月1日以降も,被告は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で,原告による有期雇用契約の更新の申込みを承諾したものとみなされる。」

事務職員としての有期雇用契約について,期間満了時の雇止めが有効とされた事例(那覇地裁令和元年11月27日決定)

本件は,クリニック等にて事務職員として,2年間の有期雇用契約にて採用された労働者が,その期間満了後に,改めて5か月間の有期雇用契約を再度締結したものの,当該契約の終了後に雇止めされたことについて,その有効性が問題となった事案です。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,雇止めは有効と判断しました。

「前提事実及び認定事実によれば,債権者(※労働者のこと)は,看護師として採用されたものであり,業務内容は,臨時的なものではなく,継続的に行っていく必要がある業務も含まれていたことが認められる。しかし,前提事実及び認定事実によれば,債務者(※使用者のこと)が採用している看護師は全て任期制雇用であり,債権者の地位は,正社員として記されている場合があるものの,それは,派遣社員との比較における記載で,契約書上も就業規則上も明確に有期雇用であるとされ,更新の可能性は指摘されているが,継続的に更新されるとまではされていない。また,前提事実によれば,債権者は,当初2年の契約期間で雇用され,その後,1回の更新を経て,通算期間2年5月の勤務をしてきたものであり,多数回で長期間の契約期間であったものではない。

 1回の更新後の契約期間についての意味合いについては,Z4博士による債権者に対しての説明内容について,当事者間に争いがあるものの,更新期間が5か月であり,クリニックの再開の目途がたった場合に,更新を必ず行うというのであれば,そもそも2年更新をすればよかったものであるから,更新するかどうかを検討するという前提(債務者側の説明に合致する)だったからこそ,とりあえず年度末まで契約更新して,それまでの間に考え,更新しない方針となったのであれば,更新しないこととすることを考えた上での,更新であったと認められる。

 また,認定事実によれば,契約更新の手続は,システム上で行えるものとなっており,債務者から契約更新の条件が明示され,かつ,それに債権者が同意すれば更新されるというものであり,厳格なものであった。

 以上の事情を総合すると,債権者自身としては,債務者において勤務するにあたり看護師として長期にわたり働く予定であったことはうかがえるものの,あくまで主観的なものといえ,債権者に雇用継続の合理的期待があるとはいえず,本件労働契約は労働契約法19条2号に該当しない。」

定年後に再雇用されたタクシー運転手の雇止めが有効とされた事例(横浜地裁令和元年9月26日判決)

本件では,タクシー運転手の方の雇止め(※定年後の再雇用)の有効性が争点となりましたが,裁判所は以下のとおり述べ,雇止めの有効性を認めました。

「(2)原告X2は,本件雇止めは客観的に合理的な理由がなく,労働契約法19条に違反し違法無効なものであるため,被告に不法行為責任が生じると主張する。この点,原告X2は平成23年にB賃従業員に移行した後,3回に渡って契約更新を受けており(前記(1)ア),被告代表者においても,健康かつ接客態度及び業務態度が良好な従業員については,65歳以上であっても再雇用する旨を述べていることからすれば(人証略),原告X2の再雇用に対する期待は,従前の契約更新状況及び被告における他の従業員に対する契約更新状況等を踏まえたものであり,一応合理的なものであったと評価できる。

(3)そこで,本件雇止めが客観的に合理的な理由に基づくものと評価できるかにつき検討する。

ア 被告は,原告X2が平成27年5月16日に危険運転を行い,これに対する反省が見られないことを理由に本件雇止めを行っているところ(前記(1)エ),証拠によれば,原告X2は,同日,Z6バイパス上において,観光バスの前に割り込む形で車線変更を行い,観光バスがパッシングしたことに対して運転車両を急減速させるなど,危険運転と評価されてもやむを得ない運転行為に及んでおり,これについて警察から注意を受けた際も,自らの非を認めず謝罪や反省をしなかったことが認められる(前記1(ウ))。この点に関し原告X2は,パッシングされて観光バスに故障等の異変が生じたかと思い,様子を伺うために減速したに過ぎないなどと述べて危険運転の存在を争うが(人証略),故障等のトラブルが生じた際にパッシングをして前方の車両に合図を送るというのはいかにも不自然な経緯を述べるものであり,信用できない。むしろ,原告X2の車両が観光バスの直前に入り込む形で左側車線から車線変更をしていることや,観光バスがあえてドライブレコーダーを解析して原告X2の車両を特定し,警察に通報したという経緯を踏まえると,原告X2の運転行為が相応に危険なものであったことが推認される。

 さらに,証人Z1の供述によれば,原告X2は,この運転行為が発覚した際,観光バスがパッシングしたから急ブレーキをかけたことを認める発言をしていたとのことであり,労働契約期間満了通知書(書証略)にも同様の記載が認められることからすれば,原告X2においても,自らの運転行為が危険なものであったことを認識しながら,謝罪を拒んだものと認められる。

イ 以上に加えて,原告X2がB賃乗務員となった後の交通事故発生率が比較的高く,とりわけ本件雇止め直前の雇用期間中の平成26年9月と11月に立て続けに事故を惹起していること(前記(1)イ),それにもかかわらず前記危険運転行為に及び,これについて反省や今後事故を回避するための方策を真摯に検討する様子が窺えない点(前記(1)エ)を踏まえると,被告が,今後原告X2の運転により重大な事故等が発生することを危惧し,前記運転行為について真摯な謝罪や反省がなければ契約の更新を行うことはできないと判断したことは,やむを得ないというべきである。

 このような状況のもと,被告が新風労組を通じて謝罪を求めたのに対し,原告X2がこれを拒絶したことは(前記(1)エ),本件雇止めを回避する唯一の機会を自らの言動により逃したものと評価でき,本件雇止めが,原告X2が主張する新風労組の活動に対する意趣返しとしてなされた雇止めであると解する余地はない。さらに,原告X2は,本件雇止め時点で69歳と高齢であって,年々身体能力が低下していくこと自体は否めず,その程度如何によっては,雇用契約が更新されなくなる可能性も否定できないのであるから,その意味で原告X2の雇用契約更新への期待の程度は限定的であることも併せ考えると,本件雇止めには客観的に合理的な理由が認められる。」

私立大学助教の雇止め(再任拒否)が有効とされた事例(東京地裁平成30年12月26日判決)

本件は,被告大学との間で平成23年4月1日から平成26年3月末までの3年間を雇用期間とする労働契約(有期)を締結していた労働者が,平成26年3月末で期間満了により再任拒否されたことについて,当該再任拒否(雇止め)は労働契約法19条違反で無効であると主張し,労働契約法上の地位確認等を求めた事案です。

裁判所は,要旨以下のとおり指摘し,雇止めは適法と判断しました。

「前提事実及び前記認定事実によれば,助教は,平成17年の学校教育法改正によって新たに設けられた職名であり,准教授,教授へのキャリアパスの一段階として位置付けられるものであって,人材の流動性向上を図る観点等から任期制,再審制など一定期間ごとに適性や資質能力を審査する制度が積極的に活用されることが望ましいとされているものであり,被告において,助教について任期制を採用し,再任について人事委員会の審査及び教授会の決定を要するとしているのは,このような学校教育法改正の趣旨に則ったものであると解される。

 そうすると,被告においては,助教の再任の可否は,任期満了時点において,研究業績等を踏まえ,適性や資格能力等について,人事委員会が再任に値するかどうかを審査した上で判断することが予定されているのであるから,助教は当然に再任されることが予定されているとはいえず,任期付きで採用された助教が,任期終了後に雇用契約が更新されることに対する期待を持つことが当然であるということはできない。

(中略)

もっとも,助教制度は,大学教員や研究者を目指す若手の助教が自己研さんを積む場としても機能していると考えられ,このような自己研さんには一定程度時間を要するのが通常と解されること,前提事実のとおり,原告は,期間の定めのない社員として勤務していた前職を退職して,本件学科の助教となる道を選んだこと,被告においては,助教の再任は2回まであり得るものとされ,通算9年間助教として任用されることが想定されていることを考慮すると,原告において,研究業績や教育指導等に問題のない限り,9年間は助教として研さんを積むことが可能であると期待したことについて,全く理由がないとまではいえない。しかしながら,前判示のとおり,助教が准教授等へ実質的に昇任していくため,任期制の採用等によりその資質を見極めるためのポストと位置付けられていることや,前記認定のとおり,原告の助教としての任期は3年間と明確に設定されていること,原告は一度も助教としての雇用契約を更新されていないことをも踏まえると,原告については,助教の再任に対する合理的期待の程度が高いとは認められない。」

そして,本件の再任拒否についても,原告の実習助手に対する不適切な態度等を理由として,雇止めには合理的理由があり社会通念上も相当として,雇止めを有効と判断しました。

「労働者から,嘱託契約を更新する旨の申込がなされなかった」として,更新拒絶を無効とした地位確認請求が否定された事例(札幌地裁平成30年10月23日判決)

本件は,タクシー会社で嘱託社員(雇用期間1年。「本件嘱託契約」)として勤務していた労働者が原告です。会社側は,原告在職中に,賃金体系を変更する就業規則の変更を行い,原告は,労働組合の委員長としてこれに反対していました。

原告は『被告会社が「組合が賃金体系の変更を受け入れなければ嘱託契約の更新には応じない」として原告との契約更新を拒絶したもので,当該更新拒絶が無効である』と主張として,被告との間で,嘱託契約上の地位確認等を求めたという事案です。

しかし,裁判所は,以下のとおり述べ,そもそも,原告から嘱託契約更新の申込がなかったとして,原告の請求を棄却しました。

「本件嘱託契約が終了する時点では,新賃金体系に反対する乗務員を含む全乗務員に対し,新賃金体系が適用されていたこと(略)からすると,被告としては,原告が新賃金体系に反対していたからといって本件嘱託契約の更新を拒絶する必要はなかったこと(略),現に,原告と同様に初回更新を迎えた嘱託社員のうち,契約更新を希望した嘱託社員20名全員につき嘱託契約が更新されている上(略),E及びBは,平成27年11月頃の時点で,原告から本件嘱託契約更新の申込みがあれば,これに応じることを決断していたこと(略),上記20名全員が嘱託契約の更新に際し,被告に履歴書を提出しているところ(略),原告は履歴書を提出していないこと(略),原告は,本件嘱託契約の終了後,被告に対し,自身の就労を要求したり,本件嘱託契約が更新されなかったことにつき抗議したりすることはなく(略),かえって,健康保険証を返還したり,従業員代表の辞任届を提出したり(略),離職票の発行を要求したりしていること(略),本件組合も,被告に対し,原告の就労を要求したり,本件嘱託契約が更新されなかったことにつき抗議したりする内容の書面を提出するなどの措置を執っていないこと(略)からすれば,原告の被告に対する本件嘱託契約更新の申込みの事実は認められないというべきである。」

「一定の年齢に達して以降は,有期労働契約を更新しない」旨の条項が有効とされた事例(最高裁第二小法廷平成30年9月14日判決)

本件は,有期雇用契約において「会社の都合による特別な場合のほかは,満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは,それ以後,雇用契約を更新しない」との条項(本件上限条項)が設けられていたケースにおいて,当該条項の有効性が問題となった事案です。

裁判所は,要旨,以下のように述べて,本件上限条項は有効と判断しました。

「本件上限条項は,期間雇用社員が屋外業務等に従事しており,高齢の期間雇用社員について契約更新手続を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ,高齢の期間雇用社員について,屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に,その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということは出来ず,被上告人の業務規模等に照らしても,加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく,一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。そして,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は,定年を定める場合には60歳を下回ることはできないとした上で,65歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けているが(8条,9条1項),本件上限条項の内容は,同法に抵触するものではない。

なお,旧公社の非常勤職員について,関係法令や旧任用規程等には非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の定めはなく,満65歳を超えて郵便関連業務に従事していた非常勤職員が相当程度存在していたことがうかがわれるものの,これらの事情をもって,旧公社の非常勤職員が,旧公社に対し,満65歳を超えて任用される権利又は法的利益を有していたということはできない。また,被上告人が郵政民営化法に基づき旧公社の業務等を継承すること等に鑑み,被上告人が,期間雇用社員の労働条件を定めるに当たり,旧公社当時における労働条件に配慮すべきであったとしても,被上告人は,本件上限条項の適用開始を3年6か月猶予することにより,旧公社当時から引き続き郵便関連事業に従事する期間雇用社員に対して相応の配慮をしたものとみることができる。

 これらの事情に照らせば,本件上限条項は,被上告人の期間雇用社員について,労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであるということができる。」

契約期間の更新に上限が設けられたケースにおける雇止めが有効とされた事例(高知地裁平成30年3月6日判決)

本件は,平成25年4月1日に1年間の雇用契約を更新し,その後も2度にわたり1年ごとの雇用契約を更新した労働者が,平成28年4月1日をもって雇止めされたことについて,労働契約法19条に基づき契約が更新されたとして,雇用関係の確認及び雇止め以降の賃金支払いを求めた事案です。

裁判所は,労働契約法19条1号(実質的に無期契約になっていたか)について「被告は,その就業規則において,契約職員の雇用期間は1会計年度とし,更新による通算雇用期間の上限を3年とする明確な定めを置いている。そして,被告は,通算雇用期間内に有期雇用契約を更新するに当たり,その都度,当該職員に対し,契約期間を明記した労働条件通知書を交付するなど,外形上,更新がなされたことを明確にする手続をとっていた(書証略)。加えて,上記認定のとおり,契約更新前には少なくとも管理職による意向確認が実施され,1名ではあるが,実際に雇止めになった契約職員が存した。しかも,上記認定のとおり,雇用期間満了時に雇止めをする可能性が高かった契約職員は,その前に辞職願を提出して退職しており,更新前の時点で当該契約職員の適性等が判断されて,雇用が継続されていないという事情もあった。そうすると,通算雇用期間の上限内の更新手続についても,形式的かつ形骸化しており,1会計年度といった期間が存しないのと同様な状態にあったとはいえないというべきである」として,本件雇止めは労働契約法19条1号に該当しないと判断しました。

また,労働契約法19条2号(契約更新に合理的な期待があったか)については「被告は,その就業規則において,契約職員の通算雇用期間の上限を3年と明確に定めていたこと,かかる上限に達しない契約職員について有期雇用契約を更新する場合も,管理職による意向確認や契約期間を明記した労働条件通知書の交付といった手続をとっていたこと,原則として3年の期限を超えてそのまま更新した事例はなく,必ず更新とは明らかに性質の異なる公募が行われていたこと,C部長も原告にその旨を告げていて,原告も理解していたこと,原告の契約の更新回数は2回にすぎず,通算雇用期間も3年にとどまっていたこと,原告の給与計算を主とする業務は,性質上,一定の恒常的なものであり,一定の専門性が必要であって,職員のプライバシーに携わるものであるとはいえるが,政策的・裁量的な判断がなされるべきものではなく,ルールに従って一定の処理を行うもので,担当者によって結果が異なりうるものではなく,また,業務自体は恒常的に存するものとはいえ,同一の担当者が継続的に従事する必要性の高い業務とはいえず,代替性が高いものと評価でき,業務内容から直ちに継続雇用の高い期待が生じるとまではいえないこと,しかも,原告が準職員採用試験を受験し,一旦は準職員として内部登用される機会が確保されていたことも踏まえれば,労働契約法19条2号の合理的な理由のある期待があったと認めることは困難である」として,本件雇止めは労働契約法19条2号にも該当しないと判断しました。

長期間にわたり勤務してきた学生アルバイトの雇止めが有効とされた事例(東京地裁平成27年7月31日判決)

本件は、被告会社(喫茶店)のもとで長期にわたり学生としてアルバイトをしていた労働者が、雇止めに対して、雇止めの無効を主張して雇用契約上の地位確認及び賃金請求を行ったという事案です。

裁判所は、労働契約法19条1項該当性について「原告は再入社した平成20年7月7日から平成25年6月15日までの4年11か月にわたって19回の契約更新を行ってきたこと及び原告は平成15年8月24日から平成19年3月27日までの3年7か月にわたって14回の契約更新を行っていることは当事者間に争いがない。」としたうえ、「そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、契約更新手続は店長がアルバイトと個別に面談を行い、更新の可否について判断をしたうえで、アルバイトに契約書を交付し、その作成を指示し契約更新を行っていることが認められる(中略)。そうすると、アルバイトの有期労働契約の契約更新手続が形骸化した事実はなく、原告被告間の労働契約は期間満了の都度更新されてきたものと認められることから、本件雇止めを「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該機関の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視」することはできず、労働契約法19条1号には該当しない」としました。

また、労働契約法19条2号該当性については、原告の主張事実について検討のうえ、結論として「ア(更新期間、更新回数)は当事者間に争いがなく、イ(原告の従事してきた業務)は被告の店長の業務とは質的に異なるといえど、店長の指揮命令下で原告が時間帯責任者としての職責を長期間果たしてきた事実は認められるものの、ウ(契約更新手続)及びエ(契約更新の合意)は認められず(※原告は、契約更新手続きが形骸化していたこと、契約更新の合意がなされたことをそれぞれ主張していましたが、裁判所はこうした事実を認めませんでした)、オ(契約更新の実態)は原告には他のアルバイトとは異なる勤務頻度の問題が認められる(※原告は、ほかのアルバイトと比較して勤務頻度が常態的に低かったと認定されています)」として、「以上を総合すると、原告の雇用継続の期待は単なる主観的な期待にとどまり、同期待に合理的な理由があるとはいえないことから、労働契約法19条2号にも該当しない」として、原告の請求を認めませんでした。

派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成立が否定された事例(東京地裁平成27年7月15日判決)

本件は、派遣元である被告アデコとの間で有期の労働契約を締結し、その更新を続け、派遣先である被告日産で労務を提供していた労働者が、①労働者と被告アデコとの労働契約は無効で、実際は労働者と被告日産との間に黙示の労働契約が成立していた、仮にそうでなくても、労働者派遣法40条の4及び40条の5により、労働者と被告日産との間には労働契約が成立している、と主張した事案です(その他、労働者は、被告アデコ及び被告日産に対する不法行為に基づく損害賠償請求、被告アデコに対する不当利得返還請求も行いましたが、ここでは割愛します(結論としてはいずれも否定)。)。

この点、裁判所は、黙示の労働契約の成立について「労働者派遣法2条1項にいう労働者派遣に該当する場合には、たとえ同法違反の事実があったとしても、その事実から当該労働者派遣が職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当することにはならない」「労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等に鑑みれば、仮に同法違反の労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって派遣労働者と派遣元との労働契約が無効になることはない」という点を確認しました。

そのうえで、本件における「特段の事情」の有無を検討し、「被告アデコは、原告との間で労働契約を締結し、就労場所を被告日産本社と定めその指揮命令を受けて同被告のために原告を就労させていたものであり、就労の対価である賃金を原告に支払うことはもとより、雇用主に義務付けられた社会保険に加入するほか、就業規則において賃金、労働時間、休暇、服務規律に等に関する定めを置き、派遣先とは別個に労働者の就労を管理していたものと認められる」として、被告アデコと労働者との契約には実態が伴っていたことを認定しました。そして、「原告(労働者)と被告アデコとの間の契約関係は実体を伴ったものであって、これを無効とすべき特段の事情は見当たらない」として、黙示の労働契約の成立を認めませんでした。

また、労働者派遣法40条の4及び40条の5については「労働者派遣法40条の4は、専門26業務以外の業務を行う派遣労働者につき、派遣可能期間を超えて役務の提供を向けようとする派遣先に、直接労働契約の申込みをすることを義務付けるものであり、同法40条の5は、専門26業務等を行う派遣可能期間の制限を受けない派遣労働者につき、3年を超えて役務の提供を受けている派遣先に、同じ業務を従事させる目的で直接労働者を雇い入れようとするときは、まず、当該派遣労働者に対する労働契約の申し込みをすることを義務付けるものである。これらの規定は、派遣労働者の継続的な雇用の安定・確保を目的とするものであるとはいえ、派遣労働者の派遣先と派遣労働者との間の労働契約はもとより、派遣先の申込みの意思表示についても、一定の条件の下で、その成立・存在を擬制する旨の規定とはなっておらず、労働者派遣法の取締法規としての性質も勘案すると、同法上の指導、助言、監督及び公表という行政上の措置を通じて、間接的に派遣先に義務の履行を促し、これらの規定の実効性を確保することが予定されているものと解すべきである。被告日産が原告に対する労働契約の申し込みをした事実がないことは争いがないから、これらの規定を根拠として、原告と被告日産との間の労働契約の成立を認めることはできない」として、要旨、労働者派遣法40条の4及び40条の5の解釈論を理由として、労働者の請求を認めませんでした。

職種が限定された有期契約の労働者に対する雇止めが有効とされた事例(東京高裁平成27年6月24日判決)

この事件は、会社側と、職種が配送及び営業に限定された有期雇用契約を約5年6か月にわたり多数回更新してきた労働者が、契約更新がされなかった(雇止め)が無効であるとして、会社に対し、労働契約が引き続き有効であるという地位確認及び雇止め後の賃金の支払いを求め他という事案です。

本件では、雇止めの有効性(労働者側が、契約更新について抱いた期待が合理的だったか、雇止めに合理的理由があるか)が争点となりました。

この点、一審(東京地裁平成27年2月3日判決)は、更新の合理的期待については「原告は、被告との雇用契約に基づき、月に20日以上、1日平均7時間以上勤務していたのであり、勤務形態は臨時的なものでなかった」「原告と被告の間では、本件配送業務を目的とする雇用契約が約5年6か月にわたり多数回更新されてきた」として、「原告には契約更新の合理的期待(労働契約法19条2号)が認められる」としました(ただ、「雇用期間の定めが明示された契約書が更新の度に作成されていたのであり、原告と被告の雇用契約が期間の定めのない契約と同視できる状態(労働契約法19条1号)に至ったとまでは認められない」としました。)。

しかし、雇止めの合理的理由があるかについては、原告が被った怪我の影響で、雇止めの時点では、契約において労働者が従事すべき業務として定められた配送業務に従事できる状態ではなかったことを重視し、会社が契約を更新しなかったことについて合理的理由があると判断しました。なお、労働者側としては、仮に労働者が配送業務に従事できない状態であったとしても、配送業務以外への配属を検討すべきであったと主張しましたが、裁判所は「原告は職種が限定された条件で雇用されていたのであるから、被告に原告が主張するような検討をすべき義務は認められない」としてこれを排斥し、結論として労働者の請求を棄却しました。

これに対して労働者が控訴したのが本件ですが、控訴審も、基本的に第一審と同様の事実認定を前提とし、やはり労働者の請求を認めませんでした。

本件では、契約において職種限定の合意がされていたこと、雇止め時に労働者が当該職種に従事することができない状態であったこと、が判断のポイントだと思われます。

高校の非常勤講師の雇止めが有効とされた事例(東京地裁平成26年10月31日判決)

この事件は、被告との間で期間1年の雇用契約を結び、被告の運営する高校で理科担当の非常勤講師として勤務していた労働者が、契約が3回更新されたものの平成25年度においては更新が認められず雇用契約が打ち切られたことについて、これが違法であるとして、雇用契約上の地位が存続していることについての確認等を求めたものです。

法律上、有期労働契約(働く期間が予め定められた労働契約)の契約期間が満了した時に、その契約が更新されると期待することについて「合理的な理由」がある場合、会社側が更新を拒絶することはできないとされています(労働契約法19条2号)。本件では、労働者が更新を期待することが合理的といえるか、という点が争点になりました。

この点、裁判所は、「有期雇用契約の契約期間の満了時における雇用契約更新に対する合理的期待(労働契約法19条2号)の有無を判断するにあたっては、最初の有期雇用契約の締結時から、雇止めされた有期雇用契約の満了時までのあらゆる事情を総合的に勘案すべきであるところ、具体的には、当該労働者の従事する業務の客観的内容、契約上の地位の性格、当事者の主観的態様、契約更新の際の状況及び同様の地位にある他の労働者の契約更新状況等の諸事情を勘案することが相当である」との判断基準を示しました。

その上で、事案を具体的に検討し、結論として、労働者が「雇用が継続するものと期待するに至ったことは(中略)無理からぬ面があったといえないことはない。しかしながら、専任講師(高井注:非常勤講師から昇格する地位であり、雇用期間は1年、更新は2回までとされていた)の在職期間が最長3年と定められているにもかかわらず、非常勤講師であれば年数にかかわらず雇用が継続しうるという期待が合理的なものであるとは言い難」いとして、その他の事情も考慮した上、労働者が更新を期待することは合理的とはいえないと判断し、労働者の請求を認めませんでした。

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