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労働時間の裁判例 バックナンバー①

労働時間に関する裁判例 ①

労働時間に関する最新の裁判例について、争点(何が問題となったのか)及び裁判所の判断のポイントをご紹介いたします(随時更新予定)。

スマートフォンのタイムライン(スマートフォンのGPSを感知し,滞在場所や移動時間等を記録する機能)記録を基にした労働時間を認定した事例(東京地裁令和元年10月23日判決)

本件は,解雇の有効性及び割増賃金の金額が争点となった事案ですが,ここでは,割増賃金との関係で,労働時間の算定について取り上げます(解雇は無効と判断されました。)。

本件で,労働者側は,スマートフォンのタイムライン記録(裁判例では「原告のスマートフォンのアプリケーションであるgoogle mapの付属機能であるタイムライン(スマートフォンのGPSを自動で感知し,スマートフォンの移動や滞在の場所と時間を自動で記録する機能)の記録」=「本件タイムライン記録」と定義されています。)に基づき労働時間の立証を図っており,会社側はその信用性を争いました。裁判所は,要旨以下のとおり述べ,本件タイムライン記録に基づく労働時間の認定を行いました。

ア 原告は,本件タイムライン記録(甲5,10)に基づき,別紙「時間シート①」のとおりの時間,被告の業務に従事していた旨を主張する。そこで,まず,本件タイムライン記録の信用性について検討する。
イ 本件タイムライン記録の信用性について
(ア)本件タイムライン記録は,平成30年2月5日から同月16日にかけて,原告のスマートフォンの画面をスクリーンショットしたものである(甲11)ところ,被告が指摘するとおり,事後に編集可能なものであり(乙5,6),それ自体が完全に客観的な証拠であるとはいえない上,実際の記録についても,自宅から徒歩2分程の距離にある最寄り駅である△△駅までの間の移動記録がなかったり,△△駅から築地店又は銀座店までの間の移動記録が省略されているものが多く,記録されていても,平成29年3月29日に,表参道駅で20分滞在した後,同駅から銀座店まで6分で移動した旨が記録されたりする(甲5・55頁)など,実際の移動状況の全てが余すことなくそのまま正確に記録されているとまではいえないものである。
(イ)もっとも,本件タイムライン記録に記載された原告の築地店及び銀座店における滞在時間は,以下のとおり,前記第2の2前提事実(2)のとおりの築地店の営業時間及び銀座店における勤務時間や,D氏の証言及び原告の供述に沿うものである。
 すなわち,①築地店は,3階建てで,店長である原告のほか,料理長及びアルバイト1名の体制で運営され(証人D氏),夜営業のみであった平成28年10月18日までは,営業時間が午後5時から午後10時30分までとされていたところ,築地店は,平成28年1月頃に,人手不足のため一旦閉店したものを,同年10月から,それまでの昼営業から夜営業に変更した上で営業を再開したものであったこと(乙12,13,証人D氏)からすると,原告が供述するとおり,店内の片付けや開店準備のため,本件タイムライン記録に記録された時間(D氏は,原告が午後3時から午後4時までの間に出勤していたと思う旨を証言するところ,それよりも1時間程度早く)に出勤し,本件タイムライン記録に記録された時刻に退勤することも十分にあり得るものといえ,現に,同月14日には,築地店に出勤した後,業務用スーパー等を訪れたことがうかがわれる記録もあるところ(甲5・5頁)である。なお,同月10日及び同月16日については,同各日の移動記録(甲5・4,6頁)からしても,原告が供述するとおり,築地店の営業日ではなかったものの,被告の依頼を受け,銀座店において稼働したものと認められ,このような記録があることは,むしろ,本件タイムライン記録の信用性を高める事情であるということができる。
 また,②築地店につき,昼営業が追加された同月19日以降は,営業時間が午前11時から午後3時まで及び午後5時から午後10時30分までとされ,D氏は,原告が午前9時若しくは午前10時頃に出勤していたと思う旨を証言する(原告も同様の供述をする。)ところ,本件タイムライン記録の記録は,上記の営業時間やD氏の証言に沿うものである。
 さらに,③平成29年1月1日以降の銀座店における勤務については,午前9時から午後9時までの間のシフト制とされ,D氏は,通常,午前9時(ただし,ホール(フロア)担当の場合は午前10時からもあり得る。)から午後9時までの勤務(休憩1時間)であり,早番の場合は,午前9時(午前10時である旨の証言もしているが,シフト表(甲6)や本件タイムライン記録からすると,午前9時が正しいものと考えられる。)から午後4時までの勤務(休憩なし)(早番①)か,午前10時から午後6時までの勤務(休憩1時間)(早番②)のいずれかである旨を証言するところ,本件タイムライン記録の記録は,上記の営業時間やD氏の証言に概ね沿うものである。とりわけ,本件タイムライン記録の記録がシフト表(甲6)における早番や休みの記載とほぼ整合していることや,近所の喫茶店における休憩が多数記録されていること(甲5・38,43,48,50,57頁等。中には,1日に2回に分けて休憩をとった記録もある(同・66頁)ほか,原告が主張する1時間以上の休憩がとられている記録も多数ある。)は,本件タイムライン記録が各日の移動状況をその都度記録したものであることを強く裏付ける事情であるということができる。
 その他,本件タイムライン記録には,休日の移動記録(甲5・3頁等)や,築地店及び銀座店以外の場所への移動記録(同・9頁等)のほか,退勤後に寄り道をした記録(同・43,50,59,61,83,88,89頁等)もあり,これらの事情によれば,原告が,本件解雇後に,被告に対し割増賃金を請求するため,編集機能を利用して本件タイムライン記録を一から作出したとは考え難いものである。
 他方で,被告が本件タイムライン記録の不自然性として指摘する諸事情は,原告が主張するとおり,GPSの感度の問題やタイムライン機能の設定の問題等として一応の説明をすることが可能であるところ,本件においては,本来,労働者の労働時間を適切に把握して然るべき被告において,原告の主張する本件タイムライン記録に基づく各日の労働時間が実際の原告の労働時間と異なることについて,個別具体的に指摘し,その裏付けとなる客観的な証拠を提出しているわけでもない。
(ウ)上記に検討したところによれば,本件タイムライン記録には信用性が認められるというべきであり,原告が築地店及び銀座店に滞在していた時間中に,休憩時間を除き,被告の業務以外の事項を行っていたと認めるに足りる客観的な証拠はないから,原告は,本件タイムライン記録に記録された築地店及び銀座店の滞在時間(休憩時間を除く。)に,被告の業務に従事していたものと認めるのが相当である。

パソコンのログ記録を根拠として,労働時間の認定がなされた事例(東京地裁令和元年6月28日判決)

本件は,残業代の請求訴訟において,労働時間の認定が争点となった事案です。本件で,労働者側は,会社での業務に用いていたPCのログ記録を根拠に労働時間の立証を試み,会社側がこれを争ったため,その相当性が争点となりました。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,ログ記録を基に労働時間を推認することの合理性を肯定しました。

「ア 原告は,原告主張を裏付ける証拠として,自身が利用していたパソコンから抽出した記録であるというログ記録(書証略)を提出している。その内容は概ね別紙4(略)記載のとおりであって,これによれば,原告が出勤簿記載の労働時間よりも長く業務に従事していた可能性があるとみることができる。

イ(ア)よって検討するに,原告本人は,出勤簿を作成するほかログ記録を残していた理由について,要旨,残業実績が出勤簿記載の労働実績より実際には多かったため,念のため残しておいた旨の供述をしている。かかる供述内容自体に特段不自然な点は見出されず,その抽出方法も,他の証拠(略)に照らし,自然なものとして首肯することができる。この点,被告は,ログイン・ログアウトを人為的に行った記録を特定することは困難であるとの意見書(書証略)を提出し,ログ記録について争うが,上記甲号証に照らせば,少なくとも使用していたパソコンのWindowsの起動と正常シャットダウンの日時の特定に妨げないものとはいえる。

 また,原告は,被告において本件業務に当たってきたものであるところ,その業務の性質上,パソコンを多く利用する業務であったことは前記認定のとおりである(前記認定事実(2))。しかも,原告の供述によればもちろん,証人Aの証言によっても,パソコンを利用するのは,基本的には当該パソコンを割り当てられた個々の従業員であったものである(人証略)。この点,証人Aの証言中には,他の従業員が原告のパソコンを使用することもあったという趣旨の供述部分はあるが,A自身も頻繁にはないとしている上,具体的な頻度について自発的に明確な供述をできておらず(人証略),その供述を裏付ける証拠もないから,その証言はたやすく採用できない。しかも,前記認定のとおり,被告においては週初めの午前8時30分から朝礼が行われていたところ,ログ記録は,内容的にもこうした事実に多く沿っているとみることができるほか,グループウェアのタイムカード記録(出勤記録)との齟齬もほぼ認められず,むしろ,ごくごく断片的証拠ではあっても,被告の業務に係る画像データや動画データの更新日時との符号も認められる(書証略)。なお,被告は,これらデータにつき,更新日時を変更することが可能で信用性がないなどとも主張しているが,そのように改変がなされたと見るべき形跡は認められない。

(中略)

以上のとおりであって,具体的に他の従業員による使用があったと認められる稼働日はともかく,そうでない限りは,ログ記録を手掛かりとして原告の労働時間を推知することに相応の合理的根拠はあるといえ,これを基礎に,出勤簿記載の労働時間を超えて業務に従事していた旨述べる原告本人の供述にも相応の信用性を認めることができるところであって,他に的確な反証のない限りは,ログ記録を手掛かりとして原告の労働時間を推知するのが相当である。」

そのうえで,実際の労働時間を以下のとおりの手法で認定しました。

「ア 始業時刻について

 前記説示の点に照らせば,ログ記録がある日については,基本的にはこれを手がかりに原告の労働時間を推知するのが相当である。もっとも,始業に際しては,一般に,定時に間に合うよう早めに出勤し,始業時刻からの労務提供の準備に及ぶ場合も少なくないから,ログ記録に所定の終業時刻より前の記録が認められる場合であっても,定時前の具体的な労務提供を認定できる場合は格別,そうでない限りは,基本的に所定の始業時刻からの勤務があったものとして始業時刻を認定するのが相当である。

 これに対し,ログ記録がない日やログ記録があっても所定の始業時刻に遅れる記録がある日については,出勤簿上,特段の欠勤がないものとされていたことにも照らせば,基本的に所定の始業時刻からの勤務があったものとして始業時刻を認定するのが相当である。

(中略)

ウ 終業時刻について

 前記説示の点に照らし,ログ記録がある日については,基本的にはこれを基礎に原告の労働時間を認めるのが相当であり,他方,ログ記録のない日については,出勤簿の記載時刻を超える残業時間があったことを裏付ける的確な証拠がないから,上記出勤簿記載の限度で残業時間があったものと認めるのが相当である(ただし,これらよりも早い終業時刻を原告が自認している場合には,その自認する時刻による終業時刻を認める。)。これに反し,原告は,ログ記録の終業時刻の平均値でログ記録のない日の終業時刻を認めるべき旨主張するが,上記説示の点に照らし,採用することができない。」

ホテルの設備管理業務に従事する労働者の仮眠時間が労働時間と判断された事例(東京地裁令和元年7月24日判決)

本件は,正社員としてホテルの設備管理業務に従事していた労働者の仮眠時間について,労働時間にに該当するかが争点となった事案です。裁判所は,要旨以下のとおり延べ,労働時間該当性を認めました。

「(2)そこで検討すると,原告らは,午前零時から午後6時までの間は,仮眠時間として本件ホテル内の仮眠室(中央監視室及び蓄電池室)において仮眠をとることとなっていたものの,中央監視室には,設備管理モニターが3台設置され,仮眠時間中でも設備に異常が発生すれば,警報音が鳴る仕組みになっていたこと等の点を含む仮眠室の状況,クレーム表(書証略)や日報(書証略)からうかがわれるBシフト勤務担当者の実作業の状況や頻度等に照らせば(略),原告らは被告と本件ホテルとの間の業務委託契約(略)に基づき,被告従業員として,本件ホテルに対し,労働契約上,役務を提供することが義務付けられており,使用者である被告の指揮命令下に置かれていたものと評価するのが相当である。なお,日報の記載内容については,外部業者への対応は予定時間等を含むものであり,その時間帯にも一定の幅があることから,正確な訪問時刻や作業時間を特定することは困難であるものの,外形的な日数や外部業者による作業の内容からしても(略),原告らを含む被告従業員のBシフト勤務担当者において,外部業者への対応に相応の時間を要し,仮眠時間中にもそのような事態が発生したであろうことは,合理的に推認できるところである。

(3)ア この点,被告は,実作業の必要性が生じることが皆無に等しいなど実質的に原告らによる役務提供の義務付けがされていない場合に当たると主張する。しかしながら,そもそも,被告は,本件ホテル内で異常やトラブルが発生した場合には,仮眠時間中であっても対応が求められていたことを前提とした上で,仮眠時間中の対応の要否について,従業員に対し,仮眠時間中の依頼であっても可能な限り対応時間をずらすように指導していたと主張しているのであって(書証略),仮眠時間中でも設備に異常が生じた場合等には対応するよう被告や本件ホテルから指示されていたという限度において,原告らの主張とも一致する主張をしている。また,当時の被告本社事業本部本部長であったZ3は,本件ホテルに対し,仮眠時間中の対応等について明確に申し入れを行ったのは,原告らの退職の数か月程度前である平成28年6,7月頃であったとも述べており(人証略),それ以前に,被告から本件ホテルに対し,Bシフト勤務担当者が仮眠時間中,実作業に従事しなくともよいよう何らかの申し入れがなされていたとしても,原告らが被告に在籍していた本件請求期間中において,仮眠時間中の対応を必要とせず,実作業の必要が生じることが皆無に等しいといえるほどに被告の上記指示が徹底されていたことはうかがわれない。

 被告は,仮眠時間中にBシフト勤務担当者が仮眠室を離れることも認められていたと主張するが,中央監視室の設備管理モニターが異常時に警報音を鳴らす仕組みになっていたため,実際には何らかの対応を求められることになっていることや,原告らが仮眠室を離れることを認められているとの認識を持っていなかったことにも照らせば(略),場所的な拘束がなかったとも言えない。

(中略)

 なお,もう一つの仮眠室である蓄電池室には設備管理モニターは設置されていなかったが,大きな異常やトラブル対応の際には,蓄電池室で仮眠中のBシフト勤務担当者の応援も必要となることがあり,実際にBシフト勤務担当者二人で対応することもあったことからすれば(略),蓄電池室で仮眠をとっていたBシフト勤務担当者(略)についても労働から安全に開放されていたと評価することはできないから,仮眠室が異なるとの一事情を持って上記認定が左右されることはないというべきである。

 以上によれば,実作業の必要が皆無に等しいなど実質的に原告らによる役務提供の義務付けがされていないと評価できるような事情を認めることはできず,本件全証拠に照らしても,上記(2)の推認を覆すような事情は見当たらないから,被告の上記主張には理由がない。」

バスの運転手の待機時間の大半について労働時間性が否定された事例(福岡地裁令和元年9月20日判決)

本判決は,市営バスの運転手として勤務する労働者が残業代請求を行った事案において,以下の待機時間(※)が労働時間に当たるか否かが争点となった事案です。

(※)被告会社の交通局では,概ね,1日の勤務のうち,あるバスが系統Aの路線終点に到着後,次の系統Bの路線始点から出発するまでに待機する場所(転回場所)における待機時間を「調整時間」と設定した上,調整時間のうち車内清掃等に要する時間を「転回時間」,調整時間から転回時間を除いた時間を「待機時間」としていました。

裁判所は,以下のとおり述べ,待機時間の労働時間性を概ね否定しました。

「イ まず,就業細則等には待機時間が休憩時間である旨の明示の記載等は見受けられない。しかし,待機時間は,もともと,全て労基法上の労働時間として扱われていた調整時間について,そのような扱いは市民やバス利用者からの理解が得られないとの理由で,当時唯一存在した労働組合と協議の上,実働時間として換算した時間(転回時間)を除く時間を待機時間として実働時間とは異なる扱いとすることとしたものであり,待機時間については,基本給ではなく,1時間当たり140円の待機加算が支払われ,給与明細書にもこの単価及び待機時間の長さが記載されている(前記(1)ア(ア)(キ))。また,交番表及び運行指示表の記載(前提事実(2)イ,(3)ア(ア))を見ると,乗務員の始業時刻から終業時刻までの時間(拘束時間)の中に,食事時間とされた休憩時間のほかに実働時間とはならない時間が存在することを読み取ることができるものといえる。さらに,前提事実(4)イ及び前記(1)ア(エ)によれば,被告は,平成24年2月の時点で,乗務員に対し,本件通知により,調整時間中,転回時間を労働時間とし,残りの時間を休憩時間とすることを周知していたものと評価できる上(その後に採用した嘱託乗務員に対しても,採用の時点でこのことを説明している。),被告は,前件訴訟においても,待機時間は休憩時間であるとの主張をしていたものである(前記(1)ア(カ))。

 加えて,交通局の労働組合は,平成22年,折尾駅及び八幡西郵便局の各展開場所における待機時間について,一定の場合には実働時間とするよう要求しており,平成25年及び平成26年にも,待機時間中の乗車等の勤務の申告を徹底させ,実働時間にすることを求めているところ(前記(1)ア(ウ)),これらの要求は,待機時間が労基上場の労働時間ではなく休憩時間として扱われていることを乗務員としても認識していることや上記労基法上の労働時間ではない旨の取扱いを前提とするものといえる。また,後れ時分等報告書も,少なくともバスの転回場所への到着が遅れた場合に,その遅れた時間を労働時間として扱ってもらうために提出されていたものであるから,調整時間中に労基法上の労働時間とならない時間があることを前提とするものといえるのである。

 以上の各事情によれば,少なくとも本件請求期間において,交通局の乗務員は,被告が待機時間を労基法上の労働時間ではなく休憩時間であると取り扱っていたことを認識していたものと認められる。

ウ(ア) 次に,乗務員は,待機時間中にバスの乗客から,行き先案内,両替,ICカードの積増し等の対応を求められ,これに応じることがあり,また,バス車内で待機する場合には,車内の室温の調整を行うことがあったものと認められる(前記(1)イ(イ))。

 しかしながら,上記のとおり,交通局においては,待機時間は休憩時間であることが周知されており,また,前記(1)イ(ウ)によれば,乗務員は,トイレ以外の理由でも,待機時間をバス車外(バス付近に限らない。)で過ごし,さらにバス車内に乗客を乗せた状態でバスを離れることを許容されていたものといえる。また,前記(1)イ(ウ)によれば,交通局は,待機時間中の乗務員の過ごし方について乗客から問い合わせがあった場合には,待機時間は休憩時間である旨説明していたものと認められる。これらの各事情に照らすと,本件請求期間において,乗務員は,待機時間一般について,上記のような乗客対応や社内の温度の調節を行うことを労働契約上義務付けられていたと評価することはできないというべきである。

(イ)また,証拠(書証略)によれば,C運輸主任が,平成26年9月20日,乗務員であるD及びEに対し,それぞれ,点呼の際に,始点のバス停に乗客がいる場合には,バスを早めに着けるようにとの指示をしたことがあったことが認められる。

 しかし,証拠(書証略)によれば,乗務員が,始点のバス停に,乗客が乗車して定時で出発できる程度のタイミングで移動することも多く,また,定時よりも遅れて移動する場合も一定程度あることが認められ,このことからすると,上記の各指示がされたことをもって,原告らが,始点のバス停に乗客がいる場合,常に待機時間中であっても早めにバス停に移動することを義務付けられていたということはできない。

(中略)

エ(ア)原告らは,乗務員は待機時間中も臨機応変にバスを移動させる必要があったことから,待機時間は手待時間として労基法上の労働時間に当たると主張する。

(イ)まず,戸畑駅,折尾駅西口及び折尾駅(北口)の各転回場所については,同時に複数のバスが停止していることがあったものの,運行指示表又は発車順番表により各転回場所で待機するバスの発車時刻を知ることができたのであるから(前記(1)ウ),これらの転回場所において,待機時間中,乗務員が臨機応変にバスを移動させることができるように常に待機していなければならなかったとはいい難い。確かに,他のバスの遅延や周囲の交通状況により,運行指示表又は発車順番表のとおりに運行することができない場合もあると考えられるが,証拠(書証略)によれば,これらの転回場所においても,乗務員が待機時間中にトイレ以外の理由でもバスを離れることがあったことがうかがわれ,このことからすると,上記の事情を考慮しても,乗務員が待機時間中に予定外の行動を行わなければならないことが度々あったとは認められないから,これらの事情は上記認定を左右するまでのものとは考え難い。

 次に,二島駅の転回場所についても,同時に複数のバスが停止していることがあったものの,平成26年6月のダイヤ改正により,ダイヤ上複数のバスが同時に待機することはなくなった上(前記(1)ウ),証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によれば,同転回場所においては,仮に複数のバスが同時に待機することになったとしても,本来の待機場所及びそれとは異なる場所で待機することができ,その場所であっても他のバスが通過することのできる程度の間隔があったものといえるから,同転回場所において,乗務員が常に待機時間中の突発的な移動に備えておかなければならなかったものとは認め難い。

 また,本条陸上競技場(待機場側)の転回場所については,後に来たバスが先に出発する場合,先に来たバスは,運行指示表の指示により,後方で待機することができたのであるから(前記(1)ウ),基本的には,これにより突発的な移動の必要性が生じることを回避することができたと考えられる。確かに,証拠(略)によれば,本来は先に到着しているはずのバスが遅れてきたことにより,そのバスが出発するために,先に到着したバスが転回場所から移動せざるを得ない状況が生じることがあったと認められるが,証拠(人証略)及び弁論の全趣旨によれば,同転回場所で複数のバスが同時に待機することは,ダイヤ上平日に各2回あったにすぎないことが認められ,このことに照らすと,上記のような状況が度々生じるものであったとは認められない。そうすると,同転回場所についても,上記のような状況が生じていたことから,待機時間中に乗務員が手待ち状態にあったということはできない。

 他の転回場所については,それらの各転回場所において,待機時間中,突発的にバスを移動させる必要が生じることが度々あったと認めるに足りる的確な証拠はない上(特に,乗務員控室のある転回場所及び始点のバス停と同一の場所にある転回場所については,突発的な移動の必要が頻繁に生じることは考えにくい。),本件全証拠によっても各転回場所における北九州市バスの運行の状況や,他の車両の交通状況が明らかでないことからすると,これらの転回場所においても,待機時間中,乗務員が突発的なバスの移動に備えて待機していなけれければならなかったとは認められない。

(ウ)以上の各事情に照らすと,本件請求期間において,乗務員は,待機時間中,転回場所において突発的なバスの移動に臨機応変に対応することができるよう備えておくことを労働契約上義務付けられていたと評価することはできないというべきである。

(中略)

カ 以上によれば,本件請求期間中,待機時間一般について,その間乗務員が労働契約上の役務の提供を義務付けられており被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできないから,本件請求期間中の待機時間(その間に実作業が生じた場合における当該作業に要した時間を除く。)が一般に労基法上の労働時間に当たるものとは認められないというべきである。

キ ところで,以上に述べるところからすると,待機時間は,原告らが主張するところとは異なり,概ね休憩時間と認めるべきものということができる。しかし,これら判示したところに照らしても,例えば,転回時間内に終了できない業務が発生したり,転回場所や始発場所におけるバスの移動等についても,なお労働時間と考えられる時間が全く存在しないとまでは見受けられず,他方において,遅れ報告書の提出が必ずしも普及していない現状に鑑みると,このような労働時間を存しないものとして割り切ることには躊躇を感ぜざるを得ない。

 また,路線バスにおける一つの系統の運転業務と次の系統との運転業務との間の時間の一部であるという待機時間の性質(前提事実(3)ア(ア))に鑑みると,その間が短い待機時間においては,仮にその間に実作業が生じなかったとしても,乗務員は,待機時間の開始後直ちに次の運転業務に備える必要があったということができるから,転回時間の存在を考慮しても,乗務員がその前後の労働から解放されていたとはいい難く,むしろ,乗務員は,なお被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるというべきである。

 そこで,以上に述べるような事情に加え,証拠(書証略)及び弁論の全趣旨から認められる各待機場所の性質及び待機時間の長さに鑑みて,待機時間の1割を労基法上の労働時間に当たるものと認めるのが相当である。」

トラックの運転手が,サービスエリア等に滞在する時間について,労働時間性が否定された事例(東京地裁令和元年5月31日判決)

本件は,トラック運転手がサービスエリア及びパーキングエリアや休憩施設等に滞在している時間が労働時間に当たるか否かが争点となった事案です。

裁判所は,以下のとおり,これらの時間が労働時間に当たらない旨判断しました。

「ア まず,原告らは,その業務内容が顧客の荷物を預かって目的地までの輸送・搬入であること,輸送中に積載貨物を盗難被害等に遭う可能性があり,その場合には運転手が責任を問われるおそれもあること,積載貨物は高価な精密機械であることなどの観点から,その積載貨物を常時監視しなければならない職務上の義務がある旨主張する。

 以下の点について,確かに,就業規則上トラック運転手の服務心得として受託貨物は細心の注意を払って大切に取り扱うことが定められている(38条45号,書証略)が,この規定から直ちにトラック運転手が積載貨物を常時監視する義務を生じさせるものと解することはできないし(書証略),その他労働協約(書証略)や就業規則(書証略)等を見ても,労働契約上原告らに積載貨物を常時監視することを義務付けるような規定等の存在は認められない。また,被告が原告らに対してトラックから離れずに積載貨物を監視するように指示したことはなく(前記1(1)),その他にトラック運転手に対する明示的な積載貨物の常時監視義務を認めるに足りる事情はない。

 また,積載貨物は主に約350キログラムから約500キログラムの重量のある医療用精密機械である(前提事実(1),人証略)ところ,このような積載貨物については,当該貨物の身を窃取するという形態の盗難の可能性は高いとみることはできないし(人証略),有害・危険な毒劇物等の貨物などとは異なり,その貨物の性質上からして常時監視が必要となるような性格のものでもない。加えて,積載貨物には保険が掛けられていること(前記1(1)),車両の構造(前記1(2))に鑑みれば運転手が適切にエンジンキーを管理している限り盗難等のおそれは低いこと,エンジンキーを適切に管理していたにもかかわらず盗難が発生した場合に当該運転手に対して制裁を科すような内部規程も見当たらないこと(人証略)からすれば,積載貨物の価額や盗難の可能性等を起点としてこれによって原告らに積載貨物を常時監視することが義務付けられていると解すべきことにもならない。

(中略)

 さらに,原告らは,休憩施設等において,車内で,睡眠を取ったり,飲酒したり,テレビを見たり,トラックを駐車した上でそこから離れて,飲食物を購入したり,入浴したり,食事をとったりするなどして過ごしており(前記1(4)),ホテル滞在時においても,トラックの確認は一日2回程度にとどまり,その他の時間は客室において携帯端末を用いてニュース記事を見たり,ゲームをしたり,テレビを見たり,飲食のために外出したりするなどしていた(同(5))のであるから,原告A4も自認しているとおり,そもそも積載貨物を常時監視していたとは認め難い(人証略)。そして,被告はこれらの行動を特に規制するような指示はしておらず,かえってトラック運転手の裁量にゆだねられていたこと(前記1(3)ないし(5))からすれば,休憩施設等滞在時間は,原告らにおいて業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間であるということができる。

イ また,原告らは,長距離運行中,SA(※サービスエリアのこと)等において,①取引先等からの問合せに対する対応,②運転手間の荷物の受渡しや積替え等の作業等の業務に従事したり,③上記②の作業のために待機したりしているとした上で,休憩時間等滞在時間は労働時間に該当する旨主張し,原告A4はこれに沿う供述をし,更に,④積載貨物の状況確認,⑤積載貨物の固定作業,⑥運行日報の作成,⑦除雪に伴う車両移動,⑧車両の点検作業,⑨目的地までの経路等の確認等の業務を行う旨供述する(人証略)。

 しかしながら,上記①の深夜の問合せについては午後10時以降恒常的に生じていたとは認め難く(人証略),時季や地域が限定される上記⑦の除雪時の車両移動も同様である。また,原告A4は,上記⑥の運行日報(書証略)の作成に約10分要するなどと供述する(人証略)が,単に停車するSA等の場所とその出入りの時間を運行日報に記載するのにそれだけの時間を要するとは考え難い。原告A4は,SA等の到着時に上記⑨の経路確認等の作業をし,更にSA等を出発する際にも約20分ないし30分要する旨も供述する(人証略)が,本件営業所を出発する前に,運行指示書により経由地及び目的地並びにそれらの到着・出発日時について具体的な指示を受けており(書証略),おおよその経路は見当がついているにもかかわらず,上記のように複数回,数十分もかけて経路を何度も確認する必要性を見出し難い。このように,原告A4のSA等において種々の作業を行っている旨の上記供述には直ちに措信し難いものが多分に含まれているといわざるを得ない。

 そして,運行日報(書証略)等を見ても,原告らが主に深夜早朝の時間帯であるSA等の滞在時間(別表4-2「時間・賃金計算書」(略)の「始業時刻」,「終業時刻」の各欄記載[赤字部分]参照)において恒常的に上記作業(ただし,上記⑥は除く。)に一定時間従事したことを窺わせる記載は見当たらず,その他に上記作業に一定時間従事したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

 仮に原告らが長距離運行中にSA等で上記作業を行うことがあったとしても,上記のとおり恒常的に行っていたとは認められないことに鑑みると,業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間(前記ア)と上記作業の時間とを峻別することができていないといわざるを得ない。

(中略)

 以上からすれば,原告らが,長距離運行中休憩施設等に滞在する間,労働からの解放が保障されており,労働者は使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえない」

経営企画の立案を行う管理職の管理監督者性が否定された事例(横浜地裁平成31年3月26日判決)

本件は,課長職の管理職として,会社経営陣に対して利益実現に対する企画立案と実行を行う部署にてマネージャー業務を,ブランディング・マーケティング戦略の企画立案や予算管理を行う部署にてマーケティングマネージャー業務を担当していた労働者について,労基法上の「管理監督者」該当性などが争点となった事案です。

裁判所は,要旨以下のとおり述べ,管理監督者性を否定しました。

1 判断基準

「労基法上の管理監督者に該当するかどうかは,①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである」

2 本件について

①について

詳細は割愛しますが,要旨,いずれの業務においても,経営意思の形成に対する影響力は間接的であること等を理由に,経営者との実質的な一体性は認められない,という判断がされています。

②について

労働時間については,勤怠管理システムに勤務時間を入力し,承認者の承認を得ていたという事実はあるものの,始業時刻以後の出勤や終業時刻以前の退勤があり,これについて賃金が控除されていなかった点も指摘し,労働時間についての裁量は認められています。

③について

給与は月額約80万~90万,年収は約1200万とされ,管理監督者にふさわしい待遇と評価されています。

そして,結論としては「自己の労働時間について裁量があり,管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているとは認められないところ,これらの諸事情を総合考慮すると,C(※注:当該労働者)が管理監督者に該当するとは認められない」と判断しました。

※判断基準のうち,①が重視されている,という印象です(①は管理監督者性を否定する事情,②③は管理監督者性を肯定する事情です)。

夜行バスの交代要員(運転手)として車内待機を命じられていた時間が労働時間が当たらないとされた例(東京高裁平成30年8月29日判決)

本件の主な争点は,夜行バスの運転手が,他の運転手の交代要員としてバスに乗車している時間が労働時間に当たるか否か,という点です。

裁判所は,以下のとおり述べ,労働時間制を否定しました。

「ア 控訴人らは,交代運転手は乗客から常にバスの乗務員と見られており,座席の前のパネルに足を延ばして乗せることはしておらず,座ってじっとしているほかはなく,仮眠自体が被控訴人の控訴人らに対する指揮命令であるとして,交代運転手といてバスに乗車している時間は全て労働時間に当たると主張する。

 しかし,国土交通省自動車局の「貸切バス 交替運転者の配置基準(解説)」(書証略)によれば,「夜間ワンマン運行の運行前の休息時間を11時間以上確保しており,当該運行の実車距離100kmから400kmまでの間に運転者が身体を伸ばして仮眠することのできる施設(略)において仮眠するための連続1時間以上の休憩を確保している場合には500kmまで夜間ワンマン運行を行うことが可能です。」とされている。このように,運転者が一人では運行距離等に上限があるため,被控訴人は交代運転者を同乗させているのであって,不活動仮眠時間において業務を行わせるために同乗させているものとは認められない(書証略)。

 また,厚生労働省労働基準局の「バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント」(書証略)には,「拘束時間は,・・・労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます」,「運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(ただし,車両内に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合に限る)においては,1日の最大拘束時間を20時間まで延長でき,また,休息時間を4時間まで短縮できます。」と記載されている。これによれば,交代運転手の非運転時間は拘束時間には含まれるものの,休憩時間であって労働時間ではないことが前提とされていることが明らかである。

 しかるところ,被控訴人において,交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり,飲食することも可能であることは前記認定のとおりであって,不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。被控訴人が休憩や仮眠を指示したことによって,労働契約上の役務の提供が義務付けられたとはいえないから,亡A及び控訴人Dが不活動仮眠時間において被控訴人の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできない。

イ 控訴人らは,①被控訴人に運行業務を依頼するXが利用客のアンケート結果に基づく評価をしていることから,被控訴人からXの評価を下げるような行動をしないよう指揮命令されていた,②交代運転手についても,休憩する場所がバス車内に限られ,制服の着用は義務付けられていたとして,休憩する場所や服装に事由がないのは被控訴人からの指示命令であったと主張する。

 しかし,上記①について,被控訴人が亡A及び控訴人Dに対し,Xの評価を下げるような行動をしないよう指示命令したことを認めるに足りる証拠はない。また,上記②について,交代運転手の職務の性質上,休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし,その際に,制服の着用は義務付けられていたものの,被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して,可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。そうすると,交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ,制服の着用を義務付けられていたことをもって,労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない。

ウ 控訴人らは,交代運転手はその着席中に乗客の要望や苦情に対応したり,運転手の補助をしたりしていたと主張する。

 しかし,①亡A及び控訴人Dが乗務していたのは深夜夜行バスであり,車内は消灯して多くの乗客は入眠していること,③乗客に苦情や要望がある場合には,走行中の車内を歩いて交代運転手の席まで来るのではなく,サービスエリア等で停車している間に運転手又は交代運転手に伝えることが想定されていることは前記認定のとおりである。そうすると,交代運転手が不活動仮眠時間に乗客の苦情や要望に対する対応を余儀なくされることがあったとしても,それは例外的な事態であると考えられる。

 また,交代運転手が不活動仮眠時間において道案内その他の運転手の補助を要する状況が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない。

 これらの事情を総合すると,被控訴人における交代運転手の不活動仮眠時間は,労働からの解放が保障されているということができる。なお,上記のような例外的な事態が生ずる可能性があるけれども,その一事をもって,不活動仮眠時間についても交代運転手が乗客への対応等の業務を行うことを本来予定されている時間であるとはいえず,使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。

エ 控訴人らは,交代運転手は被控訴人支給の携帯電話を管理させられており,役務の提供が義務付けられていたと主張する。

 しかし,交代運転手は被控訴人から非常用に携帯電話を持たされていたものの,被控訴人からの着信がほとんどないことは前記認定のとおりであるから,非常用に携帯電話を持たされていたことをもって,携帯電話に関して役務の提供が義務付けられていたとはいえず,使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。」

バスの運転手の待機時間につき,労働時間性が否定された事例(大阪高裁平成29年9月26日判決)

本件では,路線バスの運転手についき,「待機時間」と称する時間の労働時間該当性が争点となりました。

裁判所は「労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することができるか否かにより客観的に定めるものというべきである。

 不活動時間においては,その間,労働者が労働から離れていることが保障されて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるのであって,不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である」との一般論を示しましたが,

「原告は,待機時間中もバスから離れることができず,バスの移動や乗客対応など種々の業務に従事しなければならなかったため,労働から解放されることはなかったなどと主張する。

 しかしながら,上記のとおり,バスの異動,忘れ物の確認,車内清掃等は,基本的にはバスターミナル到着後2分間及び次の運行開始時間前4分間で行うことが可能であり(略),それ以外の待機時間について,乗務員は,休憩を取ることが可能であった。そして,被告(※会社)は,乗務員が休憩するための施設として一部のバスターミナルに詰所を設置しており,被告を含む多くの従業員がこれを使用してたこと(略),休憩中にはバスを離れて自動販売機等に飲料を階に行くことも許されていたこと(略),乗務員がバスから離れることができるようバスには施錠可能なケースや運転台ボックスが設置されていたこと(略),原告自身もバスを離れてトイレや詰所に行っていたこと(略)などの事実に照らせば,乗務員が待機時間中にバスを離れて休憩することを許されていたことは明らかである。そして,上記(略)のとおり,乗務員は,予定時間より早くバスを移動させることができるように準備しておく必要もなかったのであるから,出発時間の4分前にバスを停留所に接着できるようにバスに戻ればよく,その間は自由にバスを離れる事が可能であった。

 このように,待機時間中,乗務員は自由にバスを離れて休憩をとることが可能であった上,被告は,乗務員が休憩中であることを理由に乗客対応を断ることや貴重品や忘れ物をバス車内においてバスを離れることを認めており(略),乗務員は,待機時間中には,乗客対応,貴重品や忘れ物,バス車体等の管理を行うことを義務付けられていたとは認められない」として,労働時間制を否定しました。

管理する施設について事故が起こった場合に備えて休日に携帯電話を貸与されていた事例につき,当該休日の労働時間制が否定された事例(東京地裁平成29年11月10日判決)

本件は,公園等の管理業務に従事していた労働者が,①会社から携帯電話を貸与され,管理対象たる公園等で事故や災害が発生した場合の連絡を受けるよう指示されていたこと,②自宅の電話番号を申告させられ,これが明記された緊急連絡網が作成されていたこと等を挙げて,休日におけるこうした時間が労働時間に当たると主張した事案です。

前提として,労基法上の「労働時間」とは「労働からの解放が保障されていない時間」をいい,何かあれば労働しなければならない時間は,待機時間を含めて「労働時間」とされています。

本件では,こうした理解を前提としながらも,裁判所は,以下のように述べて,「労働時間」該当性を否定しました。

「原告が平成27年4月1日に本件職場に異動すると,(中略)被告貸与の携帯電話を渡され,事故等が発生した場合の連絡を受けるよう指示されたこと,同日,本件施設の関係者に対して原告の自宅の電話番号を記入した連絡網を渡すよう指示され,原告の自宅及び被告貸与の携帯電話の電話番号が記載された緊急連絡網が作成されたこと,原告が休日に被告貸与の携帯電話を持っていなかったことにつきC所長が注意したこと,本件資料には「(連絡)~3時間」に「総務課長は現地に集合」と記載されていることなどの事実は認められる。

しかし,被告から原告に対し本件施設に3時間以内に到着できるよう自宅又はその周辺に待機するよう明示の指示はなかったと認められる。また,本件マニュアルのうち,本件資料には「(連絡)~3時間」に現地に集合する旨の記載はあるが,(中略)本件資料は,事故等が起きたときの対応の目安を記載したものと解するのが自然である。(中略)さらに,被告貸与の携帯電話の携帯を指示されたからといって,当該携帯電話に連絡があるのは事故等が起こった場合のことであり,利用者からの問合せのように通常起きることが予測されているものではなく,平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きておらず,原告が本件業務を担当している期間にも当該携帯電話にメールや電話があったことはなかったのであるから,業務の性質としても待機が必要なものとはいえず,待機の指示があったとは言えない。緊急連絡網に被告貸与の携帯電話番号よりも自宅の電話番号の方が上に記載されていることについては,被告が携帯電話を貸与しているのであるから,自宅にいなくても被告貸与の携帯電話へ連絡があると考えるのが自然であるから,これにより自宅待機を指示されていたとはいえない。原告が休日に常に自宅に待機していたわけではなく,外出したいたことを認めていることからしても,原告としても自宅待機の指示はなかったと認識していたといえる。

(中略)したがって,原告は,本件業務を担当していたとしても,休日につき,労働からの解放が保障されていたものというべきであり,使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから,原告の主張する時間外労働は労働時間とはいえない。」

※一言コメント

認定事実を前提とすると,労働時間性を否定した裁判所の判断は妥当だと思われます。もっとも,仮に本件が「休日も頻繁に電話連絡等があり,都度,急ぎの対応が必要だった」という事案であれば,仮に休日であっても「労働時間」と判断される可能性はあります。

時間外労働について、36協定の限度基準(月45時間)を超える残業時間に対する業務手当(定額残業手当)が有効等された事例(東京高裁平成28年1月27日判決)

本件は、単純化すると、飲食店で勤務していた労働者が、勤務先に対し、残業代等を請求した事案です。

争点の一つとして、労働者側は、「労働者側に支給されていた業務手当は、一月あたり時間外労働70時間、深夜労働100時間分として支給されていたところ、これは、平成10年12月28日労働省告示154号による36協定の限度基準(月45時間)を超えるから、労働法令の趣旨に反し無効である」という趣旨の主張をしていました。

これに対し、裁判所は「控訴人(※労働者)は、被控訴人(※会社)が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給されているとすることに関して、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、そのような時間外労働を予定した低額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。しかし、上記労働省告示第145号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず、労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし、被控訴人は、36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても、それによって業務手当が違法になるとは認められない」として、労働者の主張を認めませんでした。

また、「控訴人は、36協定で特別条項が設けられていたとしても、臨時的な特別な事情が存在し、被控訴人が組合に特別条項に基づき時間外労働を行わせることを通知し、特別条項により定められた制限の範囲内でなければ特別条項に基づく時間外労働として適法とは認められないから、特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定した業務手当の定めは無効であると主張する。しかし、業務手当が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし、また、仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払義務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて業務手当として給与規程に定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない。」として、36協定の特別条項の要件を満たすか否かは、業務手当の定めの有効性と無関係であるという考え方を示しました。

※これまでの裁判所の考え方を前提とすれば、判旨は理解できるところです。ただ、昨今、長時間労働の是正が社会的にも大きな問題として認知されていることを踏まえると、「こうした判決があるから長時間労働も可能」と考えるのではなく、「そもそも長時間労働自体を是正すべき」という視点が重要だと思います。

バス助役の仮眠時間が、労働時間には当たらないと判断された事案(大阪地裁平成27年8月10日判決)

本件は、バス会社(被告)との間で労働契約を締結した労働者(役職は助役)が、会社に対し、時間外労働の割増賃金等を請求した事件です。ここでは、争点の一つである「仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるか否か」という点について記載いたします。

裁判所は、考え方として「労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。そうすると、不活動仮眠時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けれれていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていると解することになるが、他方で、不活動仮眠時間中に、実作業に従事する必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に実作業への従事が義務付けられていないと認められるような場合には、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できず、労基法上の労働時間に当たらないと解するのが相当である」として、従来からの最高裁判例の立場を改めて確認しました。

そして、本件については、「確かに、助役は、最終バスの点呼を行い、門の施錠や構内の点検を終了した後から始発バスの準備までの間、伏尾台営業所の事務室内にある仮眠室で仮眠することとされていたのであるから、滞在場所については場所的な拘束がなされていたといえる。また、確かに、助役が仮眠室に泊まり込むことで、何らかの緊急事態等が発生した場合には、迅速な対応をとることが可能となることからすれば、仮眠時間中においても、労務提供の可能性が皆無であったとまではいうことができない。」としながらも、「しかし、助役は、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの間に、前記説示のとおり、日常の業務として何らかの業務に従事することを求められていたわけではなく、実際の原告ら従業員の状況をも併せ考慮すると、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することは困難であり、仮眠時間中に、仮眠室においてすごしていた不活動仮眠時間については、原則として、労働からの解放が保障されており、労働契約上の役務の提供が義務付けられていなかったと評価することができる(尚、仮眠時間が労働時間に当たらないとしても、例外的に作業が必要になり、実際に作業に従事した時間については時間外労働として賃金の支払が必要になることは当然である)」として、本件の仮眠時間は労働時間に当たらない(=割増賃金も発生しない)と結論づけました。

※一言コメント

法律論の上で特段の真新しい判断をしたものではありませんが、「実質的に実作業への従事が義務付けられていない場合」の一事例としての意味があると思います。

就業規則に規定された労働時間よりも実際の労働時間の方が多かった場合において、当該超過労働時間について賃金の支払義務が認められた事案(東京地裁平成27年2月18日判決)

本件は、簡略化すると、就業規則においては1日あたりの所定労働時間が7時間30分と定められていたが、実際は1日8時間労働していたという事実関係のもとで、労働者側が、1日あたり30分の法内残業があったとして、その時間分の賃金を請求したという事案です。

これに対し、会社側は、所定労働時間が8時間であることは全従業員の共通認識であったから、就業規則の記載が誤記であることは明らかとして、労働者の主張を争いました。

これに対し、裁判所は、就業規則の記載が労働者の主張通りであるという事実を前提に、「被告(会社のこと)の所定労働時間が8時間であることは被告における全従業員の共通認識であり、仮に労使慣行になっていたと見る余地があったとしても、かかる労使慣行は就業規則(初省略)の規定に明確に反している以上、就業規則の規定が優先する」としました。また、「原告ら(労働者のこと)が所定労働時間1日8時間であることを認識して、労働契約を締結したとしても、就業規則(書証略)上、所定労働時間が1日7時間30分とされている以上、就業規則の定める基準に達しない労働条件については無効であり(労契法12条)、就業規則どおり、所定労働時間は7時間30分になると解すべきである」としました。

この点、会社は、就業規則の記載は単なる誤記であるという主張もしていましたが、これについて、裁判所は、「就業規則は、使用者が労働者の同意を必要とせずに、一方的に定めることができるものである以上、その記載を誤って変更してしまったにしても、その責任は使用者において負うべきである」という考え方を示し、会社の主張を認めませんでした。

結論として、裁判所は、1日あたり30分の法内残業時間につき、消滅時効にかかっていない範囲での賃金支払義務を認めました。

※なお、本件において、会社は、平成24年3月30日に、就業規則を変更して1日の所定労働時間を7時間30分⇒8時間に変更していました。この点については、労働契約法10条(就業規則の変更)の要件を満たすかどうかを検討した上、結論として、就業規則変更の必要性や変更内容の相当性は認められるものの、変更について労働者に充分な周知を行っていなかった点を指摘し、変更の効力を認めませんでした。

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